3月24日 キャッチ!
スイスとドイツの国境バーゼル。
今スイスから国境を越えてドイツに買い物に行く人たちが急増している。
背景には急激なユーロ安」スイスフラン高がある。
今年1月スイスの中央銀行が
通貨フランの上昇を食い止めるために設定した対ユーロの為替レート上限を撤廃し
フランが急騰。
さらに3月ヨーロッパ中央銀行が量的緩和を始めたことからユーロが売られ
スイスフランの高止まりが続いている。
週末のたびに割安なドイツの小売店にスイスの人たちがこぞって買出しに行くことから
スイスとドイツの国境を超える路面電車は“ショッピングトラム”と呼ばれるようになった。
(買い物客)
「価格が安いからドイツに来ます。」
「同じもので同じ品質なのにスイスより安いわ。」
一方国境のスイス側にあるシュッテッキ・ショッピングセンターは苦戦を強いられている。
ドイツ側の小売店に対抗するため値下げをするなど対策をとっているが
1月以降売り上げは7%減少。
価格」競争では太刀打ちできないとして
今後サービスの向上などで客の減少に歯止めをかけたい考えである。
(シュテッキ・ショッピングセンター責任者 ティム・マイヤーさん)
「多くの店が商品すべてを10~15%値上げしています。
独自ブランドの良いサービスがあれば今後も生き残ることができるでしょう。」
ユーロ安フラン高はスイスの基幹産業である製造業にも打撃を与え始めている。
西部ローザンヌにある精密機械メーカー。
計測用の精密機器などを製造し
売り上げの半分以上をユーロ圏への輸出で賄ってきた。
しかし急激に進むユーロ安フラン高でコストは一気に20%上昇。
ユーロ圏の顧客から注文の延期やキャンセルが相次いでいる。
今は部品の調達先に値下げをしてもらうことでなんとかやりくりしているが
この状況が長引けばさらなるコストの削減に踏み切らざるを得ないという。
(シルバック社CEO エリック・シュニーダー氏)
「1年~1年半は利益がなくてもやっていけますが長期的には維持できません。
そうなれば工場の一部の海外移転や従業員の削減など
思い切った方法をとることが必要です。」
さらに観光産業にも大打撃となっている。
スイスはアルプスに囲まれていることからスキーリゾートが多く
本来なら冬から春にかけてかき入れ時を迎える。
しかし急激な為替の変動で
1月以降ホテルの予約が30㌫と減少した。
こうしたなか独自の対策をとるスキーリゾートも出てきた。
ヨーロッパでも有数のスキーリゾートを抱える南部の町グレヘン。
ユーロ安フラン高が進んだ今年1月
1ユーロ=1,35フランの固定レートを導入した。
この地域にあるホテルやレストランのほとんどがこの仕組みを採用。
このレートはユーロ危機が起きる前の水準で
ユーロ圏の客にとっては今より30%程度割安である。
(スキー客)
「ユーロで支払えば信じがたいほど得です。
本当に大きな割引受けられます。」
リゾートにとっては本来得られる収入を不意にすることになるが
対策の効果でキャンセルはほとんどなく
客をつなぎとめることに成功していると言う。
(グレヘン観光協会CEO ブレノ・シュトッフェル氏)
「今のレートで日々換算すれば損失は出ますが良い効果があります。
スイスフランのレートに敏感の人が各国から多く来るようになり
この営業努力によって良い見返りが期待できるのです、」
スイス経済全体はかなり深刻な状況である。
スイスの主力産業は精密機器や時計など輸出産業と観光産業。
この2つの産業が同時に打撃を受けていることから
スイスの大手銀行や主要なシンクタンクは
これまで1%後半としていた今年のスイスの経済成長率の見通しを
0,5%前後にまでいきなり引き下げたのである。
さらにスイスでは通貨高によってデフレに陥りつつあって
今年の消費者物価指数は1%以上のマイナスになるとみられている。
スイスの中央銀行は通貨高に歯止めをかけるため
1月にマイナス金利の幅を0,25%から0,75%にまで拡大したが
今のところその効果は出ていない。
スイスだけではなくデンマークやスウェーデンでも通過高を阻止しようと
マイナス金利を導入するなど
各国の中央銀行が競うようにして金融緩和に踏み切っている。
これを受けて金融市場に変化が出てきている。
ヨーロッパでは国債の利回りがマイナスになる
つまり国債を満期まで保有した場合
元本が目減りしてしまうという異常な事態になっている。
また株式市場にも資金が流れ込んでいて
ドイツやイギリスで株価が過去最高値を更新している。
デフレが懸念されている実態面での弱さとは裏腹に
株価債券高が進む状況に金融緩和による金あまりがバブルを招きつつあるという見方も出ている。
緩和競争は世界的に広がっていて
世界は経験したことのない“大緩和時代”に突入したとも言われている。
大規模な金融緩和を続ける日銀も紺の競争に加わっているととらえ
実際 日本国債も一時償還期限の短い国債の利回りがマイナスになった。
国債の取引量はほかの金融商品とは比較にならず
こうした国債バブルは仮に崩壊することになれば金融市場に与える影響は計り知れない。
ほかの国が緩和に踏み切ったから自分たちも緩和するといった安易な発想にとらわれるのではなく
中央銀行の政策が金融政策や世界経済にどういった影響を与えるのか
当局者が世界経済の安定に向けて
冷静に適切に対応することが必要である。