本年総括の最後は、やっぱり映画。
二夜連続で映画界の出来事を俯瞰してみるが、とりあえず今夜は13年度公開映画のベスト20を発表。
興行成績や訃報、その他のニュースについては明日取り上げることとする。
※12年11月~13年10月に劇場公開した映画から選出した
1位『戦争と一人の女』…トップ画像
戦争が終わるまで、やりまくろう―坂口安吾の小品を映像化した、本年最も輝くインディーズ映画。
自堕落な小説家と、不感症だが「淫奔な」女。
映画版の白眉は、このふたりに「片腕の帰還兵」というキャラクターをぶつけたところ。
小説には出てこないこの男が片腕にも関わらず女を強姦し、さらには逮捕後、「タブーとされてきたこと」について告白、、、というか激白をする。
これがハイライトとなるわけだが、オオシマ/若松孝二に連なるこうした「反社会的」とされる映画を「ゆとり教育の戦犯」として批判されることも多かった寺脇研がプロデュースをした―その点が愉快で、そうして、なぜか痛快でさえある。
海外では「右傾化にある日本で、こういう映画が、、、」なんて評価をされているらしいが、いいや、左も右も関係ない、映画を創る痛みがひりひりと伝わってきたからこそ、自分はこの映画を評価するのだ。
2位『ザ・マスター』
アル中の青年が新興宗教の教祖に出会い、生きかたを根底から覆される・・・これが要約だが、いや、ちがうちがう、そうじゃない。
たとえ原稿用紙10枚を与えられようとも、この異様な物語を分かり易く解説することは出来ない。
確かなことはふたつ、
PTAことポール・トーマス・アンダーソンは、映画界で最も先端を行く映画作家である。
そして彼は、いつだって数行でのあらすじ解説を拒否する。
では難解なのかといえば、じつはそんなこともない。
明解ではないが、小難しいわけじゃない。
テーマにピンとこなくてもいい、
俳優ふたりの「過剰なる」演技合戦と映像美、気の触れた演出を全身で浴びて、映画表現の最先端を体感しようじゃないか。
3位『風立ちぬ』
零戦の設計者・堀越二郎の半生をモチーフに、夢を叶えようとした青年と薄幸の女の出会いと別れを描く―宮崎駿、最後の作品にして最高傑作。
劇場で7度ほど観たが、そのどれもが満員御礼。
ジブリ・ブランドとしての期待値の高さと、宣伝効果も大きいだろう。
だが『ポニョ』を期待した子ども達は退屈し、『ラピュタ』が好きな大人たちは失望、本作の評価はそれほどでもないようには感じた、、、が、自分は何度観ても落涙をして困った。
物語に感動してではなく、宮崎爺の想いと、映像の美しさにやられたのである。
確かに風は吹いておらず、しかし、しっかりと風を感じられた。
あぁこの映画は生きているんだな―そう思ったら泣けてしょうがなかった。
4位『ジャンゴ』
オスカー脚本賞と助演男優賞(クリストフ・ヴァルツ)を受賞した、われらがQTことタランティーノの最新作。
副題となっている邦題は嫌いなので、敢えて『ジャンゴ』とだけ記しておく。
師弟関係を築く賞金稼ぎふたりと、悪徳領主との戦いを描く西部劇―QTが手がければ、手垢のつき過ぎたジャンル映画もじつに新鮮に映るのはなぜだろう。
ネイティブ・アメリカンではなく黒人を中心に描き、相変わらず差別語だらけ。
にも関わらず不快な思いを抱く観客はひじょうに少ない、、、のは、QTが真の博愛主義者であることを皆が知っているからだろう。
ここまで映画小僧に愛され・慕われる監督は、映画史で「初」だと思う。
5位『わたしはロランス』
女子に憧れ、女子として生きる決意をした男子の、恋人との10年間に及ぶ濃密なドラマ。
極彩色を排したペトロ・アルモドバルといったらいいか、現在24歳のグザヴィエ・ドラン監督は本年最大の「発見」。
この監督の「映像で語る」という技術は、浴びるように映画を観て学んできたというよりも、持って生まれたものという印象が強い。
過去作も次回作も続々と日本公開が決定しており、久し振りに天才が現れたのではないか―というワクワク感は、映画小僧にとって最高の幸福である。
6位『そして父になる』
カンヌ映画祭審査員賞受賞作。
福山くん云々ではなく、業界的に「なんとなく」疎まれていた感のある是枝裕和の映画がヒットしたことがうれしい。
定番とまではいわないが、ドラマの設定としては「ときどき見かける」子どもの取り違え―じつはこの設定、「潜水艦映画にハズレなし」と同様、「子どもの取り違えドラマにハズレなし」といえそうな「新」定説になりつつある。
すでに古い映画だが『トト・ザ・ヒーロー』(91)という大傑作もあり、本年は『もうひとりの息子』という外国映画の佳作もあったのだから。
対照的な家族を配置させ、黒澤の目指した「人間の普遍的な幸福」に迫った作品として、もっともっともっと評価されていい名作だと思う。
7位『10人の泥棒たち』
オーバーではなく、韓国映画の到達点だと思う。
幻のダイヤモンド強奪を成功させるため、集められた10人の泥棒たち―目的はちがってもターゲットは同じだという彼ら彼女らのキャラクターが個性豊かで、はっきりいって『オーシャンズ』シリーズの数倍は面白い。
どんでん返しの連続も無理がなく、「70年代の日本映画みたい」と揶揄された韓国映画が完全に独立したものであることを高らかに宣言した点で、感動的でさえある。
だからいっているじゃないか、嫌韓とかいろいろあるが、いいものは、いいのだ。
8位『東京家族』
瀬戸内海の小さな島で生きる老夫婦が、東京で暮らす子どもたちに会うために上京する・・・小津を目指し、しかし小津とは正反対の、それでいてきっちり現代を描き出した山田洋次「後期の」代表作。
モチーフとなった小津の『東京物語』(53)では、老夫婦は熱海の旅館に泊まったが、本作では横浜のみなとみらいのホテルに泊まる。
ただそれだけの改変に、自分はえらく感心した。
六本木ではなく横浜であることのリアリティ、そして、小津版では存在しない隣家のユキという女性の存在が、この映画の自立性(=オリジナリティ)を際立たせていて見事だった。
9位『愛、アムール』
カンヌ・パルムドール、オスカー外国語映画賞受賞作。
病気を患う老いた妻を、老いた夫が自宅で介護する―意地の悪い映画ばかりを創ってきたミヒャエル・ハネケが「それ」を封印し、「老いと死」に真正面から向き合った、たいへん、たいへん真摯な作品。
劇場を埋めるのは中高年以上。
予想出来たことだが、死と尊厳への深い洞察、エマニュエル・リヴァのチャーミングさは、ぜひ同世代のものに観てほしいと思った。
10位『パッション』
ビジネス上の確執から私生活へ、そして性そのものに―女ふたりの愛憎を流麗なカメラワークで描き、観客は映像の悪夢に溺れる。
デ・パルマがフランスとドイツの資本で映画を創り、見事に復活!
いや訂正、復活ではなく回帰と呼ぶべきだろう。
70~80年代の映画を愛するものは歓喜し、新世代の映画ファンはクラシックの凄みに打たれたはずである。
11位『セックスの向こう側 AV男優という生き方』
陽の当たる存在は、女優のみ―縁の下の力持ちであり続ける、AV男優という職業を追う。
推定1万人とされるAV女優に対し、男優は70人程度しか存在しない。
「ひびやん」こと日比野達郎や「なめだるま」、加藤鷹は有名だが、ほか60人は無名に近い存在であり、しかしユーザーにとっては、無名こそありがたいのだった。
ジャンル分けは意味がないと主張する自分だが、敢えてジャンル分けをして論じれば・・・
ドキュメンタリー映画というジャンルにおいて、本年ベストの出色の出来である。
ヘビーユーザーは薦めなくても観るだろうが、女子に観てほしいなぁと思う。
12位『ゼロ・ダーク・サーティ』
ビン・ラディンの捕獲・殺害計画を練る特殊部隊を、キャスリーン・ビグローが徹底したリアリズムで描く「非」プロパガンダ映画。
政治性は「背景のみ」に限定し、「ジャンル映画」に特化させたところが勝因。
米国嫌いなものが観たとしても、描写の迫真性とアクション大作としての面白さで充分に楽しめる創りなのだ。
150分の濃密な物語を観終えて襲ってくるものは、虚しさ―そう、この映画の白眉は、まさにこの感覚である。
13位『テッド』
人格を持ったぬいぐるみと冴えない中年男の、くだらなくて素敵な友情。
そういえば米国はミス・ピギーやカーミットなど「これ系」の創りが得意なのだった・・・割には、こういうブラックな味付けは「ありそうで、なかった」気がする。
誰かがいっていたが「性欲はあるのに生殖器がない」。
それゆえに、どれだけ下品なことを喋っても「下品にはなり過ぎない」―本作が万人受けした理由は、まさにそこにあるのではないか。
そして本作もまた、あきらかに「タランティーノ以後」と位置づけられる映画である。
14位『舟を編む』
三浦しをんのベストセラー小説を、俊英・石井裕也が持ち前の「軽さ」を巧みに駆使して映像化。
「辞書の編纂」という、見た目は地味だが、じつは気が遠くなるほど壮大な作業に取り組む編集部員たちが個性豊かに描かれていて、飽きずに観ることが出来る。
とことんマジメな松田龍平も、相変わらず無垢な感じの宮崎あおいも魅力的だが、最も得をしているのはオダギリジョーなんじゃないか・・・と思ったのは、自分だけ?
15位『さよなら渓谷』
夫は、強姦の罪を犯した元犯罪者。
妻は、その被害者。
「大きな隠しごと」を抱える夫婦のもとに、記者がたずねてきて・・・。
吉田修一の原作小説を大森立嗣がふたりの役者の力を借りて映像化、観るには体力を要するヘビィな内容だが、苦悩する男女の濃密なドラマは文学の香りさえ漂い、圧巻。
とくに主題歌も担当した真木よう子の演技は絶品で、おそらく沢山の賞レースにかかわってくるだろう。
(16)『甘い鞭』
不妊治療専門医の奈緒子には、高校生のころ男に監禁され暴行を受けた過去があった―壇蜜という最高の「素材」を手に入れたことにより、石井隆の演出が冴えまくっている。
この女優を目当てに劇場に足を運んだ男子は「相当数」居るはずだが、その半数以上は作品そのものを楽しみ、また、石井隆という孤高の映画監督に興味を示したはずである。
壇蜜の影に隠れた形となっているが、ヒロインの少女時代を演じた間宮夕貴にも拍手を送りたい。
(17)『ハッシュパピー バスタブ島の少女』
今年のオスカー最大のサプライズとされたのが、無名の映画監督による「超」インディーズの本作が数部門にノミネートされたこと。
別の視点から捉えた『風の谷のナウシカ』というべきか、
現代文明から切り離された「バスタブ島」で暮らすものたちは、たとえこの地が水没しようとも島を捨てようとしない。
そんな島民たちの「いきざま」を、6歳の少女ハッシュパピーの日常から描いてみせる。
寓話としては「やや」弱いかもしれないが、力強い映像にやられた。
(18)『箱入り息子の恋』
盲目の女子と、さえない男子の恋―21世紀「だというのに」チャップリンの『モダン・タイムス』を再現させたようなドラマだが、これがじつにいいし、きちんと現代も描けている。
演出も悪くない、だが、それよりなにより主演ふたりの魅力が炸裂。
夏帆はもちろん、ミュージシャンとしても頭角を現す星野源が素晴らしい。
(19)『フラッシュバックメモリーズ 3D』
木管楽器ディジュリドゥの奏者、GOMAが記憶障害と闘う姿を追う。
過去と現在の映像を、同じフレーム内で表現するために3Dを駆使する―そう、この映画はドキュメンタリーとしての完成度だけでなく、テクノロジーの新たな方向を示したという点で優れていて、音楽好きだけに愛でられるにはもったいない傑作なのだ。
(20)『リンカーン』
完璧なプロダクション・デザインに映像美、ダニエル様の憑依的演技。
そのどれもが素晴らしいが、
いちばんよい仕事をしたのは、奴隷解放急進派のタデウス・スティーブンス共和党議員を演じたトミー・リー・ジョーンズだと思う。
異を唱えるひとは少ないのではないか。
…………………………………………
本館『「はったり」で、いこうぜ!!』
前ブログのコラムを完全保存『macky’s hole』
…………………………………………
明日のコラムは・・・
『生きている映画たち ~13年度映画総括(後)~』
二夜連続で映画界の出来事を俯瞰してみるが、とりあえず今夜は13年度公開映画のベスト20を発表。
興行成績や訃報、その他のニュースについては明日取り上げることとする。
※12年11月~13年10月に劇場公開した映画から選出した
1位『戦争と一人の女』…トップ画像
戦争が終わるまで、やりまくろう―坂口安吾の小品を映像化した、本年最も輝くインディーズ映画。
自堕落な小説家と、不感症だが「淫奔な」女。
映画版の白眉は、このふたりに「片腕の帰還兵」というキャラクターをぶつけたところ。
小説には出てこないこの男が片腕にも関わらず女を強姦し、さらには逮捕後、「タブーとされてきたこと」について告白、、、というか激白をする。
これがハイライトとなるわけだが、オオシマ/若松孝二に連なるこうした「反社会的」とされる映画を「ゆとり教育の戦犯」として批判されることも多かった寺脇研がプロデュースをした―その点が愉快で、そうして、なぜか痛快でさえある。
海外では「右傾化にある日本で、こういう映画が、、、」なんて評価をされているらしいが、いいや、左も右も関係ない、映画を創る痛みがひりひりと伝わってきたからこそ、自分はこの映画を評価するのだ。
2位『ザ・マスター』
アル中の青年が新興宗教の教祖に出会い、生きかたを根底から覆される・・・これが要約だが、いや、ちがうちがう、そうじゃない。
たとえ原稿用紙10枚を与えられようとも、この異様な物語を分かり易く解説することは出来ない。
確かなことはふたつ、
PTAことポール・トーマス・アンダーソンは、映画界で最も先端を行く映画作家である。
そして彼は、いつだって数行でのあらすじ解説を拒否する。
では難解なのかといえば、じつはそんなこともない。
明解ではないが、小難しいわけじゃない。
テーマにピンとこなくてもいい、
俳優ふたりの「過剰なる」演技合戦と映像美、気の触れた演出を全身で浴びて、映画表現の最先端を体感しようじゃないか。
3位『風立ちぬ』
零戦の設計者・堀越二郎の半生をモチーフに、夢を叶えようとした青年と薄幸の女の出会いと別れを描く―宮崎駿、最後の作品にして最高傑作。
劇場で7度ほど観たが、そのどれもが満員御礼。
ジブリ・ブランドとしての期待値の高さと、宣伝効果も大きいだろう。
だが『ポニョ』を期待した子ども達は退屈し、『ラピュタ』が好きな大人たちは失望、本作の評価はそれほどでもないようには感じた、、、が、自分は何度観ても落涙をして困った。
物語に感動してではなく、宮崎爺の想いと、映像の美しさにやられたのである。
確かに風は吹いておらず、しかし、しっかりと風を感じられた。
あぁこの映画は生きているんだな―そう思ったら泣けてしょうがなかった。
4位『ジャンゴ』
オスカー脚本賞と助演男優賞(クリストフ・ヴァルツ)を受賞した、われらがQTことタランティーノの最新作。
副題となっている邦題は嫌いなので、敢えて『ジャンゴ』とだけ記しておく。
師弟関係を築く賞金稼ぎふたりと、悪徳領主との戦いを描く西部劇―QTが手がければ、手垢のつき過ぎたジャンル映画もじつに新鮮に映るのはなぜだろう。
ネイティブ・アメリカンではなく黒人を中心に描き、相変わらず差別語だらけ。
にも関わらず不快な思いを抱く観客はひじょうに少ない、、、のは、QTが真の博愛主義者であることを皆が知っているからだろう。
ここまで映画小僧に愛され・慕われる監督は、映画史で「初」だと思う。
5位『わたしはロランス』
女子に憧れ、女子として生きる決意をした男子の、恋人との10年間に及ぶ濃密なドラマ。
極彩色を排したペトロ・アルモドバルといったらいいか、現在24歳のグザヴィエ・ドラン監督は本年最大の「発見」。
この監督の「映像で語る」という技術は、浴びるように映画を観て学んできたというよりも、持って生まれたものという印象が強い。
過去作も次回作も続々と日本公開が決定しており、久し振りに天才が現れたのではないか―というワクワク感は、映画小僧にとって最高の幸福である。
6位『そして父になる』
カンヌ映画祭審査員賞受賞作。
福山くん云々ではなく、業界的に「なんとなく」疎まれていた感のある是枝裕和の映画がヒットしたことがうれしい。
定番とまではいわないが、ドラマの設定としては「ときどき見かける」子どもの取り違え―じつはこの設定、「潜水艦映画にハズレなし」と同様、「子どもの取り違えドラマにハズレなし」といえそうな「新」定説になりつつある。
すでに古い映画だが『トト・ザ・ヒーロー』(91)という大傑作もあり、本年は『もうひとりの息子』という外国映画の佳作もあったのだから。
対照的な家族を配置させ、黒澤の目指した「人間の普遍的な幸福」に迫った作品として、もっともっともっと評価されていい名作だと思う。
7位『10人の泥棒たち』
オーバーではなく、韓国映画の到達点だと思う。
幻のダイヤモンド強奪を成功させるため、集められた10人の泥棒たち―目的はちがってもターゲットは同じだという彼ら彼女らのキャラクターが個性豊かで、はっきりいって『オーシャンズ』シリーズの数倍は面白い。
どんでん返しの連続も無理がなく、「70年代の日本映画みたい」と揶揄された韓国映画が完全に独立したものであることを高らかに宣言した点で、感動的でさえある。
だからいっているじゃないか、嫌韓とかいろいろあるが、いいものは、いいのだ。
8位『東京家族』
瀬戸内海の小さな島で生きる老夫婦が、東京で暮らす子どもたちに会うために上京する・・・小津を目指し、しかし小津とは正反対の、それでいてきっちり現代を描き出した山田洋次「後期の」代表作。
モチーフとなった小津の『東京物語』(53)では、老夫婦は熱海の旅館に泊まったが、本作では横浜のみなとみらいのホテルに泊まる。
ただそれだけの改変に、自分はえらく感心した。
六本木ではなく横浜であることのリアリティ、そして、小津版では存在しない隣家のユキという女性の存在が、この映画の自立性(=オリジナリティ)を際立たせていて見事だった。
9位『愛、アムール』
カンヌ・パルムドール、オスカー外国語映画賞受賞作。
病気を患う老いた妻を、老いた夫が自宅で介護する―意地の悪い映画ばかりを創ってきたミヒャエル・ハネケが「それ」を封印し、「老いと死」に真正面から向き合った、たいへん、たいへん真摯な作品。
劇場を埋めるのは中高年以上。
予想出来たことだが、死と尊厳への深い洞察、エマニュエル・リヴァのチャーミングさは、ぜひ同世代のものに観てほしいと思った。
10位『パッション』
ビジネス上の確執から私生活へ、そして性そのものに―女ふたりの愛憎を流麗なカメラワークで描き、観客は映像の悪夢に溺れる。
デ・パルマがフランスとドイツの資本で映画を創り、見事に復活!
いや訂正、復活ではなく回帰と呼ぶべきだろう。
70~80年代の映画を愛するものは歓喜し、新世代の映画ファンはクラシックの凄みに打たれたはずである。
11位『セックスの向こう側 AV男優という生き方』
陽の当たる存在は、女優のみ―縁の下の力持ちであり続ける、AV男優という職業を追う。
推定1万人とされるAV女優に対し、男優は70人程度しか存在しない。
「ひびやん」こと日比野達郎や「なめだるま」、加藤鷹は有名だが、ほか60人は無名に近い存在であり、しかしユーザーにとっては、無名こそありがたいのだった。
ジャンル分けは意味がないと主張する自分だが、敢えてジャンル分けをして論じれば・・・
ドキュメンタリー映画というジャンルにおいて、本年ベストの出色の出来である。
ヘビーユーザーは薦めなくても観るだろうが、女子に観てほしいなぁと思う。
12位『ゼロ・ダーク・サーティ』
ビン・ラディンの捕獲・殺害計画を練る特殊部隊を、キャスリーン・ビグローが徹底したリアリズムで描く「非」プロパガンダ映画。
政治性は「背景のみ」に限定し、「ジャンル映画」に特化させたところが勝因。
米国嫌いなものが観たとしても、描写の迫真性とアクション大作としての面白さで充分に楽しめる創りなのだ。
150分の濃密な物語を観終えて襲ってくるものは、虚しさ―そう、この映画の白眉は、まさにこの感覚である。
13位『テッド』
人格を持ったぬいぐるみと冴えない中年男の、くだらなくて素敵な友情。
そういえば米国はミス・ピギーやカーミットなど「これ系」の創りが得意なのだった・・・割には、こういうブラックな味付けは「ありそうで、なかった」気がする。
誰かがいっていたが「性欲はあるのに生殖器がない」。
それゆえに、どれだけ下品なことを喋っても「下品にはなり過ぎない」―本作が万人受けした理由は、まさにそこにあるのではないか。
そして本作もまた、あきらかに「タランティーノ以後」と位置づけられる映画である。
14位『舟を編む』
三浦しをんのベストセラー小説を、俊英・石井裕也が持ち前の「軽さ」を巧みに駆使して映像化。
「辞書の編纂」という、見た目は地味だが、じつは気が遠くなるほど壮大な作業に取り組む編集部員たちが個性豊かに描かれていて、飽きずに観ることが出来る。
とことんマジメな松田龍平も、相変わらず無垢な感じの宮崎あおいも魅力的だが、最も得をしているのはオダギリジョーなんじゃないか・・・と思ったのは、自分だけ?
15位『さよなら渓谷』
夫は、強姦の罪を犯した元犯罪者。
妻は、その被害者。
「大きな隠しごと」を抱える夫婦のもとに、記者がたずねてきて・・・。
吉田修一の原作小説を大森立嗣がふたりの役者の力を借りて映像化、観るには体力を要するヘビィな内容だが、苦悩する男女の濃密なドラマは文学の香りさえ漂い、圧巻。
とくに主題歌も担当した真木よう子の演技は絶品で、おそらく沢山の賞レースにかかわってくるだろう。
(16)『甘い鞭』
不妊治療専門医の奈緒子には、高校生のころ男に監禁され暴行を受けた過去があった―壇蜜という最高の「素材」を手に入れたことにより、石井隆の演出が冴えまくっている。
この女優を目当てに劇場に足を運んだ男子は「相当数」居るはずだが、その半数以上は作品そのものを楽しみ、また、石井隆という孤高の映画監督に興味を示したはずである。
壇蜜の影に隠れた形となっているが、ヒロインの少女時代を演じた間宮夕貴にも拍手を送りたい。
(17)『ハッシュパピー バスタブ島の少女』
今年のオスカー最大のサプライズとされたのが、無名の映画監督による「超」インディーズの本作が数部門にノミネートされたこと。
別の視点から捉えた『風の谷のナウシカ』というべきか、
現代文明から切り離された「バスタブ島」で暮らすものたちは、たとえこの地が水没しようとも島を捨てようとしない。
そんな島民たちの「いきざま」を、6歳の少女ハッシュパピーの日常から描いてみせる。
寓話としては「やや」弱いかもしれないが、力強い映像にやられた。
(18)『箱入り息子の恋』
盲目の女子と、さえない男子の恋―21世紀「だというのに」チャップリンの『モダン・タイムス』を再現させたようなドラマだが、これがじつにいいし、きちんと現代も描けている。
演出も悪くない、だが、それよりなにより主演ふたりの魅力が炸裂。
夏帆はもちろん、ミュージシャンとしても頭角を現す星野源が素晴らしい。
(19)『フラッシュバックメモリーズ 3D』
木管楽器ディジュリドゥの奏者、GOMAが記憶障害と闘う姿を追う。
過去と現在の映像を、同じフレーム内で表現するために3Dを駆使する―そう、この映画はドキュメンタリーとしての完成度だけでなく、テクノロジーの新たな方向を示したという点で優れていて、音楽好きだけに愛でられるにはもったいない傑作なのだ。
(20)『リンカーン』
完璧なプロダクション・デザインに映像美、ダニエル様の憑依的演技。
そのどれもが素晴らしいが、
いちばんよい仕事をしたのは、奴隷解放急進派のタデウス・スティーブンス共和党議員を演じたトミー・リー・ジョーンズだと思う。
異を唱えるひとは少ないのではないか。
…………………………………………
本館『「はったり」で、いこうぜ!!』
前ブログのコラムを完全保存『macky’s hole』
…………………………………………
明日のコラムは・・・
『生きている映画たち ~13年度映画総括(後)~』