Cape Fear、in JAPAN

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『Cape Fear』…恐怖の岬、の意。

映画の力って、すげーんだぜ(前)

2016-12-02 00:10:00 | コラム
【2016総括シリーズ その拾】

本年の総括、最後はやっぱり「映画の20傑」。

きょうは11位~20位、あすは1位~10位、最終日は項目ごとに論じてみる。

では、長文なので早速いってみよう。


第11位『ちはやふる ―上の句―』

「競技かるた」に青春を賭ける高校生たちを描いた末次由紀の人気漫画を、前後半に分けて映画化。

正直いって「下の句」は勢いを持続出来なかったが、「上の句」だけでも観る価値「大あり。」の佳作に仕上がっている。

俳優陣は、みな好演。
ただ成功の鍵は、競技の描写そのものにあったのだと思う。

身体全体を使ってかるたを取りにいくさまは立派な活劇足り得ていて、観ていてワクワクさせるものがある。
やり過ぎと物足りなさのぎりぎりをいくセンスで「CGの味つけ」がなされており、このあたり、成功した『ピンポン』を参考にしたのではないか。

『幕が上がる』でも感じたことだが、若い世代以上におじさん世代が熱狂しちゃったりして、映画には若返りの効果もあるのかな、、、などと思ったりもした。

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第12位『ルーム』・・・トップ画像

オスカー主演女優賞、受賞作。

行方不明のままだった埼玉の女の子が監禁部屋から脱走した―そんな事件の直後に公開予定だったため、延期になるかと冷や冷やしたが、公開されてホッとした。
しかし、ひじょうによく出来た映画にも関わらず小規模の公開だったのが悔やまれる。

こういう物語こそ文科省推奨にすべきだろう。

男に監禁され、妊娠・出産までさせられたヒロインは、自身のためではなく「わが息子」のために、この「部屋」からの脱出を試みる。

だがヒロインとはちがい、息子は「部屋以外の世界」を知らず、そして、この世界のことが嫌いではなかった。
井の中の蛙のようだが、ここで生じる差異がひじょうに面白い。

だからこそ息子は、「さようなら」をいうために、もういちど「あの部屋」を訪ねるのだ。

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第13位『裸足の季節』

封建的な風習の残るトルコの田舎町、5人姉妹が巻き起こす騒動と「革命」を描いた、哀しくも力強い青春映画。



「パッと見」はソフィア・コッポラの『ヴァージン・スーサイズ』を想起させるが、その過酷さは比べようがない、、、ほどに、5人姉妹は抑圧されて生きる。

なにしろ男子たちと騎馬戦で遊んでいただけで祖母から叱責を受け、軟禁され、花嫁修業を強いられるのだから。

望まぬ見合いをさせられ、姉たちの結婚が次々に決まっていくさまを見た末っ子のラーレが取った行動とは―。

ラーレに未来を託す新人監督、デニズ・ガムゼ・エルギュヴェンの繊細な演出力に感服した。

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第14位『FAKE』

ワイドショー以上に、佐村河内守を面白く捉えることが出来るひとが「居るとすれば」、

それは、原一男か森達也のふたりだけだろう・・・と本気で思っていたので、森監督がメガホンを持った時点で「絶対に観る」と決めていた傑作ドキュメンタリー。




社会から排除されたものの孤独、それでも付き添う健気な妻、無邪気な猫。

映画は誰も断罪しようとせず、だからといって佐村河内氏を擁護することもしない、
ラスト数十分は、一瞬たりとも目が離せず、こういう視点が貫けるのであれば、森監督に小保方ちゃんのドキュメンタリーを撮ってほしい―そんなことを思いつつ、世の残酷さに身震いしながら劇場をあとにした。

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第15位『リップヴァンウィンクルの花嫁』

SNSで知り合った男と結婚することになった七海。
式に呼べる友人が少ないため、「なんでも屋」の安室に相談するが・・・。

岩井俊二、久し振りの長編実写映画。

変わらぬところと変わったところの配分? が絶妙で、映画ファンであればあるほど楽しめる創りになっている。

変わらぬところとは、瑞々しい映像美と、よいか悪いか分からぬ? ネーミングセンスあたりだろう。
リップヴァンウィンクルは、有名な小説の主人公の名前。
SNS上に登場する「ランバラル」「アムロユキマス」は、もろに『ガンダム』、、、という具合に。

変わったところは、あらたなミューズ「黒木華」を発見したこと。

リアリティがありそうで、「その実、あんまりない」本作において、彼女のリアルな存在感こそ、この映画の核になっているのである。

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第16位『聲の形』

『君の名は。』旋風の陰に「完全に」隠れてしまった作品だが、自分は断然こっちを支持する。




聴覚障害のために、いじめを受けるようになる硝子。
いじめの中心人物だったことから、孤立していく将也。

ふたりの数年間を捉える、京都アニメーションの精鋭たちによる技術が出色。

「もう少し上映時間を短くすれば―」という声も聞かれたが、原作の落としどころを敢えて改変した試みは成功、

宇野常寛は「何もない日常の幸福こそがアニメという完全な虚構でしか描けないものである、という逆説である」とややこしく批評しているが、たしかにそうで、原作からの自立をきちんと果たしている創り手たちの覚悟に賛辞を贈りたい。

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第17位『淵に立つ』

平凡な家族と、謎の男と―。

バランスが崩れることによって、物語は動き出す・・・表現の基本というものをあらためて思い出させてくれる、緊張感たっぷりの日本産インディーズ。

これほど不気味な浅野忠信、久し振りに見た気がする。
オルガンを弾くだけなのに、なぜこんなにも異様な感じがするのだろう。

これだけで一見の価値ありの、カンヌ映画祭「ある視点」部門・審査員賞受賞作。

浅野が巧くて不気味なのは、ある意味で当然。
映画ファンが驚くのは、むしろ妻役の筒井真理子のほうで、ほとんど注目していなかった女優ゆえ、この映画の大きな収穫となっている。

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第18位『レヴェナント:蘇えりし者』

♪ ある日、森のなか、クマさんに出会った ♪



あらすじそのものは驚くほどシンプル、ただ、その森のなかが極限状態だったことで、映画は豊かになった。

喚いてばかりのレオくん、オスカーおめでとう。
皮肉ではない、これでアアダコウダいわれずに、好きな演技が出来るようになるだろう。

それでもこの映画の真の主役は、映像表現にある・・・のは、誰もが認めるところか。

G・イニャリトゥ監督の無茶な要求に真摯に向き合ったエマニュエル・ルベツキの撮影は、「以前/以後」で論じられるであろうレベルに達していて、映画が進化していく過程をリアルタイムで実感/体感出来るということは、映画小僧にとっての最高の幸福である。

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第19位『LOVE【3D】』

現役の映画監督で、最も先鋭的なギャスパー・ノエによる実験的なセックス映画。

そうポルノ映画ではないのだ、セックスを哲学するでもない、セックスを体感する映画。

「私の初期の映画と異なり、この作品だけは、センチメンタルな暴力とエクスタシーへの愛以外のなにものでもない」

その点において、クオリティが高いと世界が認める日本のアダルトビデオと似て非なるもの。

とはいえ、過激な描写ばかりが言及され、こういう作風を認めない向きからは、「日本のAVのほうが、先をいっている」とチクリとやられた。

その批評はある面では正しく、ある面では正しくない。

いえるのは、この監督の映画はいつも、観客を選んでいるということ。

映画をネクストレベルへ引き上げようと孤軍奮闘するさまを想像してしまい、涙した自分のようなキチガイは、少なくともこの映画を支持するだろう。

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第20位『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』

監督J・J・エイブラムスに課せられたのは、
生みの親ゆえ、なにをしても許されたジョージ・ルーカスによる中期3部作の「異様な実験性」を排除し、このシリーズを「みんなのスター・ウォーズ」に戻すことにあった。

新味がないのは、それゆえだろう。
だからこそ物足りないともいえるし、いっぽうで「安堵した」という声も多かった。

完結編への序章としては充分に及第点、ワクワクを残したエンディングも素晴らしく、エピソード8への期待値はグンと上がった。


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明日のコラムは・・・

『映画の力って、すげーんだぜ(中)』
コメント (1)
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