どこでもチャリで向かうものだから、その度に「ここまで自転車で?」「きょうも自転車で?」「こんな日まで自転車で?」と驚かれることが多い。
そのつど、ヘラヘラ顔で「そうですが、なにか?」と返す自分。
最近、分かった。そうか自分、そういわれることが快楽につながっているのだなぁ、、、と。
そんなチャリダーの大敵は、やはり雪。
台風も豪雨もへっちゃらだと思うが、雪だけは敵わん。
今冬も2~3度は東京にだって雪が降ることだろう、降った日だけでなく、路面の氷が解け切る数日間は難儀なわけで、そういうときは敗北宣言をして脚か電車を使っていろいろ動くこととなる。
自身の身体も大事だが、転倒により愛車が傷つくことを恐れてのことだ。
だから雪の日にチャリで苦労した、、、みたいなエピソードはほとんどない。
あったとすれば、18~20歳のころに限定される。
新聞奨学生として、自転車で新聞配達していたからである。
紙は意外と重い。
新聞紙は良質な紙とはいえないが、それだって1部30ページ前後、1枚で4ページの内訳だから約7~8枚の紙を使っているわけで、それを荷台に数百部積むと「それなりに」どころか「かなり」重くなる。
それを支える自転車は頑丈に出来ている、つまり車体そのものが既に重い。ふだん自分が乗っている「スピード重視のため、不必要と思われるものすべてを削ぎ落とした」タイプのチャリとは正反対のものだから、慣れるまでは晴天の日だって真っ直ぐ運転するのは難儀だったりする。
そこに雪爆弾が投下されたら、拷問ですよと。
その結果、2時間で配達出来るところを3時間、あるいは3時間30分くらいを要した。
あれは、学校卒業をひかえた20歳、2月の出来事だったか。
雪の配達はつらいなぁ、きょうだけ給料も倍にしてくれないか・・・などとヒトリゴトを呟きながらも、いうほどしんどくなかったのは「あと数週間で卒業、この仕事も最終コースだ!」なんて思っていたところがあったのだろう、だから遅配を(本気で)焦ることもなく、なんとなく「のほほん」と配達をしていた。
高層マンションの入り口で、毎日新聞の奨学生の女子を見かけた。(自分は朝日)
彼女は自分の存在に気づいていなかったのだから、「会った」ではなく「見かけた」という表現が適切だと思う。
ほぼ毎日、このへんで顔を合わせる同年の女子である。
4年生の大学に通っているから、自分が卒業してもあと2年は奨学生をつづける。
だからであろうか、自分が「のほほん」として雪の配達でさえ楽しんでいるのに、彼女はとってもしんどそうだった。
いつもはそんなことはない。
元気だし、小さい身体でちょこまか動くさまを見ていると、けなげだなぁと感動さえ覚える。
だけれどこの日は、億劫で憂鬱で、もうヤダこんな仕事、、、と思いつめているようにも見えた。
だから彼女の姿を認めても、声をかけることが出来なかった。
・・・のだが、彼女のほうが自分の存在に気づいた。
「あっ」
「おはよう」
「…おはよう」
「きつそうだね」
「…」
「手伝うよ」
「えっ、いいよ、そんな」
「ううん、どうせいまからここ配るんだし、部屋番号教えてよ。ここだけでも配っていくよ」
「…」
なかば強引に彼女のカブのカゴから毎日新聞とスポニチをもらい、部屋番号を聞き出し、さっさとエレベーターに乗り込む。
いまだったらもう少し優しいことばもかけられるが、まだガキだったものでねぇ、行動で示すことが不器用男子の精一杯の心配り(の、つもり)だった。
5分後―1階に戻ると、すでに彼女の姿はなかった。
外に出ると、少し離れたところでカブを必死に押す彼女が居た。
声をかけるのはやめておこうと思い、その場で煙草に火をつけた。
頼りなげな、彼女の後ろ姿を眺めながら。
1ヵ月後―。
卒業式の帰りに、夕刊配達中の彼女のカブが止まっているのを見た。
配達を手伝った、あの高層マンション入り口である。
お別れのことばをいいたかったので、彼女が降りてくるのを待った。
そのときの会話で、彼女が自分を好いていてくれたことを知ることになる。
「―あと2年かぁ、頑張ってね」
「あのとき、」
「ん?」
「雪の日、」
「あぁ、なんか勝手に配った感じになっちゃったね、ごめん」
「ううん、ありがとうもいえなくって、ごめんなさい」
「なんかちょっと、可哀想になっちゃってさ」
「恥ずかしかったの」
「なにが?」
「あんな感じのとこ、見られちゃって」
「あんな感じ?」
「ちょっと沈んでたから」
「…そういうときも、あるだろうよ」
「いちばん見られたくないところを、いちばん見られたくないひとに見られちゃった感じ、、、」
「………」
どう考えても告白だったのにね、その数ヶ月前から同僚らに「あの子、まっき~にだけいろいろ話しかけるし、まっき~を見る目だけちがうよ、好きなんじゃ?」なんて囃し立てられていたのだけれども、当時は購読客の女子大生に夢中でね、
追っかけることには慣れているのに、逆の立場になることは「ほぼ」なかったものだから、気づかなかったのだよね。
雪が降ると、そんなことを想い出してちょっぴりセンチになる自分なのでした。
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本館『「はったり」で、いこうぜ!!』
前ブログのコラムを完全保存『macky’s hole』
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明日のコラムは・・・
『手をつなぎたい』
そのつど、ヘラヘラ顔で「そうですが、なにか?」と返す自分。
最近、分かった。そうか自分、そういわれることが快楽につながっているのだなぁ、、、と。
そんなチャリダーの大敵は、やはり雪。
台風も豪雨もへっちゃらだと思うが、雪だけは敵わん。
今冬も2~3度は東京にだって雪が降ることだろう、降った日だけでなく、路面の氷が解け切る数日間は難儀なわけで、そういうときは敗北宣言をして脚か電車を使っていろいろ動くこととなる。
自身の身体も大事だが、転倒により愛車が傷つくことを恐れてのことだ。
だから雪の日にチャリで苦労した、、、みたいなエピソードはほとんどない。
あったとすれば、18~20歳のころに限定される。
新聞奨学生として、自転車で新聞配達していたからである。
紙は意外と重い。
新聞紙は良質な紙とはいえないが、それだって1部30ページ前後、1枚で4ページの内訳だから約7~8枚の紙を使っているわけで、それを荷台に数百部積むと「それなりに」どころか「かなり」重くなる。
それを支える自転車は頑丈に出来ている、つまり車体そのものが既に重い。ふだん自分が乗っている「スピード重視のため、不必要と思われるものすべてを削ぎ落とした」タイプのチャリとは正反対のものだから、慣れるまでは晴天の日だって真っ直ぐ運転するのは難儀だったりする。
そこに雪爆弾が投下されたら、拷問ですよと。
その結果、2時間で配達出来るところを3時間、あるいは3時間30分くらいを要した。
あれは、学校卒業をひかえた20歳、2月の出来事だったか。
雪の配達はつらいなぁ、きょうだけ給料も倍にしてくれないか・・・などとヒトリゴトを呟きながらも、いうほどしんどくなかったのは「あと数週間で卒業、この仕事も最終コースだ!」なんて思っていたところがあったのだろう、だから遅配を(本気で)焦ることもなく、なんとなく「のほほん」と配達をしていた。
高層マンションの入り口で、毎日新聞の奨学生の女子を見かけた。(自分は朝日)
彼女は自分の存在に気づいていなかったのだから、「会った」ではなく「見かけた」という表現が適切だと思う。
ほぼ毎日、このへんで顔を合わせる同年の女子である。
4年生の大学に通っているから、自分が卒業してもあと2年は奨学生をつづける。
だからであろうか、自分が「のほほん」として雪の配達でさえ楽しんでいるのに、彼女はとってもしんどそうだった。
いつもはそんなことはない。
元気だし、小さい身体でちょこまか動くさまを見ていると、けなげだなぁと感動さえ覚える。
だけれどこの日は、億劫で憂鬱で、もうヤダこんな仕事、、、と思いつめているようにも見えた。
だから彼女の姿を認めても、声をかけることが出来なかった。
・・・のだが、彼女のほうが自分の存在に気づいた。
「あっ」
「おはよう」
「…おはよう」
「きつそうだね」
「…」
「手伝うよ」
「えっ、いいよ、そんな」
「ううん、どうせいまからここ配るんだし、部屋番号教えてよ。ここだけでも配っていくよ」
「…」
なかば強引に彼女のカブのカゴから毎日新聞とスポニチをもらい、部屋番号を聞き出し、さっさとエレベーターに乗り込む。
いまだったらもう少し優しいことばもかけられるが、まだガキだったものでねぇ、行動で示すことが不器用男子の精一杯の心配り(の、つもり)だった。
5分後―1階に戻ると、すでに彼女の姿はなかった。
外に出ると、少し離れたところでカブを必死に押す彼女が居た。
声をかけるのはやめておこうと思い、その場で煙草に火をつけた。
頼りなげな、彼女の後ろ姿を眺めながら。
1ヵ月後―。
卒業式の帰りに、夕刊配達中の彼女のカブが止まっているのを見た。
配達を手伝った、あの高層マンション入り口である。
お別れのことばをいいたかったので、彼女が降りてくるのを待った。
そのときの会話で、彼女が自分を好いていてくれたことを知ることになる。
「―あと2年かぁ、頑張ってね」
「あのとき、」
「ん?」
「雪の日、」
「あぁ、なんか勝手に配った感じになっちゃったね、ごめん」
「ううん、ありがとうもいえなくって、ごめんなさい」
「なんかちょっと、可哀想になっちゃってさ」
「恥ずかしかったの」
「なにが?」
「あんな感じのとこ、見られちゃって」
「あんな感じ?」
「ちょっと沈んでたから」
「…そういうときも、あるだろうよ」
「いちばん見られたくないところを、いちばん見られたくないひとに見られちゃった感じ、、、」
「………」
どう考えても告白だったのにね、その数ヶ月前から同僚らに「あの子、まっき~にだけいろいろ話しかけるし、まっき~を見る目だけちがうよ、好きなんじゃ?」なんて囃し立てられていたのだけれども、当時は購読客の女子大生に夢中でね、
追っかけることには慣れているのに、逆の立場になることは「ほぼ」なかったものだから、気づかなかったのだよね。
雪が降ると、そんなことを想い出してちょっぴりセンチになる自分なのでした。
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