月の裏側は見えない。人にも同じように裏の顔がある。
大人になると、自分のウラガワは隠してオモテガワだけを見せようとする。
トールの死んだじいちゃんの言葉だ。
ああ、私は年から年中月を見ているのに、ウラガワに思いを馳せていることがなかった。
じいちゃんの言葉には、もう一つうなずけるものがある。トンジルについてだ。これはぜひ読んでいただきたい。
ああ、トンジル、豚汁だって、年に10回以上は作っているのに。大好きなのに。
トールは、幼なじみの三人と「テツヨン」というグループを作っていた。ジャングルジムで、わいわい言い合える四人。でもある日、その一人のダイキが引っ越しすると告白。それをきっかけに「テツヨン」の結束はゆるみ出す。それは、四人の当然の成長なのだけど、トールはじたばたする。
考える。そこに浮かぶのが、前述のじいちゃんの言葉だ。
これまでオモテしか見ていなかった友人達のウラガワの顔。自分にもあるウラガワ。
事件のようなものは何もおこらない。それなのに、この一冊書ききるのだから、佐藤まどかはすごい!
小学生の哲学がここには詰まっている。そしてそれは私達、いい歳になった人間にも通じる哲学だ。
私はあまり人のことを嫌いにはならないタイプ。嫌いだなと思っても、まあ許せる。マジでいやだなと思った人は、人生で数人しかいない(いるのかい)。なぜなら、自分が嫌いなこの人も、いい面があるとわかるから。ちょっと冷静になれば、そう感じることができる。でも、その感情を維持するためには、在る程度距離を置かなくてはだめ。なんて、今まで思っていた。
でも待って。
自分の嫌いな面を持つその人のその面はオモテ? ウラ? あれれれ? よくわからない。人間って複雑だ。だから、おもしろい。
でも、みんな必死に自分の人生を生きているんだ。
あたしのオモテはどっち? ウラはどんなん?
小学生向けのこの『月にトンジル』、いろいろ考えさせてくれます・・・。
私も、事件の起きない物語、描いてみようかな。書けるかな。佐藤まどかさんは、SF的な作品が多くて、いつも最先端をがっちり見据えて書いている方という印象があったけど、この本を読んで、そうよ、それだけじゃない。ちゃんと、不易流行の不易の部分を押さえてらっしゃる方なんだと思いました。月とトンジルは「不易」です。
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