杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

寄付と補助

2008-07-26 10:55:59 | NPO

 今週は自宅デスクの前に座る時間がほとんどなく、今日(26日)やっとブログにログイン。更新のない日も訪ねてくださる方がいて、嬉しく思います。ありがとうございます。この1週間、ネタのオンパレードなので、少し頭を整理し、小分けに紹介していきます。

 

 22日(火)は静岡県NPO情報誌『ぱれっとコミュニケーション』の取材で、函南町平井のNPO法人芽ぶきを訪問。今年はNPO法が制定されて丸10年経ったことから、10年前、第一世代としていち早く法人化した団体を訪ねてこの10年を振り返ってもらうという取材です。芽ぶきは平成7年から任意団体で福祉サービス活動を始め、11年に法人化第1号として県に登録。同行したのは、やはり同時期に静岡県のNPO法人化第一号認証を受けた活き生きネットワーク杉本彰子さん。ぱれコミの発行総責任者でもあります。

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 福祉系NPOの場合、もとはボランティア活動がベースになっていた団体が多いので、法人化によって組織力を強め、経営の透明性・効率性を高め、法人団体としての社会的信頼と経営の安定化を図る…と口では言っても、一朝一夕にはいかないのが現実。日本には海外のようなドネーション(寄付)の習慣が浸透していないので、経営的に厳しいNPO団体がほとんどだそうです。そんな中、まがりなりにも10年、安定経営に努め、周囲の信頼を得ている芽ぶきや活き生きネットワークの存在は、静岡県のNPO活動の質の高さを証明しているようで、取材者のはしくれとして頼もしく感じます。

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 芽ぶきは、大手製薬会社を定年退職し、骨髄バンクのコーディネーターをしていた出口隆志さんが、妻と二人三脚で始めた訪問介護サービスからスタートし、福祉輸送の許可も取得し、函南と熱海の中間にある別荘地に介護センターを設けて、函南~韮山一円の利用者送迎を行っています。介護センターは、たまたま別荘地に独り住まいをされていた東京女子医大名誉学長だった太田八重子さんが全額寄付をされたもの。平成14年の完成直前に太田さんが亡くなり、その遺志を忘れないようにと、センターの名前は「太田八重子記念館・芽ぶき」にしたそうです。

 

 センター内は、ごくふつうの別荘の雰囲気で、利用者が、おともだちの家にでも遊びにきたという気軽さでくつろいでいます。周囲は自然豊かで散歩道も整備された一帯。お隣さんの庭樹の陰で暑さをしのぎながら、外の空気に触れてのびのびお散歩。デイサービス施設の環境としては申し分ありません。

 寄付行為が、特別な人間関係なしには成り立ちにくい日本では、貴重な事例かもしれません。介護施設を自前で建てた杉本彰子さんは、「ローンがないだけでも楽でしょう」とさかんに羨ましがっていました。

 

 日本で、寄付者に税制優遇のメリットがあるのは、認定NPO法人という、NPOの中でもハードルの高い条件をクリアできた法人のみ。国内で3万件以上あるNPOのうち、わずか74法人(0.2%)という少なさです(07年12月データ)。現在、超党派NPO推進議員連盟(加藤紘一会長)を中心に、条件を緩和し、認定NPO法人を増やそうという法改正が検討され、08年度中の改正を目指しているようですが、政治情勢いかんでどうなることやら・・・。

 

 

 

 

 私が作っている映画『吟醸王国しずおか』も80名余の会員寄付者の力に支えられています。昨年の今頃は、政府の中小企業対策や地域産業振興などに予算が付いたからと、補助金活用の話を勧められ、相談窓口を走り回っていました。しかしボランティア精神に基づいた活動を経営数値化することの難しさに直面し、初めから公費に頼るということ事態ちょっと違うなと感じて、とにかく自分が動いて汗する姿を見てもらって、それを純粋評価してくれる人の寄付を地道に募ろうと考え直しました。勇気の要る決断でしたが、表現活動をする上では気持ち的に自由になりました。

 

 

 

 社会的弱者のために心血を注ぐ彰子さんや出口さんの活動は、そんな悠長なことは言っていられないでしょう。映画づくりのような話と同列に語っては申し訳ないのですが、公的制度というものは、民間ボランティアが汗した後から付いてくるということが、お2人の話からもよく解ります。後追いでも何でも、制度化するのなら真に必要としている団体が利用しやすい制度にしてほしいですね。少なくとも福祉系NPOは、行政が対応しきれない地域の福祉課題を担う、社会に必要な存在なんですから。