うめと愉快な仲間達

うめから始まった、我が家の猫模様。
犬好きな私は、チワワの夢を見ながら、
今日も癖が強めの猫達に振り回される。

おっさん改革

2017年06月03日 | 日記

男と出会い、共に暮らすようになるまでには、

それ程、時間は必要なかった。

まず、男はケチじゃない事。

フレンチのシェフという点にも興味を持った。

そして、決め手は、外国語が話せるという事だった。

 

おはようございます。

私も、言ってみればバイリンガルだ。

標準語と三河弁と名古屋弁を巧みに使いこなす。

しかし、東京生まれの人は、疲れた時、

「どえらい」と言わない事へは、いささか驚いたものだ。

そんな私の前に現れた男は、フランス語を使いこなしていた。

おフランスの言葉だ。

参った、シャバダバっとつぶやかれたら、私などイチコロだ。簡単だ。

あの頃は、聞きなれない言語に、うっとりしてしまい、

私は、うっかりしていたのだ。

男が話せるフランス語は、一貫して「料理用語」だという事を。

 

「子羊の肉を、ちょうどな感じで、焼きました」

「カモをさばいて、油で揚げました」

「ぶわっと火が出ます」

このような内容を、シャバダバとフランス語で呟く男に、

うっとりしていただけだったのだ。バカな女だ。

 

そんな、フランス料理を数十年愛し続けてきた男が、

何の因果かフレンチの道から外れて、7年。

給食会社で、慣れない仕事をしていた中、昔の先輩から誘いが来て、

ようやく、男はフレンチの道へ戻る事が出来た。

はずだった。

 

出社1日目が過ぎ、

翌朝、まだ寝ている男をたたき起こして、

どうだった?やっていけそうか?と聞いた。

すると、男は寝ぼけたまま、思いもよらぬ事を言い出した。

「なんか、ヤバいかもです、先輩のとこ。」

何がヤバいんじゃ?と胸ぐらを掴んで揺する私に、男は続ける。

 

「他の調理師、全員、今月で辞める予定だそうなんです。

先輩の元では、やっていけないと、皆言っていて。

先輩は、昔から厳しい人でしたが、

このご時世、あれでは、誰もついて来ないな。」

 

男の話によれば、

先輩が、そのホテルのフレンチ部門に料理長として来たのは、

2年ほど前の事だった。

当時は、調理師やバイトを含めて10人で調理場を回していた。

ところが、気難しい天才気質の先輩のやり方が原因で、

次々と人が辞めていき、今5名の調理師が残っている。

休日は、ほとんどなく、文字通り朝から晩までの勤務に、

もう皆、限界に達していたという事らしい。

それを知りながらも、先輩は何の手も打っていない状態だ。

 

で、あんたはどうするんだ?と聞くと、

男は、

「どうって・・・」と黙り込んでしまった。

 

このままでは、男が無職になるかもしれん。

銭金だけを信じて生きてきた私は、そうさせてなるものかと

数日考え込み、ついに男に言い放った。

 

あんたさ、考え方変えてみな!

ずっと、フレンチが作りたいって思ってたんだろ?

すげー作りたいってさ。

それが今、すんげー作れるようになったじゃん?嫌んなっちゃうほどにさ。

やったじゃん!いえーい!夢、叶ったぞーっつってさ。

 

男が、キョトンとしている中、私はハイテンションのまま続ける。

 

でも、先輩とあんただけになるのは、絶対無理だと思うんでしょ?

その、ちょび髭の、絶対人に頭を下げない先輩が、

変わらんことには、どうにもならない訳なんだから、

「おっさんのための、おっさんにより、おっさんの意識改革」

これを、あんたが、やるんだ!

・まず調理師達を引き留める

・先輩のやる気を、再び呼び覚ます

・法律上の問題を是正させる

・改革の途中は、自分の休日は無い物と諦める

 

それ以来、男は、毎日、

他の調理師(皆、おっさん)を説得しながら、

先輩とも2人きりで話し合いを持つようにした。

「先輩、これじゃ、まずいっしょ?

僕も、皆さんに頼んでますけど、先輩が頼んでくれないと。」と。

 

男は、深夜に帰宅して、起床は6時。

起きたら、今度は私との「おっさん改革」のミーティングだ。

調理師の中には、残ってもいいけどと言い始めるおっさんも居たが、

肝心の先輩は、決して首を縦に振らない。

どうしても、人に頭が下げられないのだと、男は嘆く。

日に日に、弱っていく男を見て、私は怒りがこみ上げてきた。

 

もう、私、許さん。

ねぇ、先輩に電話して!

 

そう息巻く私に、男は、「何をする気?」とおののく。

 

言ってやる。こう言ってやる。

おい、ちょび髭のおっさんよぉ。

おめー、うちのおっさん、よくも騙したなって。

 

男は、携帯を握りしめて、「いやいや、おかっぱちゃん、やめて」と。

 

私は、だってーっと喚いた。

どうにもならない事が分かっていながら、

安定した職を辞めさせてまで、自分の所に呼ぶとは、

悪質極まりないではないか。

 

私は、あの時を思い出していたのだ。

男から、転職をしたいと相談をされた時、

私は、すぐに、二つ返事で送り出す事は出来なかった。

転職先で水が合わなかったら?

せっかく今の職場で、安定しているのに?

今より忙しくなったら、猫達、寂しがるだろうに?

と、様々な不安がよぎる中、実家の父さんに話してみた。

すると、父さんは、こう言った。

「おかっぱ、黙って送り出してやれ。

あの人にすれば、たぶん最後の勝負だ。

男の勝負だ。いいか、思う存分、やらせてやれ。」と。

それを聞いて、私は、男の挑戦を応援しようと思ったのだ。

ところが、男が行ってみれば、この始末だ。

 

許さん。

ちょび髭んとこに、竹刀持って、殴りこむ準備に取り掛かるぞ、あたしゃ。

この男の人生は、この男だけの問題じゃないんだ。

こいつには、家族が居るんだ。

心配してる家族も、食わして行く多毛な家族も、応援する家族も。

他の調理師のおっさん達だって、そうだろ?

なんなら、ちょび髭にだって、居るんだろ?

なんで、そんな事も分からん程度の、かるーい頭が下げられないんだ?

あそこが無くなれば、ちょび髭だって、その家族も困るはずだ。

大事なもんのために、なんで、頭が下げられないんだ?

ばっかじゃねーか!

いいか、うちの鬼嫁がそう言ってるって、ちょび髭に伝えて。

 

そう、久しぶりに吠えた私は、すっかりスッキリしたからか、

腹が据わった。

やるだけやって、駄目になった暁には、

男が主夫になるってのも、悪くないんじゃない?

そう思いながら数日過ぎた。

 

そして、ある日、男は言った。

「おかっぱちゃん、ボク、以前の職場に頭を下げてきます。」と。

はっ?

「ぼくは、自分にとって、何が一番大事かが、分かりました。

だから、ホテルは辞めて、以前の職場にお願いしに行ってきます。」

 

こうして、おっさん改革は、あっけなく終わった。

男は、幸い、以前の職場に戻れる事となり、

ちょび髭のおっさんは、今頃、関係各位に頭を下げているとの事だ。

先輩は、男に、こう言ったそうだ。

「本当に、すまなかった。ごめんなさい。

俺も、奥さんと犬が居るんだ。忘れてたよ。

鬼にも、謝っていたと伝えておいて。

お詫びに、ちょび髭、剃りますって。」

 

ねぇ、おじさん。

伝えてって言ったけどさ、言ったけどさ。

一語一句、馬鹿正直に、伝えろとは、言ってねーから!

 

きく「まったく、男って、面倒くさいわ~」

 

きく「早く、出ていけってば。白い男め!」

 

うんこさんや、

おじさん、また早く帰って来るようになったぞ。

良かったな。

うんこ「ブツブツブツ」

えっ?

なに?

 

あや「それはそれで・・・」

 

それはそれで?

 

おたま「それは、それでだ・・・」

それはそれで?

 

うんこ「うっとうしい」

同感!