やみくもに奈良の町を歩きたかったみたいです。目標はありません。しばらく奈良に行ってなかったから(というのはクルマが調子が悪かったからですね)、とりあえず行きたかった。
先ずは、昨秋に開かれた中金堂に行ってみたかったんです。
ずっと工事をしていて、興福寺のど真ん中が行き来できなくて、何だか不便だなと思っていました。今もここだけ仕切りがされていて、将来的にはまわりに回廊がめぐらされるということですから、何年かしたら、そのまま中をのぞけなくなるようですが、そのお堂に入りました。
ホームページには出ていなくて、中金堂という別のページを探さねばならなくて、何だか不便なんですけど、まあ、興福寺は大きなお寺だから、いろんな塔頭があってもいいわけだから、何もかも一緒というわけにはいかないのでしょう。
真ん中の仏さまは、金ぴかの様子で、中金堂を再建した際に作った最近の仏様なのかなと思ってたら、そうではないようです。それとは知らないまま、とりあえずお祈りさせてもらいました。四角の四天王さんは、国宝ということでしたが、そんなにハッキリ見られるわけでもないし、入ったら素通りしないといけない雰囲気で、雨も降ってたし、落ち着かないままにスイスイと通り抜けてしまいました。
それで、念願の中金堂にお参りしたというのに、何だかもの足りない。
奈良国立博物館の仏さまたちにゆっくり向き合う余裕はないし、何か雨の中ソワソワしながら歩いていたんです。
どうして奈良公園なんかを歩いているのか、それはサクラを探しに来たわけでした。
そうだ。お参りしたい気持ちはそんなになくて、いかにサクラを私なりに切り取るか、そういう功名心で一人で歩いていたのです。適当に切り上げて、実家で待っている母のところにも行かなきゃいけないし、遅くなったら母から「どこにいるの?」という抗議の電話もくるでしょう。
タイムリミットがあった。お昼過ぎに奈良公園について、もちろんゴハンは食べてないし、ひたすら歩いてサッと近鉄に乗らなくてはなりません。
となると、公園内をサクラを求めて歩くよりも、コンパクトにギュッとつまって咲いているところは、東大寺に行く手前の、国立博物館の向かいの氷室神社しかありません。
雨で、サクラを求めてきた人々と、雨宿り先を探していた人々と、舞台の上でオリエンタルダンスという変てこな踊りを熱心に写真を撮っている人々と、いろんな人たちが狭いスペースの中でゴチャゴチャしていました。
もちろん、社殿の前のしだれざくらは、格好のターゲットで、いろんな素人モデルさんとその専属カメラマンたちがサクラとモデルというテーマで写真を撮っていました。もう、涙ぐましい努力。そこまでしてみんな春らしい何かを記念に収めたいと思っているようです。
雨なのに、寒いのに、サクラは他にもあるだろうに、ゴハンも食べないで、大仏さんにもお参りしないで、みんな何をやっているのでしょう。
私だって、モデルさんがいたら、雨でも頑張って写真を撮ったかな。でも、少しあさましい感じです。みんながみんなここに集まって、唯我独尊で自分たちの世界の写真を撮ろうなんて、もっと人のいないところを探せばいいのに、みんなどいつもこいつも、ゴチャゴチャ来やがって!(私のダークサイドの叫びなのかな……?)
そういう世界を潜り抜け、南大門まで来ました。金剛力士像への光があたりが暗いせいか、ひきたっています。いつもならもっと埋没しているのに、雨の日の特権で、仁王さんの表情を見ることができます。
あとは大仏殿だけど、もう行かない気分にはなっていました。こんな雨の日に、ゴタゴタしながら、私ひとりお参りしても仕方がない。誰かと一緒なら、お参りしたけれど、入口からスルーして、戒壇院の方へ向かって行きました。二月堂に上がる気分ではありませんでした。
帰る途中で、何か見つけたかったんでしょう。
入江泰吉さんのおうちを横目で見て、お店の外までお客さんが並んでいるそばやさんも眺め、かどっこまで歩くことにしました。何か春のお庭の気分だったんですね。