3月24日 編集手帳
桜の花びらには小さな切れ込みがある。
詩人の杉山平一さんは切符に見立てた。
〈みんなが心に握つてゐる桃色の三等切符を/神様はしづかにお切りになる…〉(『桜』)
「三等」というのがいい。
人に揉(も)ま れて押し合い、
へし合い、
ときには窓から雨風が吹き込む人生の旅にはたしかに、
グリーン車の切符は似合わない。
きのう、
東京で桜が開花した。
若い血潮を連想させる桃色の花びらを見ては多くの人が、
命の尊さに思いをめぐらす季節である。
いやな記事を読んだ。
千葉県船橋市の県立高校で、
30歳代の男性教諭が子猫を学校の敷地に生き埋めにしたという。
野良猫が産み落とした5匹で、
少なくとも4匹は生きていた。
「いずれ死んでしまうと思った。対処の仕方が分からな かった」そうだが、
穴を生徒に掘らせるとき、
わが手で埋めるとき、
どんな気持ちでいたのだろう。
〈百代(はくたい)の過客(かかく)しんがりに猫の子も〉(加藤楸邨)。
「百代の過客」(永遠の旅人)は時の流れを指す。
生まれたばかりの子猫だって、
小さな肉球の手に切符を授かっている。
限りある時間を精いっぱい生きていく桃色の切符である。