3月25日 キャッチ!
ペルシャ時代からの暦で3月21日に新年を迎えたイラン。
新年を前に加熱する伝統的な市場バザールは
特有の狭い路地を埋め尽くす大勢の買い物客でにぎわった。
(店員)
「ことしは皆まとめ買いをしないね。
買っても2,3個だよ。」
物価の高騰で市民の買い控えが起きていると言う。
新年の訪問客には新鮮な果物を振舞うのがイラン流。
しかし去年より値段が50%上がっているものもある。
ナッツも去年より15%ほど値上がりしている。
バザールを訪れていたモハンマド・マジディさん(26)。
カスピ海産の白身魚と新年のごちそうに欠かせない食材を求め
10軒近くの店を回ったが何も買えなかった。
(モハンマドさん)
「買い物はしたいけどこの先何があるかわからないので出費を抑えるしかない。」
物価が急上昇したのは核開発問題をめぐり欧米が制裁を強化した2012年以後。
一連の制裁でイランの生命線ともいえる原油の輸出量は3分の1に激減。
国外からの投資は滞り
通過リアルも先行きの不安から売られ大暴落。
輸入品などの値段が跳ね上がりインフレ率は45%(2013年)にまで達した。
イラン政府は
欧米と対話を進めるなどした結果インフレは大幅に改善したと主張しているが
それでも15%を超えている。
制裁の影響はモハンマドさんの仕事にも大きな影響を及ぼしている。
真新しい服を着て新年を迎える風習が残るイラン。
婦人服店を営むモハンマドさんにとってはかき入れ時のはずである。
(客)
「収入が変わらないのに値段は上がるのでなかなか商品に手が出ません。」
複数の仕入れ先を回り客の手が届く手頃な服を捜す努力を続けてはいるが
どこも卸売価格を引き上げていると言う。
(卸売業者)
「通関手数料の3割値上げの影響で卸売価格も2割ほど上げるしかない。」
コスト高による販売不振が響き
売り上げはこの数年で半分にまで落ち込んだ。
(婦人服店経営 モハンマドさん)
「本当にひどい状況です。
経済制裁が解除され景気が良くなることを願っています。」
制裁の影響はテヘランにあるNGO子ども支援施設にも及んでいる。
親元を離れて暮らす隣国アフガニスタン出身の子どもたちに勉強を教え
食事や服を無料で提供している。
運営資金は寄付金で賄いその4割は海外からの援助である。
制裁でイランへの送金が制限されたため外国からの寄付金が滞り
食事も満足に提供できない状況が続いている。
(NGO施設長 サハール・ムサビさん)
「以前は今日のように暖かい料理を毎日出していましたが
今は週2回が限界で今後がとても心配です。」
子どもたちのために何かできることはないか
サハールさんは新年を祝うイベントを開くことにした。
地元の支援者やボランティアも招待し
子どもたちの成長を間近に見てもらうことで支援の輪を広げるきっかけにしたいと考えたからである。
運営資金に充てようと子どもたちが描いた絵なども販売した。
(NGO施設長 サハール・ムザビさん)
「制裁で苦しんでいるのは彼らとその家族です。
私たちは政府同士が合意に達することを心から願っています。」
イランでは市民が外国メディアに対して本音を漏らすことは珍しいが
政権が欧米との交渉で制裁解除を引き出してくれると
期待の声の中にいら立ちや諦めのニュアンスも増えてきた。
一昨年発足した穏健派のロウハニ政権は
欧米との対話や経済再生といった公約通り
実際に核開発を制限する見返りに制裁の一部緩和で欧米側と合意するなど実績を上げている。
これは保守強硬派のアフマディネジャド政権時代には想像もできなかったことで
期待は一気に膨らんだ。
しかしその歴史的ともいわれた合意からすでに1年半近くが経った今も
制裁の全面解除の見通しは立っていない。
交渉期限を設けるものの去年も2度にわたって延長されるなど
国民は期待すれどもその都度裏切られるという状態である。
そうしたことが繰り返されれば
“政治的な駆け引きに気をとられ市民生活の実態に目が向いていない”
などと政権を批判する声が国民の間に広がりかねない。
イランとアメリカは過去の交渉で“実質的な進展があった”などと評価したうえで
これからが正念場だという認識を示している。
(3月21日 イラン ロウハニ大統領)
「いくつかの問題が残っている。
解決は可能だがまだ時間がかかる。」
(3月21日 アメリカ ケリー国務長官)
「双方にはまだ重大な隔たりがあり重要な決断をすべきだが容易ではない。」
イラン側はロウハニ大統領や外相らが
“すべての制裁の解除はデッドラインだ”として
この問題では譲らない姿勢を繰り返し強調してきた。
さらに最高指導者や議会の多数を占める保守強硬派の勢力は
もう1つの大きな争点の核開発の規模でも譲歩はしないようロウハニ政権を突き上げている。
ロウハニ政権としてはどちらか1つではなく
どちらも勝ち取らなければ自らの政治生命を危機にさらすことになりかねず
背水の陣で交渉に臨んでいる。
一方の欧米側も
制裁をかけたからこそイランを交渉のテーブルに引き戻すことができた。
さらには
制裁の緩和と引き換えに核開発の制限も受け入れさせることができた
と考えている。
長期にわたって軍事利用を疑うイランの核開発を制限するためにも
イランに圧力をかける有効な手段は残しておきたいというのが本音で
段階的な解除は譲らないものとみられる。
イランとアメリカは26日 外相会談を再開する。
双方ともに相手方の政治的決断だと譲歩を求めあっているのが現状で
期限内に枠組みをまとめることができるのか予断をゆるさない状況である。