4月1日 読売新聞「編集手帳」
カレンダーを眺めつつ、
思い出した短歌がある。
<生者のみめくれる暦またも来る四月一日エイプリルフール>
(宮城県塩釜市 佐藤龍二)
本紙歌壇に2012年4月に掲載された被災地の方からの投稿である。
3・11の東日本大震災から1年を過ごし、
エイプリルフールを迎えた複雑な気持ちを詠んだものだろう。
悲しくない、
苦悩なんかしていないとウソをついても、
現実が変わるはずはない。
今年にも似た面がある。
新型ウイルスの猛威で、
喪失の悲しみや生活への不安が広がり続ける中でウソの罪の懸念を禁じえない。
外国で実施されているロックダウン(都市封鎖)についての根拠のない情報が、
他者に転送を促すチェーンメールで拡散し、
政府が否定に追われている。
<大切な人に回して>と記されているといい、
家族や友人を思う人の気持ちを利用する意図がうかがえる。
世の中を騒然とさせるのが快楽なのか、
最初の発信者はどんな人なのだろう。
最近ようやくトイレットペーパーを店頭に見るようになった。
思えば、
ウイルスといい、
デマといい、
“拡散”の2文字とともに4月の声を聞いた。