ついに、
かずこは腕のサポーターを剥がしてしまった。
おはようございます。
数えてみれば、ちょうど一か月前になる。
かずこさんは酔っぱらってすっ転んで、腕を怪我した。
傷は深くないが、幸いという言葉は浮かばなかった。
皮膚がずるっとずる剥けて、中身が丸見え状態だったからだ。
剥き出しの、それはそれは綺麗なピンク色の筋肉を見て、
私は白目をむいて卒倒しそうになった。
これは、手術的なことになるのじゃないだろうか?
と、気が重くなったが、病院での処置は案外簡単なものだった。
医師は、
「これね、皮膚再生シートって言ってね、
これ貼っておけば、皮膚が再生するからね~」
と言い、大きな絆創膏みたいなシートを貼ってくれた。
私は安堵したが、実はここからが大変だった。
認知症のかずこさんは、そのシートをすぐ剥がしてしまう。
その度、ピンクの筋肉を確認し白目をむいてから、病院へかずこを運んだ。
「これじゃ、いつまで経っても治らない」
私は、苦肉の策で皮膚再生シートの上にサポーターを巻き、
そのサポーターに『とらないで』とサージカルテープに書いて貼ってみた。
それが功を奏して、約3週間は維持していたはずが、
昨日、ついにサポーターもサポーターで保護した皮膚再生シートも
全て剥がされていた。
私は思わず「キャー」っと叫びながら、かずこの腕を取って、袖を捲った。
「あっ・・・」
治ってるー!!
「もう治ったで、取ったんやもん」
かずこはそう言って、自慢げに腕を擦ってみせた。
「もうどっこも痛くないんやから。ほれ、ほれほれ」
皮膚の違和感はあるものの、確かにすっかり再生されていた。
けれど、その手首には、『とらないで』と書かれたテープだけは
ちゃんと貼られていて、その律義さに私は笑っちゃった。
あやさん?
威勢の良さと、案外律儀なことは、貴女も似てるよね。
じわじわ近づいてくるけど、なんなのだい?
どうしたのだい?
あんたも、自慢げにピャーっと見せてくれるけど、なんなのだい?
そこは隠しといて~!