杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

有東木の草取り

2008-07-21 19:17:01 | 朝鮮通信使

今日(21日)は『静岡に文化の風を』の会の皆さんのお誘いで、わさび栽培発祥の地で知られる静岡市の有東木(うとうぎ)へ行ってきました。

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 『静岡に文化の風を』の会代表・佐藤俊子さんとは、映像作品『朝鮮通信使』のロケで通信使の衣装を提供してもらい、実際に着付けも担当していただいたというご縁。

 15年前、金両基先生の呼びかけで芹沢銈介の作品を韓国に紹介しようという運動からスタートし、朝鮮通信使の研究や普及活動に長年尽力してきただけあって、通信使正使・副使の本格的な衣装(写真)も、自前でちゃんと作られたのです。

 

 金先生や佐藤さんには、本来ならば、『朝鮮通信使』制作に入る前からちゃんとご相談をし、いろいろとご指導いただければよかったのですが、いざ衣裳の手配に困ったり、シナリオづくりに息詰まってから慌ててご相談に駆け込んだ有り様。会の皆さんは、さぞ不快に思われたかと想像しますが、その後、佐藤さんは寒くてキツイ長時間ロケに、会のスタッフの方々と最後までおつきあいくださり、金先生はシナリオ添削に多大な貢献をされ、韓国語版の監修までしてくださいました。

 いきさつはどうであれ、自分たちが地道に研究し、声を発信し続けてきた朝鮮通信使という文化交流の存在にスポットが当たることなら、喜んで手を差しのべたいという、心ある判断と行動を示されたのだと思います。

 

 

 それから1年以上経ち、『朝鮮通信使』の制作現場に関わった人たちとは、今、『吟醸王国しずおか』を撮ってもらっているカメラマンの成岡正之さんを除いてほとんど接点が無くなってしまいましたが、ありがたいことに取材やロケでお世話になった外部団体の方々とは、ご縁をつないでいられます。私自身の、興味を持ったテーマや人物には粘着質のごとく追っかけるという職業病的な習性かもしれませんが、それを受け入れてくれる方々の広~い心のおかげ。なんだかんだ言っても、最後は<人>なんですね。

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 『静岡に文化の風を』の会は、当初、日韓交流専門の団体かと思っていましたが、活動舞台は静岡の地域課題や福祉、教育など多岐に亘っています。

 有東木とのかかわりは会の発足から間もない13年ほど前から。じっくり時間をかけ、地道に人脈を築き、住民との連携を深め、現在は里に蝋梅の樹を植える活動を支援しています。

 

 

 

 今日は植樹した場所の草取り。そうとは知らず、わさび田の見学にでも行くつもりで呑気に構えていた私は、佐藤さんに、「気の毒だけど手伝ってもらうわよ」と、軍手と携帯用蚊取り線香を手渡されました。「草取りするの、好きなの、土に触ってると、ホントに気持ちイイ」と佐藤さん。ふだんから園芸に親しんでいるようですが、こんなに気持ちよさそうに草取りする人も珍しいなぁと思えるほど楽しそうです。

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 そもそも有東木を梅の里にしようというのも佐藤さんのアイディア。佐藤さんのもとには、有東木地区の主だった方々が、表敬訪問するかのように集まってきて、「こうして街と里の人間同士が交流することに意義がある」としみじみ語っていました。最初は、「わざわざ草取りだけしに行くの…?」と思いましたが、佐藤さんが、里の人々のそういう声を受け止める心と行動を示されたことに気づき、草取りだけで行く、ということに意味があると思えてきました。

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 有東木地区は、約70世帯220人弱の小さな里。中山間地の限界集落が抱える様々な課題に、同じように直面し、行政を取り込んだ対策が不可欠とされています。ときには、地元の意向や、応援する街の人々の活動とうまく折り合わないケースもあるでしょう。そういうときにも、最後にモノをいうのは、まっとうな判断と行動を示せる人のチカラです。

 

 

 

 『静岡に文化の風を』の会のことも有東木のことも、まだまだ知らないことが多いのですが、気持ちよさそうに草取りをし、他の人がギブアップしても、「まだ終わりたくないよぉ」と拗ねてみせ、地区の人々に感謝されている佐藤さんを見ていたら、人のチカラで変えられることが確かにある、と実感しました。チカラとは、才能ある個人に備わるだけでなく、人と人が交わって生み出されるということも。