新しく開所した施設のバルコニーから太平洋を眺めながら、複雑な心境に陥っていると頭の中で声がした。
首を回すと、隣にざしき童子が立っていた。
僕と同じように手すりに両腕でゆったり寄りかかり、海風に髪をたなびかせていた。
「なんだかここはリゾート気分ね。」
特に今日は日本晴れだからね。―いやいや、エメラルド・グリーンの海は美しいけれど、あれが襲いかかって来たのだから。海からこんなにも近い施設を引き受けるなんて、僕は馬鹿だ。
「そうは思わないな。あなた公募のプレゼンで言ってたじゃない、地域の主たる介護サービスが散逸してしまったら、もう元には戻せないから、あえて火中の栗を拾うって。使命感でしょ。」
それを言われると弱いね。
確かに、ちょっとした自信と自負もあるんだ。
「あなたは大丈夫。だって、どんなに荒れた道でも、あなたが歩んだあとはきれいで美しいもの。ぽらんは本当に素敵、素晴らしいわ。」
ああ、顔に穴が開くからあんまり見ないでよ。僕はおどけて見せた。
潮風の刺激が強すぎるのか、目がしょぼしょぼする。
事業所から異動して何年にもなるのに、入居者様がたが名前を挙げ続けるOG職員がいる。
あのひとにはとってもお世話になって。
あるいは、今何してらしたかねえ、であったり。
僕は、そうですか、大丈夫、お幸せに暮らしてらっしゃいますよ、とそのたび声を掛ける。
なぜ、ご自身の年齢も、家族の顔も、すでに分からなくなっている重い認知症の入居者様の記憶に、こんなにも活き活きととどまることができるのか。
彼女は使命感という尊い、無垢の燃料をその体の中で燃やし、熱と輝きを放って、自分を必要としている方々を暖め、照らした。しかも公平に。
それに気づいた方のみが、その澄んだ暖かさを彼女の名前とともに、いつまでも憶えているのだ。
かく言う僕も、そんな光景を長年に渡って傍らでつぶさに見ながら、その余熱を全身に浴びた。
年老いてホームに入ったら、職員に向かってきっと同じように繰り返すだろう。
あのひとには本当にお世話になって。
あのひと次はいつ出勤してくるの。
君が代さん(利用者様がつけたニックネーム)、何してたろうね、と。
令和5年4月1日
社会福祉法人千香会 理事長
ご挨拶(事業譲受につきまして)
拝啓 時下ますますご清祥のこととお喜び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚くお礼申し上げます。
さて、この度、当法人は医療法人渓仁会様よりおおしまハーティケアセンターを譲受することとなりました。
おおしまハーティケアセンターへ永年にわたり賜りましたご愛顧、ご厚情につきましては哀心より御礼申し上げます。本4月1日より施設名を「小規模多機能ホームぽらん大島」と変え、下記のとおりの新たな体制で引き続き市民・島民の皆様のニーズにお応えしていく所存でございますので、ご高承の上倍旧のご指導ご鞭撻を賜りますようよろしくお願い申し上げます。
まずは、略儀ながら書中をもってご案内、ご挨拶申し上げます。
敬具
記
譲受事業 介護事業(旧名おおしまハーティケアセンター)
譲受事業所
「ショートステイぽらん大島」(旧名おおしまショートステイセンター)
「ホームヘルプぽらん大島」(旧名ホームヘルパーステーションおおしま)
「ケアプランセンターぽらん大島」(旧名おおしまハーティケアセンター)
「デイサービスぽらん大島」(旧名デイサービスセンターおおしま)
新規事業 「気仙沼市大島地域包括支援センター」※市委託事業
以上