「宮崎正弘の国際情勢解題」
令和三年(2021)6月3日(木曜日)
通巻第6934号
書評 しょひょう
いまの時代は魔の時代かも知れないと天才的数学者は言い残した
情操教育を失った戦後日本人はなぜ、こうまで精神が堕落したか
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岡潔『岡潔対談集 司馬遼太郎、井上靖、時実利彦、山本健吉』(朝日文庫)
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亡くなられてから42年もたつのに、岡潔はいまも読まれている。大きな書店へ行くと岡潔コーナーがある。
諸作の発表は半世紀前だから、岡潔の残した箴言の数々はいまも現代人に強く訴えるのである。此の文庫新装対談集も、静かな岡潔ブームを裏打ちしている。
書店に並んでいたので、すぐに購(あがな)って読んだ。
四人の学者、それも作家、学者らと、岡潔は数学者、いかなる接点があるかと訝る読者も多いだろうが、日本文化の深奥の追求に、大いに意見が合うのである。
岡潔は言う。現代日本は「魔の時代」に陥っている、と。情操教育を失った戦後日本人はなぜ、こうまで精神が堕落したのかを突き詰めている。
評者(宮崎)の個人的な岡さんとの想い出は別のところに書いたので省略するが、大学者にして変わり者の氏が、じつは巨人軍ファンだったことが、一種ユーモラスに思い出される。
さて何年ぶりかで読んで、次の個所にとくに印象的だった。
司馬遼太郎「古事記はむずかしい。天がきょうは澄んでいるなぁというようなことが感じられる心とか、春になって草が萌えてきたぞというようなことが分からないと読めないものですね」。
岡潔「春になって草が萌える。これをしらないものは生命を知らないものです」。
井上靖氏とはこんな会話がある。
岡潔「実際、古事記を読んでみますと、奔放自在なのに驚きます。今日の人の夢にしても、あの時代に比べたら、なんとも平板的なことに思えますね」
井上靖「古事記を読みますと、ほんとうにそう思いますですね。そして、今の人の考え方で、あの時代を解釈しますと、ぜんぜん間違ってしまいます。合理的な解釈というやつですね」。
岡潔「それこそ盲人象をなでるという解釈になるのです」。
井上靖「半島へ出兵すると書いてあると、出兵する理由がないじゃないか。あれは不思議だというような考え方をしているんです。考え方は、あの時代とそもそも違うんだろうと思いますがね」。
ベストセラーとなった小林秀雄との『人間の建設』も文庫に入ってロングセラーを続けている。
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「自然」に由来する「感情」。この「感情」が動くことを「感動」と言い、この「感動」が「思い(意い)」となり、人(自他、或いは我汝)を動かし、世の中が形成される。
この(感情から形成されてきた)世の中を見詰めることで「理」が見出され、その「理」で以てより良い世の中を作るために「感情」の基になる「自然」とは何かを問い返す。その繰り返しが「社会」であるはずなのだが、いつしかその由来(問い返し続けること)を忘れるようになっていく。
意図的に忘れさせることも行われる。革命だったり、科学万能思想(自然、感情の軽視)だったり。
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