報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「天長会の進学塾」

2025-03-01 21:00:40 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月15日15時00分 天候:晴 東京都渋谷区千駄ヶ谷 バスタ新宿→同都新宿区代々木 TS進学会]

 バスは私の予想通り、羽田空港第1ターミナルで満席となった。
 私の相席となったのは、私と大して歳の変わらぬスーツ姿のビジネスマンで、リサはホッとしていた。
 ややもすれば、若い女が隣に座ったりしたら……。
 このバス、新宿まで運行できなかったかも。
 ホッとして少し機嫌が良くなったのか、リサは首都高を走るバスの窓側に座る太平山美樹に、車窓案内をしていたくらいだ。
 但し、長い地下トンネルの山手トンネルに入ってしまうと、それもできなくなったが。
 しかし、このトンネルのおかげで、新宿方面へのアクセスは各段に良くなったのだとか。

〔「ご乗車お疲れ様でした。まもなく終点、バスタ新宿、バスタ新宿です。お忘れ物、落とし物の無いよう、ご注意願います。本日もご乗車頂き、ありがとうございました」〕

 バスはほぼ時間通りに、バスタ新宿の3階降車場に到着した。

 リサ「先生、着いたよ」
 愛原「おっ……と」

 どうやら、バスの中で少し寝落ちしてしまったらしい。
 前扉が開いて、乗客達が降り始めたことで、私の意識はうっすらと戻り始めたのだが、更にそこを後ろに座るリサに揺り起こされ、ハッと目が覚めた。

 愛原「寝てたか。悪い悪い」

 私はリクライニングを戻して立ち上がった。
 バスを降りると、運転手や係員が荷物室のハッチを開けて、乗客達の荷物を降ろしている。
 私やリサは小さなバッグしか無いから預けていないが、美樹は預けている。

 愛原「さあ、後は予備校まで徒歩だ」
 美樹「さすがは愛原先生スね。空港からだと、あたし1人じゃ、キツかったス」
 愛原「そうだろう、そうだろう」
 リサ「バスに乗るという発想がなかなか無いもんね」

 リサは、私が菊川駅からもらってきた東京の地下鉄路線図を美樹に渡した。

 リサ「東京に住むなら、これを覚えないと」
 美樹「受験より難しっちゃねぇ……」
 リサ「愛原先生は、それにプラス、バスの路線も頭の中に入ってるんだよ!」

 リサはまるで自分の事のようにドヤ顔で言った。

 美樹「色々教えて下せぇ」
 愛原「あ、ああ。まあ、だいたいがググれば分かる範囲だけどね」
 リサ「ググるという発想が出てこないし、本当に分かんなかったら、ググり方すら分かんない」
 愛原「そういうレベルか……。ま、さすがに新宿駅はハードモードだからな。さすがの俺も避けたいくらいだよ。だから、バスに乗ったんだ。バスタ新宿からの方が分かりやい」
 リサ「そういう情報も先生ならではだよね」
 美樹「ンだべね」

 バスタ新宿を出て、甲州街道を西に進む。
 幸いなのは、帰りも楽だということだ。
 実は甲州街道の下には、京王新線が通っている。
 そしてその京王新線は、都営新宿線と繋がっているのだ。
 その乗り場から地下に下りれば、難無く地下鉄に乗れるというわけだ。

 リサ「あそこが台風中継とかで、よく出てくる新宿駅南口」
 美樹「ほー!」

 バスタ新宿の向かい側。
 西新宿1丁目の交差点を越えて更に西に進む。

 愛原「えー、ここの路地を入る……」
 リサ「んん?」

 路地を1本入って、裏道っぽい所に入る。
 一方通行ではないのだが、車1台すれ違えるのがやっとといった広さの道。
 それでも、その地下には京王本線が通っているという。
 その沿道に建っている1軒のオフィスビル。
 一見すると、何の変哲も無いテナントビルだが、その中に予備校の本部があった。

 リサ「TS進学会?聞いたことない予備校だねぇ……。よくこんなマイナーな予備校見つけたね?」

 リサは感心したような、呆れたような感じで美樹に言った。
 それ自体は、私も同感である。
 進学塾や予備校なんて、自動車学校の数よりも多いはず。
 その中から自分に合った所を探すなんて、至難の業だ。
 四年制大学受験失敗という私の学歴からしてみれば、そういう意味で私の親は学習塾ガチャに外れたと言える。

 美樹「何か、うちの親が色々とツテを辿って、紹介してくれたみてェなんだ」
 愛原「TSというからには、アンブレラとかは関係無さそうだな……」

 ビルの中に入る。
 それからエレベーターに乗り込んで、TS進学会の本部事務所があるフロアへと向かった。

 リサ「これはエレベーターと言って……」
 美樹「いや、そンくれェは知ってる。ま、あんま乗らねェけど」

 何気に都会人マウントを取るリサだった。

 愛原「街の方に出たりすることもあるでしょ?秋田市に行くの?」
 美樹「秋田市さ行く機会は、あんま無いスね。鷹ノ巣さ出ることが多いス」
 愛原「鷹ノ巣か。北秋田市だな」
 美樹「そうス」

 恐らく秋田内陸縦貫鉄道線を使っているのだろう。
 南側の角館駅よりは、北側の鷹ノ巣駅周辺の方が買い物しやすいのかもしれない。
 そして私達は、本部事務所に到着した。
 私は保護者として、リサの合宿申込を。
 美樹は保護者からの委任状を添えて、申込を行った。
 私達はともかく、やはり美樹に関しては、地方からの参加というのは珍しいのか、社員も珍しがっていた。

 社員「どなたからかの紹介なんですか?」
 美樹「多分、そうです。……親が決めたもんで……」
 社員「そうですか」

 今日の申込者は私達だけのようなので、社員が事務所内の打ち合わせコーナーに案内してくれた。
 うちの事務所のように、衝立で仕切られただけの簡易的な打ち合わせコーナーであったが、それでも冷茶は出してくれた。
 社員が合宿の資料を持って来てくれて、色々説明してくれたのだが……。

 リサ「ちょ、ちょっと!!」

 その時、資料に目を通していたリサがびっくりした様子で立ち上がった。

 愛原「どうした?」
 美樹「なに?!なしたの!?」
 リサ「合宿で泊まるホテルが、天長園ってどういうこと!?」
 愛原「えっ、そうなの!?」
 美樹「??? 天長園って、栃木のあそこだよね???」

 美樹は、まだ私達の態度の理由が分からないようだった。
 美樹自体も家族旅行(親族旅行?)で、ホテル天長園に泊まったことはあるようだ。
 ただ、それは鬼族同士の親交を深める為の親善旅行であったとされる。

 社員「あの……弊社は天長会が運営する企業の1つなんです」
 愛原「えっ、そうなの!?」
 社員「はい」

 そういえば上野利恵、そんなこと言ってたような……?
 まさか、予備校、学習塾の経営までしていたというのは初耳だが。
 教祖が中小企業団を率いている。
 その売り上げで天長会という宗教法人は運営されているので、基本的に信者からはお金を取らないのだと言っていた。
 まさか、TS進学会がその1つだったとは……。

 愛原「! まさか、TSのTって、『天長会』!?」
 社員「はい。『Tencho Seminar』の略でTSです。元々は天長会内部で行われていたセミナーから始まったもので」
 愛原「……美樹ちゃん?」
 美樹「あー……多分、うちの親が、ホテル天長園のお偉いさんから紹介されたんでしょうねぇ……」
 リサ「断る!わたしは行かない!!」
 愛原「おいおい!もう申し込んじゃったんだぜ!?」
 美樹「リサぁ~!一緒に行ぐっで約束したべでねがぁ~!」

 や、ヤバい!
 私と美樹で、リサを何とか宥めすかさないと大変なことになる!

 愛原「お、俺も行くから!」
 リサ「! ……ホント?」
 社員「失礼ですが、保護者の方は同行できませんよ?」
 愛原「合宿先のホテル、貸切にするんですか?」
 社員「そういうことです。なので、一般の宿泊客が一緒ということはないです」

 とはいえ、全ての客室が埋まるというわけでもないだろう。
 こうなったら……。

 愛原「リサ、任せろ。俺が何とかする。だからここは呑んでくれ!」
 リサ「くっ……」
 美樹「リサぁ~!」

 リサの頭から角が少し覗いたような気がしたが、何とかここの社員達に見られずに済んだ。
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“私立探偵 愛原学” 「太平山美樹との再会」

2025-03-01 14:41:34 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月15日12時30分 天候:晴 東京都大田区羽田空港 東京国際空港第2ターミナル・到着口]

 羽田空港第2ターミナルの到着口で、太平山美樹を待つ。

 リサ「ミキからは人食い鬼の臭いがする」
 愛原「そうかなぁ?」
 リサ「リエは臭いでしょう?」
 愛原「いや?そんなことは無いが……」

 この時は、あまり気にも留めていなかった。
 身近に人食い鬼を模した生物兵器がいるから、麻痺していたのかもしれない。

 リサ「ミキも臭うんだよ。気をつけて」
 愛原「まあ……鬼の末裔だってんなら、そうかもなぁ……」

 そして、ピンク色のキャリーケースを引いた太平山美樹が出て来た。
 学校では女子バレー部に所属しているとのことで、背は高い。
 人間に化けると黒髪だが、光に当たると赤く反射するという。

 太平山美樹「愛原先生~!久しぶりだべしゃ~!」

 満面の笑みを浮かべ、しかし東北訛りを響かせて美樹が近づいてきた。
 リサも人間形態だが、やはり牙までは隠せていない。
 牙程度なら、八重歯とか、生まれつきという言い訳はできる。

 愛原「ああ。長旅、お疲れさん」
 美樹「リサも久しぶりだべね~!」
 リサ「う、うん。そうだな……。いや、抱き着くな!」
 愛原「ちょうどお昼時だ。長旅で腹が減ったたろう。お昼を食べてから、予備校に向かおう」
 美樹「ヘェ!……いンや、はい!」
 リサ「ん?」
 愛原「じゃ、行こうや」

[同日13時00分 天候:晴 同ターミナル4階・エアポートグリル&バール]

 同じターミナル内にあるレストラン街に向かう。
 そこの一角に、目的の店はあった。

 愛原「リサは最低1食、肉を体に入れないと暴走するんでな」
 美樹「『転化組』は大変だっちゃね」
 リサ「『転化組』?」
 美樹「リサは元・人間なんだべ?あたしらみてェな、『生え抜き』の鬼たぁ違う。ンだからよ」
 リサ「『転化組』って言うんだぁ……」
 愛原「伝説でも、人間が鬼と化した話とかあるからね。その事だろう。だが美樹、リサはそれともまた違うんだ」
 美樹「そうなんスか」
 愛原「元・人間ということに、変わりは無いんだが……」

 美樹は言われた通り、秋北学院の制服を着ていた。
 下はエンジ色のプリーツスカートだが、上は白を基調としたセーラー服風のデザインになっている。
 というのは、本当のセーラー服と違って、前留めのボタンが3つ付いている。
 夏だからしないだけか、スカーフやリボンを着けていない。
 セーラー服とブレザーの折衷デザイン、『セーラーブレザー』というヤツだ。
 案外、地方の方が面白いデザインの制服を導入していることが多い。

 美樹「東京は『転化組』が多いと聞きます」
 リサ「そんなにいる!?」
 美樹「『生え抜き』はまずいねぇべ?」
 リサ「いないねぇ……」
 美樹「『転化組』でも、東京に鬼がいるっつーことだけでも、珍しいことだ。うちさ来てければ、大歓迎だべ」
 リサ「いや……遠慮しとく。そっちの男の鬼、女に見境無さそう」

 リサはたまに、男の鬼達から嬲り者にされる夢を見るのを思い出した。

 美樹「ま、まあ……リサも強いから大丈夫だべ」
 愛原「それに、ややもすると、本当にお邪魔させてもらうことになるかもしれない」
 リサ「先生?」
 美樹「愛原先生にも、1度は来てけれとは思ってました」
 愛原「『日本アンブレラに“鬼の血”を提供した者』についての情報が欲しい」
 美樹「うちの村には来たけど、断って追い返したって話しか聞いてねっスよ?」
 愛原「キミの村には、『太平山』の氏族しかいないのか?他の氏族はどうだ?」
 美樹「あー……。後で聞いてみます」
 リサ「心当たりあるのかよ」
 愛原「提供しそうな氏族に、心当たりがあるのかい?」
 美樹「あると言えばある、無ェと言えば無ェって感じです。うちのじっちゃん、ばっちゃんに聞けば、分かるかも……」
 リサ「追い返したって話は誰に聞いたの?」
 美樹「うちの父ちゃんと母ちゃん」
 愛原「実はその事について、国の役人の方達も聴きたいらしいんだ。なるべく早く問い合わせてくれると助かる」
 リサ「そっちの村、電波届くの?」
 美樹「今時、電話くらいあるっちゃ。それに、普段は人間に化けて生活してるんだ」
 愛原「だろうなぁ……」
 リサ「後で先生に、ミキの鬼形態見せてやんなよ」
 美樹「それはもう。ずっとこの姿でいるのは疲れるっぺしね」
 リサ「それは同感」
 愛原「家に着いてからな?」

[同日14時10分 天候:晴 東京国際空港第2ターミナル・リムジンバス乗り場→東京空港交通新宿線26便車内]

 昼食を終えた後は、リムジンバスのチケット売り場に移動する。
 有人のチケットカウンターでも買えるが、券売機でも購入できる。

 愛原「新宿ならバスだと乗り換え無しで行けるな。美樹も荷物が大きいし、その方が楽だろ」
 美樹「ありがとうございます。……あ、自分のバス代は自分で出しますんで」
 愛原「いいのか?」
 美樹「領収証出ますか?」
 愛原「ああ。出せるよ」
 リサ「何で領収証?」
 美樹「鬼は疑り深いんだ。あたしがちゃんと予定通りに行ったか、確認したいんだと」
 リサ「……まあ、気持ちは分かる。鬼はすぐをウソを付くからね」
 美樹「いや、あたしは正直なつもりだけど?」
 リサ「自分で言ってる時点で、ウソが少し出てるんだよ」
 美樹「同じ鬼は騙せねェね」
 リサ「当たり前だっつーの」
 愛原「じゃあ、これが美樹の乗車券と領収証」
 美樹「ありがとうございます」
 リサ「私達の分も出してるんだー?」
 愛原「交通費だし、経費で落とせないかなぁ……と」
 リサ「はは……さすがは先生」

 乗車券を手にし、バスの乗り場に向かう。
 羽田空港第2ターミナルから新宿方面行きは、5番乗り場だ。
 一口に新宿方面と言っても、細かい行き先がそれぞれ別れているので、確認が必要。
 私達の下車先はバスタ新宿だが、便によっては周辺のホテルにしか行かず、バスタ新宿を経由しない便もある。

 リサ「バスタ新宿の近くなの?」
 愛原「そう」

 ターミナルには係員がいるので、荷物室に預ける荷物は係員に託せば良い。

 愛原「2泊3日なのに、結構大きな荷物だな?」
 美樹「女の子は着替えが多いんです」
 愛原「……それもそうだな」

 それ、前にリサも言ってたな。

 係員A「お待たせ致しました!バスタ新宿行きの到着です!」

 白とオレンジ色が目立つリムジンバスがやってきた。
 既に先客が何人か乗っているのは、第3ターミナル始発だからである。

 愛原「リサは美樹と一緒に乗ってくれ」
 リサ「えー……」

 リサは不満そうだったが……。

 愛原「俺の命令は!?」
 リサ「絶対!」
 愛原「分かったら宜しく!」
 リサ「はーい……」
 美樹「今の何だべ!?」
 リサ「ミキも愛原先生の命令は絶対だからね!?」
 美樹「お、お~……。これから世話になるし、それはもう当たり前だべしゃ……」
 愛原「すいまーん、バスタ新宿までー」
 係員B「ありがとうございます。どうぞ」

 私は係員にチケットを渡して、さっさと乗り込んだ。

 リサ「あっ、待って先生!」

 リサも慌ててついてきた。

 美樹「大館能代空港のリムジンバスより大きい……」

 私は空いている席の窓側に座り、リサ達はその後ろの席に座った。
 この便は新宿駅西口しか経由せず、ホテル関係には行かない便だが、それでもなかなかの賑わいのようだった。
 恐らく、次の第1ターミナルでほぼほぼ満席となるだろう。
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“私立探偵 愛原学” 「東京モノレールの旅」

2025-02-28 21:50:57 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月15日11時20分 天候:晴 東京都港区浜松町 東京モノレール羽田空港線1121電車・最後尾車内]

 

〔空港快速、羽田空港第2ターミナル行きが、発車致します。途中、羽田空港第3ターミナル、羽田空港第1ターミナルにも停車致します〕

 ホームから発車ベルの音が聞こえてくる。
 昔は車掌が乗務するツーマン列車だったが、現在は運転士のみのワンマン運転となっている。
 リサとは、ロングシート部分に隣り合って座っていた。
 展望席がお好みか、先頭車両は混んでいたが、最後尾は逆に空いている。
 リサは私に寄り掛かるように座り、腕を組んで来た。
 制服姿でそれをやられては誤解される恐れがあるのだが、空港ターミナルにしか行かないモノレールなら大丈夫か。
 ホームドアと車両のドアが閉まり、電車が動き出した。

〔東京モノレールをご利用くださいまして、ありがとうございます。ご乗車のモノレールは、空港快速、羽田空港第2ターミナル行きです。次は、羽田空港第3ターミナルに止まります。途中、揺れる箇所もございます。お立ちのお客様は、手すりにお掴まりになり、お荷物からはお手を放さないよう、お願い致します。お1人でも多くの方にお座り頂けますよう、お荷物は座席に置かないよう、お願い致します。大きなお荷物は、車内中ほどにある荷物置き場を、ご利用ください〕

 国際空港に向かうモノレールだからか、車内放送は日本語放送や英語放送のみならず、中国語や朝鮮語も流れる。
 日本語放送は、穏やかな中年女性の声が充てられている。
 AIによる自動音声ではなく、中村啓子女史による肉声放送を録音したもの。
 何故かウィキペディアでは、車内放送の事については紹介されていないものの、電話の時報の声を充てていることは紹介されている。
 そこで気づいたのだが、あまり掛ける側からの評判はよろしくないナビダイヤルの音声も彼女ではないか?
 『ナビダイヤルにお繋ぎします。〇秒ごとに、10円かかります』のあの声。
 リサ曰く、『お母さんみたいな声』とのこと。
 中村女史は現在70代半ば。
 リサがもしも人間のまま生きていられたら、私よりも10歳年上の5〇歳だから、確かに母娘ほどの歳の差となる。
 いや……待て。
 上野医師がリサの血縁上の母親であるとされる斉藤玲子が駆け落ちした時、1970年代だった。
 この時、斉藤玲子は14歳。
 この時既に上野医師は、妊娠覚悟の交わりをしており、もしもリサを生んだのがそれから1年後の15歳くらいだとしたら……。
 斉藤玲子がもしも生きていたとしたら、まだ60代半ばくらいになる。
 うちの父親は、『昭和40年代は、今からは信じられないくらい大雑把な時代だった』と言っていたが、JCと子作りすることも許されていたのか???

 愛原「昼飯の件なんだが……」
 リサ「うん!?」
 愛原「前に、同じ第2ターミナルで食べたレストランがあっただろ?あそこでいいか?」
 リサ「あそこはステーキが食べられた所だね。いいよ!」
 愛原「鬼だから、美樹も食べるだろうなぁ……」
 リサ「食べるだろうけど、あいつは……」
 愛原「ん?」
 リサ「あ、いや……別に」

 リサは何故か口を閉ざしてしまった。

 リサ「まだ、何も証拠が無いから……」
 愛原「何の話?」

 しかし、リサは首を横に振って黙ってしまった。

[同日11時28分 天候:晴 東京都大田区羽田空港 東京モノレール羽田空港線1121電車・最後尾車内→羽田空港第2ターミナル駅]

 東京モノレールは地上を走行中は、とても良い景色の中を走る。
 特に最初の運河の上を走る場所は、解放的だ。
 夜間は夜景がきれいに見えるスポットとのこと。
 また、地下トンネルに潜る時も、まるで海の中に突っ込んでいくかのようなスリル感のあるものとなっている。
 もっとも、それを体験したければ、先頭車に乗る必要がある。
 だが、モノレールの最高速度は意外に遅く、時速80キロである。
 それでもスピード感を感じるのは、揺れが結構大きいからだろう。
 沖縄都市モノレールよりスピードが速いせいか、そこよりも揺れが大きいように思える。
 新整備場駅の手前からは地下トンネルに入り、あとは終点までずっとトンネルの中である。

〔東京モノレールをご利用くださいまして、ありがとうございました。まもなく終点、羽田空港第2ターミナルです。出口は、右側です。国内線は、車内の航空会社別の降車駅案内を御確認ください。お忘れ物に、ご注意ください〕

 愛原「着いたな。あっという間だ」
 リサ「駅弁食べてる暇無いねー」

 リサは立ち上がると、隣の車両を見て言った。
 モノレールの中間車には展望席は無いが、代わりにボックスシートがある。

 愛原「そりゃそうだろ。各駅停車ならワンチャンあるかもしれないが、それでも食う気にはなれんな」
 リサ「そう?」

 今頃、太平山美樹はまだ空中だが、私達は逆に地下にいる。
 このギャップが凄い。
 そして電車は、羽田空港第2ターミナル駅に到着した。

 

 愛原「着いた」

 臨時ホームもある羽田空港第2ターミナル駅だが、定期列車であるこの電車は、臨時ホームには止まらない。

 愛原「まだ少し時間があるな」

 太平山美樹の乗った飛行機が到着するのは、12時10分。
 まだ30分くらいある。
 フライト情報を見ると、美樹の乗った飛行機は予定通りにフライトするとのこと。
 リサのLINEにも、無事に搭乗したという連絡が来ている。

 リサ「トイレに寄って行っていい?」
 愛原「いいよ」

 取りあえず電車を降りると、北口改札に向かうエスカレーターに乗り、それで改札階に上がった。
 ホームは地下2階で、改札口のあるフロアは地下1階とのこと。
 そこにトイレはある。
 まずはトイレを済ませてから、空港ターミナルに向かうことにした。
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“私立探偵 愛原学” 「太平山美樹の上京」

2025-02-26 20:28:37 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月15日10時45分 天候:晴 東京都江東区森下 都営地下鉄森下駅→大江戸線1020B電車・先頭車内]

 

 今日は秋田県より、太平山美樹が上京してくる日である。
 往路は飛行機で来るとのことで、私とリサで羽田空港まで迎えに行くことにした。
 羽田空港までのルートはいくつかあるが、取りあえず森下駅から都営大江戸線に乗ることにした。
 菊川駅からは1駅だけである為、自宅から森下駅までは徒歩で移動した。
 今日は学校も休みである為、リサも一緒に行く事にした次第。

〔♪♪♪♪。まもなく、4番線に、大門、六本木経由、光が丘行き電車が、到着します。黄色い点字ブロックまで、お下がりください〕

 太平山美樹の目的は、8月に行われる予備校主催の合宿に申し込む為。
 私もリサの為に申し込みに行く。
 案内パンフレットによれば、合宿中の服装は学校の制服らしいとのことで、リサにも学校の制服を着させている。
 群馬に行った時と違い、一応ポロシャツではなく、半袖ながらブラウスを着させた。
 美樹にもそう伝えてある。
 都営新宿線より小型の、8両編成の電車がやってきた。
 昼間だからか、そんなに車内は混んでいない。

〔森下、森下。都営新宿線は、お乗り換えです〕

 何なら、硬い座席に腰かけることができた。
 小型の車両なので、圧迫感はある。
 電車の中は、冷房が効いて涼しい。
 短い発車メロディが流れる。

〔4番線から、大門、六本木経由、光が丘行き電車が発車します。閉まるドアに、ご注意ください〕

 電車のドアとホームドアが閉まる。
 都営新宿線と違って大江戸線はワンマン運転なので、車掌からの発車合図のブザーは鳴らない。
 その代わり、ホームに立ち番の駅員がいて、駅員が運転室のカメラに向かって発車合図のライトを振る。
 それから、電車がインバータ制御のモーター音を響かせて発車した。

〔次は清澄白河、清澄白河。半蔵門線は、お乗り換えです。お出口は、右側です〕

 愛原「飛行機の中の方が静かだろうなぁ……」
 リサ「そう?」

 大江戸線はトンネル断面が狭く、カーブも多い為、電車の走行音が車内によく響く。
 窓なんか開けていたら、尚更である。
 昔の東京の地下鉄は冷房化が遅れていた為、夏は全部の窓を全開にして走行していた。
 カーブの制限速度ギリギリで走行したりしていたので、地上の電車よりもスピード感があったという。

 愛原「それにしても懐かしいよ。『1番』が襲ってきたこともあったな」
 リサ「あったね。未だにムカつく思い出だよ」
 愛原「実力だけで言えば、リサよりも強い」
 リサ「悪かったね」

 斉藤元社長の理屈で言うなら、『転生の儀』を回避するには、材料となった鬼の血。
 その鬼よりも強い鬼の血を飲めばキャンセルされるだろうとのこと。
 ただ、それって、私が人間を辞めることにも繋がりかねない危険な話だ。
 まずは、誰が鬼の血を提供したのか突き止める必要がある。
 美樹は否定しているが、美樹の親戚筋を当たれば、詳細を知っている者に当たるかもしれない。

[同日11時01分 天候:晴 東京都港区浜松町 都営地下鉄大門駅→東京モノレール浜松町駅]

〔大門(浜松町)、大門(浜松町)。浅草線、JR線はお乗り換えです〕

 森下駅から電車で凡そ15分。
 乗り換え先のモノレールがある大門駅に到着する。
 これは近辺にある増上寺の総門の通称から取られた。
 浜松町駅とは隣接している為、岩本町~秋葉原の乗り換えよりも楽である。
 電車を降りると、改札階までエスカレーターで上がる。
 電車が出て行くと強風が巻き起こる為、リサはスカートの裾を手で隠した。
 ブルマかスパッツは穿いていないのだろうか?
 スパッツは夏は蒸れるから、あまり穿きたくないとのこと。

 鉄道会社が違うからか、地下鉄の駅から一旦外に出ることになる。
 外は夏の日差しが照り付けていた。

 愛原「地下鉄の駅の方が涼しいなぁ……」
 リサ「全くだね」
 愛原「こう暑いと食欲も湧かないなぁ……」
 リサ「え?そんなこと無いけど?」
 愛原「そ、そう?」
 リサ「うん。ミキが到着するの、ちょうどお昼時だよね?お昼食べから、新宿に行くよね?」
 愛原「はい……」
 リサ「ミキも鬼だから、いっぱい食べるよ?」
 愛原「だよね……」

 暑さ、特に日差しから逃げるように、モノレールの駅の中に入る。
 モノレールは基本的に高架線を走るということもあり、駅も上層部にある。
 エスカレーターに乗ってキップ売り場の前を通るが、もちろんモノレールも交通系ICカードが使えるので、そのままキップ売り場は素通りで改札口を通過する。

 愛原「えーと……11時20分発、空港快速、羽田空港第2ターミナル行き、あれだな」
 リサ「ふむふむ。普通の快速と、どう違うの?」
 愛原「空港ターミナルの駅にしか止まらない快速という意味さ。これ以外にも、もう少し停車駅のある区間快速なんかもある。……まあ、この時間帯は走っていないみたいだけど」

 空港快速と各駅停車が交互に発車するようだ。
 こうすることで、基本空港ターミナルにしか用の無い旅行客と、そうでない地元客を棲み分けさせているのだろう。

〔まもなく、空港快速、羽田空港第2ターミナル行きが、参ります。ご注意ください。この電車は、途中、羽田空港第3ターミナル、羽田空港第1ターミナル、終点羽田空港第2ターミナルに止まります〕

 ホームに接近放送が鳴り響く。
 東京モノレール羽田空港線は複線であるが、浜松町駅構内は単線になっている。
 また、ホームは乗車ホームと降車ホームに分けられている、2面1線の構造になっている。
 やってきた電車は、最新型の10000系。
 眩いヘッドライトを光らせて入線してきた。
 そして、車内には多くの乗客を乗せている。
 先に降車ホーム側のドアが開き、そこから乗客がぞろぞろと降りて行った。
 やはり、外国人が多い。
 それから、乗車ホームのドアが開いて、乗車が始まる。
 6両編成のワンマン運転。
 やはり、空港ターミナルにしか止まらない快速を避けて、次の各駅停車を待つ乗客は、ホームに残った。

 愛原「この電車だと、ものの18分で終点に着く。早いもんだ」
 リサ「そうだね。終点まで?」
 愛原「ミキが乗った飛行機は、ANAだろ?ANAは第2ターミナルだよ」
 リサ「そうなんだ。修学旅行じゃ、ANAには乗らなかったからね」
 愛原「それもそうか」

 確か、スカイマークとソラシドエアだったかな。
 スカイマークはLCCではないのだが、あえてHCCたるJALやANAを避けた感はある。

 愛原「じゃ、俺達も乗るか」
 リサ「うん」

 モノレールはあまり混んでいなかった。
 私達も乗客の一部となるべく、モノレールに乗り込んだ。
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“私立探偵 愛原学” 「斉藤秀樹の逮捕」

2025-02-26 17:45:37 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月10日05時30分 天候:曇 東京都墨田区菊川2丁目 愛原家3階リビング]

 私は今日少し早起きした。
 斉藤元社長が帰京する為、乗っている船が東京港に着くのが早朝だからである。
 私が善場係長にメールで報告したが、後で係長から返信があった。
 それから、パールもパールで、所属するテラセイブの方から警視庁に通報したらしい。
 となると、警察が東京港で張っていることだろう。
 マスコミにもリークされ、テレビ局が張っているかもしれない。
 私は早起きすると、テレビを点けた。

〔「……はい、こちら東京・有明にあります東京港フェリー埠頭前です。ロシアに逃亡を続けていた、元・大日本製薬社長の斉藤秀樹容疑者が帰国後、行方を眩ませていましたが、先ほど、九州から東京に向かうフェリーに乗船しているとの情報があり……御覧頂けますでしょうか?現場には警視庁の機動隊の他、国連組織BSAAの日米合同部隊も展開していて、とても緊迫した状況が伺えます。現場は当然ながら閉鎖されており、フェリー乗り場に近づくことはできません。乗客の出迎えに来た人達も、規制線の前で待機させられているという、そういった状況になっています」〕

 愛原「マジか……」
 リサ「先生、何してるの?」

 

 体操服にブルマという姿で、リサがやってきた。
 手には、ハンディタイプのファンを持っている。

 愛原「斉藤元社長が、東京に帰って来るらしいぞ。船で来るから、警察とBSAAが待機している状態だ」
 リサ「ほおほお」

 リサはちょこんと、私の隣のソファに座った。

〔「……フェリーの運航会社によりますと、時刻表上では東京港には5時30分に入港予定ということですが、昨夜、東海地方を襲った豪雨の影響により、船の速度を落として運航したということもあり、本日に限っては入港時刻が少し遅れるとのことです。……あ、今、見えて来たようです。御覧頂けますでしょうか?画面の向こうに、船影が見えます。あれが、斉藤容疑者を乗せたと思われるフェリーです。もう間もなく、こちらに入港すると思われます」〕

 リサ「エレンのお父さん、逮捕されたら死刑になる?」
 愛原「いや、死刑にはならんよ。ただ、今はBSAAが総力を挙げてアンブレラの関係者や協力者を片っ端から逮捕している。斉藤さんも協力者であったことが分かった以上、国連からの圧力で日本の警察も動かざるを得ないということさ」

 法律としては、『公衆等脅迫目的の犯罪行為等のための資金等の提供等の処罰に関する法律』、略称としては『テロ資金提供処罰法』医違反となる。
 他にも色々とあるようだが、取りあえず、警察はこれを前面に出して斉藤元社長を逮捕しようとしているようだ。
 大日本製薬の立て直しに成功した斉藤元社長は、日本アンブレラに逆に資金を提供していたことが分かり、そこを突くようである。
 まあ、私が弁護士なら、『アンブレラに渡した金は、あくまでも以前に受けた事業立て直しの為の融資金を返済しただけのこと。テロの支援金ではない』と、言い訳するかな。
 ただ、ちょっとこれは苦しい。
 何故なら、既に五十嵐元社長は、大日本製薬に渡した金は、『融資金ではない』と裁判で名言してしまっているからだ。
 だから、『借りた金を返しただけ』という言い訳は苦しいと思う。
 1つ言えるのは、国外逃亡したから、保釈は認められないなということ。
 斉藤さん的には、家族は安全な海外に逃がしたから、それが1つの勝利だと思っているのかもしれない。

[同日06時30分 天候:曇 愛原家3階ダイニング]

 

 パールも起きて来て、そこで朝食。

 パール「そうですか。御主人様がついに……」
 愛原「さっき、船から降りて来た」

 警視庁の捜査員数人に囲まれながら、斉藤さんは船を降りて来た。
 そして、無言のまま警視庁の覆面パトカーに乗せられる。
 パトカーはスモークガラスに囲まれたワンボックスタイプだった。
 恐らく、防弾ガラスになっているのだろう。
 船から降りて来た時、警視庁の機動隊員やBSAAが最大の警戒に当たった。
 斉藤元社長を奪還に来たり、或いは狙撃したりするバイオテロ組織がいるかもという警戒だろう。
 だが幸いそんなこともなく、斉藤元社長は車に乗せられた。
 これから警視庁に行くのだろう。
 警視庁の本庁だろうか?

 愛原「一応、これで、また一区切り付いたな」

 白井伝三郎は“青いアンブレラ”に連れ去られた。
 当面は、私は自分の事に専念する必要がある。
 この体のことについて、だ。
 どんなに検査しても、真相は分からない。
 それほどまでに、『転生の儀』は不可思議なものだ。
 科学でありながらスピリチュアル、スパリチュアルな科学といったもの。
 白井伝三郎が使用している斉藤早苗の肉体が死ねば、今度は私が乗っ取られる。
 乗っ取り先の肉体が生きていようが、お構いなしなのだそうだ。
 そうなる前に、対策を取らなくては……。

 愛原「今週末は、太平山美樹が上京してくるな」
 リサ「うん」
 愛原「次の大きな予定はそこだ」
 パール「御主人様に、面会はなさらないのですか?」
 愛原「当面の間は無理だろうね。必要なら、斉藤さんからここに手紙が届くだろうさ。面会するなら、やっぱり高橋か、或いは沖野献氏だな」
 パール「そうですか」
 愛原「今のところ高橋には用は無いから、パールが面会に行けばいいよ。あれだろ?夫婦としてというよりは、テラセイブとして、コネクションに……といったところか」
 パール「さすがは先生です。では早速今日、面会に行かせて頂きます」
 愛原「いいよ。事務所は俺に任せといてくれ。どうせ今日は来訪者の予定も無い」

 自分で言ってて悲しくなる事務所の需要。
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