昨日(4日)は天竜の木材加工メーカー・フジイチさんを再訪し、天竜材の伐採作業を見学しました。若き“木こり”野村洋一さんに「材木屋さんや住宅メーカーの人でも、杉と檜の見分けがつかない人がいるんですよ」と聞いて、ハハハ~と同調笑いした私ですが、質問ふられたらど~しよう・・・とヒヤヒヤもの。
ちなみに檜は幹の表面が荒っぽく垢剥けた感じで(写真左)、葉っぱは手のひらを広げたような形。杉は幹が硬くしまっていて(写真右)、葉っぱは檜より密集して見えるそうです。
伐採された木は、葉がついたまま、その場で3ヶ月ほど寝かされます。これを『葉枯らし』といい、3ヶ月の休眠で水分が3分の1ほど抜ける。含水率の高い杉の場合、重量が3分の2になるのは運搬作業の軽減にもなります。山から運び出されて工場敷地に来たら、さらに乾燥を進め、防虫のため、皮を剥いた状態で半年~1年寝かします。製材を終えたらさらに半年~1年、天然乾燥。木の強さや色合いを引き出し、本性を落ち着かせるのに、実に2年余の歳月をかけるわけです。
杉や檜の見分けもつかない材木屋がいるというのは、この、伐採~葉枯らし~出材の手間を省いた“原木市場からの仕入れ”に頼っているから。見た目は同じ木材でも、フジイチのように、山の立木から生育状況を熟知し、木の特性をしっかりと把握した上で製材や乾燥を施す業者もいるんですね。
これって、酒造業でいえば、原料米をJAや商社からの仕入れに頼っているのと、自社で栽培もしくは地元農家と契約栽培するなどふだんから米の生育状況をつぶさに見て、米の特性をちゃんと把握して酒を造る、という構図と似ています。
木を寝かせるという工程も、酒を熟成させるみたいで、同じように生き物を相手にする仕事なんだなぁと実感します。
野村さんたちフジイチの山林部社員は、最近、小中学校に呼ばれて環境教育の出前講座をするそうです。チェーンソーで木をバッサバッサと切り倒す映像だけ見ると、自然破壊をしているように感じてしまいますが、野村さんは子どもたちに「人が人工的に植えた木は、ちゃんと切って手入れをしないと、逆に自然を壊すんですよ」「でも木を切るときは、幹をコンコンって叩いて、中に棲んでるかもしれない虫や動物たちに、“ごめんね、今から切るからね”って合図をするんです」とわかりやすく語ります。子どもたちは、砂漠で水を補給するかのごとく、夢中になって話を吸収するようです。
フジイチでは現在、森林環境教育に関心を持つ地域の若者や教育関係者とともに、『TENKOMORI(天竜これからの森を考える会)』を結成して、山仕事の価値を地域に伝道する活動を始めたそうです。TENKOMORIってネーミング、いいなぁ、欲しかったなぁ…!
三重県尾鷲、奈良県吉野と並んで日本三大人工美林と称される天竜川流域。この地の林業が再浮上することは、日本の森林環境の行く末を左右します。
この地は、工業立国ニッポンの象徴である自動車産業の創業者や立役者(トヨタ、ホンダ)が生まれた地でもあります。京都議定書で約束したCO2マイナス6%を、この10年で反対にプラス6%にしちゃったのは、自動車メーカートップが牛耳る経団連の意向で、ヨーロッパ先進国のように産業界も巻き込んだ低炭素社会構造に舵を切れない日本政府の無策にあったと聞きます。
ならば、この地から、環境立国ニッポンの兆しを示すべきではないか。その原動力は、農林業の浮上に他なりません。
今、フジイチ、早稲田大学工学部、静岡県の産学官協働プロジェクトで、レーザー光線での伐採、ガンダムのような林業機械ロボットの開発など、夢の研究を進めています。私が昨日、現場で見た自走式搬器(ラジキャリー)も、この研究の一環で自動化が進められました。このような、一次産業の二次産業化、二次産業の一次産業への応用を推し進め、環境立国への舵取りをする先進事例が、この地から生まれることを大いに期待します。
合板パネル商品のネーミングに、わざわざ山の伐採作業を見学する必要はなかったかもしれませんが、ネーミングの仕事とは別に、間伐が行き届いた森林を生見学できたのは、洞爺湖サミット直前で環境問題を扱う報道が多い中、本当に勉強になりました。
そして自分自身、現場を見て感じる・考える・伝えるライターでありたい、との思いを再認識しました。