杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

多々良栄里写真展開催中

2012-06-13 08:45:48 | アート・文化

 昨日(12日)は東京で3件用事のはしごでした。午後はホテルオークラで、日本ニュービジネス協議会連合会の総会と記念講演会があり、気鋭のベンチャーキャピタル原丈人氏の“公益資本主義論”に大いに刺激を受けました。原さんの著作をいくつか読んだ上で、改めて整理してご報告しますね。

 

 オークラに行く前に立ち寄ったのが、多々良栄里さんの写真展「さようであるならば」。6月11日から24日まで新宿御苑前の『蒼穹舎ギャラリー』で開催中です(場所はこちらを参照してください)。

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 栄里さんが生まれ育った藤枝の暮らしの記憶、みたいな素敵な写真展です。地方の町の郊外のありふれた風景ですが、カラープリントの、おひさまのぬくぬく感を感じるようなトーンが、デジタル画像に見慣れた眼にはとても新鮮でした。蒼穹舎というのはカメラ通の方ならご存知だと思いますが(恥ずかしながら私は知りませんでした・・・)、写真集の出版プロデュースではプロが絶大な信頼を寄せる出版社だそうで、新人フォトグラファー育成にも尽力されているとのこと。ギャラリーの奥のショップには、膨大な数の写真集がズラリ並んでいました。栄里さんの作品も、蒼穹舎プロデュースで素敵な写真集にまとめられると思います。期待しています!!

 

 

 

 夜は、ENJOY JAPANESE KOKUSHU(詳細はこちらの関係者が集まる酒宴におじゃまし、いろんな業種の方々と懇親を深めました。どんな活動に発展していくのか、まだ未知数のようですが、私が座ったテーブルでは、最近日本酒に興味を持つようになったという若いOLさんや、大手出版社や海外通信社の女性ジャーナリストたちと女子会みたいなノリでワイワイ飲めて楽しかったです!川上の仕掛けはもちろん重要ですが、川下の自然発生的な盛り上がりが何より大切なんですよね!


志太平野美酒物語2012

2012-06-09 16:35:52 | しずおか地酒研究会

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 昨夜(8日)はJR静岡駅前の葵タワー4階、グランディエール・ブケトーカイで、『志太平野美酒物語2012』が開かれました。いつもは焼津松風閣が会場ですが、今年は美酒物語20周年記念で県都静岡市の駅前開催となったようで、ブケトーカイのシンフォニーという一番大きな宴会場に450人!初参加の方も多かったように見受けられました。

 私も、今回お誘いしたのは初参加の方ばかり。みなさん一様に、会の規模にビックリされてました

 

 

 

 常連さんなら解っていると思いますが、着席パーティー形式で全席自由なので、グループでテーブルを囲みたかったら早めに行って確保しなければなりません。今回は新しい会場で、どんなレイアウトになっているのかわからず、しかもお誘いした方々は目上や先輩格の方々ばかりなので失礼があってはいけないと、開場の2時間前の17時に行ったら、すでに10人ぐらい並んでました。

 

 30分もしないうちに、長~い行列が出来て、ブケトーカイのスタッフさんも目を白黒させてました。席はチケット販売数、ちゃんと用意してあるので座れなくなるということはないのに、ディズニーランド並みのお待ち行列・・・しかもいい大人ばかり。さぞかし不思議な光景に見えたんでしょうね 偶然、列で一緒になった知り合いと「アップルの新機種の発売当日に、徹夜して並ぶ人の気持ちがわかるねえ」と笑い合いました。並ばなくても買えるのに並んでしまう、並ぶのがちっとも苦ではないって心理・・・ファンの性(サガ)なんですね。

 

 

 1時間30分待って開場となり、真ん中あたりの、蔵元ブースに一番近いテーブルをゲット。お誘いしたゲストが次々とやってきて、「450人の宴会なんて一流芸能人のディナーショーか結婚披露宴なみ!」「チケットの番号は席の番号じゃなかったんだ・・・」「まゆみさんが、席を確保するため早めに行くって言ってた意味が最初はわからなかったけど、こういうことだったか」と本当にビックリされました。

 

 

 

 参加者の多くが「指定席制にすればいいのに」とも言っていましたが、イベント会社やチケット販売業者に頼らず、志太の蔵元6社がすべて自前で企画・販売・運営する会なので、無理も出来ないんですよね。全席指定にするというのは発券業務が大変だし、6社それぞれのお得意様を平等に扱うというのも難しくなるわけです。昔、一度、指定席にしたこともあって、端っこの席にされたお客さんからクレームがあったそう。“いつも飲んでくれる地元のお客さんを大切にしよう”というのが、この会のスタート時の趣旨ですから、蔵元さんたちも出来るだけ善処しようと努力されています。

 

 ・・・とにかく450人の酒宴を自前で仕切るというのは大変な労力です。昔、司会進行のお手伝いをしていたころ、実行委員会の打ち合わせが何度もあって、真剣に議論しあい、終わったあともちゃんと反省会をやっているのを間近で見ていたので、本当に頑張っている!と思っています。

 

 

 そんな運営側の努力の価値を、改めて実感したのも、並んで席取りをしている時間にお客さんからいろ~んな声を聞けたから。いつも焼津で参加している人の中には「なんで志太酒のイベントを静岡でやるんだ、焼津に戻してほしい」と不満顔の人もいましたが、東京から参加した人は「すごい会だ、静岡酒のパワーを感じた」と感心しきり。ファンの一人として嬉しくなりました。

 

 

 450人が大集結して、ひたすら地酒だけを飲むイベント。お料理も和洋折衷フルコースで、お酒が強くない人も十分楽しめたと思います。私も、お誘いしたゲストのもてなしを優先しなければならないところ、目の前の蔵元ブースの行列が気になり、途中からすっかりただの酒徒になってました。

 料理はほとんど食べる間もなく、気が付けばお開きの時間。終宴間際にあわてて来賓席にいらした県酒造組合の土井会長にご挨拶。ご自分の酒(開運)がないのに駆けつけてこられて、乾杯の音頭をとられた懐の深さ、広島の全国新酒鑑評会で静岡酒の存在感をしっかり示した「開運」の金賞受賞酒の“品格”に感動したことをお伝えしました。

 

 

 

 終宴後はゲストの方々と、憧れの洋酒バー「ブルーラベル」で、超レアなボウモアをロックで2杯、堪能し、もう1軒、移動してビールで仕上げ。午前1時に帰宅し、今朝8時過ぎまで目が覚めず、サッカーが大勝したことも、未明に震度3の直下型地震があったことも気付きませんでした(苦笑)。美味しいお酒を楽しい仲間と飲めるって、ホント、幸せです。

 

 志太平野美酒物語実行委員会の蔵元さん、本当にお疲れさまでした&ありがとうございました。


芳賀徹氏インタビュー

2012-06-07 08:32:49 | アート・文化

 先月下旬に首都圏で発行された東京新聞の購読者向けタブロイド紙『暮らすめいと』6月号で、静岡県立美術館の芳賀徹館長のインタビュー記事を担当しました。芳賀先生には何度かお会いする機会がありましたが、サシでじっくりお話をうかがうのは初めて。やはり現代日本のトップクラスの知識人、1時間強のインタビューながら、本をまるまる1冊読んだくらいの充足感がありました。

 

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 徳川政権が築いた泰平の世の価値、西洋との比較文化論がご専門の先生の論説は複眼的で大変解りやすかったです。最近、江戸時代の社会や生活文化から、エコや共同体の在り方を学ぶテレビ番組が増えていますね。改めて、先生のメッセージを噛み砕いていただきたいと思います。

 

 

 

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200年余、独立と平和を守った徳川時代の歴史に学びたい

 比較文学者 芳賀徹さん<o:p></o:p>

 

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日本と西洋の比較文化論者として学界をけん引する芳賀徹さん。江戸時代の文化史に造詣が深く、徳川治世を「パクス・トクガワーナ」と評価。今年三月には、江戸が生んだ短詩型文学・俳句の海外との交流を研究した功績により、現代俳句大賞を受賞した。八十歳を超えた今も、静岡県立美術館長等の要職をこなし、地域文化の醸成に努める。現代人が歴史から学ぶ知恵や生き方についてうかがった。<o:p></o:p>

 

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<プロフィール>

 一九三一年東京都生まれ。東京大学大学院比較文学専攻修了。フランス・アメリカ留学を経て東西の文化交流史を専門に研究。東京大学教養学部教授等を経て九二年に国際日本文化研究センター教授、東京大学名誉教授。九八年岡崎市美術博物館長、九九年京都造形芸術大学学長、二〇〇七年同大学名誉学長、一〇年より静岡県立美術館長。八一年に『平賀源内』でサントリー学芸賞、八四年に『絵画の領分』で大佛次郎賞、九七年に紫綬褒章、〇六年に瑞宝中綬章受賞、一一年『藝術の国日本 画文交響』で蓮如賞、一二年三月、現代俳句大賞受賞。東京都在住。<o:p></o:p>

 

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「先生は長く日本と西洋の比較文化論を研究されてこられましたが、近年は岡崎市立美術博物館や静岡県立美術館の館長としてご活躍ですね」<o:p></o:p>

 

一七~一八世紀に泰平を築いた徳川時代を、パクスロマーナをもじって「パクス・トクガワーナ」と呼び、四十年来この時代の再評価に努めていましたので、徳川家とゆかりの深い岡崎や静岡で仕事をするのは楽しいですね。二〇一五年には徳川家康没後四百年を迎え、各地で顕彰事業が企画されています。私もこれまでの縁を活かして、東京、静岡、岡崎、名古屋を点と線で結び、徳川日本の平和と文化をテーマにした展覧会ができないものかと考えているところです。<o:p></o:p>

 

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「西洋列強の力による地理的拡大の時代、二百年以上も独立と平和を維持した徳川時代が、今、改めて見直されていますね」<o:p></o:p>

 

 徳川の泰平は、島国に自然発生的に醸成されたものではなく、家康から綱吉あたりまでの政権指導者たちの知恵と指導力の賜物です。

 たとえば外交。鎖国という言葉はネガティブに聞こえますが、今で言う出入国管理を徹底させたということ。キリスト教の影響を野放しにしていたら、九州などはおそらくポルトガル・スペインに分断・支配されていたでしょう。

 西洋の影響力を最小限に抑え、かといって完全に遮断はせず、比較的中立なオランダを唯一の窓口にした。そしてアジアを重視し、朝鮮や中国とは善隣友好関係を築いた。この時代、日本と朝鮮と中国は平和協定を結んだわけでもないのに、相互に独立と平和が維持されました。これは世界史の中でも特筆すべきことです。<o:p></o:p>

 

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「江戸時代は、俳句、歌舞気、浮世絵といった豊かな文化も育まれました」<o:p></o:p>

 

 徳川の幕藩制下では三百諸侯の地方自治がそれぞれの“お国柄”を育てました。今に伝わる地方の名産品や食文化の多くも、江戸時代に端を発し、その土地の風土に育まれてきた。領土争いや宗教戦争のない、平和で安定した時代であったからこそ、庶民が旅をし、俳句を詠み、雪月花を楽しみ、全国津々浦々に文化を浸透させることができたわけです。<o:p></o:p>

 

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「今、震災後の生き方として、この時代から学ぶ点はたくさんありそうです」<o:p></o:p>

 

 震災後のニュースで最も心を痛めたのは、昨年夏、京都五山の大文字送り火で、被災地から送られた薪が放射線の影響を心配する声に圧されて返却されてしまったことでした。被災地の人々に対する京都人の心ない仕打ち、その愚かさを一喝する仏教者が京都に一人もいなかったこと―実に悲しい、嘆かわしい醜態でした。個の欲の追求を良しとする戦後の価値観が行きつくところまで行った観がありました。最近、携帯端末だけが自分の世界、という人をよく見かけますが、あれも日本の末期が近いことを感じさせますね。<o:p></o:p>

 

徳川時代の日本には世界のどこにもなかった住民台帳がすでに存在し、共同体のつながりが強く、教育制度も整っていた。儒教の教えによって人々の暮らしには“知足安分”(足るを知り、分に安んず)の慎ましやかさがありました。日本人は今こそ足元を振り返り、歴史に学び、何百年もの間、磨き上げてきた「人間らしい人間」についての豊かな知恵を学び直すべきです。<o:p></o:p>

 

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「博物館や美術館が、そのような学習の機会を与えてくれる場になるといいですね」<o:p></o:p>

 

 最近の美術館では、古代文明展のような文明史の展覧会の人気が高いんですね。静岡でも大好評だったエジプト展では、ミイラの納棺が、日本のこけしやロシアのマトリューシカのような形でどこか親しみがあった。木彫りの女性像は片足をちょっと斜め前に出したポーズで、今のモデルみたいに自分のからだの美しい見せ方をしていました。

 エジプトは日本から最も遠い文明と思われているのに、出土品を見ると同じ人間の暮らしが確かにあったと思える。地図で見ると、ただ平たい世界が、広大な時間空間の広がりの中で、丸くつながっている地球なんだと実感できます。博物館や美術館が、そういう感覚と想像力の拡大と活性化をもたらす存在でありたいと思いますね。<o:p></o:p>

 

(聞き手・鈴木真弓、写真・浅野 恭)<o:p></o:p>

 


アカデミー賞作品鑑賞

2012-06-06 09:50:23 | 映画

 このところお出かけ取材が多くてバタバタしてましたが、今週は連日おこもり執筆中。化粧もせず、ジャージルックで、午前と午後、NHKの「みんなの体操」なんかしちゃってます(苦笑)。今日は、お出かけ取材の合間に、何本か観た映画について書きます。

 

 今年のアカデミー賞ノミネートになった秀作が、現在、何本か公開中ですね。静岡では6月23日からシネギャラリーで公開予定の『裏切りのサーカス』 、一足先に名古屋で観てワクワクしたことはこちらで報告しました。

 

 シネギャラリーでは8日まで、アカデミー最優秀外国語映画賞を受賞した『別離』 が公開中です。イラン映画と聞いて、ある種のイメージを持って観たのですが、テーマは夫婦の離婚と子どもと親の介護。本当に身近でどの国の人でも共感できるし、「夫婦のどっちが正しい?」「誰かがウソをついているはず」「事実は違ってもここは丸くおさめたほうが・・・」と観る者に推理的・審判的な要素も与え、ザワザワと心が揺さぶられました。

 宗教的なバックボーンは必要最小限に抑制され、なおかつ肝心なところでスパイス的に効いており、古い慣習が残る戦後間もない日本の地方都市に置き換えても、十分通用すると思いました。製作・監督・脚本のアスガー・ファルハディという人は、まだ40歳そこそこだそうですが、小津安二郎や黒澤明あたりを観て育った人なのかなあ・・・。とにかく凄い才能です。

 

 

 アカデミー最優秀脚本賞を受賞したウディ・アレンの『ミッドナイト・イン・パリ』 はMOVIX清水で公開中です。ハリウッドの売れっ子脚本家が滞在先のパリで1920年代にタイムスリップして、ピカソやヘミングウエイに出会い、クリエイターとして大いに刺激を受けるというストーリー。ウディ・アレンにしては意表を突いた設定だなと思いましたが、その設定が、真に伝えようとしたある種の“人生哲学”を一層引き立て、観る者に真に迫る・・・。このヒネリの掛け方が実に粋でオシャレなんですね。観終わった後、とても豊饒な気分になりました。日本なら三谷幸喜監督あたりが手掛けそうなテイストです。

 

 

 ネットで検索してみたら、映画賞嫌いで滅多に授賞式には出ないウディ・アレンが、『別離』のアスガー・ファルハディ監督を絶賛し、彼に会いたいという理由で某授賞式に参加したというエピソードを発見しました。・・・いいですねえ、作品を純粋に評価し合えるクリエイターのつながりって。お時間の許せる方は、ぜひ映画館へ!

 ○シネギャラリーはこちら

 ○MOVIX清水はこちら


満寿一DEはしご酒 参加御礼

2012-06-05 08:35:56 | 地酒

 こちらで告知し、今朝(6月5日)の静岡新聞朝刊にも紹介されたとおり、2日(土)夜、静岡市街で『満寿一DEはしご酒』が開催されました。ご参加のみなさま、スタッフのみなさま、おつかれさまでした&ありがとうございました。

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 今回、私は両替町の『狸の穴』のサポートスタッフに入り、お客様と「満寿一」の酒談議を楽しみ、古い記事ですがこちらこちらのコピーを配って、在りし日の増井浩二さんを偲びました。

 

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 はしご酒のスタッフを務めるのは初めてで、どれだけお客様が入るのか想像できませんでした。

 いつもは13席のカウンターバーですが、椅子を取っ払って立ち飲みにしたので、ピーク時は15~16人入ってもらったかなあ・・・。初来店客の中には、いつも立ち飲みの店だと誤解する人もいたけど、思った以上に若い人や女性客が多く、『狸の穴』ファンの底辺拡大につながれば・・・と願いました。

 

 

 残念ながら、過去のはしご酒より来客数は少なかったそうで、國香さんや喜久醉さんがスタッフで入っていた店に比べたら、確かに私じゃ役不足で、申し訳なかったですが、「マユミさんでしょ?」と声をかけてくださる奇特な方もいらっしゃいました。本当にありがとうございます。

 

 『狸の穴』は、こちらでも紹介したとおり、街中では静岡の酒入門店としてイチオシの店です。はしご酒をきっかけに地酒の美味しさに目覚めた方で、もう一歩この世界に踏み込んでみたいと思ったら、ぜひごひいきに!