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お着物Enjoy生活からバレエ・オペラ・宝塚etcの観劇日記に...

MET2011「ランメルモールのルチア」 ②

2011-06-15 10:53:33 | OPERA
2011年6月12日(日) 15:00公演
東京文化会館にて

The Metropolitan Opera Japan Tourの
「Lucia di Lammermoor」の感想です。



ドニゼッティ:「ランメルモールのルチア」 上演時間:約3時間15分
■あらすじ(Japan Arts HPより)
「17世紀のスコットランド。ランメルモールの領主エンリーコは、その権力を磐石にして宿敵に対抗するため、自分の妹ルチアを裕福な貴族アルトゥーロと政略結婚させようとしていた。一方ルチアは、以前助けてくれた騎士エドガルドと密かに愛し合っていたが、実はこの騎士こそ、兄エンリーコの宿敵であった。兄の計略によってエドガルドが心変わりをしたと信じこまされたルチアは、失意のうちに政略結婚のサインをしてしまう。追い討ちをかけるように、婚礼の場に駆け込んできたエドガルドにも責められ、ルチアはついに発狂、祝宴が続く中、血染めの花嫁衣裳をまとい、息絶えて行く。“狂乱の場”と呼ばれる名アリアはもちろん、ドラマ全体にも見所の多い、ベルカント・オペラの傑作。」

端的に言ってしまうと、17世紀スコットランドを舞台にした「ロミオとジュリエット」。
偽の手紙で運命が狂わされていく辺りは「オテロ」風味?
この演出では時代が19世紀に設定されているそうで、中世っぽさとスコットランドの民族色はやや薄れていますが、
兄エンリ―コの忠実な僕ノルマンノの服装がダークな色調で分かりづらくはありますが、タータンチェックのストールを肩から斜め掛けしてベルトで押さえる軍服調で舞台はスコットランドなのだな、と匂わせます。

■第1幕

林に続く道端の土手。背景に木々と屋敷のシルエットが。
ヒロイン・ルチアの兄、領主のエンリ―コ・アシュトン、護衛隊長ノルマンノ、牧師でルチアの家庭教師でもあるライモンドの3人。
不審者の立ち入りに部下に捜索を指示するノルマンノ、捜索隊が2頭の立派な大型犬をつれているのがMETならでは^^
さすが役者犬、良い子にしています^^
エンリ―コが衰退する家の窮地を救うためルチアを金持ちのアルトゥーロに嫁がせようと語ると、
ライモンドは母親の死に沈むルチアを慮り、ノルマンノは、暴れ馬?から窮地を救われたことで宿敵レ―ヴェンスウッド家のエドガルドとルチアが恋仲となっていることを明かします。
不審者とは憎きエドガルドか!怒りに燃えるエンリ―コ役のルチッチが上手いです。よく響くバリトンでヴェルディものが似合いそう。

一方ルチアは森の泉のそばで、エドガルドを待っています。
ダムラウ、インタビュー画像ではブロンドでしたが、ここではブルネットに。
ダークグリーンの襟の詰まったドレスがスコットランドっぽいです。
お付きの侍女に泉の悲しい伝説を語るところで、後の悲劇を示唆している場面で、ぞっとするような幽玄の表現から一転して、宿敵エドガルドへの熱い思いを歌います。(「あたりは静まりかえり」)
そこに颯爽と現れるエドガルド。
シベリア出身の新星アレクセイ・ドルゴフくん。
スラリと長身でサラリとした金髪、顔立ちに少年っぽさが残る彼はリアル・エドガルド。
ヴィジュアルの説得力はまずOKかと^^
出産したばかりで今や母となったダムラウですが、エドガルドがサッと脱いで草の上に敷いたマントにいそいそと膝をついてくつろぐ様も愛らしく、ちゃんと少年少女のカップルに見えるところはさすがの演技力。
この悲劇は2人の若さゆえの傷つきやすさ、弱さから引き起こされるものなので、そこの前提が見えてこないとドラマが成り立たない。ですので、これは大事なポイントです。
父親を殺された恨みと愛するルチア。殺したのはルチアの兄、と恨みながらも、政治的任務のためにフランスに渡らなければならないが、お兄さんにはちゃんと話して二人の仲を認めてもらおう、とエドガルド。
ちょっと、矛盾していませんか?^^;ルチアは今はまだ秘密の仲でいたいと言います。
旅立ちを急ぐエドガルド。引きとめるルチア。2人ははめていた指輪を交換し、二重唱「ここで妻としての永遠の証を~ああ!私の燃えるため息が」を歌います。別れがたい2人。でも、エドガルドはさっそうと出発。
ここで2人はお互いを生涯の伴侶と誓ったのです。

■第2幕

アシュトン家、薄暗がりの城内大広間。
下手側の大きなデスクの他の家具にはほこりよけの布が掛けられていて、留守中のよう。
きっと召使も縮小して、緊縮財政でまわしているのだろうと伺える演出です。
そのデスクにかけたエンリ―コがルチアに持ちかけたのはアルトゥーロとの縁談。
当然、心に決めた方が、ときっぱりルチアは断りますが、エドガルドからと言われて読んだ手紙に書かれた心変わりをたやすく信じ、茫然自失に。
ここでの二重唱も圧巻。「こちらにおいで、ルチア~もしも、お前がわしを裏切るようなら」
気丈にふるまってたのに、裏切りという思いがけない出来事にぽっきりと心が折れて、動揺するルチア。
そこにつけこむエンリ―コ。
家のために結婚するのだ、しないのなら家を裏切ることになるのだぞ。
絶対家父長としての威圧感は、昔の名家はさもありなんと納得の強さ。

牧師ライモンドも現れてルチアに我慢を要請します。
ライモンド役のアブドラザコフ、背が高く黒髪で慈愛に満ちたバス・バリトン。
ちょっとステキ。ダムラウとの並びも美男美女でいい感じ・・・・とプロフィールを見たら、今回キャンセルしたけれどもエボリ公女にキャスティングされていたオルガ・ボロディナの旦那様なのですね。
ボロディナと言えば、2001年「サムソンとデリラ」でドミンゴの相手役だった記憶が。妖艶な方でした。
今回エボリ、楽しみにしていたのに残念!
押し切られた形での承諾。
あぁ良かった、早速準備だ。
さぁ、披露宴だ!
召使たちが現れて機敏に布をはずし、場を整え始めます。

その浮き立つ背後とは裏腹に机の上の短剣(レターオープナー?)を手に自分に向けて暫し考えますが、そのままその剣を袖の下にしのばせます。

さて、照明も明るくなり、シックなアイボリー~グレー系の中間色のフォーマルの紳士淑女たち、大勢の招待客も到着。
まだ茫然として事実を受け入れることの出来ないでいる風情のルチア、真っ赤なドレスで顔面蒼白。
到着した花婿アルトゥーロは美しさに感嘆しますが、ルチアがふさいでいるのは母親を亡くして間もないせいですとエンリ―コがすかさず言い訳。

そこに疾風怒濤の勢いで衛兵を突き飛ばし、舞台奥中央からまっしぐらに前方、婚姻のサインを終えた花嫁に向ったのはエドガルド。
ここ、ブロンドの前髪をなびかせて若さゆえの勢いでマントを翻して登場したエドガルド、カッコ良かった。ドラマティック。
本当に、ドルゴフくんはこの役に合っています。
噂を聞きつけて急遽帰国したんだ!
花婿と兄がこのお邪魔虫を追い払おうとしますが、自分こそが彼女の婚約者と言って譲らないエドガルド。
ところが誓約書を見せられて、ルチアの裏切りにショックを受けた彼は、指輪を投げ捨て、ルチアから奪い返した指輪をはめ、さぁ、殺せとばかりに衛兵から奪い取った剣を差し出すジェスチャー。
うーん、ここでルチアや婚約者を刺すでもなく、自害して果てるでもなく、恨み事は言っても指輪はきちんとはめてるし、剣も結局はだれも傷つけていないし、エドガルドってホントにおぼっちゃま。
本当に乱暴なことは出来ない性質なのですね。
この場面、あまりのことに嘆くルチア、批難するエドガルド、ルチアさまお可哀そうにのレイモンドと、妹を犠牲にしてしまったと後悔するエンリ―コらによる有名なセスト(六重唱)が。緊迫感とハーモニーの妙が素晴らしい!
エドガルドは怒りと絶望に我を忘れて走り去ります。

■第3幕

荒廃したレーベンスウッド家。
1人、鬱々としているエドガルドのもとにエンリ―コ登場。よくもさっきは邪魔してくれたな。
今頃、ルチアとアルトゥーロは・・・と嘲笑うエンリ―コ。嫉妬に苦しむエドガルド。
激しい掛け合い。
翌朝決闘だ。

一方、アシュトン家では・・・。
1階の大広間での祝宴がたけなわのランメルモール城。
2階へつづく階段とそこから続く2階の廊下の奥は若夫婦の寝室。
そこから現れた蒼白のライモンドが階下の招待客にもたらした知らせは・・・。
ルチア様がアルトゥーロ様を刺し殺して狂ってしまわれた!叫び声が聞こえて扉を開けたらそこには・・・、ということ。
お可哀そうなルチア様・・・。
背景に大きな月が現れます。Lunatic・・・狂気のシンボル。
そこにフラフラと姿を現したのは白い婚礼のドレスを血で染めたルチア。

ソプラノの技量の見せどころ。
所謂「狂乱の場」、正気を失った状態のルチアが、テクニックを駆使して、狂気、恐怖、失った愛の日々への甘い追憶、などを自在に使い分けた声で表現します。
亡霊に怯え、自分のドレスの血を見て恐怖し、エドガルドとの逢瀬に心ときめかせた日々(「優しいささやきが」)、果たせなかったエドガルドとの結婚式を思って語りかける様(「お香がたちこめて」)などデリケートな歌唱が歌詞とピッタリ寄り添った演技でより素晴らしいものとなっています。
小造りで整った顔立ち、ドレスの似合う容姿もルチア役者として最強。
ダムラウ、圧巻。
狂気の演技も、逝ってしまったヒト、というよりは、かよわい魂が次々と押し寄せるプレッシャーと絶望的な状況に耐えられなくなって破綻をきたした、という状況から観ていて納得の出来る流れを踏まえた演技。
狂気そのものが単独で浮き立つのではなく、若さゆえにわが身を守る世知も強さもなかった純粋な若い女性の壊れた心の悲しみがきちんと伝わります。
帰宅して状況を把握できず憤るエンリ―コをエドガルドかと迎えるルチア哀れなり。
階段に座り込んで花嫁のヴェールを小さく引き裂きます。
医者が現れて鎮静剤の注射を打ちますが、その薬がまわって朦朧とする様をも曲に合わせてコロラトゥ―ラの技法にのせて表現。
いたたまれずエンリ―コ退場。
最後、幻のエドガルドに天国で会いましょう、と呼びかけて気を失い階上に運ばれるルチア。

場面変わって。
決闘の場として指定したレ―ヴェンスウッドの墓場ではルチアを失ったエドガルドが悲しみにくれています。
もう、この場で殺されても構わない、ルチアを失ったのだから。
最終幕でのテノールの見せ場のアリア。(「私の祖先の墓よ」)
高音もきれいに伸びていました。
ドルゴフくん、声質そのものはふくらみがなく硬質で、でも不快ではなく、自然の4元素でいうと火でも水でも土でもなく、風、という感じの声。
若さに似合わぬテクニックの確かさと丁寧な歌唱で、とても気持ち良く感情移入できますし、エドガルドの短慮にイラつくこともなく、若さゆえの悲劇だなぁとしみじみさせてくれる資質は貴重です。
初MET共演、初来日。
一日限りの代役で、緊張したかも知れませんが、自分の良いところをしっかりと打ち出してみせることが出来たのではないでしょうか。
ロンドンではボリショイ・オペラの公演で「エフゲニ―・オネーギン」に出たらしいとNaoko様に教えていただきました(ご本人はご覧にはなっていないそうです、残念)。その後、それで調べたら、レンスキー役だったとか。ぴったり!だと思います。
レパートリーを選ぶタイプかも。これから年齢を重ねていくとどうかしら?
上手に成長していってほしい貴重な演技派Visual系テノールとして、今後も注目したいと思います。

ルチアの死を告げられたエドガルドは、最後、天国で一緒になれますように!と歌い上げて自らの剣で自害します。
この時、すでにエドガルドは亡霊となったルチアに包み込まれるように見守られており、その慈愛の視線を受けながらの歌唱。
膝をついた彼に覆いかぶさるかのように手を広げて立つルチアは白粉をふったような白髪で、ミケランジェロのピエタのよう・・・。

オケも良かった。
マエストロ・ノセダが、終演後、良かった奏者を指揮台から君と君、そして君も、と1人ずつ手で名指しして褒めていました^^





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2 コメント

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Unknown (Naoko S)
2011-06-18 19:56:26
mariaさん、METレポ続々とアップしてくださってありがとうございます。楽しく拝見させていただいてます。

ランメルモールのルチア、メジャー作品にもかかわらず地元ロイヤルオペラのレパートリーには長年入っていなくて、生で全幕見たことがないのですよ私・・・。なので、mariaさんの緻密な舞台描写が大変有難かったです。(ふむふむ、こんなオペラだったのね~)

タイトルロールを演じたディアナ・ダムラウは期待に違わず良かったみたいですね!彼女は今もっとも聴きたいソプラノの一人なのでとても羨ましいです。

>>ロンドンではボリショイ・オペラの公演で「エフゲニ―・オネーギン」のレンスキーで好評を博したとNaoko様に教えていただきましたが、レンスキー、ぴったり!だと思います。

mariaさん、私はドルゴフ君未見です~。(拙ブログのコメント欄にちょこっと書きましたが)前回のボリショイオペラ公演はパスしてしまったので、まだ見る機会に恵まれておりません・・・。

しかし、彼はなかなかよさそうですねえ。もしかしたら今回のMET公演、未来のスターが後々キャリアの転機として振り返るイベントとなるかも??

さて、お次はドン・カルロ!レポ楽しみにしております~~。
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Unknown (maria)
2011-06-19 04:44:18
Naokoさま~
おはようございます^^

もう、METウィ―クが終わってしまった・・・(いえ、公演自体はまだあと少しありますが)
myチケットは終了でございます。
しかし、3演目それぞれにこの充実とはMETおそるべし!
キャンセルがでてもでても来日してくれた歌手のクォリティが他のキャンセルなしで
上演されている公演の上を行くあたり、流石でした。
今は、終わった寂しさよりも、一つ一つの舞台を思い出してはウフウフしています{ハッピー}

ドルゴフくん、某所でロンドンのオネーギンで好評、と聞いていたらNaokoさんのところでレンスキーだったとわかり・・で、わかりづらい書き方をしてしまいました^^;スミマセン^^;
でも、彼はホントに良いですね!
コロッコロテノールの時代は終わったのか・・・。
彼も、「ドン・カルロ」のヨナス・カウフマンの代役、ヨン様ことヨンフン・リ―もすらりと長身で見栄えがしますし演技も出来る。。。
なんとなく新世代がでてきたな、感がありますね^^
ワクワクします{ルンルン}

「ドン・カルロ」
大好きなオペラなのですが、わたくしにとっては鬼門で・・・
MilanoScala座レポでも一度挫折していますように、見どころ満載、自分の中で掘り下げたいポイント多数につき書く前に爆死{爆弾}してしまうという・・・{汗}
ちょうど良いタイミングでご催促いただき、大いに励まされました!
日曜夜をお待ちくださいませ~(予告){止まるひよこ}

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