8月11日 編集手帳
熱帯夜に、
禁断の果実だなあと思いつつ、
やめられないことがある。
エアコンの涼風と文庫本、
夜ふかし…の3点セットである。
規則正しい生活に勝る健康法はないというが、
天気欄が真っ赤に染まる今週を無事に乗り切る自信はない。
ドイツの哲学者カントは規則正しい生活習慣で知られた。
同じ道筋を同じ時間に散歩した。
あまりに正確なので、
通り道の家ではカントの姿を見て時計の狂いを直したと言われる。
哲学の講義で習ったカントの理論は、
耳から入って別の耳から出て行ったが、
一時、
霊魂の存在を確かめる研究に挑戦したという話は記憶に残る。
論文『視霊者の夢』(金森誠也訳、講談社学術文庫)で、
自由に霊界を出入りできるとされた、
スウェーデンボリという人物を考察した。
18世紀の欧州で評判を広げたその霊能者について、
偉大なカントが出した結論は、
疑わしくはあるけれど、
霊は存在していてもおかしくない、
と読める。
墓参りをして、
迎え火をして、
泉下の人と交わるお盆である。
耳を澄ませば、
懐かしい人の声が聞こえてくるかもしれない。
「いったい何時だと思ってるの!」等々。