報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「鬼娘は山が好き」

2025-03-04 20:32:43 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月16日07時00分 天候:晴 東京都墨田区菊川2丁目 愛原家3階ダイニング]

 

 4人で朝食を囲む。
 昨夜はカレーだったので、一晩寝かせたカレーを再び……ということがあるわけがなかった。
 この鬼娘2人が米ごと全部食らい尽くしたからである。
 その為、今朝の朝食はハムエッグにトーストというものだった。

 愛原「8時11分発の電車で、とりま新宿に向かうから」
 リサ「はーい」
 パール「御夕食はありで、昼食は無しですね?」
 愛原「ああ。また、多めに作っといてくれよ。このコ達、いっぱい食べるから」
 パール「かしこまりました」
 美樹「ん?パールさんは一緒に来ねェのけ?」
 パール「メイドは留守番が基本なのです」
 美樹「メイド!?」
 パール「ある時は愛原学探偵事務所の事務員。ある時は、愛原家のメイド……」
 愛原「しかして、その正体は!」
 パール「先生!みなまで仰らなくて結構です!」
 愛原「そ、そう?」

 もちろん、パールを誘っても良かった。
 ただ、彼女としてはテラセイブの工作員としての活動に専念したい所があるようで、あえて1人にする時間を多めに作ってあげる方が親切のようだ。

 愛原「お土産は買って来るからさ」
 パール「ありがとうございます」

[同日08時11分 天候:晴 同地区内 都営地下鉄新宿駅→都営新宿線727T電車・最後尾車内]

 

 私達は準備を整えて出発した。
 さすがに今日は山の方に行くから、少し動きやすい恰好で来ている。
 リサは白いTシャツに、デニムのショートパンツを穿いている。
 美樹は緑色のシャツに黒いショートパンツだった。
 意外と普通の恰好だ。
 私は水色のポロシャツに、ベージュのチノパンを穿いている。

〔まもなく、1番線に、各駅停車、笹塚行きが、10両編成で、到着します。ドアから離れて、お待ちください。急行電車の、通過待ちは、ありません〕

 ホームに接近放送が鳴り響く。
 トンネルの向こうから、電車が接近する音と、それが巻き起こす風が吹いてくる。
 さすがに2人とも、今はスカートではないので、風で捲れる心配はしなくて良い。
 入線してきたのは、東京都交通局の車両だった。

〔1番線の電車は、各駅停車、笹塚行きです。きくかわ~、菊川~〕

 

 日曜日ということもあり、平日の同じ時間と比べれば格段に空いている。
 ポツリポツリと空席がある程度なので、私は座らせてもらい、鬼娘2人は立っていた。
 すぐに短い発車メロディが鳴り響く。

〔1番線、ドアが閉まります〕

 電車のドアと、ホームドアが閉まる。
 駆け込み乗車があったのか、再開閉があった。
 それからようやくドアが閉まり切って、車掌が運転士に発車合図のブザーを鳴らす。
 エアーが抜ける音がすると、電車が動き出した。
 時折、天井から冷房の風が拭き下りてくる。

〔次は森下、森下。都営大江戸線は、お乗り換えです。お出口は、右側です〕

 リサと美樹は、互いにスマホを出して、画面を見せあいながら色々と喋っている。
 2人とも人間形態でいることもあり、普通の人間の女子高生のようだ。
 私はというと、斉藤元社長の動きとかをチェックしている。
 警察から検察庁に身柄を送られたそうで、そうなると、今は東京拘置所に収容されていることとなる。
 基本的に未決拘禁者は雑居房には入らず、死刑囚と同様、独居房に入る形になる。
 なので斉藤元社長も、そこにいると思われる。
 今のところ、面会OKの手紙は来ていない。
 また、色々と逃亡したこともあってか、やはり保釈は認められなかったようだ。
 もしも裁判になったら、千葉刑務所に収監されている沖野献受刑者が証言台に立つようなことも有り得るのだろうか。
 ……いや、待て……。
 私まで呼ばれたりして?
 さすがに無い……よな?

[同日08時31分 天候:晴 東京都新宿区西新宿1丁目 都営地下鉄新宿駅・京王新線ホーム]

 菊川駅からは、ものの20分くらいで新宿駅に到着する。

〔「まもなく新宿、新宿です。お出口は、右側です。この電車は京王新線直通、各駅停車の笹塚行きです。お降りの際、お忘れ物、落とし物の無いよう、ご注意ください。本日も都営地下鉄新宿線をご利用頂きまして、ありがとうございました」〕

 都営地下鉄の線路はここまで。
 ここから先は京王電鉄の線路になる。

 

〔「ご乗車ありがとうございました。新宿、新宿です。お忘れ物の無いよう、お気をつけください。4番線の電車は、8時32分発、笹塚行きです」〕

 ここで電車を降りる。

 愛原「ここで京王線の方に乗り換える。同じ京王電鉄だから、通路が繋がってるんだよ」
 美樹「迷路みてェな……」
 リサ「愛原先生について行けば大丈夫だよ。先生は鉄オタだから」
 美樹「そりゃ凄ェ!」
 愛原「いや、大した事じゃない。電車は9時ちょうど発だ。少し余裕があるから、トイレとか行きたかったら、今のうちにな」
 リサ「はーい」

 改札口のあるフロアにトイレがあるので、取りあえず、そこに寄っておくことにした。
 これから乗り換える有料特急“Mt.TAKAO”号には、トイレが付いていないからだ。
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“私立探偵 愛原学” 「鬼娘ブルマ伝説」

2025-03-04 15:43:47 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月15日21時30分 天候:晴 東京都墨田区菊川2丁目 愛原家3階リビング]

 リサ「お風呂上がったよ~」
 太平山美樹「お風呂頂きまスた~」

 

 鬼娘2人が風呂から上がって来る。
 リサはお決まりの体操服にブルマだったが、美樹は白いTシャツにエンジ色のショートパンツだった。
 Tシャツには、校章らしきマークが左胸に入っていることから、これが秋北学院の体操服らしい。
 ショートパンツは、正にそう言って良い長さ。
 ハーフパンツよりは短く、短パンよりは少し長い。
 ここも、かつてはブルマだったのだろうか。

 リサ「ほらほら、見てよ、ミキ。ミキがブルマを穿かないから、先生がガッカリしてる~!」
 美樹「ンな!?」
 愛原「おい!」
 リサ「私もエンジブルマを持ってるから、それを貸そうか?」
 美樹「ンだって、リサのサイズじゃ、あたし穿けねぇべよー。……いでっ!」

 リサ、美樹に素足でローキック。

 リサ「悪かったな、小さくて!」
 美樹「いンや、そーゆー意味でねぐ……」
 愛原「まあまあ。そんなこと言ったって、今は持ってないんでしょ?」
 美樹「そりゃもう……。リサの学校は復活したみてェですけど……」
 愛原「まあ、リサが復活させたんだけどな」
 リサ「私立だから、上手くやった!むふー!……秋北学院も私立でしょ?上手くやれよ」
 美樹「ンなこと言っだっで……」
 愛原「どこのメーカーだい?」

 私は美樹のショートパンツのタグを見た。

 愛原「ギャレックスか。それなら、今リサが穿いているオータニのブルマがギャレックスのOEMらしいから、それで似たようなものが購入できるな。そのショートパンツ、無地らしいが、ブルマもそうだったのかな?」
 美樹「よく分かんねっス!どうしたんスか、愛原先生?」

 バチン!

 美樹「あだぁ!?」

 リサ、明らかに自分のよりも豊かな美樹の胸をバチンと叩く。

 リサ「愛原先生に逆らうな。地獄に墜ちるぞ?」
 美樹「じ、地獄!?まさか、獄卒さんに縁が!?」
 リサ「いいから、黙ってろ」
 愛原「美樹。キミの学校にも、卒業アルバムはあるだろ?」
 美樹「へ、ヘェ!あります……」
 愛原「もしかして、キミの親族の中にも卒業生とかいたりしない?」
 美樹「実は、あたしの母も卒業生でした」
 愛原「その卒業アルバムに、体育祭とかの写真は?」
 美樹「あ、あっだような気がします……」
 愛原「キミの母親、お歳はいくつ?」
 美樹「よ、42歳です」
 愛原「俺と同じ氷河期世代、体操服はブルマ世代だな。よし、そのアルバムの写真を確認してもらってくれ」
 美樹「え、ええーっ!?い、今からスか!?」
 リサ「愛原先生の命令は絶対だと言ったよな?」
 美樹「う、うっ……!」

 リサは鬼形態になっているが、ギラリと赤い瞳を光らせた。
 それに気圧される、生まれながらにして鬼の末裔の美樹。

 愛原「それともう1つ。その卒業アルバム、各部活動の写真は?」
 美樹「それもあっだような気がします……」
 愛原「今、キミは女子バレー部員だそうだが、ユニフォームはブルマかね?」
 美樹「い、いや、まさか!スパッツっスよ!」
 愛原「そのユニフォームの写真は?」
 美樹「そ、それならスマホの中さ……」

 美樹は自分のスマホを取り出すと、その中に保存されている自分の部活中の写真を見せた。
 ユニフォーム姿ということは、試合の時の写真だろう。
 私は体操服のショートパンツとを見比べた。

 愛原「なるほど。全女子生徒が穿く体操服の方は地味な無地デザインだが、女子バレー部のユニフォームは派手な赤いスパッツか。なるほどなるほど……」

 しかも、サイドに白いラインも1本入っている。
 ブルマだった頃も、そのような感じだったのだろう。
 あとは実際にどうだったか確認してからだ。

 美樹「あの……先生……。あたし、本当に……リサみたいな恰好を……」
 リサ「それがどうした?鬼なら、パンイチでも恥ずかしくないはずだよ?」

 リサはそう言って、自分の体操服の上を捲り上げた。
 その下には、黒いスポブラを着けている。
 ノーブラだと乳首が擦れて気になるというのもあるし、リサのヤツ、裸で寝たがるものだから、それを禁止したら、せめて下着だけでもということになり、折衷案としてスポブラとショーツということになった次第。

 美樹「いや、うちでは裸になンねーよ?」
 リサ「そうなの???」
 美樹「多分、裸さなるのは、西日本とかの、もっと暖かい所でねーの?」
 リサ「鬼ヶ島の鬼って……」
 愛原「瀬戸内海にある女木島だろ?瀬戸内海だから、まあ暖かいよな。夏は暑そうだ」
 リサ「獄卒、獄卒……」
 美樹「そりゃ、焦熱地獄とかさ行ったらクソ暑いから、パンツ一丁にでもなるべ」
 リサ「秋田県って……」
 美樹「そりゃ、最近の真夏はクソ暑いけど、その時だけだべ」
 リサ「今、暑いよね?」
 愛原「東京の夏の暑さナメんなよ?……あぁ、美樹。心配要らない。ブルマなら、俺が買ってあげるから」
 美樹「あたし、やっぱし穿く前提っスか?!」
 愛原「別に、裸になれって言ってるんじゃないんだから……」
 リサ「そうそう。愛原先生と関わった鬼の女の子達は、みんな穿いてもらうことになるから」
 美樹「ええーっ!?そ、そりゃ……」
 リサ「リンのヤツ、ようやく穿くようになったよ。今までは女子陸上のブルマで誤魔化してたけど……」
 愛原「女子陸上のは、まだまだ現役だから助かるな」
 美樹「はー……」
 リサ「だいたいミキだって、パンツは虎柄じゃん!」

 リサは美樹の穿いているショートパンツをずり下げた。

 美樹「ちょちょっ!」
 愛原「おおっ!」

 その下には、ラムちゃんもかくやと思われるデザインのショーツを穿いていた。

 リサ「派手なパンツは校則違反じゃないの?」
 美樹「鬼のパンツは、これだべ!」
 リサ「いや、ベタ過ぎるんだよ。ズレてるねぇ……」
 愛原「いや、感覚のズレ方はリサも大概だと思うぞ」
 リサ「んんっ!?」
 愛原「とにかく美樹、キミも似合うと思うから、確認の方だけ頼むよ」
 美樹「……分かりました」

 美樹は後に、『愛原先生の家も、怖い「鬼の棲む家」だったべ!』と、帰郷後、周囲に話したという。
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“私立探偵 愛原学” 「美樹の宿泊」

2025-03-02 20:58:14 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月15日18時00分 天候:晴 東京都墨田区菊川2丁目 愛原家3階ダイニング]

 

 今日の夕食はカレーだった。
 なるほど。
 これなら安く大量に作れるから、大食の鬼2人いても何とかなるレベルだな。

 美樹「すンませン。2泊も泊めてもらえるなんて……」
 愛原「いや、いいんだ。奇しくも、善場係長から正式な仕事の依頼として来たが、どっちみち、キミの村には行こうと思っていたところさ。多分、日帰りできない場所だろうから、宿泊場所を探すのに苦労しないといけないと思っていた」
 美樹「そンなら任せてくだせェ。あたしの家は広いんで、先生方が泊まれる部屋はいくつもありますっけ」
 リサ「ミキんちの方がお屋敷!?」
 美樹「田舎なんで、無駄にデケェだけだべし。うちの村さ限らず、田舎の家はどこもデケェべ?」
 リサ「まあ、確かにそういうイメージ」
 美樹「ああ、そうだ!渡すの遅れて申し訳無ェ!これ、宿泊代代わりの手土産だべ。先生方で飲んでけろ」

 美樹は日本酒の一升瓶を取り出した。

 愛原「あのケースの中に、こんなのが入ってたのか。別に、気ィ使わなくていいのに」
 美樹「鬼は、酒と風呂が好きだ。さすがに風呂は持って来れねェがら、酒ば持っで来た」
 リサ「美樹んち、温泉湧いてるってホント!?」
 美樹「何か、掘ったら出てくるような所だべ。珍しぐも何とも無ェ」
 愛原「まあ、とにかくありがとう」
 パール「先生!これはなかなか市場に出回らない、超特級純米吟醸酒『夜叉姫』ですよ!?」
 愛原「そ、そんなに!?」
 リサ「桃鉄みたいな名前だねぇ……」
 美樹「うちの村の酒蔵でしか造ってねェ酒です。だいたいは、村の大人達だけで飲んじまうんスけど、たまに造り過ぎて余った酒を村の外さ売りに行ぐごともあるんです。これもそのうちの1本で、世話さなる愛原先生方にって、うちの両親が持たせてくれまして……」
 パール「御両親に感謝をお伝え願います!」
 美樹「へ、ヘェ……」
 パール「もしかして、他にも『閻魔大王』とか『阿修羅』とか『酒呑童子』とかございます?」
 美樹「ヘェ。造ってますね」
 愛原「……お土産に買ってきてやるよ」
 パール「ありがとうございます!」
 リサ「殆ど桃鉄のキャラじゃんw」
 愛原「酒呑童子は、桃太郎伝説の方のキャラだな」
 リサ「何それ?知らない」
 愛原「俺が子供の頃、桃鉄より先に、桃太郎の話をゲーム化した『桃太郎伝説シリーズ』の方が出たんだよ。夜叉姫も、そっちの方が先に出てる」
 美樹「……因みにそれ、どのくらい前の話スか?」
 愛原「もう30年以上も前の話になるぞ?今はもうシリーズも打ち切りになっちまったからな。最新版はプレステ1版の桃太郎伝説リメイクだ」
 リサ「古っ!」
 愛原「プレステ1は俺が高校生の頃だったもんなぁ……。ん?で、それがどうしたんだ?」
 美樹「いえ、何でも無ぇス。鬼のくせに、退治する側の味方なんて……思いまして」
 愛原「いや?俺の記憶が正しかったら、桃伝の夜叉姫は敵キャラだで?」
 美樹「えっ!?」
 愛原「それもボスキャラだ。ただ、桃太郎に退治されたことで、桃太郎について行くことに決めたらしいが」
 美樹「RPGの王道だね。ボスキャラが主人公達に倒されて、その後、そのパーティーに入るってパターン」
 愛原「そうだな。ボスとして対戦中は、リサみたいに目を赤く光らせて怖い顔だったんだぞ?桃鉄とはまるで別人だ」
 リサ「こんな感じ?」

 リサは赤い瞳を鈍く光らせた。

 愛原「そうそう」
 美樹「リサは強そうだべね~」
 リサ「そうかな?」
 美樹「ンだよ」
 愛原「明日は観光に行くが……本当に行き先、山でいいのか?もっと、派手な所じゃなくていいのか?」
 美樹「東京の鬼が山の方さいねェが、様子さ見に行ぐのも目的だもんで。それに……」
 愛原「ん?」
 美樹「温泉もあるそうで、ちょっと入ってみだぐなりました」
 愛原「はは、そうか。山の方に行くから、動きやすい服装にしろよ?私服は持って来てる?」
 美樹「ヘェ。それは大丈夫です」
 愛原「じゃあ、いいな」

[同日21時00分 天候:晴 愛原家3階リビング]

 鬼娘2人は風呂に入りに行った。
 2人で入れるほど広い風呂かどうかは別だが、まあ、鬼娘同士の付き合いがあるのだろうと納得している。
 それより、私には彼女らが風呂に入っている間にやっておかないといけないことがある。
 私は自分のスマホを取り出し、それでホテル天長園に掛けた。
 上野利恵のスマホの番号は、リサに消されてしまっている。

 愛原「……あっ、もしもし。私、副社長の上野利恵の知人の愛原学と申しますが……。副社長は勤務中ですか?……分かりました。お願いします」

 代表電話に掛けると、だいたいはフロントに繋がる。
 フロント係は上野利恵のスマホの番号を教えてくれた。
 それで、その番号に掛け直す。
 利恵のスマホには、私の番号が登録されているのだろう。
 掛けるとすぐに出た。

 上野利恵「愛原先生、お久しぶりです」

 電話の向こうから、艶めかしい声が聞こえて来た。
 性欲を持て余している未亡人の声だな。
 これを聞くだけで男の下半身は元気になるものだが、リサにバレたら食い殺されてしまう。
 私は平静さを保つ努力をしながら、用件を伝えた。

 利恵「進学会の合宿に、お姉様方が参加されるのですか」
 愛原「そうなんだ。それでリサが怒っちゃってさ。俺が一緒に行かないと合宿に行かないとゴネだして……」
 利恵「まあ!それは大変でしたねぇ……」
 愛原「ホテルは貸切なんだろ?」
 利恵「そうなんです」
 愛原「何とかそこへ、俺1人だけ潜り込めないかな?貸切といったところで、部屋全部埋まってるわけじゃないんだろ?」
 利恵「例年通りですと、そうですね。少々お待ちください。確認してみます」
 愛原「急いでくれな?リサ達、今、風呂に入ってる。上がって来る前に済ませたい」
 利恵「分かりました」
 愛原「俺1人だけだから、シングルが1つ空いていれば助かる」
 利恵「分かりました。後ほど、メールにてお知らせさせて頂いても宜しいでしょうか?」
 愛原「結構だ。スマホだとリサにバレる恐れがあるから、俺の業務用パソコンの方に送ってくれないかな?アドレスは分かるな?」
 利恵「もちろんです。ダイレクトメール送らせて頂いておりますから」
 愛原「そうだったな。宜しく頼む」
 利恵「お任せください」

 私は電話を切った。
 そして、今の発信履歴を消去する。

 愛原「ふう……。危ねぇ危ねぇ」

 今回の電話は必要な物なのであるが、それでもリサは私が利恵と直接会話するのが許せないらしい。
 鬼の独占欲も強くて大変だ。
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“私立探偵 愛原学” 「太平山の鬼」

2025-03-02 16:31:43 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月15日16時30分 天候:晴 東京都墨田区菊川2丁目 愛原学探偵事務所2階]

 愛原「ここが俺達の家兼事務所だ」
 美樹「ほぇ~!4階建て!お屋敷だべね~!」
 愛原「縦に長いだけだよ。荷物大きいから、エレベーターで上がって」
 美樹「エレベーター付き!?」
 リサ「むふー!」

 駐車場には、デイライトさんの車が止まっていた。
 運転席には白峰主席が座っている。
 エレベーターで2階に上がると、目の前が事務所だ。

 美樹「3階と4階もあンの?」
 リサ「そこが家になってるの」
 美樹「うちの家とは、全く違うっちゃね」
 リサ「ははっ(笑)、無限城みたいになってるの?」
 美樹「無限城……」

 美樹は何故か考え込んだ。

 リサ「いや、知らないならいいよ。鬼なら、そういうマンガやアニメも観ないと」
 愛原「バカなこと言ってないで、早く行くぞ。善場係長を待たせてる」
 リサ「はーい」

 事務所の中に入る。

 パール「先生、お帰りなさい」
 愛原「ああ、ただいま。善場係長は?」
 パール「応接コーナーでお待ちです」
 愛原「分かった」

 私達は事務所内の応接コーナーに向かった。
 衝立で仕切っており、その中にはソファとテーブルを置いている。
 これは前の事務所で使っていたものだ。

 愛原「お待たせしました!」
 善場「愛原所長、お疲れさまです」
 愛原「申し訳ありません。お待たせしてしまいまして」
 善場「いえ、とんでもないです。こちらこそ、急かしてしまったみたいで。道路事情を考慮して、逆に少し遅れてしまうと予想していたのですが、それに反してスムーズに走れたものですから、却って早く到着してしまいました」
 愛原「そうでしたか。こちらが、秋田から来ました太平山美樹です」
 美樹「ど、どンも……。初めまして。太平山美樹です」
 善場「NPO法人デイライト東京事務所の善場優菜と申します。緊張されておられるようですね。どうぞ、リラックスなさってください。何でしたら、鬼形態に戻って頂いても構いませんよ?」
 美樹「あたしの正体を知ってるんスか」
 善場「ええ。ですので、ご遠慮無く」
 リサ「じゃあ、お言葉に甘えて」

 リサは鬼形態に戻った。

 美樹「2本角、カッコイイっちゃね!」

 美樹も鬼形態に戻る。
 美樹は額の中央に1本角が生えるタイプ。
 リサもかつては、1本角だった。

 善場「……どうやら、噂は本当だったようですね」
 美樹「あんだは?あんだからも、鬼の匂いがする」
 善場「私は人間に戻れた者ですよ。もっとも、一部の体質は残ったままですけどね。あ、どうぞ座ってください」

 リサは無関係だと思ったのか、事務所から自分の机の椅子を引っ張り出して来た。

 パール「リサさん、私は夕飯の支度がありますので……」
 リサ「おっ、そうか。じゃあ、わたしは電話番だ」
 パール「よろしくお願いします」

 パールはそう言って、3階に上がって行った。
 もちろん、その前に冷たいお茶を出していってくれたが。

 善場「もう1度確認ですが、あなた達の村にやってきた日本アンブレラの人間は、白井伝三郎で間違いないですね?」
 美樹「名前までは分かんねェよ。ただ、そういう会社の人間がやってきたっつー話は聞いた。で、『鬼の血が欲しい』って言ってきたんだけっど、断ったって」
 善場「どうして断ったのでしょうか?」
 美樹「胡散臭くて、信用できなかったからだって。あど、鬼の血は人間に使ったらヤバい。転化組になっちまうって」
 善場「さすがは本場の鬼の方達です。自分達の事は、よく分かっておいでですね」

 善場係長はそう言って、リサの方を見た。
 いくらGウィルスやTウィルス、そして特異菌をちゃんぽんしたとはいえ、やはり形態が鬼になるというのはどう考えても不自然なのだそうだ。
 オリジナルのリサ・トレヴァーでさえ、背中から何本もの触手を出したりはしたが、鬼の姿になることはなかった。

 善場「どなたか、その時の状況を覚えておいでの方はいらしゃいませんか?」
 美樹「うちの両親や、じっちゃん、ばっちゃんは知ってると思う。直接、対応したから」
 善場「そうですか」
 愛原「係長、それは……」
 善場「白井がどのような目的で村を訪れ、どういう理由付けで鬼の血を欲したのか、そのやり取りを確認したいのです。白井は、どうして鬼の血が欲しいと言ったのか、理由を話していませんでしたか?」
 美樹「何でも、特別な薬を作るんだと。鬼は病気にならないし、ケガしてもすぐに治るから、その血を使って万能薬を作りてェんだと、そう言ってたって」
 愛原「いかにもな理由ですな」
 善場「しかし、ウソは付いていないのでしょう。表向きの理由とては、ですが」
 愛原「裏の理由とは?」
 善場「長命・長寿の薬でしょうね。鬼は首さえ刎ねられなければ、とても長く生きますから。あなたの御家族、祖父母だけでなく、曽祖父母までいたりしませんか?」
 美樹「いる。さすがにその上はいねっけど」
 善場「でしょうね。時代的に鬼狩りが盛んに行われていたでしょうから。あなた達は、人間を憎んでいますか?」
 美樹「いや……。ひいじっちゃん、ひいばっちゃんとかは『関わるな』とか言ってっけど、両親は、『今の時代、そういうわけにもいかない』って、取りあえずあたしらは学校に行かせてもらってる」
 愛原「ホテル天長園に、かなりお歳を召された老夫婦がいたけど、それが曽祖父母の人達?」
 美樹「ンだ。人間と関わり合いたくは無ェけど、同族ならいいってんで。まあ、栃木の上野さん達も転化組だったっつーことで、少しガッカリしてたけどっしゃ」

 上野利恵は特異菌を改良した物を投与したことにより、鬼型BOW化している。
 リサとは改造の仕方が違うので、体質は全く別の物となっている。

 美樹「両親は、『それでも同族になった者達がいたんだから』と喜んでたな」
 愛原「世代の違いが鬼の世界にもあるんだねぇ……」
 美樹「ンだね」
 善場「そうですか……。愛原所長」
 愛原「何でしょう?」
 善場「このコ達の合宿は、8月になってからでしたね?」
 愛原「そうです。8月の中旬に、4泊5日の予定で行われます」
 善場「では、7月はまだ予定がございませんね?」
 愛原「善場係長、それは……」
 善場「太平山美樹の村に行って、直接事情を聴いてきて頂けませんか?これは正式な仕事の依頼です」
 愛原「おおっ!久しぶりの仕事!」
 善場「もちろん、無理はしなくて結構です。やり方は所長にお任せします」
 愛原「分かりました。……いいのかな?」
 美樹「あー……うちの両親に聞いてみねェと……」
 愛原「多分、隠れ里のような感じであるんだろう?キミに案内を頼みたい」
 美樹「それはいいですよ」
 善場「では、よろしくお願い致します。日本版リサ・トレヴァーの製造に、Gウィルスの他、『鬼の血』も使われたのは事実です。また、愛原所長の『転化の儀』についても気になります。その情報を聞いてきてください」
 愛原「分かりました」
 美樹「ンで、ちょっと、両親に聞いてきます」

 美樹は自分のスマホを取り出した。

 リサ「スマホあるんだ」
 美樹「いや、あるよ。リサも持ってっぺ?」
 リサ「まあね」
 愛原「電話代が気になるなら、事務所の電話使っていいよ」
 美樹「大丈夫っス。通話は無制限なんで」
 愛原「そうか」

 美樹はスマホを持って、席を外した。

 愛原「リサ」
 リサ「なに?」
 愛原「俺は係長と話があるから、美樹を部屋に案内してやれよ」
 リサ「変な話じゃないでしょうね?」
 愛原「んなワケねーだろ!」
 リサ「ミキの電話が終わったらね」

 私が善場係長に話したのは、途中で仙台に寄っても良いかという確認。
 前に聞いた話、宮城県の酒造メーカーでも『鬼ころし』は製造されているのだが、そこオリジナルの商品として、『鬼ふうじ』や『鬼つよし』という物もあるのだそうだ。
 リサが『鬼ころし』で、なぜ暴走が抑えられているのかは未だに分かっていない。
 暗示の1つではないかと言われているのだが、もしそうなら、『鬼ふうじ』や『鬼つよし』も効くのではないかという実験であった。

 善場「なるほど。それは興味がありますね。分かりました。いいでしょう」

 と、善場係長も興味を示してくれて、許可が取れた。
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“私立探偵 愛原学” 「太平山美樹の来訪」

2025-03-02 11:46:41 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月15日15時58分 天候:晴 東京都新宿区西新宿1丁目 都営地下鉄新宿駅・京王新線ホーム→都営新宿線1516T電車・最後尾車内]

 

〔まもなく、5番線に、各駅停車、本八幡行きが、10両編成で参ります。ホームドアから下がって、お待ちください。次は、新宿三丁目に、止まります〕

 何とかリサを宥めすかしたものの、リサはまだ機嫌が悪い。

 美樹「リサぁ~、堪忍してけろ。まさか、リサが嫌がる場所だたぁ知らなかったんだべ!」
 リサ「…………」

 リサ、帽子を被って生えてきた角を隠している。
 そして、電車が轟音と強風を巻き起こして入線してきた。
 リサは分かっているので帽子とスカートを押さえていたが、美樹は油断していた。

 美樹「うっ!?」

 最後尾の車両に乗ろうとしていたので、電車がトンネル内で巻き起こす強風がもろに当たる。
 ホームドアがある今はいいが、無かった昔は不慣れだとスリリングだっただろう。
 リサほどではないが、丈が短めの美樹のエンジ色の制服スカートが捲れ上がる。
 しかし、スカートの下には黒いスパッツを穿いていた。
 そこは抜かりないらしい。

 愛原「ああ、気をつけろ。東京の地下鉄、特に都営新宿線は編成が長いし、スピードも出るから、風が強い」
 美樹「へ、ヘェ……」

〔「5番線に到着の電車は、16時ちょうど発、各駅停車の本八幡行きです。急行電車の通過待ちはありません。本八幡まで1番先に到着致します」〕

 東京都交通局の車両がやってくる。
 新宿始発ではないので、既に先客が乗っていた。

 

〔「16時ちょうどの発車です。発車までご乗車になり、お待ちください」〕

 電車に乗り込み、2色の座席に腰かける。
 私はスマホを取り出し、16時ちょうどの電車に乗ったことを善場係長に報告した。
 すぐに係長から返信があった。

 善場「では、菊川着は20分くらいですかね。それでは16時30分くらいに事務所にお伺い致します。よろしくお願い致します」

 とのこと。

 愛原「善場係長は16時30分に事務所に来られるらしい。美樹、キミの一族の事について色々聞かれると思うけど、正直に答えるんだよ?」
 美樹「分かりました」

 しばらくして、ホームから発車ベルが鳴り響く。

〔「5番線から、各駅停車、本八幡行き、発車致します」〕

 ベルが鳴り終わると、ピイッと笛を吹きたくなるが、今はそんなに笛は吹かないらしい。
 ホームドアと、車両のドアが閉まる。
 ドアが閉まり切ると、車掌が発車合図のブザーを運転士に鳴らす。
 それからエアーの抜ける音がして、電車が動き出した。
 車掌は出発監視が終わるまで、乗務員室のドアを開けたままである。
 ホームの途中で、バンとドアを閉める。
 最後尾に乗っていると、そんな感じである。

〔都営新宿線をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は、各駅停車、本八幡行きです。次は新宿三丁目、新宿三丁目。丸ノ内線、副都心線はお乗り換えです。お出口は、右側です〕

 帰ったら善場係長を出迎える準備をしないと……。
 あとは上野利恵に頼んで、私をリサ達の合宿に潜り込ませてもらうという根回しをしないと。
 予備校側としては、あくまでも合宿先のホテルを貸切にする程度。
 客室の運用としては、ホテル側に任せているようだ。
 もちろん、予備校側の大まかな部屋の割り振りはあるようだが。
 例えば学習塾や予備校では当たり前の、その生徒の学力や進学希望先の偏差値に応じたクラス分け。
 これはTS進学会でも行っている。
 今度の合宿では、主に5つのクラス分けを行っているようである。
 国公立大を目指すSクラス、GMARCH(ジー・マーチ)クラスの大学を狙うAクラス、日東駒専クラスの大学を狙うBクラス、大東亜帝国クラスの大学を狙うCクラス、それ以外のDクラス。
 リサと美樹はDクラスに入ることになる。
 東京中央学園大はFランなので。
 リサ自身はモラトリアム期間確保の為、美樹は高校卒業の成績確保の為に通うようなものだ。
 デイライトは別にリサに学歴は求めていない為、大学進学には消極的だった。
 だが、せっかく通うなら、資格取得に邁進せよというお達しが出た。
 東京中央学園はそういうのに力を入れているのかというと、そういうわけでもない。

(※これは作者の友人の例だが、Fラン大学に進学したものの、卒業に必要な最低限の単位しか取らなかった男がいた。しかし、卒業時には数多くの国家資格を取得しており、Fラン大卒業の割には、そんなに就職に苦労しなかったという。何でも、勉強する時間を大学の講義ではなく、資格取得に使ったのだとか)

 善場係長は公安調査庁に入庁している以上、それなりに良い大学は出ているはずだが、あまり明かさない。

[同日16時20分 天候:晴 東京都墨田区菊川2丁目 都営地下鉄菊川駅]

〔2番線の電車は、各駅停車、本八幡行きです。きくかわ~、菊川~〕

 無事に菊川駅に到着した。

 愛原「ここからは、もう歩いて少しだから」
 美樹「どンもすンません」

 ゴロゴロとキャリーケースを引いて、改札階に向かう。

 リサ「結構ギリギリだね。事務所に着くと同時に、善場さん達来るんじゃない?」
 愛原「あんまり時間無いからな、しょうがないよ」

 と、そこへパールからLINEの着信が入る。
 見ると、どうやら善場係長が事務所に来られたとのことだ。

 愛原「もう事務所に来たらしいぞ!」
 リサ「早っ!」
 愛原「『慌てなくていいです』と仰ってるらしいが……」
 リサ「じゃあ、コンビニ寄って行こう」
 愛原「こら!」
 善場「ホントに、国の偉い人が来たんスか?」
 愛原「そうだね。まあ、真っ直ぐ帰ろう」

 私達は家路を急いだ。
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