5年前に旅先で手にした『海街diary1』。さしたるドラマなく、絵もまあまあ、なのに昨日初版発行の完結編(全9編)まで買って読み続けた。理由の1つは、4姉妹の関係と自立を古都鎌倉の四季の暮らしの中で注意深く表現していること、2つめは誰もが体験する身近な人の「生き死に」がもたらす心の機微を、納得のいく筋と絵柄と言葉で綴っていることだ。この点が惹かれる一番の理由。
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誰もが持っている親子や兄弟、恋人や夫婦、隣人や同僚。だが、そうした人間関係で、互いに共感しあう関係は簡単ではない。だから、本書の「誰かを気にかけ 誰かに気にかけてもらい 働き 食べ 笑う その時間は ただいとわしい」(完結編 P.64)ことを、言われなくたって皆が知っているが、誰かに問われなければ「幸せとは何か」を間違いかねないのが今の時代だ。同名の映画もこの一点で撮られていると思う。
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本書の登場人物一人一人が割合に深刻な課題を持ちながら、色々あっても元気よく暮らす中で、わかってもらえる人のいる嬉しさが伝わる本書。依存に陥らない爽やかな人間関係の距離感・空気感も魅力だ。波風立男氏にとってこの6年間は、永く続けてきた仕事の区切り、親の死、新たな仕事と人間関係の開始。始まりのための終わりだった。そうした中、深呼吸できるような気持ちで新刊の本書を開いてきた気がする。戻って来ることができる安心な場所が作られた時、人は『行ってくる』(完結編の副題)ことができるのだ。
本書のことをこのブログで4回も書いた。『「海街diary 8 恋と巡礼」読む。』(2017.4.15)、『「すずちゃんの海街レシピ」買う』(2015.6.16)、『海街ダイアリー』(2013.5.28)、そして今回。買って読み続けたいコミックは無くなった。