電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

「聴きたくて聴く」のと「ながら聴く」のとではぜんぜん違う

2023年04月29日 06時00分15秒 | -室内楽
よく晴れた春らしい、いや、むしろ初夏の陽気となった昨日の午前中、布団を干し掃除をして、一服してリビングでCDを流しました。ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第5番「春」というベタな選曲です。この時期、これがいいのだなあ。たまたまそこにあったのが、昔懐かしい「The Royal Philharmonic Collection」中の1枚、FRP-1023 というCDで、ジョナサン・カーネイ(Vn)、ロナン・オーラ(Pf)の演奏(*1)でした。私の場合、ベートーヴェンの「スプリング・ソナタ」は特に誰の演奏でなくては、というような決めつけはありません。瀬戸内の春も都会の春も、また北国の春も、それぞれに春の魅力にあふれているでしょうから、どれが一番と決められるようなものではないのと同じです(^o^)/

Beethoven: Violin Sonata No. 5, Grumiaux & Haskil (1957) ベートーヴェン ヴァイオリンソナタ第5番 グリュミオー


Sayaka Shoji and Gianluca Cascioli play Beethoven : Violin Sonata No.5 in F major, Op.24 "Spring"


こうして、「この曲を聴きたくて」CDを手にして、あるいは演奏の動画等を探して聴くのは、ラジオやネットで流しっぱなしの「ながら聴き」とはぜんぜん違います。何を今更の、あたりまえの話ではありますが。

(*1): ベートーヴェンのヴァイオリンソナタ第5番「春」を聴く〜その2〜「電網郊外散歩道」2011年2月


コメント

モーツァルト「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」を聴く

2023年04月08日 06時00分48秒 | -室内楽
お天気が晴れていれば畑に出て気持ちよく農作業にいそしむところですが、昨日あたりはなんだか雨模様で、屋内作業を余儀なくされていました。「晴耕雨読、年中音楽」が私のモットーですが、晴天続きの乾燥した土を潤す春雨では、さほど沈んだ雰囲気にもなりません。気温はちょいと寒いけれど、天然の蒸留水による慈みの雨のようなありがたさもあります。

本日、取り上げたのはモーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」です。手元のCDは、ジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団による1968年の録音で、著作権法の「改正」で残念ながらパブリックドメインにはなりそこねたようで、CBS-SONY の正規盤(32DC-213) です。きりっと引き締まった明晰で活力に富む演奏で、私のお気に入りです。ほぼ同じ時代のワルター/コロムビア響の演奏もパブリック・ドメインになっていますが、これはワルターらしく比較的ゆったりしたテンポでした。

YouTube で探したら、弦楽四重奏にコントラバスを加えた弦楽五重奏で演奏した動画がありました。オーケストラの弦楽合奏もいいけれど、こういう演奏もいいなあ。

Mozart, Eine kleine Nachtmusik KV 525 , The Gewandhaus Quartet


そういえば、以前、山形弦楽四重奏団が村山市のバラ公園で演奏会を開いた際に、この曲を演奏した(*1)ことがあったなあ。

(*1): 今年も東沢バラ園で山形弦楽四重奏団の演奏会を聴く〜「電網郊外散歩道」2013年9月

コメント

山形弦楽四重奏団第86回定期演奏会でフィアラ、ベートーヴェン、ヴァンハルを聴く

2023年01月23日 06時00分31秒 | -室内楽
1月もすでに下旬となった日曜の夜、山形市の文翔館議場ホールで、山形弦楽四重奏団の第86回定期演奏会を聴きました。このところ、鼻炎の悪化による鼻づまりで鼻呼吸ができず、睡眠障害の日々が続いていましたが、耳鼻咽喉科を受診しようやく改善の兆しが見えてきた今日この頃です。さすがに運転時に一瞬意識が途切れる事態はなくなりましたが、音楽を聴くには充分とは言えない体調です。それでも、そんなことを言っていると好きな演奏会にも行けなくなりそうで、思い切って出かけることにしました。チケットは購入しておらず、当日券を当てにしての出発です。


今回のプログラムは、

  1. J. フィアラ オーボエ四重奏曲 変ロ長調
  2. ベートーヴェン 弦楽三重奏曲第4番 ハ短調 Op.9-3
  3. J.B. ヴァンハル オーボエ四重奏曲 変ロ長調 Op.7-2
      柴田祐太(Ob, 山形交響楽団)、中島光之(Vn)、倉田譲(Vla)、茂木明人(Vc)

というものです。フィアラ? ヴァンハル? 知らないなあ(*1)。ベートーヴェンは知っているけれど、弦楽三重奏曲第4番だってそれほど有名な曲じゃないと思いますので、間違いなくマニアックの極みの選曲(^o^)/
でも、だからこそ、この機会を逃したら当地でこの曲の実演を耳にすることは二度とないだろうと思います。茂木さんのプレトークでも、フィアラやヴァンハルといった作曲家をさらりと紹介。

フィアラはチェコ出身の作曲家で、1748年に生まれ、1816年に没していますので、まるっきりハイドンやモーツァルト、ベートーヴェンなどと同時代に生きた人で、貴族に仕え、オーボエ奏者、作曲家、教育者として生きた人らしい。今回取り上げているこの作品は、作曲年代などは不詳で、未発表となっていた作品を現代ドイツのオーボエ奏者が再構成し出版したものだそうです。
ヴァンハルのほうは、1739年にボヘミアに農奴の子として生まれ、1813年に没していますが、その間、村の教師兼オルガニストから音楽の手ほどきを受け、オルガンやヴァイオリン演奏などが貴族に認められて農奴の身から解放され、その後は貴族に仕えずに自立した作曲家・演奏家として活動したのだそうです。なんだか小説の題材になっていそうな話ですが、実際に音楽を聴くのはもちろん初めて。



1曲め、フィアラのオーボエ四重奏曲は、ステージ左からオーボエ、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロという楽器配置です。第1楽章:アレグロ・モデラート、第2楽章:メヌエット、第3楽章:ロンド・ポコ・アンダンテ〜アレグロ。オーボエの音色を活かし、弦楽もとても聞きやすい、耳に快い音楽でした。

2曲め、ベートーヴェンの弦楽三重奏曲第4番 ハ短調 Op.9-3 は、第77回定期でも取り上げています(*2)ので、今回は再演ということになります。オーボエの柴田さんがお休みで、ステージ上は左からヴァイオリン、ヴィオラ、チェロという配置。第1楽章:アレグロ・コン・スピリト、第2楽章:アダージョ・コン・エスプレッシオーネ、第3楽章:スケルツォ、アレグロ・モルト・エ・ヴィヴァーチェ、第4楽章:フィナーレ、プレスト。冒頭のシリアスな響きからも感じられますが、作曲されたのが1797〜8年頃といいますからちょうど「悲愴」ソナタなどが作曲された頃でしょうか、若いベートーヴェンの、充実した作品のようです。

休憩をはさんで、3曲めはヴァンハルのオーボエ四重奏曲。第1楽章:モデラート、第2楽章:カンタービレ、アレグロ・モデラート、第3楽章:メヌエット、第4楽章:アレグロ。オーボエの音色もありましょうが、時に陰りを見せながらも全体として明るい親しみやすい音楽で、とりわけ終楽章の快活さは聴いていて楽しい作品と感じました。おそらく、私が知らないこういう音楽がまだまだたくさんあるのでしょうね。実演で、録音で、音楽の楽しみを長く味わいたいものです。

なお、次回の第87回定期演奏会は、4月30日、文翔館議場ホールにて、山響の河村佳奈さんを迎えてベートーヴェンの弦楽四重奏曲第4番 ハ短調 Op.18-4 と、モーツァルトの弦楽四重奏曲第19番 ハ長調 K.465「不協和音」というプログラムの予定とのこと。年内に文翔館の改修も予定されているそうで、秋の第88回は会場が変更になるのかもしれません。

(*1): 実は2019年12月の山響第281回定期で、ヴァンハルの「交響曲ニ短調」を聴いています。
(*2): 山形弦楽四重奏団第77回定期演奏会でオネゲル、ベートーヴェン、モーツァルトを聴く〜「電網郊外散歩道」2020年10月


コメント (2)

山形弦楽四重奏団第84回定期演奏会でボッケリーニ、シューベルト、クロンマーを聴く

2022年07月19日 06時13分50秒 | -室内楽
海の日で休日となった7月18日(月)、夕刻より山形市の文翔館議場ホールで、山形弦楽四重奏団の第84回定期演奏会を聴きました。プログラムノートとプレトークの担当はヴィオラの倉田譲さんで、今回取り上げた三人の作曲家と作品についての話。中では、シューベルト家の家庭音楽会でお父さんが担当したチェロがあまり上手ではなかったらしく、ワルツの「ブン・チャッ・チャ」でもちょっと遅れ気味に入るのに対し、ヴィオラ担当のシューベルトがすかさず合いの手を入れるので「(ン)ブンチャッ・チャ」みたいになると、いわゆる「ウィーン風」になるという話が面白かった。今回は、コロナ禍への対応もだいぶ慣れてきたのか関西からK氏が来県するなど、聴衆の人数もだいぶ多かったようです。



ちなみに今回のプログラムは

  1. ボッケリーニ 弦楽三重奏曲変ホ長調 Op.47-4
  2. シューベルト 弦楽三重奏曲第2番変ロ長調 D.581(第2稿)
  3. クロンマー フルート四重奏曲第8番ト長調 Op.92
      ヴァイオリン:中島光之、ヴィオラ:倉田譲、チェロ:茂木明人、フルート:鈴木芽玖

というものです。



1曲め、ボッケリーニの弦楽三重奏曲は、2つの楽章からなるチャーミングな曲です。ステージ左から、ヴァイオリン(中島)、ヴィオラ(倉田)、チェロ(茂木)という配置で、第1楽章:アダージョ、第2楽章:テンポ・ディ・メヌエット〜トリオ。気心のしれた三人による親密なアンサンブル。ネットで探せばいくつかは見つかるでしょうが、当地でこういう曲に実演で接するのは極めて稀なことでしょうから、実に貴重な経験です。

2曲め、シューベルトの弦楽三重奏曲第2番。こちらは4楽章形式の作品です。第1楽章:アレグロ・モデラート、第2楽章:アンダンテ、第3楽章:メヌエット、アレグレット〜トリオ、第4楽章:ロンド、アレグレット。終楽章などにシューベルトらしい少しデモーニッシュな面もちらりと見せながら、全体としては優しい音楽になっています。

15分の休憩の後、後半はクロンマーのフルート四重奏曲です。
F.クロンマー(1759〜1831)は、「18世紀末のウィーンで影響を及ぼしたチェコの作曲家の中で、最も成功した作曲家」とのことですが、もう少し詳しく知りたいと思い検索したけれど Wikipedia にもそれらしい項目は見つからない。よく調べてみると、クロンマーというのはドイツ語よみで、実は「フランティシェック・ヴィンツェンツ・クラマーシュ」という名前で項目が作られていた(*1)のでした。それによると、ハイドンを超えるなんだかすごい数の弦楽四重奏曲、ヴァイオリンや木管楽器のための協奏曲、9曲の交響曲などを作曲していて、「ベートーヴェンのライバルとして活躍」していた人らしい。どうやら近年その作品が見直されてきているのだそうです。
ステージ上は、左からフルート(鈴木芽玖)、ヴァイオリン(中島)、ヴィオラ(倉田)、チェロ(茂木)という配置で、黒づくめのおじさん三人組の中に華やいだ紅一点がいかにもフレッシュな印象です。
第1楽章:アレグロ、軽やかなフルートが飛び跳ねるような音楽。注目すべきはヴァイオリンを低めの音域で2ndに回らせて主役の座を奪ったような軽快なフルートだけれど、チェロの高域を使った表現も、でしょうか。第2楽章:アダージョ、まるで主役がVcに移ったかのようにチェロの印象的な響きで始まり、フルートとチェロが会話するような美しい音楽です。第3楽章:メヌエット、アレグレット〜トリオ。一転して華やかに軽やかに。弦3本のアンサンブルの緊密さが光ります。第4楽章:アレグロ。フルートと弦のアンサンブル、VnとVla の息のあった同行や、特にここでもチェロの高域を存分に駆使したパッセージが印象的な、室内楽らしいいい曲、演奏でした。

アンコールは、次回の第85回定期演奏会(*2)で取り上げられる予定の、モーツァルトの歌劇「魔笛」のフルート四重奏による編曲版から、「僧侶の行進」を。



今回のクロンマーは、米沢市出身で山響にもときどき客演で参加するという鈴木芽玖さんの提案で組まれたプログラムらしいけれど、弦の人はあまり知らないというクロンマーの作品を実演で接することができました。もちろん、私もすべて初めて聴く曲ばかり。こういう体験は実に貴重です。梅雨が一休みしている夏の夜、一服の清涼剤となった演奏会でした。

(*1): フランティシェック・ヴィンツェンツ・クラマーシュ〜Wikipedia の解説
(*2): 第85回定期演奏会は、2022年10月25日(火)、18字45分〜、文翔館議場ホールにて。

コメント

アレンスキー「ピアノ三重奏曲第1番」を聴く

2022年02月23日 06時00分08秒 | -室内楽
有名な曲がお目当てでLPやCDを購入し、それがきっかけでカプリングされたもう一つの曲がお気に入りになることがあります。それがあまり知名度の高くない作品だった場合には、なんだか得をしたような気分になります(^o^)/ たとえば、チャイコフスキーのピアノ三重奏曲「偉大な芸術家の思い出」がお目当てで購入したCDに併録されていたアレンスキーのピアノ三重奏曲第1番ニ短調のように。「アレンスキー? 知りません」から始まって、「うん、いい曲じゃないか」となり、ちょいと憂鬱な気分のときに妙に聴きたくなります。

1861年生まれのアレンスキーは、1840年生まれのチャイコフスキーよりも21歳下の世代にあたるロシアの作曲家です。Wikipedia(*1) および「日本アレンスキー協会」のサイト(*2)によれば、富裕な家庭に生まれて幼児期から音楽に親しみ、ペテルブルグ音楽院でリムスキー=コルサコフに師事し、21歳で卒業した後はモスクワ音楽院で作曲法の講師、6年後に教授となりますが、年齢の近い学生たちに作曲を教えるというのは難しい面があるのか、教育者としてはいささか問題があったようです。34歳で教職を辞し、サンクトペテルブルグの宮廷礼拝堂の楽長に就任、1901年までピアニスト、指揮者として多忙な生活を送りますが、生活はかなり荒れていたようで、飲酒やギャンブル癖があり、1906年に結核で病死しています。ムソルグスキーとはまた違ったタイプの破綻型かも。

ピアノ三重奏曲第1番 ニ短調 Op.32 は、教職を辞める前年の1894年(33歳)に、友人であったカルル・ダヴィドフというチェリストの追悼のために作曲されたものだそうです。
第1楽章:アレグロ・モデラート。ピアノに続くヴァイオリンの第1主題、チェロの第2主題、いずれも哀調を帯びた旋律で、友人の追悼のために作曲されたという由来を知ると、納得します。
第2楽章:アレグロ・モルト。弦楽器はスピッカートやピツィカートで軽やかな感じを出し、ピアノが活躍するスケルツォ楽章です。
第3楽章:アダージョ。チェロが奏でる旋律、そしてピアノも美しい。大げさな身振りで嘆き悲しむのではなく、静かに優しく追悼するという風情の悲歌です。
第4楽章:アレグロ・ノン・トロッポ。活発に動きながらヴァイオリン、チェロ、ピアノ、それぞれの持ち味を発揮しますが、明るく解決されるのではなく最後まで追悼の気分を保ちながら終結するフィナーレです。

時代を越えて高い評価を受け続ける、ベートーヴェンの「エロイカ」のような偉大なる名作群の中にはおそらく入らないのでしょうが、世紀末ロシアの混沌の中で生きた音楽家が残した証のような音楽。革命的な作品ではないかもしれないけれど、魅力あるこういう音楽も、いいものだと思います。ふだん私が聴いているのは、ヴォフカ・アシュケナージ(Pf)、リチャード・スタンパー(Vn)、クリスティーン・ジャクソン(Vc)によるナクソス盤です。

■ナクソス盤 8.550467
I=9'46" II=6'30" III=7'01" IV=6'15" total=29'32"

YouTube にもありました。ズーカーマン・トリオによる2019年の演奏。
Zukerman Trio: Anton Arensky Piano Trio in D minor, Op. 32


もう一つ、YouTube で見つけました。アレンスキーのピアノ協奏曲。Arnold Kaplan のピアノ、ボリス・ハイキン指揮モスクワ・フィルハーモニックの演奏、1962年。
Arnold Kaplan plays Arensky Piano Concerto in F minor, op. 2


(*1): アントン・ステパノヴィッチ・アレンスキー〜Wikipedia の解説
(*2): 日本アレンスキー協会:アレンスキーの生涯

コメント (4)

山形弦楽四重奏団第82回定期演奏会でクロイツァー、シベリウス、新垣雄の作品を聴く

2022年02月04日 10時02分28秒 | -室内楽
節分の夜、山形市の文翔館議場ホールで山形弦楽四重奏団の第82回定期演奏会を聴きました。開演前のプレトークで、ヴァイオリンの中島光之さんが話した内容が興味深いものでした。雪のために滑って腕を複雑骨折した人が、手術をすることになったそうです。部分麻酔なので処置をする音とか手術スタッフが話す中身が聞こえてしまう! 確かに、これはあまり気持ちの良いものではありません(^o^)/ その病院では、手術中にヘッドホンで好きな音楽を聞かせてくれるのだそうです。なるほど、それならば手術中の不安や心細さを和らげてくれそうです。この演奏会が、コロナ禍の中に過ごす私たちの不安定な気持ちを和らげるものであってほしいという願いからであろうと聞きました。

さて、本日のプログラムは、

  1. C.クロイツァー クラリネット四重奏曲 変ホ長調
  2. J.シベリウス 弦楽三重奏曲 ト短調
  3. 新垣雄 Rhapsody in Uchinaa Ⅱ(川上一道委嘱作品・世界初演)
      演奏:山形弦楽四重奏団、クラリネット:川上一道(山響)

というものです。

最初の曲の作曲者コンラディン・クロイツァーは1780年生まれといいますから、1770年生まれのベートーヴェンよりも10歳年下です。Wikipedia によれば、オペラ中心の作曲活動をした人らしく、日本にもゆかりの深いヴァイオリニストのレオニード・クロイツァーとは時代も違う別人のようです。ステージ上の配置は、左からクラリネットの川上一道さん。今日は沖縄風なのでしょうか、水玉模様みたいに見えるシャツ?を着ての登場です。さらにヴァイオリンの中島光之さん、ヴィオラの倉田譲さん、チェロの茂木明人さん。第1楽章:アレグロ。始まりのクラリネットの低音が実にいい音で、ぐいっと耳を持っていかれる感じがしました。伸びやかな旋律、弦も優雅な雰囲気です。第2楽章:アンダンテ・グラツィオーソ。クラリネットの中高域を中心にした優しい響きの始まりです。川上さんのクラリネットの音がいいなあ。そして黒づくめの男ばかりなのに弦のアンサンブルが実に優雅です。第3楽章:ロンド、アレグロ。やはりクラリネットの高域の音色で始まります。ヴァイオリンとのかけあいも、チェロとの対話も、チャーミング。そうですね、クラリネットがオペラの名バリトン歌手の少し大きめの身振りを連想させるような、そんな楽想のうねりもあって、なかなか魅力的な音楽と感じました。

続いてシベリウスの弦楽三重奏曲です。単一楽章の短い曲ですが、ヴァイオリンとヴィオラによる、何かを訴えるような音にチェロも短く答える始まりは、レントのテンポ指定もあり、パセティックな雰囲気があります。プログラムノートによれば、進むべき道がまだ決まらない20代のシベリウスの焦燥や不安定な気持ちをぶつけたような曲なのかも。誰でも多少は経験することかもしれないけれど、本人にとっては一度きりの切実な悩みの時期。思わず若い時代を思い出して共感してしまいました。日常的に何度も繰り返して聴こうという曲ではないかもしれないけれど、何かの折にふと聴いてみたくなるような音楽です。初めて聴きましたが、良い曲を知ることができました。

ここで15分の休憩。後半は、新垣雄(Arakaki Takashi)さんの新作です。不協和音と、小動物が駆けて立ち止まるようなトトトトト…という短い音が印象的な始まり(ミステリオーソ・テンポ・ルバート)の後に沖縄民謡のテイストで、「てぃんさぐぬ花」「花ぬ風車(かじまやー)」「いったーあんまーまーかいが」「じんじん」と続いた後で、再び「てぃんさぐぬ花」「いったーあんまーまーかいが」、そして「赤田首里殿内」「谷茶前」「花ぬ風車」が演奏されます。曲の終わりの方は、それぞれ奏者の腕の見せ所だぜ!とでもいうようなフィナーレ。現代的な感性と、どこか懐かしい民謡風の響き、旋律、リズム。濃厚に音を重ねるやり方ではなく、もっとずっと素朴に、響きが順次並び立つことで音の背後に広がりを感じさせるような音楽でした。良かった〜! そうか、弦のピツィカートは沖縄の三線か!

新型コロナウィルスのオミクロン株が中心と思われる感染拡大で、県内の複数ヶ所で蔓延防止重点措置が宣言される中で、換気のために窓を開けて少し低めの室内温度の中で開催された定期演奏会。集まった人数はいつもよりもやや少なめでしたが、コアな聴衆の拍手に応えて、アンコールはフィナーレの部分をもう一度。ちょいとノリノリの感じで、それも良かった〜! 「来てよかった」と感じた演奏会でした。



参考のために、シベリウスの弦楽三重奏曲というのはこんな曲です。YouTube より、
Jean Sibelius | Sting trio g minor


コメント

今日は山形弦楽四重奏団の第82回定期演奏会の予定

2022年02月03日 06時00分53秒 | -室内楽
今日、2月3日は非常勤の勤務日で仕事をして、夕方から山形市の文翔館で山形弦楽四重奏団(*1)の第82回定期演奏会の予定です。新型コロナウィルスのオミクロン株が流行しているようで、山形県内でもあちこちで蔓延防止重点措置が宣言されていますが、200人規模のホールに3分の1程度の人員で行われる室内楽演奏会ですので、マスク、対人間隔、換気等に留意してなんとか開催できる方向であってほしい。音楽ファンとしては貴重な機会であり、ありがたいことです。

本日の予定プログラムは、

  1. C.クロイツァー クラリネット四重奏曲 変ホ長調
  2. J.シベリウス 弦楽三重奏曲 ト短調
  3. 新垣雄 Rhapsody in Uchinaa Ⅱ(川上一道委嘱作品・世界初演)
      演奏:山形弦楽四重奏団、クラリネット:川上一道(山響)

というものです。いずれも実演ではめったに聴けない貴重な演目ですし、特に新垣雄さんの新作は沖縄民謡のテイストを背景に持つ音楽らしい。楽しみです。

(*1): 山形弦楽四重奏団公式ブログ

コメント

シューマン「アダージョとアレグロ」を聴く

2021年12月01日 06時00分54秒 | -室内楽
今日から12月、師走です。家の裏手や庭木の雪囲いは峠を超えて、あとは除雪機で氷雪を浴びる側のドウタンツツジを保護する作業が残ります。寒いので朝はゆっくりして、太陽がある程度の高さまで登ってからの作業かと予定していましたが、あいにくの雨です。幸いに非常勤ですので、今日のように勤務日でない朝は静かに音楽を聴きましょう。ただいま、R.シューマン の音楽をポール・メイエのクラリネットとエリック・ル・サージュのピアノで聴いています。聴いている CD は DENON COCO-70861 で、クレスト1000シリーズの中の1枚。1993年、スイス、ラ・ショー・ド・フォン、ムジカ・テアトルにおけるデジタル録音です。収録されているのは

  1. 幻想小曲集 Op.73
  2. おとぎの絵本 Op.113 より
  3. 民謡風の5つの商品 Op.102 より
  4. 3つのロマンス Op.94
  5. アダージョとアレグロ Op.70

という選曲です。シューマンの憂愁や陰影に富んだあこがれをロマンティックに演奏しており、いずれも魅力的ですが、今日は後半の「3つのロマンス」や最後に置かれた「アダージョとアレグロ」Op.70 にとりわけ魅力を感じます。もとはホルンのために書かれたという「アダージョとアレグロ」ですが、クラリネットとピアノの響きはぴったりです。



この曲の他の演奏は、チェロの遠藤真理さんのCDでも楽しんでおります(*1)が、さて他の演奏も聴いてみたいものです。例えば YouTube で探してみると、いろいろと見つかりました。まず、オリジナルのホルンとピアノの組み合わせから。

デニス・ブレインのホルンとベンジャミン・ブリテンのピアノで、1956年のラジオ録音のようです。
Schumann - Adagio & Allegro op.70 - Brain / Britten


続いてチェロとピアノで。パブロ・カザルスのピアノ、ホルショフスキーのピアノで、1961年、米国ホワイトハウスでのコンサートから。うなり声はカザルス。
Schumann: Adagio and Allegro, Casals & Horszowski (1961) シューマン アダージョとアレグロ カザルス


低音楽器だけではないと、ピッコロで演奏したものも。ピッコロ:丸田悠太、ピアノ:塩川正和、2019年、熊本県の日本福音ルーテル健軍教会にて収録されたものだそうです。
ロベルト・シューマン / アダージョとアレグロ Op. 70 Schumann Robert / Adagio and Allegro, Op. 70


しっとりとヴィオラで。2019年、ロンドンのウィグモア・ホールにて収録。
Timothy Ridout & Jonathan Ware - Schumann Adagio and Allegro op 70


最後に、コロナ禍の渦中にあった2021年、スペインのマドリードでのライブ演奏から、クラリネットとピアノでの「アダージョとアレグロ」を。クラリネット:Luis Fernández-Castelló、ピアノ:Carlos Apellániz
Adagio und Allegro Op 70 for clarinet and piano by Robert Schumann


(*1):遠藤真理「サリー・ガーデン〜チェロ・フェイヴァリッツ」を聴く〜「電網郊外散歩道」2014年1月

コメント (2)

山形弦楽四重奏団第81回定期演奏会でフルート四重奏の「コジ・ファン・トゥッテ」等を聴く

2021年10月16日 06時24分37秒 | -室内楽
よく晴れた秋の一日、せっせと働いた後、山形市の文翔館議場ホールで、山形弦楽四重奏団の第81回定期演奏会を聴きました。余裕をもってでかけたはずが、ラッシュアワーに遭遇し道路はかなり混んでいましたので、会場に到着したのは開演五分前というギリギリのところ、ヴィオラの倉田譲さんのプレコンサートトークが終わろうとするタイミングでした。

さて、本日の曲目は、

  1. モーツァルト 歌劇「コシ・ファン・トゥッテ」第1幕から
  2. ボッケリーニ 6つの弦楽三重奏曲より 変ロ長調 Op.47-3, G.109
  3. モーツァルト 歌劇「コシ・ファン・トゥッテ」第2幕から
     演奏:山形弦楽四重奏団、フルート:小松崎恭子(山響)

というものです。今月は、先ごろモーツァルトの歌劇「魔笛」を楽しんだばかりですので、芸術の秋らしくモーツァルトのオペラが続いていますが、今回はJ.ヴェント編曲によるフルート四重奏での演奏です。

歌劇「コシ・ファン・トゥッテ」というのは、若い二人の姉妹のそれぞれ恋人たちが、心変わりをするかどうか賭けをして、変装して相手を変えて接近したところ、見事に相手の心をゲットしてしまうという、身もフタもない話。マジメなベートーヴェンが呆れてしまったというフザけたストーリーに、それはそれは見事な音楽がつけられている多重唱オペラです。これをフルート四重奏で演奏してしまおうというプログラムは、あまり聴いたことがありません。たぶん、山形弦楽四重奏団ならではの企画です。

前半は、「コジ・ファン・トゥッテ」第1幕から。ステージ上の配置は、左からフルート:小松崎恭子さん、ヴァイオリン:中島光之さん、ヴィオラ:倉田譲さん、チェロ:茂木明人さん、となっています。

  1. 序曲
  2. 僕のドラベッラには、そんなことはできない
  3. ああ、妹よ、ご覧なさい
  4. ああ、何とこの足は
  5. 素晴らしき軍隊生活よ!
  6. 愛しき人の愛のそよ風は
  7. 麗しのデスピネッタ
  8. ああ、なんて一瞬のうちに

プログラムの解説によれば、編曲をしたヨハン・ヴェント(1745〜1801)という人は、ウィーンの宮廷楽団でオーボエ奏者だったらしいです。モーツァルトが1756年生まれですので、ほぼ一回り年上の音楽家ということになります。たぶん、モーツァルトの音楽が気に入って、貴族のサロンで、あるいは家庭の楽しみに、小さな編成で演奏できるように工夫したのでしょう。実際に、ソプラノがアリアを歌うところでは、コロラトゥーラのコロコロいう歌い回しをフルートのトリル音で表すなど、なんだか楽しい編曲です。また、フルートとヴァイオリンが共に歌い、ヴィオラとチェロが合わせるところなどは、姉妹の二重唱とオーケストラのパートでしょうか。また、フルートが常にアリアを歌っているわけではなくて、弦のアンサンブルの中に弱く吹くフルートが溶け込むところなどは、なかなか良い響きだなあと聴き惚れます。

ここで、15分の休憩。

後半は、ステージに左からヴァイオリン(中島)、ヴィオラ(倉田)、チェロ(茂木)の三人が並び、ボッケリーニの弦楽三重奏曲です。第1楽章:アンダンテ〜アレグレット、第2楽章:テンポ・ディ・メヌエット〜トリオ。たいへんチャーミングな曲(*1)です。弦だけの音の等質性とボッケリーニの音楽性とが安心感を与えるようで、心が安らぐ時間です。時折、この時代の音楽としてはチェロが前に出て活躍する場面もあり、このあたりはチェロが得意だったボッケリーニらしいところかも。全体として流麗で思わずほっとする演奏でした。良かった〜。

続いて前半の配置に戻って「コジ・ファン・トゥッテ」の第2幕です。

  1. 女も15歳になれば (デスピーナのアリア)
  2. 私はあの褐色の髪の方をとるわ (ドラベッラとフィオルディリージの二重唱)
  3. このハートをあなたに差し上げます (グリエルモとドラベッラの二重唱)
  4. 恋は小さな泥棒 (ドラベッラのアリア)
  5. 早くして、皆さん方 (第2幕フィナーレ)

編曲は素人音楽愛好家にも見事な楽しいものだと感じられます。例えば第3曲:ドラベッラ(MS)とグリエルモ(Ten)との二重唱は、フルートとヴィオラで演奏されますが、音域的にも役割に合わせているようです。第4曲:「恋は小さな泥棒」は有名アリアですし聴かせどころでもあります(*2)ので、小松崎さんのフルートがチャーミングに響きます。フィナーレでは、和解の六重唱は四人では物理的に無理でしょうが、例えばフルートとヴァイオリンが二重唱を聴かせる間、ヴィオラとチェロがピツィカートで合わせるように、最後の重唱アンサンブルを楽しく再現します。いや〜、おもしろい!

なんだかオペラづいている昨今、こういう演奏形態で歌劇の抜粋を楽しめるのは貴重な機会でした。こういう企画が実現できるのは、山形弦楽四重奏団が東北最古のプロ・オーケストラ山形交響楽団の楽団員からなり、同じくフルート奏者もまた同楽団員であるというつながりがあるためでしょう。舞台でアリアを歌う歌手のプレッシャーを感じることができて、吹きっぱなしで大変だった小松崎さんにも良い経験になったかもしれません。いや〜、楽しかった!



次回、第82回定期演奏会は、来年2022年の2月3日(木)、同じく文翔館議場ホールにて、山響の首席クラリネット奏者・川上一道さんをゲストにクロイツァーのクラリネット四重奏曲と、シベリウスの弦楽三重奏曲ト短調、他を予定しているとのこと。シベリウスの弦楽三重奏曲は、山響の第2ヴァイオリン首席のヤンネ舘野さんにフィンランドから楽譜を買ってきてもらったそうです。もう一つ、川上一道さんが某作曲家に委嘱した新作のクラリネット四重奏曲が間に合えば初演できるかも、とのことでした。これもまた真冬の楽しみの一つでしょう。

そうそう、今回は後援している山形駅前の蕎麦屋「続おそばに」さんが提供してくれた乾麺が二種類、「最上早生」と「来迎寺在来」をお土産にいただきました。なんでも、南極観測隊にも提供した「そば」だそうで(*3)、さっそくお昼にいただきます。「続おそばに」さん、ありがとうございます。

(*1): 第1楽章だけですが、こういう曲です。YouTube より。
6 String Trios, Op. 47, No. 3 in B-Flat Major, G. 109: I. Andante Allegretto

(*2): YouTube より「恋は小さな泥棒」、楽譜付きで。
È amore un ladroncello (Così fan tutte - W.A. Mozart) Score Animation

(*3): 山形そば、南極観測隊にも提供へ〜河北新報ニュース2021年9月20日同・山形新聞ニュース2021年9月15日

コメント (2)

ドホナーニ「弦楽三重奏のためのセレナード」ハ長調Op.10はこんな曲

2021年08月15日 06時00分10秒 | -室内楽
先日の山形弦楽四重奏団第80回定期演奏会で、ドホナーニの「弦楽三重奏のためのセレナード、ハ長調、作品10」という曲を知りました。このときに調べたこと等を記事にしましたが、こんな内容でした。

エルンスト・フォン・ドホナーニは、19世紀末から20世紀後半に活動したハンガリー系の作曲家・ピアニストで、第二次大戦中にアメリカに亡命し、教育者として過ごした人だそうで、ジョージ・セルの後にクリーヴランド管を振った指揮者のクリストフ・フォン・ドホナーニの祖父にあたるようです。教え子の中には、ゲオルグ・ショルティだとかピアニストのゲザ・アンダ、アニー・フィッシャーなどがいるようです。当日のプログラム解説によれば、経歴の面でも好みの面でもブラームスの影響を強く受けているようで、コダーイやバルトークなどと同時代の人らしくハンガリー音楽を取り入れたりもしているようです。
今回のこの曲はぜんぶで5つの楽章からなり、かなり充実した作品です。第1楽章:アレグロ、ボッケリーニの後で聴くとずっと現代に近いと感じる、なかなかカッコイイ曲です。第2楽章:アダージョ・ノン・トロッポ、クワジ・アンダンテ。VnとVcのピツィカートの間、ヴィオラが風変わりな旋律を奏します。やがて三つの楽器が勢いづきますが、穏やかに静かに終わります。第3楽章:ヴァイオリンの速くせわしない動きに始まるスケルツォ、諧謔的な味も濃厚。第4楽章:Tema con variazioni(主題と変奏)、アンダンテ・コン・モト。暗めの緩徐楽章。第5楽章:アレグロ・ヴィヴァーチェ。それぞれの奏者が活発に腕前を披露して終わるようなフィナーレ。なかなか渋い、いい曲を知る、良い機会となりました。

一度だけ耳にしてあとは終わりというのはもったいない音楽と感じましたので、現代風にネットで探してみました。あるものですね〜。お線香のにおいがただよう田舎家で聴くにはいささか違和感があるのかもしれませんが、最近は古民家を改装したレトロモダンなカフェが流行しているご時世ですから、お盆にドホナーニの室内楽というのもよろしかろうと思います(^o^)/

Serenade, Op.10, in C Major by Erno Dohnányi (1877-1960) 2014 FF FC 2


こうして記事にしておくと、あとで聴き直したいけれど正確な曲名がわからず検索できないときに便利です。

コメント

ボッケリーニの弦楽三重奏曲に心和むひととき

2021年07月21日 06時00分57秒 | -室内楽
先の山形弦楽四重奏団第80回定期演奏会において演奏されたボッケリーニの弦楽三重奏曲は、新型コロナウィルス禍の渦中にあって、しかも厳しい猛暑の日に、心和むひとときを与えてくれました。こういう穏やかな音楽は、刺激とストレスに満ちた現代にあっては意外に接する機会が少ない、貴重なものかもしれません。今回は作品47の第2番が取り上げられましたが、次回は変ロ長調の第3番が演奏されるようです。

ボッケリーニの室内楽と言えば、ギター五重奏曲(*1)や弦楽五重奏曲(*2)などを聴いていますが、弦楽三重奏曲もかなりの数を作曲しているらしい。YouTube などで探してみましたら、ありました。作品47の全曲。

Boccherini / Six String Trios, Op. 47 (G.107-112)


こういう曲は、NAXOS あたりにCDが出ているはず。こんど山形市内に出たときに、NAXOS のCDを置いているお店で探してみましょう。

(*1): ボッケリーニ「ギター五重奏曲第7番G.451」を聴く〜「電網郊外散歩道」2017年7月
(*2): ボッケリーニの「弦楽五重奏曲ホ長調(G275)」を聴く〜「電網郊外散歩道」2018年8月

写真は、スモモのヨーグルト、自家製スモモ・ジャムを添えて。今年は、スモモも霜の被害を受けて、大石早生はほとんど結実しませんでした。ハニーローザはなんとか収穫できましたが、サクランボ枯損木の伐採等で時間を取られて管理不充分、虫食いのないものをわずかに自家用としております。

コメント

山形弦楽四重奏団第80回定期演奏会でボッケリーニ、ドホナーニ、モーツァルトを聴く

2021年07月19日 07時07分09秒 | -室内楽
連日猛暑が続く梅雨明け直後の日曜日、山形市の文翔館議場ホールで、山形弦楽四重奏団の第80回定期演奏会を聴きました。今回のプログラムは、

  1. ボッケリーニ 6つの小弦楽三重奏曲より ト長調 Op.47-2 G.108
  2. E.v.ドホナーニ 弦楽三重奏のためのセレナーデ ハ長調 Op.10
  3. W.A.モーツァルト オーボエ五重奏曲 変ロ長調 K.361 (370a) (セレナード第10番 「グラン・パルティータ」 -オーボエ五重奏版)
      ゲスト:柴田祐太(Ob)・田中知子(Va)(山形交響楽団)

というものです。



会場に入ってしばらくすると、最初に黒っぽいシャツに明るい色のネクタイ姿の茂木明人さんがご挨拶と曲目の紹介をします。感染対策ということでマスクをして話をしましたがやっぱり聞き取りにくい面があり、学校で子どもたちが同じようなことを感じているのだろうな、と妙なところで同情してしまいました。

第1曲め、ボッケリーニの弦楽三重奏曲。Wikipedia で「ボッケリーニ」を調べてみると(*1)、弦楽三重奏曲にもずいぶんたくさんの作品があり、2本のヴァイオリンとチェロの組み合わせのものなどもあるみたい。この曲は1793年に作曲され、1799年に出版されているそうで、ベートーヴェンのウィーン・デビューの直前の頃です。「逸話」を読むかぎり、貴族社会に適当に折り合いを付けながらも、わが道をゆくタイプの作曲家だったのかも。ステージ上は、左からヴァイオリンの中島光之さん、ヴィオラの倉田譲さん、チェロの茂木明人さんです。第1楽章:アンダンティーノ、落ち着いた穏やかな曲想ですが、なんとも魅力的。第2楽章:テンポ・ディ・メヌエット。

第2曲め、ドホナーニの弦楽三重奏のためのセレナード。エルンスト・フォン・ドホナーニは、19世紀末から20世紀後半に活動したハンガリー系の作曲家・ピアニストで、第二次大戦中にアメリカに亡命し、教育者として過ごした人だそうで、ジョージ・セルの後にクリーヴランド管を振った指揮者のクリストフ・フォン・ドホナーニの祖父にあたるようです。教え子の中には、ゲオルグ・ショルティだとかピアニストのゲザ・アンダ、アニー・フィッシャーなどがいるようです。当日のプログラム解説によれば、経歴の面でも好みの面でもブラームスの影響を強く受けているようで、コダーイやバルトークなどと同時代の人らしくハンガリー音楽を取り入れたりもしているようです。
今回のこの曲はぜんぶで5つの楽章からなり、かなり充実した作品です。第1楽章:アレグロ、ボッケリーニの後で聴くとずっと現代に近いと感じる、なかなかカッコイイ曲です。第2楽章:アダージョ・ノン・トロッポ、クワジ・アンダンテ。VnとVcのピツィカートの間、ヴィオラが風変わりな旋律を奏します。やがて三つの楽器が勢いづきますが、穏やかに静かに終わります。第3楽章:ヴァイオリンの速くせわしない動きに始まるスケルツォ、諧謔的な味も濃厚。第4楽章:Tema con variazioni(主題と変奏)、アンダンテ・コン・モト。暗めの緩徐楽章。第5楽章:アレグロ・ヴィヴァーチェ。それぞれの奏者が活発に腕前を披露して終わるようなフィナーレ。なかなか渋い、いい曲を知る、良い機会となりました。

ここで、15分の休憩です。



後半は、モーツァルト。もともとの曲「セレナード第10番」は「グラン・パルティータ」の愛称を持ち、オーボエ2、クラリネット2、バセットホルン2、ホルン4、ファゴット2、コントラバスにより演奏される曲だそうですが、コントラバスをコントラファゴットに代えて13管楽器のためのセレナードとして演奏されることも多いのだそうな。さらに、元来は7つの楽章からなる大きな曲ですので、オーボエ五重奏版として第4曲メヌエットと第5曲ロマンスを省略した5楽章形式での演奏とのことです。
ステージ上は、左からOb:柴田祐太、Vn:中島光之、1st-Vla:倉田譲、2nd-Vla:田中知子、Vc:茂木明人という配置です。
第1楽章:ラルゴ〜モルト・アレグロ、オーボエの音色がいいなあ。葦笛の究極の進化形かも。ObとVn、2本のVla、そしてVcという組み合わせを基本に、Vnと1st-Vlaが組んだり、VlaとVcが組んだり、いろいろな組み合わせでObと対話します。この自在な変化が楽しい。第2楽章:メヌエット〜トリオ。第3楽章:アダージョ、第4楽章:アンダンテ〜アダージョ〜アレグロ、第5楽章:モルト・アレグロ。一気に聴きました。管楽器だけのアンサンブルも魅力的ですが、このような弦楽器との組み合わせもステキです。息の長い、それでいて早口言葉のような表現も得意なオーボエの魅力が、快活で活発な弦楽器の響きの中で一層引き立つように感じます。

聴衆の大きな拍手の後で、倉田さんが次回の案内をしました。次回の第81回定期演奏会は、10月15日(金)、18時45分から、同じく文翔館議場ホールにて。山響の小松崎恭子さんを迎えて、モーツァルトの歌劇「コジ・ファン・トゥッテ」のフルート四重奏版と、ボッケリーニの弦楽三重奏曲Op.47-3,G.109を予定しているとのこと。さっそく手帳にメモしました!

(*1): ボッケリーニ〜Wikipedia より


コメント

山形弦楽四重奏団第79回定期演奏会で清瀬保二、モーツァルトを聴く

2021年04月24日 06時01分34秒 | -室内楽
早朝4時起きして4時間ほどかけてサクランボの開花期の防除を実施した後に、野菜畑の施肥など懸案事項を片付け、サブの Windowsパソコンにメモリー増設し、夕方から山形市の文翔館議場ホールに向かいました。山形弦楽四重奏団(*1)の第79回定期演奏会です。




今回のプログラムは、

  1. W.A. モーツァルト 4つの前奏曲とフーガ K.404a より第4番
  2. 清瀬保二 弦楽三重奏曲
  3. W.A. モーツァルト ホルン五重奏曲 K.407

というもので、新型コロナウィルス禍のためにやむなく中止になった昨年四月の定期演奏会と同じものです。残念ながら、一年後の今もコロナ禍は終わっていないわけですが、クラシック音楽、それも室内楽の演奏会に関しては、当地での感染の可能性はごく小さいと思われます。それでも聴衆の入りはおよそ50〜60人くらいと、いつもよりも少なめでしょうか。いやいや、むしろこの事態になってもこの人数が集まることのほうがスゴイのかもしれない。

第1曲め、J.S.バッハのフーガにモーツァルト自作の前奏曲を加えて弦楽三重奏に編曲した六曲のうち、これまで演奏してきた中で最後の作品になるそうです。ステージ左からヴァイオリン(中島光之)、ヴィオラ(倉田譲)、チェロ(茂木明人)の三人。後半はまさしくバッハのフーガ! 天才モーツァルトもちゃんと勉強したのですね(^o^)/

第2曲め、清瀬保二の1949年の作品。第1楽章:アレグロ、第2楽章:アンダンテ・ラメントーソ、第3楽章:ヴィヴァーチェ。山形弦楽四重奏団が紹介する日本人作品は毎回共感するところが大きいけれども、今回も良かった。1949年の作品だからなのか、どこか切実さが感じられます。



ここで15分の休憩の後、後半はモーツァルトのホルン五重奏曲。ステージ上は、正面左からホルン(梅島洸立:山響)、ヴァイオリン(中島)、ヴィオラ1(倉田)、ヴィオラ2(田中知子:山響)、チェロ(茂木)という配置です。第1楽章:アレグロ。冒頭、弦と共にフォルテでホルンの音が響きますが、いい音だなあ。音量バランスがどうか、興味深いところでしたが、実際に聴いて納得。弦四本は伊達じゃない(^o^)/ 例えば第2楽章:アンダンテ、弦楽の響きがやわらかいと感じます。ホルンが入るとしっかり自己主張しますが、でもここは弦の時間。例えばホルンとヴィオラ2本とチェロの響き合いなんて、いいなあ! 第3楽章:ロンド・アレグロ。ホルンにとって、アレグロで歯切れ良い音型を聴かせるのはなかなか大変なのでは。それでも軽やかにモーツァルトの音楽をそうします。プロなのだから当然とは思うものの、流石にうまいなあと感嘆します。山響の梅島さん、しっかり脳みそにインプットされましたです。昔、モーツァルトが仲間内の楽しみで演奏する場面、ホルンの難しいところで悪戯好きのヴォルフガング君がニヤリと笑うところを想像してしまいました(^o^)/

聴衆の拍手に応え、アンコールはモーツァルトのホルン協奏曲より第2楽章。かつて山形県議会の議場であったホールは、拡声装置など不要なほど自然な反響が好ましいもので、ホルンと弦四本でも充分に楽しめる協奏曲でした。新型コロナウィルス禍の緊急事態宣言の中でも、多くがマイカーで来館し(*2)マスクを外さず大声を出さず密にもならず換気もできる室内楽演奏会の開催を認めた施設管理者の判断はまことに適切であると思い、懐の深い対処に感謝いたします。

(*1):山形弦楽四重奏団(公式ブログ)は、山形交響楽団に在籍する奏者を中心に活動してきたカルテットです。YouTube に山形弦楽四重奏団のチャンネルを開設しています。
〜例えば W.A.Mozart のオーボエ四重奏曲より〜

(*2):公共交通機関が充分でない当地山形では、帰りの足を考えると、ほぼマイカーの選択にならざるを得ないのです。

コメント

フランクの「チェロ・ソナタ」を聴く

2021年04月14日 06時00分55秒 | -室内楽
フランクの「チェロ・ソナタ」というのは、そういった作品があるわけではなくて、「ヴァイオリン・ソナタ」イ長調をチェロで演奏するものです。もとはといえば、ピエール・フルニエが編曲し演奏した録音(*1)をCDで購入して初めて知ったものですが、YouTube にもあるのではないかと探してみたら、実はたくさんありました。

César Franck : Sonata for Cello and Piano - Gautier Capuçon & Yuja Wang


いいですね〜! ヴァイオリン・ソナタの名曲をチェロで演奏してもやっぱり名曲です。

せっかくなので、オリジナルのヴァイオリン・ソナタも。やはり YouTube から、Krystian Zimerman (piano), Kaja Danczowska (violin) による1981年の録音だそうです。
César Franck - Violin Sonata


(*1):フランクのチェロソナタを聴く〜「電網郊外散歩道」2006年1月

コメント

山辺町で久良木夏海「なつくら」バッハの無伴奏チェロ組曲等を聴く

2020年12月26日 06時53分14秒 | -室内楽
クリスマスの夜、山辺町の「噺館」で、山形交響楽団のチェリスト久良木夏海さんが新しく始めたコンサートシリーズ「なつくら」で、バッハの無伴奏チェロ組曲等を聴きました。これは、山辺町にクラウドファンディングでできた高座「噺館」に、落語の大好きな久良木さんが通ううちに、J.S.バッハの無伴奏チェロ組曲6曲を6回シリーズで全曲演奏するという企画になり、このたびその初回が開催された、ということのようです。




噺館の場所がわかりませんでしたので住所をカーナビに入力、機械の案内を頼りに出かけました。どうやら山辺町の中央公民館・図書館のすぐ近くにあるようで、早めに着きすぎてしまいました。あらかじめ近くの寿司屋で夕食をとの目論見でしたが、寿司屋さんは出前の準備に忙しく断られてしまいましたので、仕方なく図書館内を見学。新型コロナウィルス対応でビニルカーテンを下げていましたが、お客さんとの距離が近い窓口の設計など、親しみやすい雰囲気です。山辺町関連の地域資料もちゃんと整っており、どうやら城址公園のような性格の場所にある施設のようです。

そんなこんなで開場時刻になり、ボランティアの人たちが駐車場係や受付などをする中を館内に入りました。40人定員とのことですが、なるほど学校の教室より少し広いくらいの中、正面に高座が設けられています。ほんとに「かぶりつき」状態。演奏者との距離が、ごく近い。今回のプログラムは、

  1. J.S.バッハ 無伴奏チェロ組曲第1番 久良木夏海(Vc)
  2. イザイ 無伴奏ヴァイオリンソナタ第3番より「バラード」 平澤海里(Vn)
  3. J.S.バッハ 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番より「ラルゴ」 平澤海里(Vn)
  4. ハルヴォルセン ヘンデルの主題によるパッサカリア 平澤海里・久良木夏海

というものです。案内にはイザイとバッハの順番が逆になっていましたが、実際に演奏された順です。

無伴奏チェロ組曲第1番は、6曲の中でいちばん親しんでいるせいか、奏者の息遣いまで聞こえそうな近い距離での演奏が、ダイレクトに飛び込んできます。おそらく、部屋からの反射による間接音よりも楽器の直接音のほうが強いために、いつもの文翔館議場ホールでの響きとはだいぶ違います。アグレッシブです。その分、主張が強めに感じられる、という面があるのかも。久良木さんのお話も興味深く聞きました。

続いて平澤さんのイザイとバッハ。無伴奏の曲を続けて聴いていると、チェロとヴァイオリンという楽器の性格の違いが感じられます。奏者の性格もあるのかもしれませんが、「おっとり」タイプのチェロに対して「勝ち気な」ヴァイオリン。直接音中心のかぶりつき席でイザイは少々刺激が強かった(^o^)/  しまった、これはもっと後ろの席を選べばよかった(^o^)/

そしてハルヴォルセン。個性の異なる楽器と奏者が組み合わされると、なんと面白いこと。このあたりが、合奏の良さなのでしょう。なるほど、無伴奏の曲のあとで二重奏を聴くと、ただの1+1ではない魅力が生まれるということがよくわかります。

アンコールとしてクリスマスにちなんだ曲を二曲、演奏してくれました。「きよしこの夜」と「We wish you a Merry Christmas」です。雪が降り出した坂の上で、強く集中した雰囲気の演奏会が、親密な雰囲気に変わっていくのが感じられました。



残念ながら、次回の予約はすでに埋まっているとのこと。コロナ対策上、お見送りはできないのでと、演奏終了後「写真撮影タイム」を許可してくれたのも良かったし、山形に良い演奏会がまた増えたなと感じられました。久良木さん、平澤さん、スタッフの皆様、ありがとうございます。

コメント