2月4日 NHK海外ネットワーク
エジプトは新しい国づくりに向けた産みの苦しみとはいえ、
この一年は混沌とした状況が続いた。
タハリール広場は、
エジプトの政変の原点となった“アラブの春”の象徴とも言える場所である。
しかし1年が過ぎても若者が占拠を続けている。
2日には、サッカー場での暴動をきっかけに抗議デモが広がり、
治安部隊との衝突で死者もでている。
1年前、この広場で解放の喜びに沸いた市民たちは
民主化の道を手探りで進んでいる。
初めての議会が召集された1月23日、
花を手にした男性たちが議会周辺に集まった。
仲間の当選を祝うイスラム系組織、ムスリム同胞団のメンバーたちである。
ムスリム同砲団は長い間、
政府の転覆を狙う危険勢力として非合法化されてきた。
去年行なわれた議会選挙では、
“イスラム教がすべてを解決する”と強く訴え、
イスラム教徒が多数を占めるエジプト国民の心をつかんだ。
508の議席のうちムスリム同胞団を母体とする政党が半数近い235議席を獲得。
さらに、サラフィ主義と呼ばれるより厳格なヌール党も続き、
イスラム系の政党が議席の70%を占めた。
サラフィ主義は、
イスラムの教えを今の時代にも厳密に適用すると主張し、
銀行が利子を取ることを禁止するなどの政策を掲げている。
これに対し、
政権崩壊に大きな役割を果たした他の民主化勢力や若者は
支持を広げることが出来なかった。
今回初当選したジアド・エレイミィ議員(31)は、
デモを主導した若者グループの中心メンバーだった。
当選した今は資金繰りに苦労している。
一緒に立候補した仲間のほとんどはイスラム系の候補者に競り負けた。
新たな国づくりにイスラム教の教えを色濃く反映させることには反対である。
1年前の反政府デモでは女性たちも大きな声を上げた。
女性活動家でアナウンサーのガミーラ・イスマイルさんは、
今回の議会選挙に立候補したが落選。
女性議員の数はムバラク政権時代より減少してしまった。
このままでは女性の社会的な地位がさらに低下してしまうのでは、
と恐れている。
議会でのイスラム勢力の台頭は、
エジプトの基幹産業である観光業にも波紋を広げている。
観光業はGDPの約10%を占め、
外貨獲得の重要な手段になっているが、
デモによる混乱の影響で、
去年の観光客は前年比30%余減、約1千万人にとどまった。
こうした厳しい状況に
イスラム勢力の台頭が追い討ちをかける懸念が浮上してきた。
最近、イスラム系政党の幹部が、
海辺絵の水着姿や観光客の飲酒を禁止すべきだと発言した。
不安をつのらせた観光業者は先月、
ムスリム同胞団の責任者に説明を求めた。
ムスリム同胞団の幹部は
「今の議員の任期中は、
ビーチでの観光を含め観光政策はこれまでと変えない。」
と強調したが、観光業者たちは納得しなかった。
「観光業界で働くものを安心させるため
政策をもっとしっかり説明して欲しい。」
エジプトのこれまで押さえつけられてきた声無き人々の思いがようやく叶った。
その選択は
アメリカやヨーロッパの思っていたものとは違う形である。
しかし、これもひとつの選択であり民主主義の一環である。