5月2日 編集手帳
悲しみに打ちひしがれた人に出会うたび、
「時」が心の傷を早く癒やしてくれればいい、
と思う。
間違っているのかも知れない。
シベリアに抑留された次男(茂二郎)が飢えと病気で死亡したとの知らせを受けて、
歌人の窪田空穂(うつぼ)は一首を詠んでいる。
〈親といへば我ひとりなり茂二郎
生きをるわれを悲しませ居よ〉。
いつまでも悲しませつづけてくれ。
悲しむという行為のほかには、
もはやおまえに愛情を注ぐすべはないのだから、と。
本紙の全段6ページにわたってぎっしり並ぶ人名の一人ひとりが、
空穂にとっての茂二郎であったのだろう。
先 の大戦後、
旧ソ連の設置した収容所などで死亡した日本人抑留者の名簿を厚生労働省が新たに公表した。
のべ1万723人、
それぞれの遺族が肉親のつらい最期に想像をめぐらせ、
胸を痛めてきただろう歳月を思う。
〈家畜にも劣るさまもて 殺されて死にゆけるなり…〉。
空穂に『捕虜の死』と題する長歌がある。
歌は結ばれている。
〈むごきかな あはれむごきかな かはゆき吾子(わがこ)〉。
いのちが詰まっているせいだろう。
読み終えた朝刊が、
きょうはやけに手に重い。