6月29日 NHK海外ネットワーク
開戦から100年の今年 イギリスでは戦争の最前線の様子を体験できるイベントが開かれた。
兵士らが身をひそめた塹壕(ざんごう)を再現しその苛酷さを感じてもらう。
大戦を知る世代がいなくなる中この記憶をいかに語り継いでいくかが課題になっている。
「ここでの体験で前線に駆り出された若者の気持ちがどんなものかわかった。」
イギリスで大戦の悲劇を象徴するケシの花。
多くの若者が命を落としたベルギーの激戦地で咲いていたことから
毎年11月の戦没者の追悼記念日には多くの人が身に身に着ける。
4月 キャメロン首相は子どもたちと一緒に首相官邸にケシの種を植えた。
追悼の思いを抱きながら今年は全国の小学校で花を育てようと呼び掛けている。
名門オックスフォード大学からも多くの若者が戦場に赴いた。
構内の壁には亡くなった学生の名前が刻まれている。
全学生の5人に1人が帰らぬ人となった。
若者たちの未来を奪った戦争の苦い記憶である。
オックスフォード大学では第1次大戦の記憶を後世に残そうという取り組みを始めている。
管理されている10万点にものぼるデータ。
戦争を体験した人の手紙や写真などを撮影しデジタルデータとして保存する“デジタルアーカイブ事業”。
(アーカイブの責任者 スチュアート・リーさん)
「この手紙には
『妻と2人の子供よ
フランスに向かう
愛をこめて
お父さんより』
と書かれている。
彼は1週間もたたないうちに亡くなった。」
6年前に始まったアーカイブは今ではヨーロッパ12か国の図書館などが参加。
市民が図書館に持ち寄った資料を大学がまとめて保存する。
多くの人に戦争について知ってもらおうと資料はインターネット上で公開している。
(アーカイブの責任者 スチュアート・リーさん)
「日記やノート、手紙などがある。
あまりしられていない市民の目から見た戦争を知ることが出来る。
戦争がすべての人に影響を与えたことがわかる。」
資料を提供したひとり ハーベイ・ゴールドさん(85)。
出征した父親は生きて帰った後も戦場での体験を多くは語らなかった。
父の死後 遺品の中から写真など数十点が見つかった。
乗っていた戦艦が沈没し600人以上が亡くなっていたことが分かった。
自分が亡くなった後も戦争の記憶を後世に伝えたいと考えゴールドさんは父の遺品を提供した。
(ハーベイ・ゴールドさん)
「多くの命が失われたことをずっと覚えておくべきだと考えた。」
オックスフォード大学で歴史学を教えるマーガレット・マクミラン教授。
マクミランさんは第1次大戦中イギリスを率いたロイド・ジョージ首相のひ孫である。
広がる格差への不満がくすぶりナショナリズムが高まっていった開戦当時。
今の国際情勢と重なるところが多いとマクミランさんは指摘する。
(マーガレット。マクミラン教授)
「ナショナリズムのような感情は危険。
帰属意識は大切だがそれが瞬く間にほかの集団に対する憎しみに変わることがある。
現在も問題となっている貧富の差の拡大は実は大戦前にも起きていた。」
マクミランさんは6月 若者たち向けに講演を行った。
(マーガレット・マクミラン教授)
「私たちは今もなぜ大戦が起きたのか考えている。」
若い世代に悲劇を繰り返してほしくないと語りかけた。
マクミランさんは歴史の文脈から今を生き抜くための教訓を導き出していきたいと考えている。
(マーガレット・マクミランさん)
「1914年の出来事から見えてくるのは
指導者の誤った判断がヨーロッパを戦争に導いてしまったということ。
優れた指導力があれば変化する時代でも乗り切れる。
難しいことではあるが。」