うめと愉快な仲間達

うめから始まった、我が家の猫模様。
犬好きな私は、チワワの夢を見ながら、
今日も癖が強めの猫達に振り回される。

たまには、夜に 

2024年06月05日 | カズコさんの事

昔々のことだ。

かずこの実家に、家族で泊まりに行った日のこと。

 

こんばんは。

年に一度程度しか帰省しなかった訳だから、

幼い私にとっては、3~4度目の慣れない他人の家としか感じなかった。

古い長屋造りのカズコの実家は、

家中、祖父手作りのかぶら寿司の匂いが充満していた。

子供の私にとっては、あの独特な匂いは食欲をそそる匂いでは無かった。

大人たちは、それをつまみに酒を酌み交わし、

私と姉は、ひたすら黙って座っているだけだった。

祖父も祖母も、私達子供らに頻繁に話しかけることもせず、

ただ静かに、かずこやその姉妹のかしましい会話を聞いていた。

 

なんにもない田舎だ。

辺りを見渡せば田んぼ、遠くへ目を移せば山に囲まれていた。

夜になれば、外から虫の音やカエルの鳴き声が響く。

大人たちの笑い声と外の音が混じり合い、

私はまるでトランス状態のようになり、無の境地で座っていた。

はっと我に返った頃、

大人たちは、すっかり酔いつぶれて雑魚寝状態だった。

これこそまさに、トランス後の成れの果てのような有様だ。

その隅に、祖母が布団を敷いて、私達に寝るよう促した。

 

明かりが消えた慣れない部屋は、

摺りガラス越しの月明かりに青く照らされている。

それでもなお、かぶら寿司の匂いが鼻を刺し、虫の音とカエルの鳴き声は一層勢いを増す。

とても眠れる状態じゃない。

私は、そこら中に転がる大人を慎重に跨ぎながら、

おもむろに七輪が置かれた一角を目指した。

「あの座布団でなら眠れるかもしれない。」

祖母が、火の気のない七輪の縁を

肘掛け代わりにして座っていた、へたった座布団だ。

そして実際、私は座布団に座ってみた。

その時、背後から引き戸の擦れる音がした。

ビクっと、そのまま身を硬くしていると、誰かの声が聞こえた。

「眠れんのか?」

その声は、引き戸の擦れる音に似ていた。

恐る恐る振り返ると、そこには祖母が立っていた。

私は、素直に「うん」と頷けなかった。

無断で座布団に座ったことを後ろめたく感じ、

黙ったまま、更に身を硬くした。

祖母は、私の様子を伺おうともせず、音もなく真横に座り、

「ほれ、こっちおいで。」

と言って、私を自身の膝へ抱き寄せた。

まるで赤ん坊を抱くように膝の上に抱え、

私の背中をポンポンと軽く叩きながら、

「よーし、よーし」

と、かすれた声で、ずっと唱え続ける。

大音量だった虫の音やカエルの声は、

祖母の体に耳を塞がれたせいで遮られ、

その代わりに、ポンポンと叩く振動と祖母の声が、

私の体を溶かすように、じんわりと浸透していった。

 

あれから、私は眠ったのだろうか。

それは、不思議と覚えていない。

私の一生で、たった一度の思い出だ。

この思い出は、長い間、私を苦しめ続けた。

私の母親は、あんな事してくれない。

手を繋いで歩いたことさえ無かった。

カズコは、幼い私に触れられることさえ拒絶した。

「お前は堕ろすつもりやった。

なのに、意地汚くわしの腹にしがみついて

生まれてきよったんや。」

そう言ったカズコの目は、

本当に意地汚いものを見る目だった。

だから私は、ずっと私という存在を恥じてきた。

何をしていても後ろめたさが付き纏う。

この思考が、どうやっても消えない。

それなのに、あのたった一度の夜が恋しくて、

私は諦めきれず生きて来てしまった。

あの心地良さを知らずにいたら、

私はこんなに苦しまずに済んだんだ。

 

あれは呪いか・・・

なんの呪いだ?

もう忘れたい。

 

ところが最近、また不意に、あの夜を思い出した。

それは、興奮して取り乱すカズコの背中を撫ぜていた時だった。

私は、カズコに問いかけた。

「カズコさんのお母さんは、

どんな人だった?」

すると、怒りに強張っていたカズコの顔が緩んだ。

「ええ親やったで。

それはそれは優しい親やった。

わしは、どえらい可愛がられたんや。」

カズコは昔から、事あるごとに

在所へ帰りたいと嘆いて酔い潰れていた。

何がそんなに苦しかったのか、

カズコの心の内は私には分からない。

けれどボケてからのカズコは、両親の思い出話をする時、

まるで子供みたいな顔をするようになった。

さっきまで怒り狂っていたくせに、

両親へ思いを馳せる無邪気なカズコの姿を見ていたら、

私の体が溶けるようにじんわり温かくなっていく。

それは、あの夜感じた感覚と似ていた。

そのまま、しばらくカズコの背中を撫ぜていたら、

カズコの記憶に残る母親の姿と、

私の体に残る祖母の感触が、

「繋がった。」

そんな感覚にとらわれた。

 

あれは呪いなんかじゃない。

あれは、この瞬間のために祖母が掛けた祈りだ。

どんなに苦しくても生きてきたカズコと、

どんなに自分を恨んでも生き続けた私への祈りが、

今この瞬間、成就した。

私には、そう思えた。

 

ああ、これでいいのか。

私は、私で良かったんだ。

 

そう納得した時、私の心の中の、

長い間どうしても消せなかった自分への後ろめたさが、

消えていた。

 

さて、我が家は、あやの憂鬱が続いていた。

あや「のんちゃんの次はこいつだわ!」

 

あや「なに?何の用なの?まったくもう!」

 

あや「静かにジーッと見てられると戸惑うわ!」

そそ、どうしていいか、戸惑うよね〜。

 

あや「もう付き合ってらんない」

ほら、あやさん隠れちゃったぞ。

 

おたまは、何か言いなさいよ。

おたま「おばちゃんのスパッツの柄、なんか凄まじい。」

うっせーうっせー。


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12 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
チコさんへ (おかっぱ)
2024-06-07 05:57:36
チコさん、おはようございます。
田舎の原風景、チコさんの田舎もそうだったんですね。
いいお祖父ちゃんがおられたんですね。
小さなチコさんに、いっぱいの祈りをくれた人ですね。
自分の居場所、うんうん。
私もそんな気持ちで、都会へ飛び出していきました。
チコさんは、今、ご自分の居場所を見つけられていますよね。
それまでには、きっと様々な経験や辛い思いをしてこられたんだと思います。
今、こんな風に言葉を交わせてて、
私こそ、チコさん生き抜いて来られて、
ありがとうございます。
私も「ここが居場所じゃーい」って思える自分に、
なりたいなって思います。
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桜吹雪さんへ (おかっぱ)
2024-06-07 05:49:07
桜吹雪さん、おはようございます。
ただのこじ付けと言ってしまえばそうかもしれないんですが、
うんと時が経った時、あの時は今のための出来事だったのかって
思える時が、時々あるんですよね。
そんな風に生きてる方が、ちょっと楽しくなりますしね。
無い物ねだりはするもんじゃないっと言うけれど、
無い物を諦めるのは難しい。
でも実は、無いのじゃなく、自分の理想とは違うけれど、
あったんだよって思えると、ああそうかって
納得できますね。
祖父母との関わりは、決して濃いものじゃなかったんですが、
こんな風に、今思えるのが有難いんですよね。
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Unknown (チコ)
2024-06-06 14:25:46
こんにちは

深い深いお話をありがとうございます。
そして、お祖母様一晩だけでも おかっぱさんの心に残る夜をありがとうございます。
お母様からの言葉とか…私の母親も今で言うなら毒親でした。田舎の風景は同じように、牛ガエルの鳴き声が怖くて眠れない夜を思い出します。
こんな所から早く抜け出して、自分の居場所が欲しい!と思っていました。
祖父だけが優しく、私の為の厳しさも理解できました。

おかっぱさんは、自分を見つけて下さいね!
おかっぱさん!生きていてくれて本当にありがとうございます❤️
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Unknown (桜吹雪)
2024-06-06 10:26:23
おはようございます。
とても奥が深いお話でした。
人は愛されて育つことが、その後の人生にとって、とても重要だって聞きますよね。
いろいろな家庭環境や因縁があって、そうなっているんでしょうけど、そのどれもがすべて意味があって、そして今があるってことですもんね。
おばあちゃんの愛情が、おかっぱさんと、かずこさんに伝わっていて本当に良かったと思います♡
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ひいなさんへ (おかっぱ)
2024-06-06 07:07:51
ひいなさん、おはようございます。
虐待は連鎖すると聞きますが、救いなのは、
カズコは逆でとても愛されたってことです。
その分、マシな方かもと思ったりしますが、
やはりつらかったです。
ひいなさんのご両親と似てて、私も生まれなかった兄妹が、
何人かいます。もちろん、悪気なく。
ましてや、姉の2人目の妊娠時にも悪気なく、
「その子は堕ろせ」と言っちゃいましたからね。
まともじゃないですよね。うちもひいなさんのお家も。
それでも、ひいなさんはお母様を最後まで守り抜いたんですもんね。
私もふっと考えちゃうんです。
どうして、介護してんだろ?って。
まるで自分が偽善者じゃないかと疑うんです。
でも探ってみても、そんな気持ちじゃないんですよね。
知りたいんですよね。多分、自分を知りたい。
だから、親を見続けていたいんでしょうね。
親孝行なんて、しようとは思いませんけどもね(笑)。
ただ、自分のために必要なことなのじゃないかって
最近は特に、そう思えます。
私、長い人生で、体もかなり虐めて来ちゃっています。
大事にする意味が分からなかったんですよね。
でも今、本気で立て直そうと思っています。
心の根底にある憂鬱をひとつづつ解消できればと思っています。
でもかなーりゆっくりです(笑)。
私も、ひいなさんのお話を聞く度、行動を知る度、
ああ、きっと地獄だったろう過去を経て、
ひいなさんという人が存在しているんだなぁと
感服することがよくあります。

確かにほんと、責任が伴う事ですから慎重になりますよね。
そこをフォローする、ひいなさんのご苦労が計り知れません。
でも今、確実に救われている猫らの命がある。
本当に頭が下がります。

あや、モテモテなのですが、
いかんせん、男子の行動が謎過ぎておかしい(笑)。
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ポンちゃんままさんへ (おかっぱ)
2024-06-06 06:43:36
ままん、おはようございます。
そうです。しわくちゃの千円を持たせてくれた人たちです。
カズコを育てるには、かなり大変だったろうと思います。
それも、ここ最近かずこの妹さんの話でそう聞きました。
そんなカズコから聞ける祖父母の話は、愛の物語。
それが救いなんですよね。
カズコは我が子を愛せなかったけど、
カズコを愛してくれる親が居たのが救い。
おかしな話ですが、そう思えるんです。特に今ね(笑)。
ボケてもなお、その愛が残っていてくれるから、
どうにかやって行けてる気がします。
でもカズコがボケなかったら、私は今の至っていないんです。
ウジウジ後ろめたく生き続けていたと思います。
だから、カズコ、ボケてよかった(爆)。
そっか、第1夫さんのご実家に似てるって、
ちょっと待って。まさか岐阜?
カズコの実家、岐阜にあるんです。
ありがとうございます。
私、ようやく本気で、自分のことを大事にしようと
思えるようになってきました。
そのために、生活習慣も、今見直しています。
憂鬱の種を、一掃してみたいと思う。
頑張ります!!
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solo_pinさんへ (おかっぱ)
2024-06-06 06:31:01
solo_pinさん、おはようございます。
子供にとって田舎って有難み無いですが、
今思うと、凄く綺麗な田舎でした。
solo_pinさんのお父上のご実家も、綺麗な田舎だったんですね。
ありがとうございます。
知らぬうちの祈りの中で生きていられていたんだなって気付いたら、
まあ勝手にええように思っているだけですが、
それでもいいよね(笑)。

あいつはビビって逃げて行ったでしょうか?
私は、あいつがもう二度と出てこないよう、
祈っています!
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suzuloveさんへ (おかっぱ)
2024-06-06 06:26:26
かあちゃん、おはようございます。
力強いお言葉、ありがとうございます。
私ね、今、これまでしたことないことを気にしながら生きてます。
気付くとすぐ、後ろめたい気持ちを持つんです。
普通の当たり前のことをしてても、仕事してても、
ふと「私は邪魔じゃないかな?」って。
それを敢えて心の中心に持ってきて、
「邪魔なことしてないじゃん。大丈夫」って
自分に確認するようにしています。
自分を肯定するまでは、まだ出来んけど、
日の当たる場所を自分で構築していこうと思うんです。
かあちゃんも、ずいぶん淋しい思いをして育ったと
教えてくれましたもんね。
お祖母ちゃんは、何も言わずとも、気付いてくれていたんでしょうね。
かあちゃんも、祈りの中で生きていたんですよね。
それをふっと気付けた時、すごく有難くて、
幸せな気持ちになれる。
昔々のことが、今も自分を守ってくれるだなんてね。
かあちゃんも、それに気付ける人だから、
自分を幸せにできる力を持っているんです。
きっと、かあちゃんのお祖母ちゃん、
今も見守ってくれていると思います。
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Unknown (ひいな)
2024-06-06 00:26:32
こんばんは。
お祖母様、温かな祈りを残してくれたんですね。
今に繋いでくれたんだな、と思いますが、
お母様は、言ってはいけない事を言っちゃいましたね。
子供が傷つくという事が、全く思考上にない
親っているんですよね。
うちの両親もそうでしたが、避妊せずに
子作りし、ポコポコ堕胎していたんです。
たまたま妊娠した事が解った時、
当時子供に恵まれなかった従兄弟に
養子に出すという約束で、生まれたのが
私でした。女の子が欲しかった母が、
手元に残すと言い張り、今に至りますが、
そういう事を小学生だった私に、
言っちゃうんですもの。
父は父で、離婚届の母の欄に、私に名前を
書かせましたし。
知らないうちに離婚されていたと泣く母に
この事は話せませんでした。
両親のように、きっとお母様も悪意はない
のでしょうね。
それが分かるから、余計に辛いですよね。
でもそんな課程が、今の人の傷に敏感で、
温かに寄り添う事の出来る、おかっぱさんを
作ってくれたのかな、と思います。

前回のコメントへの優しいお返事、
ありがとうございます。
1度手を出したなら、最後まで面倒を見る
覚悟がなきゃと思うんです>_<
随分と伝えて来たと思っていたのになぁ↓

紅一点はモテますよね(^^;
おたまちゃんの、一途な気持ち、
よーく伝わります(笑)
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Unknown (ポンまま)
2024-06-05 22:31:56
お婆ちゃん、凄いものを残してくれたね~。
あの、クシャクシャの千円札をくれた方?
なのかな?
田舎の夜の感じが、第一夫の両親の故郷みたいで
そのまんまあの時の光景を思い出したよ。
でも幼いおかっぱさんにとって、そこは
落ち着かない場所だったんだね。
だけどお婆ちゃんのトントントンが
いつまでも心に残ってた・・・。
あたしからしたら、壮絶な幼少期だったなぁって
思わずにはいられないけど
それをこうして一服の清涼剤みたいな
物語にしてくれて。ありがとうね。
母親として、絶対に言っちゃいけない言葉を
吐いたカズコさんに、ばっかも~ん!って
一瞬怒鳴りたくなったけど、それもこれも
おかっぱさんが広い心で受け止めてあげて。
あたしゃもう何も言うことはないよ。
おかっぱさんは、そういう色んなことが
あってこそのおかっぱさん。
おかっぱさんで良かったよ。
がんばって生きてきてくれてありがとうm(__)m
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Unknown (solo_pin)
2024-06-05 22:07:06
こんばんわ。

あー。。うちの父の実家も
そんな感じなので、夜の感じとか
虫やカエルが鳴いてるのとか
イメージしちゃって、ふふふでした。
おばあ様、素敵なかたですね。
そう、祈りなのですよね。
この子が幸せでありますようにと。

お祖母様、ありがとうございます🌸
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Unknown (suzulove)
2024-06-05 20:32:22
おかっぱちゃんは、おかっぱちゃんのままでいい! 
どう変えることも変わることもない、おかっぱちゃんのままがいい!
おかっぱちゃんの体に残るお祖母様の感触が、今のおかっぱちゃんを作っている気がします。
お祖母様のさり気ない愛情そのままが、おかっぱちゃんだと思います。
だから、おかっぱちゃんはおかっぱちゃんのままでいい、いや、そうでなれければいけないんです。
おかっぱちゃんのお祖母様と、私の父方の祖母は似てると思いました。孫の私に多くを語ることはなく、必要以上に触れられた記憶もないけれど、凄く愛されている波動だけは感じられました。愛情の押し売りをせず、さり気なく愛情深い人でした。
今おかっぱちゃんへのコメントを書きながら、祖母の事を思い出して涙が止まらなくなりました。
亡くなって34年も経ってから、今無性に祖母に会いたくなりました。
今の私を作ってくれた祖母に。
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