Cape Fear、in JAPAN

ひとの襟首つかんで「読め!」という、映画偏愛家のサイト。

『Cape Fear』…恐怖の岬、の意。

映画の力って、すげーんだぜ(中)

2016-12-03 00:10:00 | コラム
【2016総括シリーズ その拾】

本年度の映画の総括、第二夜。
きょうは、1位から10位までの発表。

ではいくぜ!!


第01位『ディストラクション・ベイビーズ』・・・トップ画像

現代日本の『時計じかけのオレンジ』を目指したであろうこの映画は、ブーイング覚悟でいえば、個人的には『オレンジ』を超える領域に達した怪作だと評価出来る。
(傑作ぞろいのキューブリック映画において、『オレンジ』は、それほど好みではない…というのもあるが)

目に狂気を湛える柳楽優弥だが、マルコム・マクドゥエルほど過剰さがなく、その素っ気ない凶暴性が現代をきっちり捉えている。

「楽しければ、いいけ」

愛媛は松山市―。
ゲーム感覚で殴り合いをつづける主人公と、それに憧れる少年と、そこに巻き込まれていくおんなと。

問題提起しているわけじゃない、かといって過激さを露悪的に表現しているわけでもない、
なんとなく「あり得る」と思えるぎりぎりの線で物語は進み、奇妙なユーモアまで交え、そんな馬鹿々々しい若者たちを向井秀徳が歌う『約束』が「突き放し」ながらも包み込む。

映画と音楽が理想的な結婚を果たしている―その瞬間、これがベストワンだなと確信出来た。

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第02位『シン・ゴジラ』

10回も、劇場に―本年、最も多く鑑賞した映画となった。

実際のところ、それでも飽きないし、さらに10回観ろといわれても、苦痛を感じることなく、いやむしろ快楽を持続させたまま鑑賞することが可能だと思う。
それに耐え得る情報量と面白さであることは、予想をはるかに超える興行記録が証明しているだろう。

興行記録で上位に食い込む作品を、映画小僧が10傑に選出するなんて!! と、へそ曲がりは驚いてしまうのだが、これこそ健全な「創り手と受け手の関係性」なのだった。

異端児アンノが手がけた「新生ゴジラ」は怪獣映画の形を「ぎりぎりで」保てて「は」いる。
けれども自身の過去作まで持ち出すアナーキーな構成で、これまでの『ゴジラ』シリーズとの比較など意味をなさない。

67年版『007 カジノロワイヤル』みたいなポジションにあり、アンノ自身が「同じ手法で」続編を撮ったとしても、同じように「大歓迎」されるとは思わない。

決着のつかない、決着。
ネタバレしないように書くが、アンノはそんな結末を用意した。

この先ずっと、我々はゴジラと付き合っていかなければならない―それは物語としてもそうだし、「創り手」としてもそうなんだ、、、ということだろう。

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第03位『キャロル』

色彩の美、それを捉える16mmフィルムの粗い粒子。
視線と視線が交錯し、それが繰り返され、絵創りとしては静かなはずなのに胸が高鳴るサスペンスが生まれていく。

『太陽がいっぱい』で知られるパトリシア・ハイスミスがクレア・モーガン名義で著した禁断の小説を、異能のひとトッド・ヘインズが映画化、
LGBTを扱った「今風」の作品に見せかけてそうじゃない、映画が映画であるために、すべてのパートが細心の注意をはらって最高の仕事を成し遂げた映画芸術の極みがここにある。

52年、クリスマスのニューヨーク―。
デパートのおもちゃ売り場で働くテレーズは、娘のプレゼントを買いにきたキャロルにこころ奪われていく・・・。



主役はテレーズでもありキャロルでもあるのだろうが、最も印象に残るのは、やっぱり映像。
鮮明な映像が当たり前になったデジタル時代にあって、質感や肌触りのようなものを大事にして撮られたであろうショットのひとつひとつに魂がこめられており、出来ることなら1日中、座席に座っていたいな、、、と思ったのである。

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第04位『アイアムアヒーロー』

「誇張ではなく」ゾンビ映画史に残るであろうゾンビ映画が日本産であることを、こころからうれしく思う。
ジョージ・A・ロメロ御大でさえ、「え、これ日本から?」と驚いているにちがいない。




日々に夢も希望も見出せぬ、漫画家アシスタントの英雄。
その日、唐突に「異形のもの=ZQN(ゾキュン)」に変貌してしまった恋人に襲われ、無我夢中で逃げると、街中がZQNだらけになっているという非日常を目の当たりにする・・・。

平凡さを巧みに演じられる非凡な俳優、大泉洋が好演。
人生を諦めている英雄が、文字通り英雄(ヒーロー)になっていく、なろうとするさまは感動的でさえある。

とはいえ、ほんとうの主役はZQNたち。
彼ら彼女らのキャラクター造形に制作陣たちの本気度がうかがえ、自主規制なんか知らねぇ! 徹底的に気持ちが悪いものを創ってやる!! という情熱がスクリーンからほとばしってきて素敵だ。

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第05位『怒り』

吉田修一の才能に惚れ込んだ監督、李相日が『悪人』につづいて吉田文学に挑戦した意欲作。
一般的な評価は『悪人』のほうが上かもしれないが、映画としての完成度の高さは「断然」新作が勝っていると思う。

八王子で発生した凄惨な殺人事件から1年―。
犯人は未だ捕まらず、整形し逃亡生活を送っていると見られていた。
そんなとき、千葉・東京・沖縄に素性の知れない男が現れる・・・。

主要キャストはみな熱演、とくに広瀬すずは本作を境に大きく飛躍しそうな気がするが、
感情をむき出しにする登場人物「ばかり」なのは、日本映画では珍しいと思う。

物語はまったくちがうが、自分は『マグノリア』を想起した。

単に浮かんだだけだったのだが、そうだ、李相日監督はあれをやりたかったんだな・・・と、合点がいったのである。

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第06位『オマールの壁』

占領下にあるパレスチナに暮らす、パン職人のオマール。
「分離壁」によって恋人ナディアや友人たちと気軽に会うことも出来ぬ彼は、死の恐怖に怯えながらも「壁」を越え、ナディアたちに会いにいく。

オマールは友人たちとイスラエル兵の狙撃計画を練るが・・・。

日本人には理解し難いイスラエル/パレスチナ問題も、青春映画に置き換えるとスッと入ってくるもので。

分離壁は、高さが8mもある。
物語の前半は、そんな高い壁も軽々と乗り越えていったオマール。
しかし後半、さまざまなことが起こり、友情に亀裂が入り始めると、実際の高さ以上に脅威と映るようになって「向こう側」を覗くことすら出来なくなっていく・・・。

青春の痛ましさを描いた映画として、現代の『灰とダイヤモンド』と評したい。

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第07位『スポットライト 世紀のスクープ』

カトリック教会による「児童の性的虐待」を告発する調査報道チームを描く、オスカー作品賞受賞作。




この時代にあって良心を、正義を信じようとする制作姿勢は『十二人の怒れる男』や『大統領の陰謀』につながると思うが、なにより感動的なのは、「チーム内に恋愛ドラマの要素を入れよう。そうしなければ、映画としてもたない」というスタジオの要求を突っぱね、地道な調査に焦点を絞ったところ。

この地味さこそ記者のリアルだろう。
どれだけスケールの大きいスクープでも、調べていく過程に活劇はない。
けれども緊張感は持続される。

辿り着いた真実は醜く、後世に伝えるべきでない・・・とも思えるが、チームの信念の強さに震え、映画を観た! という感慨にも浸れるのである。

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第08位『永い言い訳』

バス事故によって妻が急死するも、そのことに対し悲しみを抱くことが出来ない作家の津村。
彼は妻が死んだとき、不倫中だった。
けれどもそれに対しても、後悔の念を抱けず・・・。

オリジナル脚本にこだわりつづける西川美和が、自身による同名小説を映画化、そういう意味で「初めて原作モノ」に挑戦した意欲作。

感情純麻を絵に描いたようなモックンも悪くないが、彼とは対照的に、妻の死に激しく動揺する竹原ピストルの存在が本作を豊かなものにしている。

師匠・是枝裕和にないもので、弟子・西川美和が持っているものがあるとすれば、それはシニカルな視点に尽きるだろう。

設定そのものがシニカルな本作も西川節が炸裂しているが、最もシニカルなのは決着のつけかただと思う。
自分は支持するが、このあたりで賛否が分かれるかもしれない。

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第09位『イット・フォローズ』

多少、粗削りなところがあってもいい。
多くの映画小僧にとって、フレッシュな才能の発見こそが、映画を趣味とする醍醐味なのだから。

という意味で、本年最大の収穫となった技ありのインディーズ・ホラー。

セックスを介することによって、呪いは感染する。
感染したものは、感染したものしか見えない「なにか=イット」に追いつめられ、やがて殺されてしまう。
それを防ぐには、誰かとセックスをして「呪いを移す」以外にない。

ヒロインのジェイは、死の恐怖と対峙するほかに、セックスと友情と愛情について、真剣に向き合わなければならなくなっていく・・・。

つまりホラー要素は4割程度、残りは青春ドラマ。
よってホラー狂にとっては物足りないところがあるかもしれないが、可愛過ぎないマイカ・モンローの好演もあり、自分なんかは感情移入しまくって充分楽しめた。

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第10位『ヘイトフルエイト』

疑心暗鬼を主題とした、QTタランティーノが描く西部劇版の『レザボア・ドッグス』。



ワケあり男女8人の描き分けが見事、
演技陣のなかでは、オスカー助演賞を取ってもおかしくなかったであろうジェニファー・ジェイソン・リーが出色で、始終「出血している」さまは『レザボア』のティム・ロスと双璧のインパクト充分な演技だった。

伏線の回収やバイオレンス描写はいつものQTだが、新鮮、、、というより、細心の注意を払ったのだろうなと思わせるのが、画面の構図と雪の質感である。

「超」のつく遠景で始まる冒頭から、70mm上映を意識した創り。

だが。
苦労して「70mm上映」の形を取っているのに、日本の劇場では「その形」で上映出来る環境が整っていない。

そういう意味で日本の映画ファンは、「いつもは幸福な環境にあるが」今年にかぎっては「不幸だった、のかもしれない」。

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明日のコラムは・・・

『映画の力って、すげーんだぜ(下)』
コメント (1)
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