3月29日 編集手帳
「水と安全はタダ」という言葉の原典は、
高度成長期のベストセラー 「日本人とユダヤ人」だといわれる。
イザヤ・ベンダサンと名乗る自称ユダヤ人の著者が、
「日本人は、安全と水は無料で手に入ると思いこんでいる」と書いた。
命の長い警句である。
本の出た四半世紀後に阪神大震災とオウム真理教の無差別テロが起きたときも、
危険に無防備な日本人を語る際の枕ことばになった。
さ らに20年がたち、
さすがに少し時代に合わなくなってきた感もある。
安全に対する意識に限らない。
店で水を買って飲む。
以前は想像すらできなかったことが当たり前になった。
東京都水道局が今年に入り、
水道水をテーマに川柳、短歌、四コマ漫画を募集した。
小学生が詠んだ入選作を紹介したい。
〈小学校まいにち 行列水飲み場〉。
校庭で汗をかいた子供には水道の水もごちそうだろう。
どんな水を飲むかは好みの問題である。
水道水の復権に加担するつもりもないが、
安全な水が簡単に飲めることのありがたみは忘れずにいたい。
原発事故で、
校庭から子供の姿が消え、
蛇口も閉められた学校があった。
つい4年前である。