杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

浜名湖の中心で地モノ愛を叫ぶ

2009-09-07 12:01:08 | NPO

Dsc_0068   5日(土)は真昼間に浜名湖のど真ん中で潮風を満喫しました。浜名湖漁業体験学習講座「海の恵み探検隊~伝統漁法・袋網魚」の取材です。

 

 県水産振興室が企画し、NPO法人はまなこ里海の会が運営委託した親子連れを対象とした体験教室。取材のつもりが、参加親子たちと一緒に船に乗り、童心に還って大はしゃぎしてしまいました。…だって目の前の網から、トラフグ、セイゴ(スズキ)、クロダイ、カマス、ゴマサDsc_0064 バ、ヒラメ、アジ、イワシ、コノシロなんかが次々とお出ましになるんですもの、「うわぁ、一杯やりたいよぉ」と喉をごっくんごっくんやっていたら、案内役のはまなこ里海の会事務局長の窪田茂樹さんから、「今日は県がスポンサーの親子対象の講座ですから、アルコールはご法度ですよ」とたしなめられてしまいました(苦笑)。

 朝5時起きで車を飛ばして来た身ですから、真昼間から酒が入ったら運転はもちろん、取材も出来なくなるので、もちろんこの場で飲むつもりはありませんでしたが、あまりの豪華お魚ラインナップを目の当たりにし、「伝統漁法を体験した後、獲れたての魚で地酒を味わうなんて企画だったら、私の周りの酒呑み連中は涙モノで喜ぶはず…!」と妄想せずにいられませんでした(笑)。

 

Dsc_0058  

 昔、たきや漁という、夜、灯りをともして銛で突いてエビや小魚を獲る伝統漁法は経験したことがありますが、今はなかば観光イベント化してしまったそうで、今回の袋網漁はちゃんとした定置網漁法のひとつで、垣根状の網を張り巡らせ、魚群を網の中に導き入れて獲るもの。地元では網の張り方から「角建網」とも呼ばれています。浜名湖の湖面を眺めると、ポールが一定間隔で立っているのが見えますが、その下に網が張ってあるんです。

 知らない一般の釣り人が、「魚が獲れそうなポイントかも」と目を付けて侵入したり、プレジャーボートが網を破ってしまったりと、ちょくちょく“人的被害”を被ることもあるそうですが、網を張る場所はもちろん、網目の大きさから張る面積まで条例で厳しく決められ、浜名湖の漁師さんたちは互いにルールを守りながら、浜名湖の恵みを共有・保存しています。

 

 

 袋網漁はボラ漁から始まり、浜名湖では明治中期頃からさかんになって、網元制度のもとで発展し、今に至っています。漁期は3月末から1月末まで。ただし浜名湖では漁獲量も漁獲金額も圧倒的に多いのは採貝(アサリ漁)で、袋網漁は漁獲金額では15%未満。漁師さんはアサリ漁で生計をたてながら、伝統漁法の維持継承に努めているようです。

 

 

Dsc_0093  漁から戻った後は、浜名漁協鷲津支所の婦人部の皆さんが、ゆで海老やセイゴのから揚げやあじのマリネを作ってくれて、アサリの味噌汁と一緒にふるまってくれました。本場のアサリの味噌汁は、どんな形容詞も陳腐に聞こえるほど吹っ飛びの美味しさ!3杯もおかわりしてしまいました。「こういうつまみを目にすると、呑みたくなる気持ちもわかるよ」と窪田さん。県の事業では無理でも、NPO同士の交流企画ならやれるというので、ぜひ地酒とコラボしましょうと提案しておきました。

 

 最初のきっかけは、単なるお遊び感覚でいいのです。「すごい楽しかった!」という経験が、浜名湖の漁業や環境に関心を持つきっかけになることも。酒も同じですね。あまり小難しい講釈でなく、ストレートに美味しい!楽しい!と思える感動経験をどう仕掛けるか・・・です。

 漁師さんは、ふだんの自分たちの仕事ぶDsc_0123りや食べているものが、特別価値あるものとは思っていないので、感動の伝え方を知らない。今回の体験教室は4年目だそうですが、最初は「こんな当たり前のことをわざわざ見せても意味あるの?」と面倒臭がっていた漁師さんたちも、参加した市民や子どもたちが、自分たちがやっていることに目を輝かせ、純粋に喜ぶ姿にふれるうちに変わってきて、今では窪田さんたちNPOが気を遣わなくても、漁師さん自身、積極的に参加者をもてなすようになったとか。・・・いいですね、そういう変化って。

 

 酒の世界でいえば、静岡の蔵元さんたちの意識は、ここ数年、着実に変わってきています。とくに若い世代が、自分たちの仕事の価値や継続させる意義を真剣に考え、異分野の人々との交流に積極的になっている。先日のしずおか地酒サロンの「売り手と飲み手の本音トーク」に蔵元が3人も自費参加し、議論にも加わったこともよく解りました。

 漁業と酒造業ではベースが違うかもしれませんが、地のモノの価値を見直し・伝え・守るという意味では共鳴できる部分もあろうかと思います。問題意識を持っている人々と、ぜひ今後とも交流していきたいと強く願いました。

 

 

 浜名湖漁業体験学習講座・海の恵み探検隊は、第2弾トラフグ漁は11月8日、第3弾アオノリ養殖は来年2月27日に開催予定です。詳しくはNPO法人はまなこ里海の会までどうぞ。


地酒で地域を元気にするフラットな連携

2009-09-04 11:21:17 | しずおか地酒研究会

 引き続き第35回しずおか地酒サロン『地酒は地域の元気のミナモト!』のご報告です。

 当日の参加者のお一人で、ご夫妻で家具工房を営む久留聡さんから、今回のテーマである地酒を地域の元気の源泉にするための、大事な指針となるメッセージをいただきました。こういう考えを持って、地域に根をおろしてモノづくりをされている30~40代の存在は、とても心強いです。

 私自身は何の創造性も生産性もない無力な人間ですが、こういう方々を仲立ちすることで、美味しい地酒を育む地域に何かしら恩返しができたら、と改めて実感しました。久留さん、本当にありがとうございました。

 ご本人の了解を得ましたので、メッセージをご紹介させていただきます。

 

 

 

 「サロンの後に、鈴木さんのブログを読んで、どのように静岡の地酒を地域の活性化に活かすか時々考えています。サロンの時の皆さんの意見を聞いて、地酒のレベルが向上しているのに、静岡の中での位置づけと消費量が向上していないことの解消を望んでいる気がしました。

 私は地元藤枝の消防団に入っています。消防団は大量にアルコールを飲む集団ですが、あまり日本酒を飲みません。藤枝には良い地酒があるのに、不思議なくらいです。まずは、私が地元で、みんなの前で飲んで薦めるよう心掛けたいと思います。

 また家具関係のワークショップで多くの人に出会うので、地酒を薦めるパンフレットがあったら配りたいと思いました。組合が出しているのではなく、鈴木さんたちの立場から発信している文章がとても説得力があると思いました。裾野を広げるためには、広報は日本酒と接点のない所でやるのがいいですね。私のワークショップに来る人たちは、モノづくりや地域の活性化に関心が深く、本物志向の人が多いので、理解しやすいと思います。パンフレットが無いようでしたら、私も出来る範囲で作ってみようかと思います。・・・そのような、小さな活動の積み重ねと共に、大きなビジョンを掲げることが大事と感じました。

 

 

 これからの時代に求められているのは、文化の重層化と横断だと思います。
商品を売るだけでなく、背景、物語、文化、関連商品を通して、こころ豊かな生活を提案する。その中に地酒を置く。・・・酒という文化を通して、地域や静岡の活性化、豊かさに、どのように貢献できるか、です。

 

 イメージするのは、ミラノコレクションやパリコレクションのように、地域に人やメディアを多く集める仕掛けです。そこでは、宿泊や飲食業、交通機関などにも利益が生まれ、その祭典を通じて文化が向上する。「静岡コレクション」「藤枝コレクション」という名称でも良いですが、酒にまつわる文化全体を満喫できるよう、酒蔵が新酒を発表する場を各所で設けたり、居酒屋やスイーツの店がメニューを発表したり、音楽とのコラボ、陶器や木工製品を自発的に発表する人達も出てきたり、お茶や食品を発表するのもありでしょう。そこで、静岡の地酒の底力と魅力を地元の人達が再確認して、ブームではない「おらが町の酒蔵」になっていく・・・そんなイメージを描いています。

 

 蔵元さんも含め、静岡のモノづくりの人達は、外に向かって、お互いを紹介し合うのも良い。例えば、家具の展示会なら、酒や酒器や酒卓や食品を持っていったり、地酒のパンフレットを配ったりできる。損得と関係ないところで、お互いを紹介したり、助け合っている姿は、消費者として安心できるし、翻って他人を紹介できる人柄を信用します。

 

 すごい大風呂敷みたいですが、それぐらい大きな夢を持って、道のりは長いくても一歩ずつ進めてみる。手始めに酒にまつわる商品をコラボして、生活のワンシーンを演出してもいいかもしれません。

 

 

 イタリアデザインの祖、ジオ・ポンティは、イタリアをデザイン立国にするために、そこにいたる道のりを「ロードマップ」として表し、実践していき、今の状況を生み出したそうです。静岡の地酒でも、そのような大きなビジョンへのロードマップの作成が大切な気がします。

 

 私たち作り手は、「モノづくりを通じて地域を豊かにする使命がある」と普段考えていて、豊かにすることは物質や金銭面と共に、環境面や文化面があると思っています。

 そこで、私は微力ながらワークショップを行い、地域のみなさんにモノづくりの技術を伝え、モノづくりという生業の大変さと価値を伝えています。地域のショップのオリジナル商品を開発することで、ショップのオリジナル性を出し、地域ブランド、地域の商品レベルの向上を目指しています。

 

 先日の松坂屋の展示会では当工房のテーブルの上に、連携している木造建築事務所が発行している冊子を置いてみました。雑誌しぞーかの地酒特集号もデスクに目立つように置いてみたら、結構の人が読んでいました。
 仕事での取引は無くても、ワークショップで連携できるフラットな関係で、藤枝の活性化が出来ないか、アイデアを練りつつ、動いている状況です」。

 

 

 

 

 久留さんは県外出身で、東京や長野を経て、焼津で木造船の伝統技術があることを知ってこの地へやってきたそうです。『吟醸王国しずおか』で初亀の橋本社長を撮影した岡部の神(みわ)神社で結婚式を挙げられ、そのときに呑んだ初亀の美味しさに感動し、学生時代以来の日本酒嫌いが一変したとか。・・・やっぱり酒縁があったんですね。

 

 久留さんや、同志の野木村敦史さんも出展する展示会が、来週から静岡市の呉服町で始まりますので、ぜひのぞいてみてください!

 

 

8名によるグループ展「ココでしか会えない もの と 作り手」 家具 小物 食器 etc・・・

◆場所 ギャラリー ワタナベカメラ
 静岡市葵区呉服町2-2-2  2F   Tel 054-254-3571 *呉服町通り・五風来館(1階が無印良品)の向かいです。

◆会期 2009年9月10日(木)15日(火)  10:0019:00

◆久留さんの連絡先/H.W.F“木製の家具・玩具工房
 〒426-0009 静岡県藤枝市八幡248-1  Tel/Fax 054-643-8112

 

 

 

 


しずおか地酒サロンの試飲酒&おつまみ

2009-09-03 14:04:45 | しずおか地酒研究会

 第35回しずおか地酒サロン「地酒は地域の元気のミナモト!」の参加者から嬉しい感想メールを続々といただいています。なんか、「どうしても語りたくなった」っていう思いが伝わってきて、ホント、うれしいですね。静岡新聞経済部のHさんは、様子見の軽い気持ちで来られたそうですが、「密度の濃い話に圧倒された」とおっしゃって、昨日(2日)付けの朝刊経済面に大きく紹介してくれました。地方欄や文化欄ではなく、経済欄で取り上げてもらったというのも感慨無量です。

 

 「お酒も美味しかったけど、おつまみも全部美味しかった。どこで買えますか?」という声をいただきました。会議室でのトーク&試飲ゆえ、生モノや火を使う酒肴を用意するのはタイヘンなので、すべて1個ずつ個別包装になった小分けしやすい“乾きモノ”ですが、それなりに吟味したつもり。解ってくれる人がいてヨカッタです!

 今日は当日用意した酒&つまみをご紹介しますね。お酒はわがしずおか地酒研究会が誇る売り手会員(酒販店)が、この時期イチオシと持ち寄ってくれた逸品です!

 

 

Ca3c0114 (試飲酒・・・各コメントは推薦酒販店によるものです)

 

塚本商店推薦酒/「始郎」純米吟醸素濾過生酒(大村屋酒造場・島田市)1.8?2,950円・・・大村屋酒造場・伝説の4代目当主松永始郎氏の名を冠した塚本商店オリジナルブランドです。

 

◆篠田酒店推薦酒/「國香」特別純米中汲み無濾過生原酒(國香酒造・袋井市)1.8?2.980円・・・静岡酵母の名手・松尾傳一郎が醸した逸品。國香は喉越しのさばけのよさと辛さが特徴ですが、半年熟成し、絶妙な丸さに。TEL054-352-5047

 

ときわストア推薦酒/「開龍」純米原酒(志太泉酒造・藤枝市)1.8?2.420円・・・藤枝市岡部の朝比奈地区は龍勢花火の伝統で知られます。ここで作られた山田錦を原料に、志太泉酒造に醸造委託した地域限定ブランド。以前「昇龍」の名で出していましたが商標の関係で、龍の花火が開くという意味の「開龍」に改名しました。米の作り手の顔が見える、距離の近い地酒です。

 

かたやま酒店推薦酒/「白隠正宗」山廃純米大吟醸雄町(高嶋酒造・沼津市)1.8?4.620円・・・最初の一杯で満足してしまう大吟醸と違い、杯がすすむ大吟醸。香りは静かに広がり、口に含むと雄町らしい艶やかな味わいが、山廃の個性と調和し、綺麗な太さとなって現れます。静岡酵母の優しく丸い特性も感じられ、キレもよい。インパクトが弱いと感じたなら、それこそが高嶋杜氏の目指す「清楚でゆるやかな山廃」である証拠。

 

すずき酒店推薦酒/「羽衣の舞」純米酒(三和酒造・静岡市清水区)1.8?2,420円・・・食欲の秋、家庭で気軽に味わえる食中酒として、冷やでも常温でもぬる燗でもいける万能純米酒。サンマの塩焼きや煮物料理と一緒に味わってみてください!

 

長島酒店推薦酒/「正雪」純米吟醸 山影純悦(神沢川酒造場・静岡市清水区由比)1.8?3.500円・・・正雪の名杜氏・山影純悦氏の名を冠した逸品。20BYはなめらかですっきりとしたボディと、しつこさのない上品な米の旨味が感じられます。まとまりのある味で、この時期に冷やで飲むのに最適。

 

 

(おつまみ・・・鈴木真弓が取材先等で集めてきました)

Photo ◆珍味いかのくち(伊東・魚吉ひもの店)・・・私のイチオシつまみ(写真)。先日、城ヶ崎海岸(伊東市)へ取材に行った時、見つけた、いかのくちばしを干物にした珍味中の珍味です。地元漁師さんはいかのくちばしのことを「めぼう」と言ってまかない食にしていたそうです。電話0557-37-3914

 

◆磯昆布(小田原宿・籠常)・・・春に小田原へ取材に行った時、小田原街かど博物館(市内の老舗名店)のひとつ・明治26年創業のかつおぶしの老舗・籠常さんで見つけたおつまみ。電話0465-23-1807

 

◆わさびチーズ(静岡・田丸屋本店)・・・わさび漬けで有名な田丸屋の人気おつまみ。私は日頃お世話になっている静岡伊勢丹地下食品売り場「ふるさと村」やエスパルスドリームプラザで買ってます!

 

◆まぐろチーズ(焼津・石原水産・・・先日、取材途中に昼食休憩で立ち寄った石原水産マリンステーションで見つけて、純米系の旨味のある酒にはピッタリだなぁと気に入りました。かつおチーズというのもあります。

 

◆おつまみいりこ「こざかなくん」(焼津・協同組合焼津水産加工センター)・・・カルシウム不足の補助食として子どもやお年寄り向けに作られたおやつだそうですが、乾きモノのつまみとして真っ先に思いつきました!これも伊勢丹ふるさと村やエスパルスドリームプラザで買えます。

 


しずおか地酒サロン「地酒は地域の元気のミナモト!」その2

2009-09-01 15:19:25 | しずおか地酒研究会

 第35回しずおか地酒サロン「地酒は地域の元気のミナモト!~売り手と飲み手の車座本音トーク」、後半のフリーディスカッションの様子をご紹介します。今回は異業種の方が多く、東京からも5名参加してくださいました。酒の業界人だけ、静岡人だけの集まりでは出てこないメッセージを多くいただきました。参加者からは「刺激的な会だった!」という感想をいただき、ホッとしています。ありがとうございました!!

 

(フリーディスカッション)

◆高嶋一孝さん(「白隠正宗」蔵元杜氏・沼津市)

 日本酒というのはコミュニケーションツールだと思っています。ひとりで路地裏で飲むんじゃなくて、一升瓶があったら湯のみでも何でもいいんで、テーブル囲んで仲間でちびちび飲んでもらいたい。1杯で満足しちゃうんじゃなくて、だらだらおかわりしながら飲むのが日本酒の醍醐味だと思うんです。家庭や居酒屋で腰を据えて飲むのが日本酒。そういうことを、食育みたいに若い人に理解してもらうタネまきが必要なんじゃないかと思います。

 

◆小嶋良之さん(共立印刷・地域情報誌「むるぶ」編集長・藤枝市)

 10年ぐらい前、知り合いの日本料理人の方と、日本酒に合わせた料理ができないかと話したことがあります。で、試しに前菜から何から一品ごと日本酒に合わせて出してもらいました。日本料理だけじゃなく、中華料理でも韓国料理でもできると思います。今日はこの蔵の酒で全部の料理を合わせてみます、というように。お酒と合わせることで味わいがふくらむこともあるでしょう。酒蔵の近所でそんな企画ができれば楽しい。

 

◆日比野哲さん(「若竹」副杜氏・島田市)

 当社では春と秋、年2回、大井神社宮美殿で、酒米・五百万石を作る地元の米農家の方と、島田の伊久身にあるヤマメ平の清水さんと一緒に、地域の食材を使った料理と当社の酒を合わせて楽しんでいます。料理は酒に合うよう、宮美殿の料理長が吟味して作ってくれます。今年も11月4日にあります。9月末に電話で申し込み受付をしますので、よかったらいらしてください。

 

◆吉岡慎一さん(羽田エクセルホテル東急総支配人・東京都大田区)

 静岡を離れて20年以上たつので、自分の地元の甲子園代表を応援するような気持で地酒を応援させてもらっています。一番好きな食べ物はうなぎです。大切な酒を飲むときはうなぎの白焼きが一番かな。ふだんはちりめんじゃこです。浜松の実家へ帰った時に買い置きしておきます。

 東京から見ると、地酒は地元の方がふだん召し上がっているものと一緒に味わうのが一番美味しいように思います。酒通でなくても、惹かれると思います。今日お見えの方も私のベストおつまみがあると思います。これを聞くだけで相当のデータベースになるんじゃないでしょうか。

 

◆今井利昭さん(静岡県観光協会・観光ツーリズムチーフコーディネーター)

 昨年、吟醸王国しずおかパイロット版を観て大感動してさっそく会員になりました。もともと入院したとき以外、一日たりともアルコールを胃に入れない日はないという呑ん兵衛で、さまざまなアルコールを飲みますが、最後に落ち着くのは日本酒です。

 今は、富士山静岡空港が開港し、国内就航先の札幌、沖縄、福岡、小松、熊本、鹿児島のみなさんをいかにして静岡へお迎えするかという仕事をしています。就航先の皆さんには静岡を代表する酒を必ず紹介しています。旅に来ると、酒嫌いの人も、地元の味や酒を必ず求めるんですね。ですから、われわれが薦め上手にならなきゃならない。

 静岡の人はどうも地元の良さを積極的に熱く語らないですね。静岡市でいえば「静岡市内に観光に行くような場所はないよ」から始まっちゃう。何も特定の観光地じゃなくても、お茶やお酒の話を3時間でも4時間でも語れる、そういう人が遠来の客をもてなすのが大事なんです。

 就航先での販促活動では地酒はもちろん、静岡を代表する味覚を必ずふるまいます。よくよく見ると、いい酒から順番にカラになる。ちゃんと伝わるんですね、いいものは。蔵元の方もそういう場にぜひ参加していただき、消費者の目を意識していただければと思います。

 塚本さんが教えてくれた東京の酒通のデータは地元ではなかなかピンときませんが、いずれにしても地元の人間がしっかり地酒を愛し、遠来客に熱く語り、薦め上手になるのが大事だと思います。

 

◆小島康平さん(小島茶店・静岡市葵区)

 酒は強くないんですが日本酒が好きで、白隠正宗を呑んだとき、非常にでしゃばらず、ずーっと長く飲んで語り合える酒だなと思いました。帰り際にどうもお世話になりましたと言って持って帰りたくなるようなお酒でした(笑)。

 塚本さんの、静岡の酒が東京では高い評価をもらっている、それもいろいろな努力を積み重ね、いいものを創ろうと切磋琢磨した結果だというお話が印象的でした。お茶の業界も酒と同じで、年々厳しい状況にあります。そういう中で、静岡の茶をなんとかテイクオフさせたいと思っています。静岡、川根、天竜など全国的に見ても優秀な産地であることは間違いないので、作り手の思いに、われわれの思いを付け加え、伝えなければと。潜在的な力は必ずあると信じています。

 酒の消費者の立場で思うのは、日本酒が売れないと言っているのに、メーカーはどうして醸造アルコール添加したようなものを造るんでしょうか。私の思いこみかもしれませんが、アル添した酒を飲むとどうも頭が痛くなる。ですから私は純米酒しか飲まない。飲みに行って純米酒がなければビールしか飲まない。純米酒で低価格の買いやすい酒があるとうれしいですね。あと、吟醸系は必ず冷酒じゃないと出してもらえない。常温でだらしなくベロベロと飲めるうまい吟醸酒はないんですかね?

 

◆三宅重光さん(会社員・東京都)

 私は今まで洋酒やカクテルを好んでいたので、日本酒を好きになって日が浅いんですが、さきほど日本酒がコミュニケーションツールだというお話。バーでカクテルを飲むときは、隣の客と話したりワイワイやるなんてことはなく、マスターやバーテンダーとの会話を楽しむくらい。他の客とマスターを取り合うみたいなところもあります。その点、日本酒は知らない客同士も仲良くなれるのがいいですね。

 私の周辺には「純米酒」信仰の友人が多く、詳しくない身では純米こそが正当な日本酒だと信じ込まされていました。先日、アルコール添加した静岡の吟醸酒を飲んだとき、あぁ、美味しいなぁと心から実感しました。静岡の酒をあれこれ飲んでも、失礼な言い方かもしれませんが、「ハズレ」がない。わけ隔てなく飲めると思います。

 

◆佐藤隆司さん(浜松地酒倶楽部)

 アル添酒はダメだという思いこみは、アルコール添加がかつての三増酒の悪いイメージから来ているんでしょう。実際、今、使われる醸造アルコールは、味を整えるという意味で添加しています。純米酒は糖が残りやすいので、モノによってはすっきりしない、重い酒もあって、それをスッキリきれよく飲みやすくするという効果もあります。

 私はどちらかというと、アル添酒が好きですね。もともと静岡県の酒は全体的にキレがいいのですっきり後味良く、料理と合わせやすいのですが、アル添酒はとくに料理の後味をきれいにしてくれる。自分の会ではそのことを強く訴えています。

 さきほど高嶋さんが「酒育」とおっしゃっていました。我が家の裏に、県茶業試験場の場長を務められた小泊先生が住んでおられ、先生から「お茶というのは習慣性があるので、子どもの頃からちゃんとお茶を飲んでいないと大人になって飲まなくなる」と聞きました。先生は、学校給食では牛乳しか出されないのを憂慮され、週に1回はお茶を出すようお願いしたそうです。お酒もそうですね。日本人の酒離れの第一の理由は、若者が安酒でまずいイメージを植え付けられたせいです。日本の酒は日本の食文化の中で生まれてきたものだから、日本人の味覚に合わないはずがない。若者にいい日本酒と出会える仕掛けを考える必要性は、大いにあると思います。

 

◆杉井均乃介さん(「杉錦」蔵元杜氏・藤枝市)

 アル添酒を飲むと頭が痛くなるという話はよく聞きます。では添加する醸造アルコールとは何かといえば、サトウキビなどを原料にした純度の高い蒸留酒のこと。梅酒やチューハイを造るホワイトリカーなんですね。ですからアル添酒を飲んで頭が痛くなる人は、梅酒は飲めないはず。あれはむしろ健康にいいと思って飲んでいるんじゃないですか?ようするにイメージの問題なんですね。

 では蔵元はなぜアル添酒を造るのかといえば、醸造アルコール添加は、最初は戦中戦後、米不足の時代に確立された技術です。今でもなくならないのは経済的にコストを下げるという意味もありますが、大吟醸のような酒にも使われます。全国新酒鑑評会に出品される酒の98%はアル添酒で、私は今年純米酒で出品して入賞出来ませんでした(苦笑)。アル添酒じゃないとなかなか金賞が取れないんですね。

 なぜかといえばアル添すれば味が軽やかになるから。吟醸香もアル添することで引き出される効果があります。それがいいかといえば、私自身は多少異論がありますが、アル添すればきれいで飲みやすい酒になるのは事実です。純米酒とアル添酒を比べたとき、きれいな酒イコールいい酒という評価をされる以上は、純米酒のシェアは伸びていかないでしょう。事実、純米酒は全日本酒の15%ぐらいしか造られません。

 純米酒が増えていくには、一般の人の評価や尺度が変わらなければと思います。我々は純米酒を造るときは、アル添した吟醸酒のようなきれいな酒に近づけるよう、原料米の精白歩合を上げて造っています。純米酒を安く売るには、米をあまり精米せずに造るしかありませんが、そういう酒は味も濃く重たくなる。それを消費者がよしとしてくれるかどうかです。同じ精白歩合の低い酒なら、本醸造のほうがすっきりして飲みやすくなる。どちらがおいしかどうか消費者の尺度にかかってくると思います。

 ちなみに静岡県では純米吟醸のカテゴリーが伸びていますので、県内各社はそちらに力を入れています。

 

◆荒川恵理さん(会社員・富士市)

 以前、富士高砂酒造に見学に行った時、搾った酒粕をもう一度搾って蒸留し、それを醸造アルコールとして添加したり焼酎にしていると聞きました。添加する醸造アルコール自体がどういうものか、ラベルに書いてあればいいのに、と思います。消費者と生産者との信頼というところにかかわってくるのではないでしょうか。野菜やコメと同じじゃないですか?

 

◆久留聡さん(家具職人・藤枝市)

 僕はここ最近、日本酒がおいしいと気付き始めた人間なので、素人の目で云わせてもらうと、醸造アルコール添加酒が頭が痛くなるというのはそのとおりなんです。味覚って記憶なんですね。小さい頃からファストフードばかり食べていたら、それが最高に美味しいと思ってしまう。ようするに慣れです。学生の頃、日本酒を飲んで大変な思いをして日本酒が嫌いになったんですが、藤枝に引っ越してきて初亀を結婚式で飲んだ時は、目からウロコが落ちました。町内会なんかでふだん飲む静岡の酒はどれも美味しい。

 僕が日本酒嫌いだったのは、学生の頃飲んだアル添酒の記憶なんです。先ほど言われたようなことを、どう教育していくかはすごく大事だと思います。そういう素人はたくさんいるだろうし、軽く時々飲むような人には、内緒で美味しいものを飲んでもらう。そういうしかけを考えるのが大事だと思います。

 

◆中村悦子さん(英語通訳・ビジネスコンサルタント・東京都)

 私は浜松出身で生まれも育ちも日本なんですが、やはり大学の頃の苦い思いがあって日本酒にはあまりいいイメージは持っていませんでした。海外に出たとき、吟醸酒ブームがあって、帰国して静岡のある銘柄を飲んだとき、心から感動しました。それがきっかけでいろいろなご縁に恵まれ、日本酒にすっかり魅了され、アメリカ人の夫もハマっています。

 夫が属する学会で、この112122日にグランシップで1400名ほど全国の語学教育にかかわる方と海外の学者が集まります。その場でぜひ静岡の酒を紹介しようと、夫と企んでいます。食べものはもちろんですが、静岡の産物といえば日本酒が本当に素晴らしい。鈴木さんが作っておられる〈吟醸王国しずおか〉の映像も昨年東京で見せてもらって刺激をいただきました。

 海外の方のみならず、日本人でも、日本酒には興味はあっても入口が分からないという人が多いと思います。日本酒は今、世界からとても注目されています。出会いのきっかけとなる場所づくり、人に感動を与える場の提供が必要ではないでしょうか。

 

◆R.G.Martineauさん(Shizuoka Sake Worldpress・静岡市葵区)

 観光協会の人に言いたいのですが、静岡駅を降りても、静岡の酒や食が楽しめる場所を教えてくれるところがない。1400人も外国人が来て、静岡駅に着いて、どこに行ったらいいですか? 静岡の新聞社や雑誌社の人も情報をちゃんと発信してほしい。

 

◆鈴木真弓

 昔、静岡県酒造組合に、静岡駅構内に静岡の酒を飲ませる立ち飲みバーみたいなものを作ってほしいと要望し、そんなものを作ったら酔っ払いのたまり場になると、けんもほろろに却下されたことがあります(苦笑)。最近になってようやく、静岡駅の地下にお茶を飲ませる店ができたり、東京駅にははせがわ酒店さんがおしゃれな吟醸バーを出店して注目されるようになりました。  静岡の酒の情報が欲しい、飲める店・買える店を紹介してほしい、一緒にイベントをやってほしいという声は本当に多くて、相談するところがないからと、私のような者のところにもいろいろな方が声をかけてこられますが、私ひとりでは対応しきれません。現在の酒造組合は外からのそういうニーズに応える体制になっていないので、ぜひ多くの方が声を上げて訴えてほしいし、観光協会のような大きな組織から圧力をかけてほしいとも思います。

 

 

 この後、『吟醸王国しずおかパイロット版09バージョン』を見ていただき、結局終わったのは19時30分でした。3時間半、最後まで残って片付けまでしてくださったみなさま、2次会までおつきあいいただいたみなさま、本当にありがとうございました。