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「ありがとう!」 志村けんさんへ

2020-04-21 07:00:00 | 編集手帳

3月31日 読売新聞「編集手帳」


お誕生日、おめでとう!と、
志村けんさんが話しかけても、
おばあちゃんは返事さえしない。
志村さんが突然訪問し、
100歳の誕生日を祝うというテレビ番組の企画は失敗したかに見えた。

だがふと思いついて、
普段コントでやっているおばあさんの声で話すと、
「はいっ」とかわいい声が返ってきたという。
3年後、
おばあちゃんは亡くなった。

志村さんは「いい思い出ができました」と家族からお礼の手紙が届いたこと共々、
芸能人生で巡り会った喜びの一つとして自著に書き留めている。
(『変なおじさん 完全版』新潮文庫)

志村さんには一人だけの文通友達もいた。
知的障害を持つ詩人くりすあきらさんである。
<ありがとうといわれたら
 しあわせになります
 でもありがとうは
 なかなかいうて
 もらえません
 しんせつにせんと
 いうてもらえません…
 ありがとうはしんどいこと
 なのです>。
僕の一番好きな詩だと口ずさんだ。

国民的コメディアンの「変なおじさん」は底抜けにやさしい人だった。
享年70。
世界を苦しめるウイルスによって不慮の死に見舞われた。
涙と一緒に、
ありがとうと言おう。

 

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