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お着物Enjoy生活からバレエ・オペラ・宝塚etcの観劇日記に...

小出さん初役「ジゼル」 ②

2008-09-14 13:29:37 | BALLET
配役表を見て、あぁ初日にして良かった!と思いました。
ソリストクラスが勢ぞろい。ジゼルの友人、パ・ド・ユィットに至るまで見所が多く、いつもは木村さんが定番な恋敵ヒラリオンを小出さんの実生活でのパートナーである後藤さんが演じるのも珍しく興味深い。
そしてミルタは大本命の井脇さんで、ドゥ・ウィリはお気に入りの西村さんと乾さん。

さて。序曲からソトニコフさんの注意深い指揮棒に応える東京シティフィルも心なしか音が滑らかなような・・・・

という期待がことごとく当った舞台でした。

マラーホフの出、からしてハッとさせるものが。
黒いマントに身を包みジゼルの家の前に忍んで来た貴公子アルブレヒト。
腰の剣をはずし、鄙の装いに身をやつしている・・・という設定でこの衣装は村人風のものではあるはずが、白いブラウスにチャコールのベスト。グレーのタイツで、やや簡素ながらも都会的。
久し振りに変に固めず(笑)サラサラの金髪がまぶしいマラーホフにはよく似合う。
マントを取って身体のラインが露わになった瞬間、あぁなんてきれいなダンサーなのだろう・・・と心から思った登場シーン。

ジゼルの家の前に現れるもう一人は彼女に片思いの森番ヒラリオン。
東バでは木村さんが濃い演技と端正な踊りで演ずるのが定番の役どころですが、今回は後藤さん。
に、似合う・・・!
長身で欧米人のような立体感のあるプロポーションながらカールしたくしゃくしゃヘアと白塗りが今ひとつ似合わないお顔立ちの後藤さんが茶色の毛皮やスウェードづかいに髭のワイルドな姿で颯爽と現れた瞬間。これだわ!と膝を打ちました。
今日の獲物の山鳥を小さな花を添えてそっとジゼルの家の扉脇に残して大きく投げキッスをする明るいオーラ全開の後藤ヒラリオンからは村一番の好青年、という言葉が自然に・・・。
木村さんは踊りも端正、ノーブルな持ち味が、いつも森番、というには・・・と引っかかるものと感じていたのでなんだかスッキリ(笑)

アルブレヒトは領主の息子。見初めた村の美少女ジゼルとの逢瀬を身分を隠して時折楽しんでいる・・・というお話。従者は諌めますが意に介さず、ジゼルを呼び出します。
ジゼルにとっては初恋。花占いで悪い結果を予想して気を落とす彼女から花を受け取りそっと一枚ちぎってほら良く見てご覧と微笑みかけるアルブレヒト。
殿様の戯れの恋にしてはあまりに優しく甘いマラーホフの役作り。
小出さんのジゼルは心臓が弱い・・・という設定もあり、愛らしく可憐ではありながら、どこかひそやかなはかなさを感じさせ、交わす視線もどこかいじらしい控えめな感じがあります。
小柄で均整のとれたスタイルに小づくりなお顔立ちの小出さんにはそんなジゼルがぴったり。
初役のはずですが、後藤さんをお稽古の相手として万全の準備を重ねてきたというだけあってジゼルがすっかりと身についているという印象です。

2人の様子を物陰から伺っていたヒラリオンがジゼルに愛を訴えるがアルブレヒトに追い返される。
もみ合った際にふといつもは挿している腰の剣を抜こうとする仕草と上段から構える態度に村人ならざるものを感じ怪しむヒラリオン。



秋のぶどう狩りの若者が集まって広場で踊り、その中で踊るジゼル。
音楽性豊かな小出さんのジゼルのバリエーションは柔らかなポアントとコントロールが素晴らしい。
パ・ド・ユィットで目を惹いたのは、アクセントとなるポーズの決まり方や美しさに風格さえ感じさせるさすがプリンシパル・・の中島周さん、初役の井脇さん似の美人でコールドの頃から目を惹いていた吉川留衣さんを巧みなサポートで大きく踊らせる平野玲さん。
平野さんは吉川さんと組むのは初めて、とおっしゃっていましたが、手足が長くて爽やかな雰囲気を持つ二人の並びはわたくし好み。今後も見る機会が増えるといいな、と思ったペアでした。
乾さん-長瀬さんの初役ペアも注目しているので・・・今後伸びるのでは?と期待。

ジゼルの友人にも西村さんを筆頭に高木さん奈良さん田中さん・・・とこのところソリストとして活躍の若手女性陣が配されて華やか。
西村さんはジゼルに対してとりわけ感情豊かな演技で接していてアームスの柔らかさと共に目を惹きました。

心臓が弱いジゼルが つと踊りの輪から離れ、アルブレヒトが優しく気遣いますが、家から出てきた母親ベルタがジゼルを家に入れてしまいます。
貴族の狩りを楽しむ一行の到着を告げる角笛に驚き姿を隠すアルブレヒト。
ヒラリオンはある確信を持って小屋の中を探し剣を発見。

アルブレヒトの父、クーランド公爵、婚約者バチルド姫らはジゼル家に飲み物の接待を依頼。
美しいバチルド姫にそっと近づき無邪気に衣装にふれてしまうジゼル。
その純粋さに感じた姫がジゼルに自分のネックレスをかけてやり、打ち解けて自分が婚約中であることを話しつつジゼルの家の中で休息。

再び広場に若者たちが戻り、アルブレヒトも姿を現す。
そこでヒラリオンによる暴露。この剣が証拠だ。
ヒラリオンが吹く角笛で貴族が登場。
村人の姿のアルブレヒトは父に挨拶、婚約者の手をとる。混乱するジゼルにほら、婚約者がいるっていったでしょわたくし、と指輪を示す姫。
裏切りを知ったジゼルはショックのあまり、花占いの仕草をしたり現実と夢の区別がつかなくなり皆の中心で彷徨い壊れていく。
この「狂乱の場」はバレリーナにとってひとつの演技力の見せ所。
哀れを誘うか激しい感情の揺れを強調するか・・・・髪の乱しかた一つとっても個性の出るところ。
小出さんジゼルはアルブレヒトにもヒラリオンにも届かないどこか遠くに行ってしまったという静かな哀しみによる締め付けられるような思いが息の根を止めた・・・という一幕ジゼルの演技全体のトーンを崩さない、控えめともとれる演技でこの場を表現。
悲痛のあまりヒラリオンに突っかかるアルブレヒトを気遣う従者、殺すなら殺せ!と堂々胸を差し出すヒラリオン、目で非難するバチルド姫、姫を気遣いその場を去らせる公爵・・・それぞれが自分の時間を舞台上ではっきりと生きている東バの脇にあってはジゼルが突出しない抑えた演技は自然にドラマに吸収されてバランスが良かったと思います。