千曲市雨宮の「橋がかりの神事」として知られる雨宮坐日吉神社(あめのみやにいますひえじんじゃ)の祭事で有名な「斎場橋(浜名の橋)」から唐崎城、明聖霊神経由で天城山に登りました。「雨宮の御神事」は、国指定重要無形民俗文化財にも指定されている祭事で、3年に一度の4月29日に行われる春季大祭です。中でも「橋がかりの神事」は、獅子の頭をつけた若者4人を橋の欄干から逆さに吊るし、下を流れる沢山川(生仁川・万作川)に獅子の頭を川面に浸すという勇壮なものです。
起源は不詳ですが、平安時代頃とされ「信濃奇勝録」には、この神社が、この地を治めていた雨宮摂津、清野山城守両家の鎮守だったことから、おそらくそのころから伝わる神事だと推定されています。また、室町時代の田楽風流の踊りと行列が伝承されているといわれています。往古は清野氏の屋敷があったとされる海津城内へ移動して踊った(「城踊り」)そうで、雨宮坐日吉神社の「朝踊り」、若宮社で「若宮踊り」を奉納後、周辺の寺々を巡り、清野の「倉やしき」、岩野土口などといった旧家で踊りを奉納していたと記されていますが、現在はここ一社だけの奉納となっています。また、「橋がかりの神事」は、往古には斎場橋より数町上流の「生仁橋」で行われていたという記述も残っています。
また、斎場橋は、雨宮の県司が斎場山へ詣でるために渡った橋として斎場橋と命名されたともいわれています。斎場山(さいじょうざん)は、古代科野の国の斎場(祭祀を行う神聖な場)であったといわれています。『信濃宝鑑』には、妻女山を、まことは斎場山というと記されています。
斎場山については、明治15年の土口村村誌にこう記されています。
古跡【齋場山】[又作祭場山、古志作西條山誤、近俗作妻女山尤も非なり。岩野村、清野村、本村に分属す]の山脊より東に並び、峯頭の古塚[或云ふ是塚にあらず、祭壇中の大なるものにて、主として崇祭たる神の祭壇ならんと云ふ]に至り、又東に連なり、南の尾根上を登り又東に折れて折れて清野村分界に止む。凡四十八個の圓形塚如きもの有り、俗に旗塚と云ふ。又四十八塚と云ふ是上古縣主郡司の諸神をこう祭したる斎場祭壇にして、之を掘て或は祭器、古鏃(やじり)等を獲るものあれども、遠く之を望めば累々と相連なり、其かづ数えふ可く、相距る事整々として離れず。必ず一時に築く所にして、墳墓の漸次員を増たるものにあらざるなり。是齋場山の名ある所以なり。
つまり、初めの文章は、「斎場山は、古代に祭祀が行われたところとして祭場山とも書くが、西條山(『甲陽軍鑑』)と書くのは誤りである。また、近世の俗名妻女山は、最も適当でない。否定されるべきものである。」ということです。妻女山という名は、江戸時代に松代藩の関するところにより創作された逸話に基づいて作られた俗名であり、それは、古代科野の国の齋(いつき)なる場として命名された斎場山にとって替われるものではないと断じているわけです。これは生萱村誌にも同様のことが記されています。しかし、歴史の流れの中で、この俗名、妻女山が西條山にとって替わり斎場山の新しい名称となり、さらに赤坂山へその名称が移動してしまったわけです。そして、本来の斎場山は、現在地形図においては名無しの状態のままなのです。自然地名は、大切な文化遺産ですから後世に正しく伝えていくことが必要です。
天城山については、【手城山】高二百三十丈(696.9m、正しくは694.6m)、周囲未だ実測を経ず。村の南の方にあり。嶺上より界し、東は清野村、生萱村に分属し、西は本村に属し、南は生萱村に属す。山脈西は、南山に連なり北は妻女山に接す。樹木なし。登路一條、村の東の方字築地より上る。高十五丁二十五間(約1680m)険路なり。とあります。
唐崎城からの尾根道は、尾根に乗ると急登も少なくなだらかな平坦部が続き、白樺の林などもあり快適でした。倉科尾根方面から害獣駆除の鉄砲の音が聞こえたため、少々緊張しましたが(間違って撃たれたら洒落になりません)、ほどなく止み山は静かさを取り戻しました。しかし、そのためか野生動物には遇えませんでした。彼らには受難の日だったようです。
冬枯れの尾根からは常に後方に北アルプスの大パノラマが望め、嫌なことばかりの年の瀬ですが、そんな事も忘れさせてくれて爽快な気持ちになります。気温は凍える-2度からグングン上がり、斎場山に着く頃にはなんと12度になっていました。斎場山古墳の上で昼食にし、梅のおにぎりと数の子の醤油煮と煮牛蒡の手作りおにぎりを食べると睡魔が襲い、思わず10分ほど小鳥のさえずりを聞きながら古墳上で昼寝をしてしまいました。息子にメールすると、気持ちよさそうだねと返事が返ってきました。
ドキュメントの手法で綴るトレッキング・フォトレポート【
MORI MORI KIDS(低山トレッキング・フォトレポート)】にアップしました。北アルプスの大パノラマ写真が圧巻です。