fromイーハトーヴ ーー児童文学(筆名おおぎやなぎちか)&俳句(俳号北柳あぶみ)

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岡ともこ句集『楽器庫』(童子吟社)

2019年04月07日 | 本の紹介

 弾き終へて時雨の音の中にかな 

ともこさんは、長年(なんと80年)もピアノをされていらっしゃる方。俳句は20年とのことですが、合わせて100年。渾身の句集を出されました。
         
 
 多くが音楽が聞こえてくるような句です。
 
 冒頭の代表句は、一心にピアノを弾いて、その音が消えたとき、時雨の音の中にいた。という美しい調べの句です。
 
 万を超す楽譜に春の目眩かな
 楽器庫に皮のにほひや梅雨深し
 写譜用の鉛筆ちびて夏の朝

 一つのことに精進した方が俳句をやると、その心構えが違います。詩心がきちんと根底に感じられ、どの句も読み手の心の弦をはじいてくれます。音楽の句以外では、

 あつといふ顔の鰯や網の上
 風薫るピアノの下もモップ入れ
 凩やすとんと老いて粥を煮て
 電柱の根元に梅雨の闇の濃かり
 青すだれ琴の木目は水に似て
 ぬんめりと椅子に置かれし毛皮かな
 極月や足湯の中に足ゆがみ
 触れてみし子宝石に春の冷え

 
 俳句という座は、老若男女、社会的地位など関係なく対等というのが嬉しい場です。ともこさんとは、長年句座をともにしていましたが、ずっとご自宅でピアノを教えてらしたのかなと思っていました。ところがある日、ある方に「ともこさんって、すごいのよ。音大では小澤征爾と同級生でらして、大学でピアノを教えてらしたんですって」と、ええ、ピアノの教授? と! なりました。私のようなただのおばさんには、普通だったら知り合うこともないような方。でもともこさんも、句会ではただのおばさんで(失礼)、その後もずっと気さくにおつきあいをいただいています。

 知り合いの句集の出版が相次ぎ、嬉しい受賞のお知らせも届いています。でも5月にある2つのお祝い会は、やむなく欠席。申し訳なく思っております。