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お着物Enjoy生活からバレエ・オペラ・宝塚etcの観劇日記に...

小出さん初役「ジゼル」 ③

2008-09-16 05:10:25 | BALLET
2幕はミルタの井脇さんのパドブレがこの場がウィリの世界であると知らせます。
厳しく直線的で硬質な動きで表現されることの多いウィリの女王ミルタですが、井脇さんのミルタはしなやかな上体、優美な指先の表情で、威厳と品格を醸し出しながらもなんともエレガント。

ミルタに仕えるドゥ・ウィリの西村さんと乾さんも同様に柔らかさと品格を持つバレリーナなので、腕や上体の角度に至るまで見事に揃ったコールドの美しさも相まってこの世のものならぬ世界、が何の破綻もなくそこに息づいている、と思わせる様は見事。



場面は夜の墓場。ジゼルの墓前へ現れるヒラリオン。
鬼火に驚き立ち去る。
次にアルブレヒトがミッドナイトブルーのマントに身を包み、白百合の大きな花束を抱えて現れる・・・。
この場面の耽美的な美しさはマラーホフならでは。
悔恨に苛まれるアルブレヒトの目の前にウィリとなったジゼルが現れ、誘う。

婚礼前に死んだ娘がなる亡霊、それがウィリ。
墓所に訪れる男性を躍らせて死に至らせることを使命とする彼女たちがヒラリオンを捕らえる。
見事なジャンプを繰り返しつつも命乞いをする彼を容赦なく躍らせ沼に突き落とすウィリ。
優雅なウィリだけにコワイ・・・・。

そしてアルブレヒトも・・・。
ミルタの前、音楽を先取りするような高速のブリゼで何度も舞台を横切るのですが悲痛な表情とは裏腹にそのパは軽やかで床上数センチをキープして浮遊しているかのよう・・。
さすがマラーホフ。
昨年は怪我、その前数年はウィーン、そしてベルリンと芸術監督の激務のせいか、心なしか衰えとまではいかないがお疲れでは?と思えたことの多かった彼の舞台でしたが久し振りに万全充実の舞台を見ることが出来たような気が。

もう息も絶え絶えで許しを請うてもミルタの拒絶。
そのアルブレヒトの前、自らを十字架の形にして彼をかばう小出さんジゼル。
ミルタに対して強く懇願するというよりもアルブレヒトへの愛が彼を守るという決意となって自然と行動してしまった・・・という静かなる母性。
2幕の小出さんのジゼルは愛らしい丸顔でありながら、どこかオトナな昔の日本女性ってこんな感じだったのでは・・と思わせる控えめな芯の強さと優しさに、肉体を超えた精神性を色濃く打ち出した、出色のジゼル。
足音もなくたっぷりとしたアダージョで踊ることができる、というこの2人にオケ(ソトニコフ氏)のピッタリと合わせて、思わず息を呑みながら凝視。

やがて朝が来てウィリたちが去り、ジゼルも自らの墓で白い花を一輪手渡してアルブレヒトの前から姿を消します。
墓前に供えた百合の花束を抱えそしてハラハラと取り落とし、ジゼルからの白い花を手に、崩れ落ちるアルブレヒト・・・・。



舞台の上でのドラマ、という枠を超えて、劇場全体がこの「ジゼル」の時間を生きる稀有な体験をしました。
全幕ものでもここまで入り込めるのは稀なこと。
カーテンコールで大きな拍手を受けて、温かく微笑む井脇さん、落ち着いた小出さん、そして未だアルブレヒトから戻って来れないでいるマラーホフの、3人三様の表情が印象的でした。