[現地時間8月30日10:00.天候:晴 魔界王国アルカディア王都アルカディアシティ南部 サウスエンド地区(南端村)]
魔界には元々地名など無い。
初代魔王バァルが即位時、「ここを魔族のアルカディア(理想郷)としよう」と宣言したことから、バァル大帝の時は帝政アルカディアとかアルカディア帝国と呼ばれた。
人間界から迷い込んだり、或いは拉致された人間は最下位の奴隷階級であった。
生きたまま拉致された者もいるし、本来なら地獄界に堕獄、更には成仏するはずの亡者もいる。
その為、地獄界や天国と誤解されることもあるが、いずれでもない。
今現在はバァルも退位して冥界に隠居し、ルーシー・ブラッドプール1世という吸血鬼が出自の女王が即位してからは帝政(絶対王制)も廃止され、立憲君主制が敷かれている。
エレーナ:「ちわー、毎度」
リリアンヌ:「フヒヒヒ……。こ、こんにちは……」
アルカディアシティの最南端、城壁から更に外側にも村がある。
今はアルカディアシティに組み込まれ、その一地区としての存在であるが、城壁内のそれとは雰囲気も違う。
まるでそこは、明治から大正時代の日本のような光景が広がっていた。
城壁内の中世から近世に掛けてのヨーロッパの雰囲気とは全然違う。
ここは人間界から迷い込んだりした日本人達が形成した、日本人村なのである。
その村の外れにある神社の存在が、それを如実に物語っているのだ。
坂吹:「うわ、1人増えてる……!」
エレーナとリリアンヌはその神社を訪れた。
稲荷神社であることは、狛犬ではなく、狐の石像が置かれていることからも明らかである。
が、そのうちの一体が見る見るうちに人の姿に変化した。
坂吹:「魔女は1人だけのはずだぞ!?ついにこの神社を狙おうというのか!?この魔女め!」
坂吹はスラッと刀を抜いた。
坂吹:「威吹先生のお手を煩わせるまでもない!先生に代わってたたっ斬る!!」
坂吹は台座の上から飛び降り様、エレーナを斬ろうとした。
だが!
パコーン!
坂吹:「いでっ!?」
背後から女性用の下駄が飛んで来て、坂吹の後頭部に当たった。
そのショックで、台座から落ちる坂吹。
さくら:「お客様に何てことするの!」
坂吹:「ね……禰宜様……」
エレーナ:「おー、ナイスコントロール👏」
リリアンヌ:「トレビアン」
さくらはエレーナ達に向き直った。
さくらは巫女ではなく、れっきとした神職である。
さくら:「ごめんなさいね。うちの主人の弟子が、血の気が多くて……」
エレーナ:「いえいえ。凶悪な妖狐を物理的にコントロールできるだけで凄いことです」
さくら:「さ、こちらへどうぞ。主人がお待ちですわ」
エレーナ:「はい」
リリアンヌ:「あの、コイツ、ピヨってますけど……」
エレーナ:「妖狐は頑丈だから大丈夫だろ」
リリアンヌ:「は、はい」
[同日10:30.天候:晴 同地区サウスエンド駅]
エレーナ:「電車で、ラクして、ゴーメンなさいよ〜」
リリアンヌ:「先輩、何のギャグですか、それ?」
エレーナ:「……知らなきゃいい」
リリアンヌ:「はい……」
エレーナは威吹から、とある品物を受け取った。
それはホウキにぶら下げて運べるほどの大きさであった。
〔まもなく1番線に、環状線外回り、各駅停車が到着致します。この電車は6両です。一番街で、急行電車を先に通します〕
元々は城壁の上を走るトロッコから始まった環状線。
サウスエンド駅は東京の山手線で言えば、大崎駅辺りに位置する。
やってきた電車は、東京では全廃になったウグイス色一色の103系。
〔サウスエンド〜、サウスエンド〜、南端村です。1番線は環状線各駅停車、外回りです〕
鉄道会社は魔界高速電鉄という。
愛称はアルカディアメトロと言い、ロゴマークもAとMを斜めに重ねたものを使用している。
が、あまり地元では浸透していない。
この電車にもかつてはJRマークの入っていた位置にAMマークが入っている。
環状線は高架線であり、こちらは比較的人間の乗務員、乗客が多い。
薄暗い地下鉄では乗員・乗客共に魔族が多いのとは対照的だ。
もちろん、必ずそうしなければならないというわけではない。
実際、車両基地もあるこの駅(本当に大崎駅みたい……)では、乗務員の交替も行われる。
先頭車に乗り込んだエレーナ達であったが、交替した運転士は、まるで子供のような風体であった。
きちんと制服を着用し、制帽も被り、手には103系ならではの木製ブレーキハンドルを持っているのだが、その体型は10歳から12歳程度の少年そのものであった。
しかし、彼はれっきとした成人である。
エレーナ:「あれはグラスランナーだね」
リリアンヌ:「グラスランナーって何ですか?」
エレーナ:「エルフが『森の妖精』と呼ばれるなら、あれは『草原の妖精』と呼ばれる存在だよ」
リリアンヌ:「草原の妖精が、電車の運転士ですか?」
エレーナ:「エルフですら森から出て来て、警乗員とかやってるくらいだからね。安倍首相(※)のSPがダークエルフだってことは有名だからね」
※もちろん日本国首相のことではない。アルカディア王国の女王が魔族なら、首相は人間である。
リリアンヌ:「アサシン(暗殺者)のダークエルフをアサシンから守るSPにするとは、なかなかですね……」
エレーナ:「そうだな」
5分ほど停車して電車が発車する。
別にダイヤが乱れているのではなく、随分とのんびりしたダイヤ設定になっているらしい。
体型は少年のようなものなれど、ちゃんと運転できているようだ。
〔「お待たせ致しました。本日もアルカディアメトロをご利用頂き、ありがとうございます。環状線各駅停車、外回りです。一番街で急行電車の待ち合わせがございます。……」〕
日本語放送の後、英語放送が流れる。
アルカディア王国の公用語は日本語と英語である。
肉声で放送される。
尚、作者は京浜東北線で車掌が英語で乗り換え案内放送をしているのを聞いたことがある。
リリアンヌ:「そ、それより先輩、どうして今この電車に?」
エレーナ:「そりゃオマエ、ポーリン先生に御挨拶しに行く為だろ」
リリアンヌ:「フヒッ!?そ、そうでした」
エレーナとリリアンヌの師匠はポーリンである。
今現在は宮廷魔導師の仕事に就いている。
昔から就きたい役職であったが、それをイリーナに先に取られたことに嫉妬し、イリーナと大ゲンカしたこともある。
当然ながらその抗争は弟子同士のケンカにも発展し、それがエレーナとマリア、稲生の抗争だったのである。
さすがにダンテが仲裁に入り、また、バァル大帝が退位したことで宮廷魔導師の任期も終了し、その後にポーリンが就いたことで事実上の和解となっている。
エレーナ:「人間界でも頑張っているところ、見せてやろう」
リリアンヌ:「は、はい!」
魔界には元々地名など無い。
初代魔王バァルが即位時、「ここを魔族のアルカディア(理想郷)としよう」と宣言したことから、バァル大帝の時は帝政アルカディアとかアルカディア帝国と呼ばれた。
人間界から迷い込んだり、或いは拉致された人間は最下位の奴隷階級であった。
生きたまま拉致された者もいるし、本来なら地獄界に堕獄、更には成仏するはずの亡者もいる。
その為、地獄界や天国と誤解されることもあるが、いずれでもない。
今現在はバァルも退位して冥界に隠居し、ルーシー・ブラッドプール1世という吸血鬼が出自の女王が即位してからは帝政(絶対王制)も廃止され、立憲君主制が敷かれている。
エレーナ:「ちわー、毎度」
リリアンヌ:「フヒヒヒ……。こ、こんにちは……」
アルカディアシティの最南端、城壁から更に外側にも村がある。
今はアルカディアシティに組み込まれ、その一地区としての存在であるが、城壁内のそれとは雰囲気も違う。
まるでそこは、明治から大正時代の日本のような光景が広がっていた。
城壁内の中世から近世に掛けてのヨーロッパの雰囲気とは全然違う。
ここは人間界から迷い込んだりした日本人達が形成した、日本人村なのである。
その村の外れにある神社の存在が、それを如実に物語っているのだ。
坂吹:「うわ、1人増えてる……!」
エレーナとリリアンヌはその神社を訪れた。
稲荷神社であることは、狛犬ではなく、狐の石像が置かれていることからも明らかである。
が、そのうちの一体が見る見るうちに人の姿に変化した。
坂吹:「魔女は1人だけのはずだぞ!?ついにこの神社を狙おうというのか!?この魔女め!」
坂吹はスラッと刀を抜いた。
坂吹:「威吹先生のお手を煩わせるまでもない!先生に代わってたたっ斬る!!」
坂吹は台座の上から飛び降り様、エレーナを斬ろうとした。
だが!
パコーン!
坂吹:「いでっ!?」
背後から女性用の下駄が飛んで来て、坂吹の後頭部に当たった。
そのショックで、台座から落ちる坂吹。
さくら:「お客様に何てことするの!」
坂吹:「ね……禰宜様……」
エレーナ:「おー、ナイスコントロール👏」
リリアンヌ:「トレビアン」
さくらはエレーナ達に向き直った。
さくらは巫女ではなく、れっきとした神職である。
さくら:「ごめんなさいね。うちの主人の弟子が、血の気が多くて……」
エレーナ:「いえいえ。凶悪な妖狐を物理的にコントロールできるだけで凄いことです」
さくら:「さ、こちらへどうぞ。主人がお待ちですわ」
エレーナ:「はい」
リリアンヌ:「あの、コイツ、ピヨってますけど……」
エレーナ:「妖狐は頑丈だから大丈夫だろ」
リリアンヌ:「は、はい」
[同日10:30.天候:晴 同地区サウスエンド駅]
エレーナ:「電車で、ラクして、ゴーメンなさいよ〜」
リリアンヌ:「先輩、何のギャグですか、それ?」
エレーナ:「……知らなきゃいい」
リリアンヌ:「はい……」
エレーナは威吹から、とある品物を受け取った。
それはホウキにぶら下げて運べるほどの大きさであった。
〔まもなく1番線に、環状線外回り、各駅停車が到着致します。この電車は6両です。一番街で、急行電車を先に通します〕
元々は城壁の上を走るトロッコから始まった環状線。
サウスエンド駅は東京の山手線で言えば、大崎駅辺りに位置する。
やってきた電車は、東京では全廃になったウグイス色一色の103系。
〔サウスエンド〜、サウスエンド〜、南端村です。1番線は環状線各駅停車、外回りです〕
鉄道会社は魔界高速電鉄という。
愛称はアルカディアメトロと言い、ロゴマークもAとMを斜めに重ねたものを使用している。
が、あまり地元では浸透していない。
この電車にもかつてはJRマークの入っていた位置にAMマークが入っている。
環状線は高架線であり、こちらは比較的人間の乗務員、乗客が多い。
薄暗い地下鉄では乗員・乗客共に魔族が多いのとは対照的だ。
もちろん、必ずそうしなければならないというわけではない。
実際、車両基地もあるこの駅(本当に大崎駅みたい……)では、乗務員の交替も行われる。
先頭車に乗り込んだエレーナ達であったが、交替した運転士は、まるで子供のような風体であった。
きちんと制服を着用し、制帽も被り、手には103系ならではの木製ブレーキハンドルを持っているのだが、その体型は10歳から12歳程度の少年そのものであった。
しかし、彼はれっきとした成人である。
エレーナ:「あれはグラスランナーだね」
リリアンヌ:「グラスランナーって何ですか?」
エレーナ:「エルフが『森の妖精』と呼ばれるなら、あれは『草原の妖精』と呼ばれる存在だよ」
リリアンヌ:「草原の妖精が、電車の運転士ですか?」
エレーナ:「エルフですら森から出て来て、警乗員とかやってるくらいだからね。安倍首相(※)のSPがダークエルフだってことは有名だからね」
※もちろん日本国首相のことではない。アルカディア王国の女王が魔族なら、首相は人間である。
リリアンヌ:「アサシン(暗殺者)のダークエルフをアサシンから守るSPにするとは、なかなかですね……」
エレーナ:「そうだな」
5分ほど停車して電車が発車する。
別にダイヤが乱れているのではなく、随分とのんびりしたダイヤ設定になっているらしい。
体型は少年のようなものなれど、ちゃんと運転できているようだ。
〔「お待たせ致しました。本日もアルカディアメトロをご利用頂き、ありがとうございます。環状線各駅停車、外回りです。一番街で急行電車の待ち合わせがございます。……」〕
日本語放送の後、英語放送が流れる。
アルカディア王国の公用語は日本語と英語である。
肉声で放送される。
尚、作者は京浜東北線で車掌が英語で乗り換え案内放送をしているのを聞いたことがある。
リリアンヌ:「そ、それより先輩、どうして今この電車に?」
エレーナ:「そりゃオマエ、ポーリン先生に御挨拶しに行く為だろ」
リリアンヌ:「フヒッ!?そ、そうでした」
エレーナとリリアンヌの師匠はポーリンである。
今現在は宮廷魔導師の仕事に就いている。
昔から就きたい役職であったが、それをイリーナに先に取られたことに嫉妬し、イリーナと大ゲンカしたこともある。
当然ながらその抗争は弟子同士のケンカにも発展し、それがエレーナとマリア、稲生の抗争だったのである。
さすがにダンテが仲裁に入り、また、バァル大帝が退位したことで宮廷魔導師の任期も終了し、その後にポーリンが就いたことで事実上の和解となっている。
エレーナ:「人間界でも頑張っているところ、見せてやろう」
リリアンヌ:「は、はい!」