先週末、東京で開催された第2回INTERNATIONAL SAKE CHALLENGE 2008という国際品評会で、清水の臥龍梅が最高金賞、藤枝の杉錦が金賞を獲得しました。昨年の第1回は磯自慢が最高位に輝いてます。審査員を務める松崎晴雄さんから別件でお電話をいただいたとき、「静岡は2年連続です。凄い評判ですよ」と高揚した声で結果をうかがい、改めて静岡県の吟醸王国たる姿が証明がされた!と実感しました。
この品評会は、10年前からJAPAN WINE CHALLENGE(JWC)を開催する団体が、近年国際的な声望が高まりつつあるSAKEの国際的評価を高めようと昨年から始めたコンテストで、JWCの審査で来日したワイン専門家の中から、とくにSAKEへの造詣の深いスティーブン・スペリエ氏(英Decanrer誌編集顧問・JWC実行委員長)、アンディ・ダイナス・ブルー氏(米ボナペティ誌編集長・ワインライター)、ミシェル・ベタン氏(仏・ワインライター)、松崎晴雄さん、ジョン・ゴントナーさんらが審査にあたります。基本的に出品費用のかかるメーカー自主参加型コンテストなので、すべての酒蔵が審査対象になったわけではありませんが、それでも300点ぐらいの出品酒の中から2年連続最高位に静岡の酒が選ばれるというのは大変なことだと思います。
昨夜、『吟醸王国しずおか』の撮影で、全国10蔵による生酛造り勉強会の研修先となった杉井さんを訪ねたとき、どんな酒を出品したのか訊いたら、「出品したのは静岡酵母のアル添吟醸2年古酒。自分としては極めて静岡らしい(=コンテスト向きではなく市販食中酒向き)タイプだと思っていたので、受賞は意外だった」とのこと。このコンテストは基本的に市販酒が対象なので、静岡の市販酒としての実力が正当に評価されたともいえるでしょう。軽快で呑みやすい静岡酒は、新酒の時期のコンテストでは他の個性的な酒に比べると印象が薄くなってしまうと言われますが、熟成させたことでボディのふくらみが増し、しかも持ち前のバランスのよさや喉越しのさばけのよさがプラスに働く・・・そんなふうに想像します。
さて、昨日は撮影の前、話題のドキュメンタリー映画『靖国』を観に行きました。上映中止やら何やらで物議をかもした作品だけに、どんなに衝撃的な内容かと構えていきましたが、実感としては、ごく普通のドキュメンタリーで、どこが問題なのかよく分からなかった。若い中国人監督らしく、日本刀の刀匠の姿を視覚効果的に挟んだり、小泉首相の参拝に対する賛否両論を取り上げるなど、バランスも取れていたと思います。
ただ、若い監督だけに、刀匠の人物描写が弱かったり、靖国神社で起こる出来事の描写もテレビの報道番組と大差ないレベル。2時間強という上映時間も、ドキュメンタリーではきつい長さです。監督には監督なりに伝えたいものがあったと思いますが、単調な実写映像だけに、あまり長いと散漫になるなぁ、このシーンは要らないなぁ…等など、途中から映画制作者の眼になって観てしまいました。
映画作り、とりわけドキュメンタリーは、作り手の強靭な思念が必要です。撮った映像はどれも必要があって撮っているわけですから、カッティングするには大変なエネルギーが要ります。どの画を使い、カットするかは、やはり作家がそのテーマとどう向き合うかにかかってくる。その意味では、同じ戦争を扱ったドキュメンタリーでも名作『ゆきゆきて、神軍』とか、昨年清水で上映会のあった『蟻の兵隊』などは、そこそこの長さはあったものの、監督が対象と向き合う覚悟のほどが凄まじく、観る側にも強烈な印象を残します。
ドキュメンタリーの勉強を始めたばかりの身で図々しい言い方かもしれませんが、『靖国』は、テレビの構成番組として3回シリーズぐらいに分けて見たら、よく取材して頑張って作ったと思えるレベルでした。内容的にはテレビで放送しても問題ない、普通の出来だと思います。
ですから、中国人監督が靖国神社を描いたという表層部分を取り上げて騒ぎの元を作った国会議員とか、国会議員が騒いだというだけで上映拒否という流れが出来てしまうのは、作品の評価とはあまりにも次元の異なる話でよく分かりません。上映拒否がさらに話題を作って、12~13日の静岡の上映会も大変な人出です。こういう注目のされ方が、作品にとって本当に幸せなのかどうか、これもよく分かりません。
ひとつ怖かったのは、上映前に映像機器のトラブルで10分ほど待たされたとき、隣に座っていたおばさんが「何やってるんだよ~」とか、後ろのおじさんが「カネ返せ」と言い出したこと。イラつく気持はみんな同じはず。それを、いい大人が数分も待てずに声を出して騒ぎ出すなんて、学級崩壊の児童みたいで恐ろしくなりました。この作品を従前から包み込んでいた刺々しさが、上映会場にも伝染していたのかも…。
作品の中でも、靖国でメッセージ行動を起す外国人に向かって「ヤンキーゴーホーム」とか「中国人が来るところじゃない、帰れ帰れ」と執拗にいきり立つ日本人が描かれています。彼らのイライラ感は別のところから来ているような気もして、日本人中高年の精神状態の危うさと、それが若者や子どもたちに伝染する怖さを感じました。
少なくとも『吟醸王国しずおか』は、観た大人たちが心豊かになり、若者にいい酒の味わい方を伝染させるような作品にしたいなぁと思います。