うめと愉快な仲間達

うめから始まった、我が家の猫模様。
犬好きな私は、チワワの夢を見ながら、
今日も癖が強めの猫達に振り回される。

ひとん家のネコの話

2015年12月27日 | 真面目な日記

猫と付き合っていると、

時々、小説より奇なりと思えるような体験を致します。

今日は、私が最近体験した、ちょっと不思議な話を

長々と書きます。

 

 

ある日、

取り壊されたアパートの瓦礫の前で、

やせ細った猫を見つけた。

その猫は、通りすがる人々に物乞いをしていた。

雨に震え、寒さに耐え、

時には追い払われ、

それでも彼女は、そこに留まっていた。

 

手を差し出してみると、

その猫は慣れた風に、私の手に頭をこすり付けてきた。

撫ぜられる事を知っている猫だった。

若くも無いだろうに、こんな所に置いて行ったのか・・・

 

私は、そんな彼女に名前を付ける事をためらいながら、

毎日そこへ通った。

ある日、動物病院へ、感染症に効く薬を貰いに行くと、

「カルテ作成に、その子の名前が必要なのですが」と言われ、

ふと思い付いた名前を告げた。

 

そんな最中、私はそこへ通う、もう一人の誰かの存在を感じていた。

餌を持っていけば、猫が食べ残した餌が落ちていた日。

簡易ハウスを持って行けば、猫は既にダンボールに入っていた日。

私は度々、その誰かに先を越されていた。

しかし、誰かも知れない人間を、当てにする気にはなれず、

その後も悩みながら、通う事を続けた。

 

この街は、開発のために多くの人々が立ち退き、

景色は、あっという間に変わっていく。

そこかしこと工事が進んでいく中、

朝晩と、そこへ通っていれば、

様々な人と出くわす。

猫に気付きもしない通行人、

猫を心配して、私にまで声を掛けてくる工事のおじさん達、

そして当然、苦情を訴えてくる住民もいた。

「申し訳ありません。少し待っていただけませんか。

迷惑にならないよう気を付けます。

準備が整ったら、すぐに保護をするつもりです。」

私は、そう言ってしまった。

 

広大なこの星に、ほんの小さな隅っこでさえ、

この猫が、ただ静かに佇む場所など与えられない。

けれど、もっと情けない事は、

この猫の新たな場所を

我が家に作る事を考えあぐねていた、自分だ。

 

私は覚悟をして、急いで動き出した。

感染症を患っている猫を

完全隔離できる部屋が、我が家には無かった。

ならばやはり、一時保護するためのアパートを借りるしかないか。

そう考えて、不動産屋に電話を掛けた。

「お客様のお住まいの近所に

1年後に取り壊す予定のアパートがあります。

そこなら短期で、即ご利用いただけます。」

そう返答をもらった。

これでひとまず、目途が付いた。

そこでしっかり治療をして、その後我が家に合流だ。

そう計画を立てた、その日の夕方、

猫は、忽然と姿を消してしまった。

思っていた以上に、弱っていたのかもしれない。

死んでしまったのかも・・・。

私は、小さな声で名前を呼びながら、

周辺を探し回った。

こんな、ちょっと前に思い付きで付けた名前を呼んだところで、

あの猫が現われる気はしなかった。

それでも、そんな事を、数日続けていた。

 

 

元来、諦めの早さでは

右に出る者など居ないと自負していた私が、

こればかりは、どうしても諦めきれない。

ほんの少しでも、あの猫の情報が欲しかった。

私は、様々な人に、聞き込みを始めた。

 

以前、私に「野良猫に餌をやるな」と叱った、

あのおじさんにさえも、猫は知らないかと半泣きで詰め寄った。

おじさんは、こういう類の嫌がらせなのかと言わんばかりの

戸惑った顔で、すごく引いていた。

その後、そのおじさんは私の姿を見かけるやいなや、

問う前に、即効「居ないよ」と教えてくれるようになった。

どうやら私は、おじさんを怖がらせてしまったようだ。

 

辺りは変わらず工事だらけ。

瓦礫を回収していた作業服の人に後ろから声を掛けたら、

日本語がほとんど解らぬ外国人だった。

「あっごめんなさい。もういいんです。」と言っても、

日本にやってきた外国の青年は親切だった。

おそらく、

「どうしたの?大丈夫?」と語りかけてくれたのだと思う。

そして仲間も呼んでくれて、

おそらく、

「この人はどうしたの?大丈夫なの?」と

話し合ってくれていたのだと思う。

最終的に、

「僕は、国で昔、猫を2匹飼っていました。」

という情報を、四苦八苦して得る事に成功した。

 

しばらく歩いていた私に、

「足元、気を付けてくださーい」という道路整備のおじさんの声が。

日本語だ。

しかし、そろそろ「もう無理の極み」の境地にいた私は

そのおじさんの前を通り越した。

このおじさんにも聞かんでいいのか?日本人だぞ!

そう思い直して、振り返った。

このおじさんに聞き込みして、今日は終わりと決めて聞いてみた。

「向こうにあるアパート跡地に居た、猫のこと、知りませんか?」

 

おじさんは、突然の質問にきょとんとした。

そして、こう言った。

 

「ああ、あの子。私、拾って帰っちゃった。ダメでした?」

 

その言葉に、私の眼から一瞬にして涙が溢れて出てしまい、

声も出せず、首を横に振りながら何度もお辞儀をした。

 

「ずっと気になっててねぇ。

名前付けちゃダメね。

トラ子って呼ぶと寄って来るしね。

ご飯あげてたんだけど、私、あの辺の人に叱られちゃって。ヒヒヒ。

しょうがない、仕事終わったついでに、思い切って、

こっそりね、ハッハッハ。

偉そうに、私の布団で寝とるの。ヒャッヒャッヒャ。」

 

その直後、おじさんは無線に向かって話し出したので、

私は、ろくにお礼も出来ずに、泣きながら足早に立ち去った。

 

歩きながら、おじさんの言葉を思い起こして、私は2つの事に気付く。

あの人は、おじさんではなく、おばさんだったのだという事。

そして、猫の名前。

そう、私が動物病院で思い付いた名前も、

トラ子だったのだ。

 

私とおばさんは、ほんの少しズレた時間軸の中で、

同じように悩み、同じように名前を呼び、同じように叱られていた。

トラ子は、それをじっと見て、

おばさんを選ぶ事にしたようです。

 

相談に乗ってくれた友人、

協力をしてくれた我が家のおじさん、

アドバイスをくれた獣医の先生、

これを読んで頂いている皆さん、

やっぱり・・・私・・・まだまだ未熟者のようですね。

ありがとうございました。