Cape Fear、in JAPAN

ひとの襟首つかんで「読め!」という、映画偏愛家のサイト。

『Cape Fear』…恐怖の岬、の意。

キューティなQT

2013-02-15 04:58:00 | コラム
映画小僧QTこと、クエンティン・タランティーノが何度目かの来日をしていて『いいとも』ほか、沢山のメディアに顔を出しまくっている。

オスカーにも数部門でノミネートされている『ジャンゴ』の宣伝―スコセッシ映画同様、このひとの映画に副題としての邦題は要らない―のためだが、
今回は自分、ファンとして試写会に参加した程度で取材はしていない。

前回の来日時は取材をしており、自分が着ていたトラビスのTシャツを指差し「スーパークールだ。どこで売ってる?」と聞いてきたのだった。
噂に違わぬクレイジーな映画小僧だぜ、「あなたこそチャーミングだ」と我流の英語で応えたら、わっはっはと笑っていたんだっけ。

自分の世代の映画小僧にとって、QTは特別な存在。

オタクは、あくまでもオタク―というのが世の常だったはずで、でも世の中の中心にありたいと無理をしてコトを起こすと、PCの遠隔操作事件じゃないけれど、ああいうことになる・・・といっても、まだ容疑者だけれど、ともかく「負の方向に働きがち」だった。

『レザボア・ドッグス』(92)が発表されたとき、多くの映画小僧が歓喜した。
自分らと同じようなヤツが、最高にクールな映画を創ったぞと。
しかも映画愛に満ち満ちていて、臆面もなく数々の名作・珍作の筋をパクり、それでいてオリジナルであるかのように振る舞っているぞと。

なにもかもが痛快だった。
ほとばしる映画愛を隠そうともせず、初対面の相手に「お前はどんな映画が好きなんだ?」って「聞く」というより「迫り」、
挙句、オスカー脚本賞まで手にして、ミラ・ソルビーノという美人女優までゲットしてしまう。(別れちゃったけど)

日本人より日本映画のことを知っていて愛してもいるQTは、まさに映画小僧のまま映画監督になってしまった「ごく稀な」人物だったはずだが、デビューして20年、彼はいつの間にか立派な映画作家になっていた。
それでもなお映画小僧としての茶目っ気を作品のなかに残している―そこがチャーミングだな、キュートだな、素敵にクレイジーだなと。

キャラ的に、あまり祀り上げないほうが本人のためだとは思うが・・・

ヒッチコック「以後」あるいは黒澤「以後」という現象に倣っていうと、
「QT以後」というものがある、確実に、ある。

時制の逆転などは映画史的には古いものだが、無駄話を繰り広げて人物だけでなく、作品そのもののキャラクター性を創りあげる―ということをやってのけたのは、おそらくQTが最初。

いや「ちょっとした無駄話」ならば、以前の映画にも見られた。
しかしQTの場合は無駄話を、まるで「伏線」のように扱う。
それが実際に伏線の役割を果たす場合もあれば、単なる無駄話で終わる場合もあり、いまのところ「若干」後者のほうが多い。(そりゃそうだ、無駄話だからこそ特別な意味があり、伏線ばかりだと、それは単なる技巧派の脚本家になってしまうのだから)

これに刺激を受け真似をしてみた映画小僧による亜流が、じつに沢山創られた。
一目で「あぁ、QT調だね」と分かるものばかりだったが、そこは亜流の宿命ということだろう、悉く似て非なるものであり、QTのように「それだけで」映画を成り立たせることは出来なかったのである。

エラソーにいっているが、自分もそんなひとり。

QTを知る前から脚本に無駄話を取り入れてはいたが、やったもん勝ち、出たもの勝ちである。彼のほうが凄く、自分のほうが負け犬なのだ。

それは無駄話だけに限らない、
たとえばラジオ局を変えるという展開によってサウンドトラックを切り替えるというクールな演出も、実際に自分は高校生のころに「いいな、まだ誰もやっていないし」と考えてト書きで記したものだが、世に出たのはQTのほうだったのである。

ほんとうはそこで「悔しい!」と思わなければいけないのだが、QTに関しては「さすがだ!」と感心してしまう。

映画小僧にネタミソネミを抱かせず、ヒーローだと思わせてしまう―そこにQTの本質的な魅力があるわけだが、
これだけは賭けてもいい、彼の新作『ジャンゴ』は、必ずやオスカー脚本賞に輝くことだろう。

そのくらい、『ジャンゴ』の脚本は(流行りのことばでいうと)キレッキレなのである。


※では、数あるQTのトリビュート映像のなかで、最もよく出来た作品を。




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明日のコラムは・・・

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コメント (2)
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