評価
再読(前回2017年5月4日)。
不忍の池のすぐ傍・無縁坂に住む高利貸の妾・お玉は、日々見かける医学生・岡田に恋心を抱く。「今日こそは声をかけよう」と決心したお玉は岡田を待つが、池で捕えた雁を抱え友人2人とやってくる岡田をただ見送るだけだった。運命のはかなさを伝える名作。
物語の展開を記すと次の通りとなる。
お玉の境遇。お玉の旦那になった末造の人となりと女房・お常との諍い。岡田を待つようになったお玉の心境の変化。紅雀を蛇が襲う出来事でのお玉と岡田の出会い。旦那の出張を見越して女中のお梅も里に帰し、いよいよ岡田との接近を心に決めたお玉。友人に誘われて一人での散歩を止めて不忍の池へ行き、偶然投げた小石が雁を直撃し思わず雁鍋を食すことになる岡田。友人と連れ立つ岡田に声をかけることができないお玉。翌日岡田はドイツへの留学に旅立つ。
巻末にある明治42年の不忍の池界隈の地図で当時の岡田や末造の散歩道をたどりながら読み進み、すっかり「雁」の世界に浸ることができた。紅雀と蛇の場面が実に生々しく滴る血の色が目に飛び込んで来るよう。これこそ名作!
お玉の父親が雇った女中に関する出来事で「くすっ」と笑える箇所があるので記しておきます。
『とうとう四日目の朝飯の給事をさせている時、汁椀の中へ拇指を突っ込んだのを見て、「もう給仕はしなくても好いから、あっっちへ行っていておくれ」といってしまった。』
【追伸】
巻頭の一文。
「古い話である。僕は偶然それが明治13年の出来事だということを記憶している。」おーっ!明治13年、わが母校が誕生した年ではないかっ!!!