えっとえっと、
今日って、土曜日でしたっけ?
おはようございます。
不思議なことに、この連休の記憶が、あまり無い。
昨日までの7日間、私は一体、何をしていたのだろう。
ちょっと、真剣に思い出してみよう。
えっとぉ・・・
無い!なんも無い!
ある意味、夢のような連休を過ごしていた昨日の夕方、
買い物を終えて家に帰ってくると、
我が家の玄関ドアの前に、1匹の猫がうずくまっていた。
ん?これは・・・夢か?
夢ではない。
小さなサビ猫だ。
近付いてみると、首輪が付いている。
逃げないけれど、怯えている。
「あんた、1階の子じゃないの?」
私が暮らすマンションには、
1階に1匹、2階に我が家4匹、4階に1匹と猫が暮らしている。
1階の猫も4階の猫も、姿を見たことはないが、
私は、サビ猫を見て、ピーンときたのだ。
驚かさないように、足音を忍ばせて、
上って来た階段を降り、1階のチャイムを鳴らしたが、
どうやらお留守のご様子だ。
どうしたものかと考えあぐねていると、
エントランスに4階の住人である女性も帰宅してきた。
猫を飼っている、4階さんだ。
「こんにちは。どうしたんです?」と質問してくれた。
私は、待ってましたと言わんばかりに、
「私の部屋の前に猫ちゃんがいるんですが、
多分、1階さんの子なのぉ。どしよ?」
4階さん「あらら、あらららら」と。
私と4階さんは、その時ほぼ同時に、買い物袋を地べたに置いた。
どこの子かが、不確かでも思い当たりがあるのなら、
放って置くわけにはいかない。
どこの子なのか分からなくても、
間違いなく飼い猫の迷子さんを、放って置くわけにはいかない。
いずれにせよ、放って置くわけにはいかないのだ。
私と4階さんは、ここから、なんと5時間、
このサビ猫をエントランスで見守る事となるのだ。
「とりあえず、保護しちゃいましょう」と軽口を叩いた私は、
キャリーケースを家から持ってきた。
「はい、猫ちゃん。ちょっと抱っこするよ~」
そう声を掛けながら、猫に手を伸ばした。
小さくて大人しそうな、お年寄りに見える猫さんだ。
ナメていた。
「ぐ~シャーーーーーー」同時に、強烈パンチ。
秒速で、3発の強烈パンチだ。
私と4階さんは、ドン引きした。
「なるほど・・・」
こうなると、1階さんが帰ってくるまで、
どこにも行かないよう、腰を据えて見守ってやろうじゃねーか!と
私達は、そう判断した。
言い方を替えれば、手も足も出せない状態、ともいう。
「お腹、空いてるよね?」とかつお節を皿に入れて差し出してみると、
「ぐ~ぐ~、シャー――――」と、凄い迫力でパンチして
う~う~唸りながら、猛然と食べ始めた。
「うふふふ、怒りながらも食べてる」
「しっかりした子だね~ふふふふ」
凄い剣幕で叱られているのに、笑っちゃう。
私は、その間、ずっと頭によぎっていた事がある。
本当に、1階さんの子じゃなかったら、どうしようという事だ。
そこで、自治会長さんも、巻き込んでやろうと企んだ。
今季の自治会長も、動物好きだからだ。
数年前まで、犬を手厚く介護しているのを知っている。
でも今は、家に動物が居ない事も知っている。
さっそく相談をしに行くと、すぐに来た。
会長は、猫を見るなり、
「おーい、お前、どうした?家に来るか~?」
でかした!
さすが、動物好きだ。話が早い。早すぎる。
万が一、1階さんの子でなくても、保護先を早くも見つけた。
「じゃ、1階さんを待って、違っていたら、連れて行くね」と伝えて、
お帰り頂いた。
小さくて可愛い子だが、実はかなりの猛者である姿を
会長に見せると、心が揺らぐかもしれないからだ。
ここで、私の推理を話す。
1階さんは、徒歩で出かけた。
その出かける時、猫もスルッと一緒に玄関ドアからすり抜けた。
飼い主は、その事に気づかず、出かけてしまったという訳だ。
時間帯から鑑みれば、夕食に出かけたのだろう。
そして、徒歩という事は、お酒を飲んでいるはずだ。
こりゃ、なかなか帰ってこないぞ・・・
そして、5時間が経過した。
私と4階さんは疲労困憊だが、猫は更に辛いだろう。
緊張の限界が来たようだ。
動き始めた。
「だめ、だめ。どこにも行ったらあかんよ」
道をふさぐと、やはり凄い剣幕で怒る。
怖いのだ。私達も、猫も。
「ごめんね、ごめんね」そう言いながら泣きたくなってきた、その時。
歩いて来る人影が見えた。
「1階さんだー」
そして「千鳥足だー」
こらーーーっと続けたい気持ちをぐっと抑えて、
「1階さん、早く来て。この子、お宅の子じゃない?」
千鳥足の足音に、う~う~唸って蹲っていた猫が、
初めて反応した。
「あれ?もっちゃん、何してるの~?」と1階さん。
私達は、顔を見合わせて
「もっちゃんって名前なんだね~」と満面の笑顔だ。
1階さんは、猫をひょいっと抱き上げる。
まるで、オモチャかぬいぐるみのように、されるがままだ。
あんなに怒っていた猫がだ。
「よかったね~、もっちゃん。」
抱かれた猫に顔を近づけても、もう唸ったりしない。
小さな猛者は、可愛いもっちゃんに戻ることが出来たという訳だ。
めでたし、めでたし。
あっ・・・
まさか・・・
会長さん、もっちゃんを待ってるかな?
忘れてた。