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浮世のパック

2015-04-25 07:30:00 | 編集手帳

4月18日 編集手帳

 

失恋を嘆くはがきを読み終えて、
その人はひと呼吸を置き、
「青春」と語って結ぶ。
つぎに受験勉強の悩みを打ち明けるはがきを読み、
「青春」と結ぶ。

ほとんど無名、
36歳の愛川欽也さんがTBSラジオの深夜放送『パック・イン・ミュージック』で語り手を務めはじめたのは1971年(昭和46年)である。
高校生だった小欄の耳には、
その一語がいまも残っている。

慰めでも、
励ましでもない。
“おれもそうだったよ”という共感の言葉だったろう。
袋小路に追いつめ られた心境でいるとき、
フッと広い場所へ連れ戻された気持ちになったのを思い出す。
愛川さんが80歳で死去した。

番組名の「パック」は、
シェークスピアの戯曲『夏の夜の夢』に登場する妖精の名前に由来する。
そのセリフにある。
〈泥沼とおり、
 土手を越え、
 藪(やぶ)から茨(いばら)をかいくぐり、
 おいらの音頭で、
 どこへでも〉(新潮文庫)

思えば、
ラジオの深夜放送から、
映画の愉快な脇役へ、
情報番組の司会へ…と舞台を変えながら、
人々が憂(う)き世の泥沼や藪を歩み通す音頭をとってくれた人である。
「青春」の感謝もこめて、
陽気な妖精を悼む。

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