3月17日 NHKBS1「国際報道2020」
ベルギー北部の港に入港した貨物船。
普通の船にはない工夫が施されている。
貨物船の甲板に設置されているのは
“ローターセイル”と名付けられた高さ18mの柱状の帆である。
フィンランドに拠点を置くベンチャー企業が開発した。
利用するのは「マグナス効果」と呼ばれる物理現象。
柱を回転させることで
船の側面から受ける風を前に進む力へと変える。
この貨物船では5年前から導入。
天候にもよるが平均して年間5%ほどの燃費向上につながるという。
(船長)
「わずかな差かもしれませんが
“塵も積もれば山となる”です。」
海運業界ではこうした自然の力を利用する技術開発が相次いでいる。
全長136mの巨大な帆船の開発を進めるのはフランスに拠点を置く企業。
エンジンの動力に加えて風の力を利用することで
温室効果ガスの排出を大幅に削減できるとして
来年の完成を目指している。
(ヨーロッパ船主組合 事務局長)
「海運業界は
どうすれば温室効果ガスの排出を早急にゼロにできるか
提案したいのです。」
そして3月
一隻の船がフランス北西部の港を出港した。
いっさい温室効果ガスを排出しない「エナジー・オブザーバー号」。
元ヨットレーサー ビクトリアン・エルサールさんらが
レース用のボートを改造して作った。
船体のいたるところには太陽光パネルがあり
風力を推進力や電力に変える帆も搭載している。
さらに
(船長 エルサールさん)
「ここには燃料電池という“宝物”がある。
日本の技術だよ。」
最大の特徴が
水素から電気を作り船の動力源にしていることである。
トヨタの燃料電池車「MIRAI」の電池を積んでいる。
水素は海水から取り出す。
その工程で使う電力は太陽光や風力からつくる。
太陽光に風力そして水素を組み合わせることで
燃料電池を利用した船としては世界でも初めて
エネルギーの自足自給を実現した。
航海を続けながら
ナビゲーションシステムからシャワー室やキッチンなど
船内で必要なエネルギーもすべて賄う。
フランスを出発した後
大西洋 太平洋を横断し
向かうのは日本である。
オリンピックが開かれる7月の到着を目指し
排出ゼロの技術の実証とPRを行なうのが狙いである。
(トヨタ 技術担当者)
「我々の燃料電池の海での利用は初めて。
データを集める貴重な機会です。」
(船長 エルサールさん)
「この航海でメディアや企業 市民 政策などがひとつになるのです。」
「エナジー・オブザーバー号」は
7月に日本に到着した後もさらに航海を続けて実証実験を行い
合わせて4年にわたってデータを収集していく。
IMO(国際海事機関)は
温室効果ガスの排出量を半ばまでに50%減らし
できるだけ早くゼロにすることをかざしている。