帰り道、
渋滞にはまり、溜息を付いた時、
夕日に照らされる虹色の輪を見つけた。
あぁぁ~、よく分からんですね。
肉眼では、しっかりと虹色が見えたんですがね。
溜息は、感嘆にすり替わった。
この世界は、見ようによって色が変わる。
毎朝作ってくれていた、母さんのサンドウィッチ。
具は決まって、玉子焼きとハムときゅうりだった。
けれど、ある日を境に、ハムを挟まなくなり、
次第に、きゅうりの存在も忘れた。
そして、パンにマヨネーズを塗ることも忘れてしまった。
母さんのサイドウィッチは、私にとってはカルテのようなものだ。
腹を満たすためでもないし、味にこだわる必要もない。
しかし、ここ数日は、
玉子焼きとイチゴジャムのサンドウィッチを作ってくれる。
これは、さすがに言うべきだろうと思った。
「母さん、玉子とジャムなんて、おかしいだろう?」
私が諭すように言うと、母さんは
「そうなんか?そうやろか?」
と、不思議そうな顔でしばらく考えている。
こんなことも理解できなくなっているのかと、
私は内心、愕然とした。
だけど・・・
実は、これが案外、おかしくないのだ。
食べてみると、案外、おかしくない。
ジャムを塗っている姿を見たから、「おかしいやんか」と思った訳だが、
そこを知らずに食べたら、おそらく私は気付かない。
ケチャップだと思って、普通に食べるだろう。
なんなら、
「あぁ、今日は完璧に作れてるやん、カズコさん」とか言ってるに違いない。
私の味音痴を差っ引いても、
それほど、おかしい味ではない。
認知症のおかげで、どんどん自由になっていく母さんの、
固定観念を越えた世界で創造されるサンドウィッチは、
これはこれで、アリなんだよな~っと気付くと、
母さんがどうして不思議そうに考え込んでいたのかが、ちょっと分かった気がした。
「かずこさん、やるじゃん?!」
さて、我が家のおたまとたれ蔵は、
仲がいいのか悪いのか、よう分らん。
穏やかに並んでいると安堵して、
たれ蔵を撫ぜていると
なぜだか、おたまがこんがらがり始めて
こんな顔で見てくるから
ごめんごめん、おたまも撫ぜ撫ぜしようね~っと気を遣う。
おたまは、たれ蔵にライバル心を燃やしているように見えるが
案外、いいコンビにも見えるんだよね~フフフフフ。