報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「出発前」

2024-11-04 21:04:55 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月10日07時00分 天候:晴 静岡県富士宮市ひばりが丘 スーパーホテル富士宮1階・朝食会場]

 リサ「ええっ!?先生を襲撃に!?」
 愛原「そうみたいだ……」

 リサと合流して、朝食会場に戻る。
 朝食会場へは浴衣姿では行けないことになっているので、部屋で私服に着替えてきた。
 リサも浴衣から制服へと着替えている。

 リサ「言ってくれれば、わたしが返り討ちにしたのに!」
 愛原「『流血の惨を見る事、必至であります』からダメだ、それは」
 リサ「そうは言ってもねぇ……」
 愛原「奴らは逃げ出したし、デイライトには通報済みだ。あとは国家機関に任せよう」
 リサ「まあ、先生がそう言うなら……」

 朝食は『ベタなホテルの法則』通り、バイキング形式である。
 おかずの中には、富士宮名物の『富士宮焼きそば』もあり、私は皿にそれを持った。

 リサ「これって、どの料理を取ってもいいの?」
 愛原「ああ、そうだよ」
 リサ「じゃ、わたし、この牛すじ煮込み……」
 愛原「鍋ごと取るんじゃない」
 リサ「え?1人1鍋じゃないの?」
 愛原「違う違うw」

 パンもいくつか種類があったが、私は御飯にした。
 どうせ明日の朝食は、パンになりそうだと思ったからだ。
 御飯に決めたら、納豆とかも取りたい。
 リサはパンにしたようだが。
 テーブル席は空いていなかったので、カウンター席に横に並ぶ。
 その時、私のスマホにメール着信があった。
 確認してみると、善場係長からだった。

 善場「お疲れ様です。善場です。愛原所長方の安全の為、静岡事務所の坪井主任が、バスの営業所まで車で送ることになりました。8時に迎えに参りますので、それまでにチェックアウトをお願いします」

 とのことだった。
 続けて……。

 善場「BSAAが警戒の為、ヘリを1機飛ばしますので、安心してください」

 とのこと。
 え、まさか、バスの走行中はBSAAのヘリが上空から監視するのか?
 凄いVIP待遇だ。
 これは新幹線の方が良かったかな……。
 私が、『今から新幹線に変更しましょうか?』と提案したが……。

 善場「いえ、逆に今から予約が取れない高速バスの方が安全です。新幹線だと、飛び込み利用できる自由席があるので」

 と、却下された。
 今から予約が取れないとは、どういうことだろうか?
 とにかく、ここはおとなしくデイライトに従っておいた方が良い。
 私はそう思った。

 愛原「8時に迎えが来るから、それまでに出発の準備な?」
 リサ「迎え?バスがここまで来るの?」
 愛原「いや……。バスの営業所まで徒歩5分なんだけど、それすら危ないからって、デイライトの人が車で送ってくれるんだって。そしてすぐなんだよな」
 リサ「そうなんだぁ。じゃあ、それまでに食べ終わらないとね」
 愛原「まだ1時間弱あるし、他の宿泊客の分もあるんだから、食べ過ぎるなよ」
 リサ「分かってるよ」

 朝食は美味く、リサほどではないが、私も結構たらふく食べてしまった。

[同日08時00分 天候:晴 同ホテル駐車場→ 同士同地区 富士急静岡バス富士宮営業所]

 坪井「おはようございます」

 時間になってホテルの外に出ると、坪井氏が待ち構えていた。

 愛原「おはようございます。お手数お掛けして、申し訳ありません」
 坪井「いいえ。これもデイライトの業務の一環ですから。バスの乗り場に向かう前に確認したいのですが、男は若いのが2人で、そこで足止めされていたわけですね?」
 愛原「そうです。コールセンターに繋いで開けてもらおうと思っていたようですが、コールセンター側も宿泊客ではない者を入れるわけにはいかなかったようです」
 坪井「賢明な判断でしたね。まさか、愛原さんはそれを狙ってこのホテルに?」
 愛原「いえ、ただの偶然です」
 坪井「偶然なのに、ここがバレてしまったということですか……」
 愛原「生憎と……」
 坪井「市内の、何の変哲も無いタクシーでこのホテルに向かって頂いたのは、それが目的でもあったんですよ。タクシーでホテルに向かうなんてよくある話ですからね」
 愛原「そうだったんですか」

 確かにデイライトの倉庫にあったゴツい車なんて使ったら、目立ってしょうがなかっただろう。
 そこで目立たないタクシーに、私達を乗せたのだ。

 坪井「男達はその後、愛原さんが警察に通報したと勘違いし、慌てて逃げたというわけですね?」
 愛原「そうです。どうも車で来ていたと見えて、車で逃げて行きました」
 坪井「あそこには中央分離帯があるので、車で逃げようとするなら、どうしても左折しなければなりません。つまり、バイパスの下り線、北山方向に逃げて行ったというわけですね。なるほど、なるほど……」

 坪井氏が物凄く関心を寄せるのは、彼もまたデイライトの人間だからだろう。

 坪井「今、車を割り出している所です。車は大衆車なので、特定に時間が掛かりそうですが、4桁のナンバーが分かっただけでも助かりますよ」
 愛原「ありがとうございます」
 坪井「ただ、偽造ナンバーを使われていたら分かりませんがね」
 愛原「ああ、やっぱり……」
 坪井「幸いこのホテルにも監視カメラはありますから、後で捜査協力依頼書でも作成して、ホテル側にカメラを見せて頂くようお願いしてみますよ」
 愛原「よろしくお願いします」

 警察を介入させないのは、あれか。
 恐らくこの坪井氏も、公安調査庁からの出向職員なのだろう。
 どうしても公安警察と捜査内容がバッティングする恐れがあり、しかも警察側が捜査を妨害してくる恐れがあるからか。
 その時は隠れ蓑のデイライトではなく、公安調査庁の名前を使って依頼書を作成するのだろう。

 坪井「というわけで、乗ってください」
 愛原「え?」

 坪井氏が指さしたのは、昨日乗車した坪井氏の軽自動車ではなく、タクシーだった。
 あれは別の宿泊客が予約したものだと思っていたのだが、違ったようだ。

 坪井「何か、事務所が、急に『今日だけタクシーで通勤しろ』というものだから、何だろうとは思っていたんですけどね。こういうことだったんですね」

 なるほど。
 方向的には、デイライト静岡事務所がある方だ。
 その途中、バスの営業所に立ち寄って、私達を降ろしてくれるということだったのか。

 愛原「了解です」

 私はタクシーのトランクに荷物を載せ、リサと一緒にリアシートに乗り込んだ。
 坪井氏は助手席に向かう。

 坪井「次は富士急静岡バスの富士宮営業所に向かってください」
 運転手「は、はい」

 タクシーの運転手も、色々な所に立ち寄らされているのか、やや困惑気味だった。
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“私立探偵 愛原学” 「早朝の事件」

2024-11-04 11:21:07 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月10日06時00分 天候:晴 静岡県富士宮市ひばりが丘 スーパーホテル富士宮]

 翌朝、早くに目が覚めた私は、朝風呂に行こうと部屋を出た。
 その前に外の様子を見ようと、縦引きカーテンを開けたら、外はカラッと晴れていた。
 どうやら、無事に台風は通り過ぎて行ったようだ。
 6月の台風だから、そんなに勢力も強くなかったのだろう。
 ただ、まだ風は強い。
 やっぱり風台風だったのだろう。
 もっとも、台風通過中は、窓ガラスに雨粒がバチバチと当たる音は響いていたので、けして雨は弱かったというわけではない。
 タオルなどを持って、エレベーターホールに向かう。
 エレベーターに乗って1階まで下りたが……。

 愛原「ん?」

 大浴場はエレベーターを降りて左だ。
 ところが、エントランスの方が何やら騒がしい。
 スーパーホテルは24時間フロントやエントランスが開いているわけではない。
 確か、午前0時から7時までは閉鎖されているはずだ。
 なので、その時間帯、既に宿泊している宿泊客以外は出入りできない。
 客室の鍵が暗証番号なのは、実はそのエントランスを開ける為でもある。
 時間外に宿泊客が出入りする場合、外側にあるテンキーを宿泊客が自分の部屋の暗証番号を打ち込むことで解錠できる。
 私が様子を見に行くと、どうやら宿泊客以外の外部の者が入ろうとしてドアが開かず、外で騒いでいるらしい。
 因みに宿泊客が暗証番号を忘れた場合、コールセンターか何かに問い合わせて確認することができるとのこと。
 逆を言えば、それ以外の者は出入りができない。

 男A「いや、だから愛原って人に用があるんだよ!」
 男B「今じゃねぇとヤベェんだって!!」

 どうやらコールセンターに繋いでいるらしいが、コールセンターもおいそれと宿泊客以外の者を入れるわけにはいかないようだ。
 この辺は、セキュリティはしっかりしているな。
 だが、話しぶりからして私に用があるようだが、あいにくと私は、この2人の男の顔を知らない。
 それどころか、高橋よりもずっと若い男達だ。
 高橋の知り合いかとも思ったが、新潟出身の彼は、そこと首都圏に知り合いは大勢いても、静岡に知り合いがいるとは聞いたことがない。
 それとも、私の記憶違いか。
 だからといって、どうも彼の切羽詰まり過ぎる態度に、私は彼らと会う気は無かった。

 愛原「愛原は私だ!だが、お前達は不審者過ぎる!これから警察を呼ぶが、いいか!?」

 私はエントランスのドア越しに彼らに叫ぶと、自分のスマホを取り出した。
 そして、110番する。

 男A「ヤベッ!」

 1人の男が逃げ出した。

 男B「おい、逃げんのかよ!?」
 男A「ケーサツはヤベェだろ!!」
 男B「いや、でも……!」
 愛原「あー、もしもし。警察ですか?ホテルのエントラスで騒いでいる男達がいるんで、来てもらいたいんですけど?……はい。場所がですね、富士宮市ひばりが丘の……」
 男B「クソがッ!」

 ついに男Bも逃げ出した。
 私はドアを開けて、外の様子を確認する。
 すると、仲間が他にもいたのか、車の後部座席に乗って、慌てて走り出す所であった。

 愛原「……なーんてな」

 私は電話を切った。
 実は掛けるフリをしただけだ。
 実際に掛けたのは、117番。
 0の左上にある7番だな。
 今の若い人は掛けたことがない、つまり彼らも若かった故に掛けたことがないのだろう。
 117番は時報だ。
 掛けたところで、向こうから現在の時刻を教えてくれるだけで、通話ができるわけじゃない。
 0を押したフリして、7を押したのだ。
 あとは、警察に繋がったフリをして演技するだけ。
 とはいうものの、このままではいいわけではない。
 私は素早く先ほどの車のナンバーと車種、色をメモすると、直ちにそれで持って善場係長に通報した。

 善場「……はい、善場です」
 愛原「善場係長、愛原です!」

 私はすぐに先ほどの出来事を係長に話した。
 電話越しに、係長の血の気が引いたのが分かった気がした。

 善場「かしこまりました!愛原所長に、ケガはありませんね!?」
 愛原「私は大丈夫です」
 善場「すぐにこちらで対処致します。20代前半くらいの男が2人ですね?」
 愛原「はい。見た目は高橋ほどヤンキーってわけでもないですが、かといって真面目に生きているっていう感じでもなかったです。あと、逃走用の車を用意していたみたいで、運転役の者もいたと思われます。車の特徴とナンバーですが……」

 車はやや離れた位置にいた為、私の視力では、4桁のナンバーがせいぜいだ。

 善場「ナンバーが……で、白のホンダ・フィットですね。かしこまりました。すぐに、うちの静岡事務所と静岡県警に連絡しておきます」
 愛原「“コネクション”には、あんな若いメンバーもいるのでしょうか?」
 善場「現時点ではまだ何とも言えません。が、その男達は外国人ではなく、日本人だったのですね?」
 愛原「在日朝鮮人の可能性もありますが、見た目はそうで、日本語も流暢でした」
 善場「……分かりました。私も国家機関の人間ですから、あまり迂闊なことは言えませんが、その若者達は、正規メンバーではないかもしれません」
 愛原「そうですか」
 善場「もしも正規メンバーが愛原所長を襲撃に来たというのなら、あまりにも計画がお粗末過ぎます。恐らく早朝の、人が少ない時間帯にホテルに忍び込み、そこで愛原所長の部屋を特定して襲撃する計画だったのでしょう。ところが、スーパーホテルは朝の7時まではエントランスが閉鎖されている。そこに気づかなかったのが、そもそもの過ちです」
 愛原「では彼らは一体……?」
 善場「愛原所長の襲撃だけの為に雇われた非正規メンバー……いや、もはやメンバーですらないかもしれませんね。ただのアルバイト、今どき流行りの言い方ですと、闇バイトの連中だったのではないでしょうか?」
 愛原「闇バイト!?」
 善場「私の、一個人の見解です。もちろん、警察が彼らを逮捕して取り調べないことには、何とも言えません。すぐにこちらから手配しますので、あとはお任せください」
 愛原「私達はこれからどうすれば良いでしょうか?」
 善場「警察にホテル周辺、バスの営業所周辺の警備を強化してもらいます。所長方は予定通りのルートで帰京してください」
 愛原「分かりました」

 何だか、朝から大変なことになった。
 私は気持ちを落ち着かせる為、善場係長の電話を切ると、大浴場に向かった。
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“私立探偵 愛原学” 「富士宮で過ごす」 2

2024-11-03 20:40:21 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月9日19時30分 天候:曇 静岡県富士宮市富士見ヶ丘 ガスト富士宮バイパス店→ 同市ひばりが丘 セブンイレブンひばりが丘店]

 リサは久しぶりの肉料理やスイーツをお腹一杯食べられて満足したようだ。
 食べた後、リサはトイレに向かった。
 その間、私はタブレットを見て合計金額を確認する。
 ガストはファミレスの中ではリーズナブルな値段だが、さすがに大食いのリサの前に、そのリーズナブルは発揮できなかったようだ。
 これはカードで支払っておこう。
 トイレから出て来たリサは、少し困ったような顔をしていた。

 愛原「どうかしたのか?」
 リサ「あー……この近くにコンビニとか無い?」
 愛原「確か、ホテルの近くにあったぞ?」
 リサ「そこ、行ってもいい?」

 なるべくなら、雨が降り出す前にホテルに戻りたかったが、何だか切羽詰まった様子のリサに、私はコンビニに寄ることを承諾した。
 支払いを済ませて、店の外に出る。
 まだ雨は降り出していなかったが、さっきよりも風が強くなっていた。
 今度の台風は雨台風よりは、風台風のようである。
 リサはスカートの裾を押さえながら、私の後ろについて横断歩道を渡った。

 愛原「コンビニで、何か買いたい物があるのか?」

 お菓子とかジュースとかかな思ったが、リサはスカートの後ろではなく、今度は前を押さえて言った。

 リサ「来そうなの」
 愛原「……ああ、そういうことか」

 どうやら、ナプキンのストックがもう無いらしい。
 ホテルの前を通過し、隣のガソリンスタンドも通過する。
 そして、ようやくセブンイレブンに到着した。
 リサが先に店の中に入る。
 私は私で、何か買って行くことにしよう。
 まあ、缶ビールとおつまみかなw

 愛原「あっ」

 その時、私は酒コーナーに並んでいる、ある物を見つけた。
 それは“鬼ころし”。
 何故かリサにとっては、暴走を抑える唯一の“薬”である。
 リサが暴走した場所は学校だった。
 いくら何でも学校に酒は持ち込めないから、それも災いしたのだろう。

 愛原「後で飲ませないとな」

 私はセブンプレミアムの缶ビールの他に、“鬼ころし”も購入することにした。
 他にも、おつまみなど……。

 リサ「先生、やっぱり飲むんだ?」

 私が下の段の商品を取る為に屈んでいると、リサのスカートが目の前に現れた。
 顔を上げると、籠に自分の買いたい商品を入れたリサの姿があった。
 籠の中にはナプキンの他に、黒い生理用ショーツも入っていた。
 他にはやはり、お菓子とかジュースとか……。

 愛原「ホテルに戻ったら、あとは出発まで自由行動だからな」
 リサ「そうなの?」
 愛原「あ、でも、ホテルの外には出るなよ?」
 リサ「分かったよ。それより、買う物が決まったら、早く行こう。アイスが解けちゃう」

 リサはお菓子以外にも、アイスをカゴに入れていた。

 愛原「分かった分かった。……化粧品とかは要らないの?」
 リサ「あー、それ、ホテルに良さげのあったからそれ使う」
 愛原「……持って帰れないヤツじゃないだろな?」
 リサ「違う違う。ちゃんと、無料配布品だよ」
 愛原「そうなのか?それならいいが……」

 私達は支払いを済ませて店を出た。

 愛原「“鬼ころし”も買ったから、後で飲んどけよ?」
 リサ「分かったよ。わたしも先にそれ飲んどけば、あそこまで変化することもなかったのにねぇ……」
 愛原「変化してて暴れたことは覚えてるのか?」
 リサ「何となく。トイレでゲーゲー吐いた後、頭がボーッとした感じにはなったけどね」
 愛原「吐いた時に、Gウィルスとかも吐いたんじゃないか?」
 リサ「そうかもね。おかげで、少し体質が変わったかもしれない」
 愛原「そうなの?」

 リサは悪戯っぽく悪うと、自分の胸を寄せて上げてみた。

 リサ「胸、大きくなれるかもね?そしたら先生、約束通り、パ○ズリしてあげれるよ?」
 愛原「いつ約束した!?」
 リサ「先生、覚えないの?わたしがまだ中学生の時だよ。まあ、先生、だいぶ酔っ払ってたけどね~。中学生にパイ○リさせようとするとかw」
 愛原「読者に誤解されるようなことを言うのはやめなさい!」

 その時、また強い突風が吹いて、前を歩いていたリサのスカートがピラッと捲れる。
 その下にはカルバンクラインの白いショーツがあった。

 リサ「おっと!こんなことしてる場合じゃない!早くしないと雨が降って来るよ!」
 愛原「全く……」

 食欲が満たされて元気になったのはいいが、大人をからかうのはなぁ……。

[同日20時00分 天候:雨 同地区 スーパーホテル富士宮]

 ホテルを目前にして、雨がサーッと降って来た。

 リサ「わあっ!降って来た降って来た!」
 愛原「こりゃたまらん!」

 私達は全力ダッシュで、ホテルに戻る。
 やや濡れてしまったが、ずぶ濡れというほどでもない。
 部屋で乾かせば、明日までには間違いなく乾くレベルだ。

 愛原「着いた着いた!」
 リサ「ギリセーフ!?」
 愛原「……だな」

 と、私は思った。
 いや、確かに私はセーフだろう。
 だが、リサの方はブラウスが透けて、下のブラがうっすら透けてしまっている。
 ……え?ブラウスの下にキャミソールは着ないのかって?
 私が高校生だった頃、女子達、ブラウスの下はそのままブラだったような気がするんだが……。

 愛原「すぐに着替えて、乾かせよ。部屋のハンガーあるだろ?」
 リサ「うん」

 エントランスロビー、エレベーターホールの所に浴衣が置いてある。
 私達はこれを手に取った。

 リサ「ほら、化粧品」
 愛原「ほお……」

 女性客向けに、化粧品の無料配布が行われていた。

 リサ「こういうホテルの化粧品、何気にいいんだよね」
 愛原「なるほどな」
 リサ「これ、あれなの?浴衣に着替えて、お風呂に行っていい感じ?」
 愛原「らしいな。ところが、向こうの朝食会場には行ってダメらしい」
 リサ「ふーん……。自販機コーナーも向こうにあるのにねぇ……」
 愛原「飲み物なら、さっき買って来ただろ?」
 リサ「まあ、そうなんだけど……」

 私達はアメニティを取ると、エレベーターに乗り込んだ。

 愛原「それじゃ、あまり夜更かしするなよ?」
 リサ「分かってるよ」

 私はリサに“鬼ころし”を渡した。
 寝る前には、必ず飲むようにと。

 リサ「先生は明日、何時に起きるの?」
 愛原「6時半くらいかな。朝食はその6時半からやってるらしいんだが、バスの時間が8時半だから。それまでには、さっき通った営業所に行かないと」
 リサ「なるほど、分かった」
 愛原「それじゃ、また明日」
 リサ「うん、また明日」

 私とリサは、それぞれ客室の中に入った。
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“私立探偵 愛原学” 「富士宮で過ごす」

2024-11-03 17:04:09 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月9日18時00分 天候:曇 静岡県富士宮市ひばりが丘 スーパーホテル富士宮→同市富士見ヶ丘 ガスト富士宮バイパス店]

 リサ「シャワー……浴びたよ」
 愛原「それじゃ、食いに行こうか」

 私は東京中央学園夏制服を着ているリサを見て、やっぱりもっと動きやすくて着替えやすい私服の方が良かったかなと少し後悔した。
 制服の方が選ぶ苦労は無いのだが……。

 リサ「どうしたの?」
 愛原「いや、何でもない」

 私はそう言って、先に建物の外に出た。
 リサもすぐ付いてくる。

 リサ「どこに行くの?」
 愛原「この近くにファミレスのガストがある。そこでも肉は食える。そこでいいか?」
 リサ「分かった」

 ホテルの敷地を出て、国道139号線の歩道を北上する。
 ここは富士宮バイパスと呼ばれる区間だ。
 バイパスというからには、どこかに旧国道が存在すると思われるが、県道に格下げになったようで、他に同じ番号の国道は見かけない。
 ガストまでは徒歩5分ほどだが、時折強い風に見舞われる。
 これは何も、大型車が通過する時の風ではなく、台風接近に伴う強風だ。
 私がおがさわら丸に乗っていた時は沖縄辺りをゆっくり北上していたが、本州に入ってから一気に加速するらしい。
 よって、今夜から朝に掛けては暴風雨とのこと。
 これもまた、私が日帰りを強行しなかった理由の1つでもあるのだ。
 台風に追い付かれて新幹線が止まったりしたら、目も当てられないので。
 今夜のところはホテルに泊まって、台風をやり過ごそうと思っている。
 雨が降り出すのは20時頃からだそうなので、急いで食べて戻れば、雨に当たらずに済むだろう。
 ホテルから徒歩5分くらいだし。
 強い風が吹く度、リサはスカートの裾を押さえる。
 リサは制服のスカートを短くしているので。

 愛原「あ……」

 そこで私は、あることに気づいた。
 目ざとくリサがそれに気づく。

 リサ「先生、気づいた?」
 愛原「ま、まさか……」
 リサ「私のブルマ、どうしたの?」
 愛原「ご、ゴメン。忘れてきた」
 リサ「スパッツも?」
 愛原「もっと眼中に無かった」

 リサは頬を膨らませて、私の背中をポコポコ叩く。

 リサ「もー!わたしにパンチラしろって!?」
 愛原「氷河期世代の俺が高校生だった頃、女子達は皆、スカートの下はそのままパンツだったんだよ!」

 スパッツが普及する前に、ブルマの方を先に廃止にしやがったもんだから……。

 リサ「先生以外の男には見せたくないのに!」
 愛原「悪かった!じゃあ、せめてストッキングでも……」
 リサ「蒸れるからヤダ!」

 そんなことをしているうちに、ひばりが丘交差点に差し掛かる。
 ここは富士急静岡バス富士宮営業所がある交差点で、ガストはその向かいにある。
 つまり、目的地に行くには、私達も交差点を渡らなければならない。

 愛原「ほら、そこにバスが止まっているだろ?明日は、そこからバスに乗るから」
 リサ「高速バス?」
 愛原「そう」
 リサ「チケットは?」

 私はスマホを取り出した。

 愛原「もうウェブ予約で購入している」
 リサ「ちゃんとわたしと隣同士?」
 愛原「もちろん!」

 私は大きく頷いた。
 そして信号が青になり、横断歩道を渡って、私達はファミレスに入店した。
 夕食時だからか、店内は賑わっていたが、それでも2人用のテーブル席にすぐ座ることができた。

 愛原「リサ、何でも好きな物頼んでいいからな?お前の『出所祝い』でもあるんだから」
 リサ「ありがとう。何か、刑務所から出て来たみたい」
 愛原「はっはっは!うちには、ムショ上がりの男女が2人いるからな!」
 リサ「……お兄ちゃんは、また刑務所暮らしになるのかぁ……」
 愛原「そうならないよう、弁護士の先生にお願いしてる。被害者は俺だ。でもその俺が、高橋に対する処罰感情が無いことは伝えてある。他の余罪について、警察は立件を諦めた。今のところ、高橋に問われてる罪は、俺の頭をいじくった傷害罪だけだ」

 医師法での立件は無理。
 殺人未遂罪での立件も、そもそも高橋には殺意が無く、というか、警察が高橋の殺意の証拠を掴むことはできなかった。
 脳をいじくるということは、ややもすれば命に関わることだから、未必の故意とか、その証拠を掴もうとしたらしいが……。
 高橋は手先が器用で、もしかしたら、本当に“コネクション”のメンバーなのかもしれない。
 その事が、逆に殺人未遂罪での立件を妨害し、傷害罪での立件に留まるということになったのだろう。
 傷害罪の刑罰は、『15年以下の懲役または50万円以下の罰金』である。
 高橋を刑務所に入れない為には、罰金刑で済ませれば良い話だ。
 だが、刑罰は当然選べない。
 しかも少年法が適用されていた頃とはいえ、高橋は過去に暴行罪や傷害罪で少年院や少年刑務所に収監されていたことがある。
 当然、裁判所はそういった過去も見るだろう。
 ましてや高橋の背後関係的に、国際バイオテロ組織のメンバーともあれば、後者は有り得ないだろう。
 となると、どうしても『15年以下の懲役』になるわけだが、幸いにして、被害者は私1人だ。
 私自身は処罰感情が無い、つまり実質的に示談が成立しているようなものだから、その場合は執行猶予が付くこともあるという。
 問題は、高橋の背後関係だ。
 国際バイオテロ組織“コネクション”のメンバーだとなったら、実刑は免れないだろう。
 テロ活動の一環だということが分かったら、また別の罪で再逮捕されることになるかも。
 今のところ高橋は、“コネクション”の正規メンバーだとは話しておらず、警察もその証拠を掴めずにいる。
 闇バイトのようなものに応募しただけだと話しているらしいが、その経緯について高橋は黙秘している。
 これで、執行猶予がつくかどうか……。

 リサ「わたしとしては、刑務所に入る代わりに、お兄ちゃん1発殴っておきたいけどね」
 愛原「オマエが殴ったら、頭が無くなるから、それはカンベンしてやってくれ」
 リサ「はーい」

 リサは当たり前のようにサーロインステーキを所望した。
 それだけではなく、トッピングでソーセージや唐揚げ、ミニハンバーグをプラスすることも忘れない。
 私は、ハンバーグにしておいた。

 愛原「あとはドリンクバーだな」
 リサ「先生、ビール飲まないの?」
 愛原「お前を無事に家に連れて帰るまでは、飲んだくれになれないな」
 リサ「わたしは大丈夫だよ。逃げたりしないよ」
 愛原「そうじゃなくて、バイオテロ対策だよ。まだ、安心はできないらしいからね」
 リサ「そうなんだ……」
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“私立探偵 愛原学” 「リサと再会」

2024-10-31 20:34:56 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月9日17時00分 天候:晴 静岡県富士宮市某所 NPO法人デイライト静岡事務所B3階→1階]

 搬入用の大型エレベーターでゆっくりと地下3階に下りる。

 愛原「!?」

 エレベーターを降りると、武装した男2人が私達を出迎えた。
 手にはいずれにもショットガンやマシンガンを持っている。
 BSAAの制服とも違うが、デイライト特有の制服なのだろうか?
 廊下の途中に鉄格子のドアがあり、その先へと入っていく。

 愛原「これは……?」
 坪井「いいですか?他言無用ですよ?」
 愛原「そ、それはもちろん……」

 鉄扉の並んだ区画へとやってくる。
 この鉄扉、鉄格子の扉にすると、独房の入口みたいに見えるのではないだろうか。
 実際その通りで、こちら側からしか開かない小窓から覗いてみると、中が独房のようになっているのが分かった。
 リサのヤツ、こんな所に押し込められていたのか……。
 武装看守が外側から鉄扉を解錠する。
 解錠自体は簡単なようだ。
 そして、重々しい音を立てて鉄扉が開かれた。

 武装看守「JLT2番、出ろ!」
 リサ「…………」

 リサは粗末な囚人服のようなものを着させられており、手足をほぼ拘束されていた。
 ただ、坪井氏によると、いつもこうしていたわけではなく、今日は私と再会することで、興奮して変化することを警戒してこのようにしているだけだという。

 愛原「リサ!迎えに来たぞ!」

 薄暗い独房の奥から、ボウッと赤い光がやってくる。
 リサの瞳の色だ。

 リサ「ア……イ……ハ……ラ……?」

 奥からやってきたリサは第2形態、即ち鬼形態から更に変化した姿になっていた。
 辛うじて人の姿を保っている状態である。
 それが、シュウシュウと音を立てて第1形態の鬼姿に戻る。

 リサ「愛原先生!」

 リサが私に飛び掛かろうとしたが、拘束している鎖がそれを阻止する。
 なるほど。
 坪井氏が言っていた措置は、強ち間違いだとも言えないか。

 愛原「リサ、着替えを持って来たから、これに着替えて。あとは急いでここを出よう」

 私は持って来たキャリーバッグの中からリサの着替えを取り出した。

 坪井「以上で手続きは終了です」

 リサが私が持って来た服に着替え、再び地上に向かうエレベーターに乗り込むと、坪井氏がそう言った。

 坪井「お疲れさまでした」
 愛原「……ありがとうございます」

 エレベーターには坪井氏の他、銃火器で武装した看守もいる。
 リサが完全にここを出て行くまで油断はできないということか。
 地上に出て建物の外に出た時、所長が私にタクシーチケットを渡した。

 所長「タクシーはもう来ていますから、これを渡しておきます」
 愛原「ありがとうございました」

 送ってはくれないが、タクシー代は面倒看てくれるというわけか。
 駐車場には、タクシーが1台止まっていた。
 運転手が荷物を載せる為に、トランクを開けくれた。
 そこにキャリーバッグを載せて、ハッチを閉める。
 リアシートに乗り込んだ。

 愛原「ひばりヶ丘のスーパーホテルまでお願いします」
 運転手「スーパーホテルですね。かしこまりました」

 タクシーが走り出す。
 特に職員達からの見送りは無かったが、2階の事務所からこちらを見ている所長の姿はあったので、私達がちゃんと敷地外に出たどうかの確認はしたらしい。
 リサは疲れた様子で、運転席後ろのリアシートにもたれかかった。
 少し体臭がする。
 あまり、入浴とかもさせてもらえなかったのかもしれない。
 ホテルには温泉があるから、そこでゆっくり浸かってもらおう。
 私は揺れる車内で、善場係長にメールを送った。
 すぐに返信があって、了解したとのことだ。
 リサの健康状態を質問されたが、特に大きな問題は無さそうとの返信をしておいた。
 そして今、タクシーで宿泊先に向かっていることを付け加えておいた。

 善場「かしこまりました。静岡事務所では事務的な対応をされたでしょうが、今回はゆっくりお休みください。但し、少しでも異常を感じましたら、すぐに御連絡をお願いします」

 との返信だった。

[同日17時30分 天候:晴 静岡県富士宮市ひばりが丘 スーパーホテル富士宮]

 タクシーは国道139号線沿いのホテルに到着した。
 支払いはデイライトの所長からもらったタクチケを使わせてもらうことにする。
 トランクを開けてもらって、そこからキャリーバッグを下ろした。

 愛原「疲れたか?もう寝る?」
 リサ「ううん……。お腹空いた。向こうじゃ、ロクに食べさせてもらえなかったから……」
 愛原「マジかよ……」

 いくらリサが人間じゃないからって、随分ヒドい話だな。

 愛原「チェックインしたら、何か食べに行こう。この近く、国道沿いに色々とありそうだ」
 リサ「うん」
 愛原「それと……その前に、先に体洗った方がいいかもな……」
 リサ「やっぱりそう思う?」
 愛原「うん、悪いけど……。このホテル、温泉もあるからさ?」
 リサ「部屋にシャワーとかあるよね?まずはそれにしておく。お腹も空いたし」

 どうやら食欲の方が強いらしい。

 愛原「分かったよ」

 建物の中に入り、チェックインする。
 今は自動チェックイン機があり、それでその手続きをすることができる。
 そして、2枚のチケットが出て来た。
 チケットには、4桁の暗証番号が書かれている。
 このホテルの客室の鍵は、暗証番号式となっているからだ。
 部屋ごとに、そしてその客ごとに番号を変えているのだろう。

 愛原「あ、そうだ。これも渡しておくよ」

 私はキャリーバッグを開けると、その中からリサのスマホとバッグを取り出して渡した。

 愛原「お前の私物だろ?」
 リサ「うん」
 愛原「それと、お前のPasmoにも満額近くまでチャージしておいたから」
 リサ「ありがとう」

 リサは早速、自分のスマホの電源を入れた。
 そして、エレベーターに乗り込み、客室フロアへと向かう。

 愛原「このホテル、WiFiもあるから、それでLINEとかもできるぞ」
 リサ「そうだね」

 客室フロアでエレベーターを降り、客室へ向かう。

 リサ「……先生と一緒の部屋じゃないんだ?」
 愛原「さすがに、それはちょっと……。でも、こうして隣同士だし!」
 リサ「まあ、いいけど。あそこから出れただけでも……」
 愛原「だろ!……先にシャワー浴びるんだったな?終わったらLINEで教えてくれないか?その後、一緒に夕飯食いに行こう!」
 リサ「分かった」

 私は自分の部屋の鍵を開けると、中に入った。
 荷物を置いて、まずはトイレに入る。
 リサのシャワーの時間はだいたい30分くらいだから、18時過ぎには夕食を食べに行けるだろう。
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