評価
回送バスのマスターに7歳からチェスを教わった少年は15歳になり海底チェス倶楽部で「リトル・アリョーヒン」と名付けられた人形を操ってチェスをするようになる。11歳から肉体的な成長を止めた少年は思う「大きくなること、それは悲劇である」。少年の数奇な生涯を静かに綴る小川洋子ワールド。
上唇と下唇が癒着して生まれた少年は脛の皮膚を移植することで口が開けられたが、唇に生えた産毛が成長とともに太くなって行く。少年がよく行くデパート屋上にいた象のインディラは大きくなり過ぎて地上に降りることがかなわず、その場で往生を遂げた。少年にチェスを教えたマスターは「慌てるな、坊や」の名台詞を連発し、バス会社の敷地にある動かなくなった回送バスで暮らしていた。そこで少年はチェス盤の下に潜り込んで猫と戯れながら目に見えぬ盤上を見上げることでメキメキとチェスの腕を上げて行く。その後、倶楽部で人形の下に潜ってチェスをさすようになった少年は老人専用マンションのチェスルームに活動の場を移し、ある日一酸化中毒で人形の下で死をむかえるのであった。
ざっとこんなあらすじだが、この他にも瞑目する少年の前に登場する壁と壁に挟まれて出て来れなくなった少女「ミイラ」、愛用の布巾を肌身離さず持っている祖母、「リトル・アリョーヒン」の作成費用を出した「老婆令嬢」などのキャラクターとアイテムが勢ぞろい!しかも、物語の進行の柱はチェス。しかも、しかも、歴史に残るような名勝負を展開するのは盤下に潜って人形を操る少年。
これが小川ワールドでなくてなんであろう。今回も独特な小川ワールドに酔いしれた。
【追伸】
「リトル・アリョーヒン」のモデルになったアレクサンドル・アリョーヒン(ロシア)は実在の人物で、人形のモデルになったのは実在したトルコ人形のようです。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます