「奇跡は終わった。」
私は、そう感じた。
おはようございます。
うんこが死んでからというもの、
私は、いつもそう感じながら生きていた。
空から舞い降りてきた猫が見せてくれた奇跡は、もう終わったのだ。
うんこという猫は、まったく奇跡の猫だった。
奇跡みたいな出会い、奇跡的な生還、
奇跡が起きたかのような悪戯をする、その本猫は奇跡のフォルムだ。
色といい形といい、まるで奇跡的に発見されたツチノコだった。
うんこと過ごした15年間は、私にとっても激動の時代だった。
それを乗り切れたのは、うんこが巻き起こした奇跡だったのではないだろうか。
私は、うんこを失って、そんなことを考えるようになっていた。
「もう、奇跡は起こらない。」
そう思うと、無性に心細くなった。
そして実際、ツイてない日々を過ごしていた。
そこで、私は思い立った。
「そうだ、お伊勢さんへ行こう!」
私は、信仰心など全く持っていないくせに、神に縋りたくなった。
「おじさん、伊勢神宮へ行こう。
そこで、最強のお守りを買って、赤福食べるの。
あっそうだ、外宮も行ってみたいし、内宮のニワトリさんにも会いたい。」
伊勢神宮には、外宮と内宮があり、お参りにも正式な順番がある。
しかし、私は外宮へは行ったことが無かった。
様々な店が経ち並ぶおかげ横丁の近くにある、内宮にしか行ったことがない。
所詮、観光気分でしか行ったことが無いということだ。
今回は、
「ちゃんと順序を守って、お参りしてみたい!」
そう思った。
お願い事をしようという訳ではないが、せめてお守りでも身に付けて、
気持ちを切り替えようと考えた。
気持ちを切り替える、きっかけが欲しかったのだ。
そして、私達は車を走らせること、2時間かけて、伊勢へ行った。
始めは外宮だ。
息を整えて、二拝二拍手一拝もした。
手を合わせてみれば、頭の中は何も思い浮かばなかった。
こんな感じでいいのだろうかと、ぼーっとしながら歩きながらも、
帰りの道すがら、お守りを4つ買った。
自分のと、おじさんのと、両親のとだ。
次は、内宮だ。
ここは、2度行ったことがある。
離れた臨時駐車場へ車を停めたが、人通りは、思いのほか多かった。
恐らく多くの人が、お伊勢参りに来ているのだ。
人の流れに乗れば、自動的に内宮へ行けると思ったが、
私達はなぜか、迷いに迷って、猿田彦神社へたどり着いてしまった。
「いや、ここ、猿田彦やないかーい!」
私はそう叫び、げらげら笑いながら、来た道を引き返した。
どれ程歩いただろうか。
どこをどう行ったか分からぬまま、赤福本店へたどり着けていた。
「まず、赤福食べてから、お参りしましょう。」
ということにして、温かいお茶と赤福を堪能した。
「よし、行こう!」
いざ、歩き出すと、なんだかおかしい。
赤い橋を渡った時点で、確実におかしくなった。
「足が・・・右足が動かん。」
痛くはない。ただ麻痺したような感じで動かないのだ。
大きな鳥居の足元で、一切動けなくなった。
「なにこれ?なんのバチ?」
そういえば、外宮でお守りを買う時、私は自分のだけはめちゃくちゃ悩んていた。
おじさんと両親のは、凄く適当に「これ」と決めたくせにだ。
そして、その3つは普通のお守りなのに、私のだけ『開運』お守りだ。
そんな人間だから、こんな所でアクシデントに見舞われれば、
瞬時に「罰が当たった」と思いついてしまう。
「おかっぱちゃん、どうします?引き返しましょうか?」
ここまで来たからには、お参りはしたいが、
右足を引きずって歩くには、距離があり過ぎる。
私は、おじさんに抱えられながら、近くの休憩室へ向かった。
こんな、絵に描いたような罰当たりな自分に、
もはやおかしくなってきて、笑いが止まらなくなった。
「どうして、こうなるのぉ~?なんのバチなの~?」
そう言うと、おじさんは、
「いやきっと、バチというなら、僕のバチですよ。」と笑った。
たしかに、
寒空の下、汗をかきながら心配して焦りながら、
げらげら笑ってる可笑しな大人を抱えて歩かねばならない人間のほうが、はるかに大変な状況だった。
やっとの思いで「ちょっと座りましょう」と入って行くと、
そこには真っ白なニワトリが2羽、日向ぼっこをしていた。
「あらら、ここに居なすったのね。」
私達は、しばらく陽だまりのベンチで、ニワトリと日向ぼっこをした。
「ごめんなさいね。」
「でも、目的はすべて、果たせましたね。」
そうだった。
外宮へ行き、お守りを買い、赤福を食べて、白いニワトリに逢う。
これは、ちゃんと果たせた訳だ。
内宮にはお参りできなかったが、
その時の財布には、小銭が1円と5円しかなかったことに後で気付いた。
外宮でお賽銭の100円を使いきってしまっていたのだった。
なんのバチかは、もう考えないようにしよう。
そうしよう。
奇跡みたいな、変な日だったが、
不思議と、有難いと思えた。
ちなみに、足の麻痺は、帰宅した頃には
すっかり治まっていたので、安心してください。
さて、我が家の有難い感じのする見た目の猫だ。
呑気に毛繕い中の、のん太
のん太「なに、見てるら?」
のん太「ちょい、ちてやる!」
あや「やんのか?」
のん太「・・・・・・」
のん太「・・・・・・」
のん太「ごめんらさい」
そうだな。それがいいな。
それ以上しかけると、あやのバチがバッチーんと飛んでくるもんな!