いまの時代、社会の変化にともなう生活様式の変化や少子化の進行とともに、子どもの自然体験や異年齢のグループ遊びがめっきりと減ってしまいました。
たとえば、私の小学1年生のころ(1960年代から70年ごろ)は、近所の小1から小4までの子が広場に集まり、いっしょにボール遊びなどをしたものでした。
また、近くの山に行き、木を四角に組み「秘密基地」などを作っていました。そこに自分の宝物をもって行ったりして、なにかワクワクするような空間であったことを思い出します。
しかし、今では、親世代の人でもそのような経験を経て、おとなになった人は少なくなっているのではないでしょうか。
遊ぶといっても家の中で一人遊びが主流となり、かりに友だちが遊びに来ても、ある子はテレビを見ている、ある子はケータイを触っている。またある子はゲームに夢中になっている・・・。
それぞれが、バラバラになって遊んでいるという状況もあるようです。
そのため、学校では体験学習や縦割り集団の活動が必要と言われ、さまざまな体験学習が行われています。
小学校では、林間学舎、臨海学校、「マリンスクール」、運動会での組体操・・・、
中学校では職場体験、福祉体験、スキー実習、体育祭での縦割り応援団・・・などが行われます。
しかし、教職員やおとなは、体験学習の「落とし穴」を意識しておかなければ、体験学習は子どもの成長につながるものにはなりません。
つまり、過去の経験と現在の経験をおとながつなげて、子どもに気づきを起こさせることをしなければ、体験学習は「体験し放し」で終わってしまい、子どもの成長にはつながりにくいのです
たとえば、中学2年生で行う職場体験で、あるとき、観光ホテルの体験をした生徒がいました。
3日間の職場体験を終えて学校に帰ってきた生徒に、担任の先生が感想を聞きました。その生徒は「支配人の人から、『きみはあいさつがちゃんとできるね』とほめられた」という感想をうれしそうに語ってくれました。
それを聞いた先生は次のように返しました。「あいさつがちゃんとできたんやね。そう、よかったね。」
しかし、その先生はそのまま会話を終えませんでした。
「ところで、きみは1年生の入学してきたとき、学校生活に不安をもっていた。だから、先生たちが正門で『おはよう』と声をかけても、精一杯の気持であったのか、無言で通り過ぎたのを覚えていますか。」
「でも、だんだん学校生活に慣れてくるようになり、友だち関係も安心してきて、先生たちからの『おはよう』に対して、『おはよう』と返してくれるようになりました」
「そして、今回、職場体験で、『あいさつができる』と支配人からほめられたきみがいる・・・」
このとき、こどもの気持ちの中で気づきが生まれます。
そうだった。あのころのボクは、毎日悩んでいた。あいさつなんてどうでもよかった。
でも今は楽しく生活している。そして、今回、あいさつできるってほめられた。自分もちょっとはおとなになれたのかな・・・。これが、本人の「気づき」です。
おとなは子どもに対して、一つ貴重な経験を積むと、それが何にでも応用できると考えがちです。ところが、子どもの意識の中では、つながりなどないのです。
あの体験はあの体験、この体験はこの体験です。
ですから、子どもの成長をずっと見ている大人は、子どもの過去の体験と現在の体験をつなげてやらなければならないのです。
体験と体験がつながった子どもは、自分の変化や発達、成長を自分自身で感じることができ、体験の意味を自分の中に落としこんでいきます。
そして、意欲は著しく高まるのです。気持ちの変化は、生活への変化につながっていくのです。
以上のエピソードから導かれる「体験と体験をつなぐおとなの役割」は、おもに学校の教職員について述べましたが、家庭で親御さんも実行できることです。
そのために、親は、子どもの小さな変化に対しても、ほめたり、評価したりすることが大切です。「これぐらいはできて当然。小さな変化なんて成長でない」と思うのでなく、子どもの小さな変化に対して、言葉かけをして、ほめるのです。
その小さな変化の価値を伝えることが、子どもの成長に、確かにつながるのです。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます