箕面三中もと校長から〜教育関係者のつぶやき〜

2015年度から2018年度に大阪府の箕面三中の校長を務めました。おもに学校教育と子育てに関する情報をのせています。

3学期が始まる

2018年01月09日 10時04分33秒 | 教育・子育てあれこれ



3学期が始まり、最初に始業式を行いました。


私からの講話を紹介します。
今回は、本から引用して、そのまま朗読しました。

<平成30(2018).1.8>  3学期始業式講話

「吹雪に新聞を飛ばされた日」

明けましておめでとうございます。
みなさん、ちょっと想像してみてください。

あなたは新聞配達店の店主です。
配達員を雇って、毎朝、新聞を各家庭に配達しています。

ある吹雪の朝です。最近雇ったばかりの30歳過ぎの配達員が、泣きそうな顔で戻ってきました。
聞けば、途中で自転車が転倒し、配達すべき新聞を風に飛ばされてしまったとのことでした。
雪の日は転ばないように気をつけるのは当たり前です。転んでも、新聞が飛ばされないようにしておくのも当たり前です。

それなのに、この配達員の新人さんは、半分以上の新聞をなくしてしまったといいます。
新聞の予備はまだあります。
さて、あなたは目の前で謝っているこの配達員になんと声をかけますか。

この話は実話です。

新聞を飛ばしてしまった配達員の名は、河瀬和幸さんといいます。この河瀬さん、東京の大企業に勤める社員でしたが、35歳のときにトラブルに巻き込まれて退職しました。その後自分で会社を興しますが失敗しました。何もかも失って、生まれ故郷の北海道に戻ってきたのです。

そこで、生活のために始めたのが新聞配達のアルバイトでした。

さて、その日は朝から猛烈な吹雪でした。なにしろ、北海道の吹雪ですから、シャレにならない激しさでした。

「ピュー、ゴー」 すさまじい風と雪で、自転車の車輪をとられて転んでしまい、積んでいた新聞が吹き飛ばされてしまったのです。

空に舞い上がる新聞。それを必死に追いかける河瀬さん。

でも、半分以上の新聞は吹雪の中に消えてしまいました。わたしはなにもかもうまくいかない。そして、今の自分は吹雪の中で新聞を追いかけている。その場で地面に突っ伏して泣いてしまいたい・・・。

そう思う気持ちをおさえて、河瀬さんは新聞配達所に戻り、何が起きたかを正直に話して、店主にお詫びしました。

このとき、店主が言った言葉を、河瀬さんはけっして忘れないと語っています。打ちひしがれる河瀬さんに、店主はこう声をかけたのです。

「河瀬さん、大丈夫、大丈夫。あわてなくても大丈夫です。ほんとうにひどい吹雪ですねえ」

吹雪で凍り付いた心を、毛布で包みこんでくれるような温かい言葉でした。

この店主は、そう声をかけると、何ひとつ文句を言わず、いっしょに再配達に付き合ってくれました。

自分が店主だったら、はたしてこんな言葉をかけることができるだろうか?と自分に問います。

河瀬さんは、そのできごとをふりかえって、こう言っています。

「あのとき、店主が温かい言葉とともに、自分に寄り添ってくれたことはけっして忘れません。だから、私も、逆境で困り果てている人がいたら、その人が孤立しないように寄り添うことにしています」

その後、河瀬さんは、昔の上司からの紹介で、ビジネスに返り咲き、現在に至っています。

もしかしたら、新聞配達所のこの店主は、河瀬さんにそんな言葉をかけたことをもう忘れているかもしれません。

でも、いちばんつらいときに、温かい言葉をかけてもらった方は、その言葉を忘れないのです。
 
たった一言が、言霊(ことだま)となって、人の心に一生残ることがあるのです。言霊とは言葉の「言う」という字と「霊」を書きます。言葉に宿る霊的な力のことです。

最後に、みなさんに次の言葉を伝えます。

人間は誰でも、大なり小なり心の傷を持っているものです。その傷を癒してくれるのは、人間の温もり以外にはないのです。


このストーリーは、『33の物語と90の名言』(西沢泰生著 かんき出版)より、そのまま生徒に話しました。