電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

渡辺和・幸松肇『黒沼俊夫と日本の弦楽四重奏団』を入手する

2020年11月28日 06時01分39秒 | -室内楽
以前、巌本真理弦楽四重奏団が「山形定期演奏会」と称して定期的に演奏会を開催していたことが不思議で、「なぜ山形で?」と不思議に思っている、という趣旨の記事(*1)を書いたところ、渡辺和氏から『黒沼俊夫と日本の弦楽四重奏団』という書籍の存在を知らされました。この本をぜひ読んでみたいと探しましたが、当地の図書館にも山形県立図書館にもなく、古書でも当時はずいぶん高価で、諦めておりました。



ところが、探していれば見つかるもので、偶然にも某ネット古書店で売られているのを発見、すかさず注文して、過日ようやく入手することができました。思えば12年ぶりの出来事でした。

とりあえず拾い読みしたところですが、巌本真理弦楽四重奏団のチェリスト黒沼俊夫氏の伝記がたいへん興味深いものです。弦楽四重奏と山形の関わりについて、初めて眼を開かれました。後日、記事にできればいいなあ。

(*1):巌本真理弦楽四重奏団と山形〜「電網郊外散歩道」2008年3月
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晩秋にフォーレの「ピアノ五重奏曲第2番」を聴く

2020年11月18日 06時01分52秒 | -室内楽
晩秋の盆地は里山まで落葉の季節で、稲刈りの終わった田んぼは寒々と広がり、周囲の山々も高山から雪化粧が広がっております。どことなく物悲しさを感じるとき、若い頃ならば人恋しい音楽を好んで聴いたことでしょうが、勤め先の若い人たちから労られる年代にあっては、もう少し人生のリアルを感じたい気分もあります。例えば、フォーレのピアノ五重奏曲ならば、若さとフレッシュさが好ましい第1番ではなく、地味で晦渋で憂愁に満ちた第2番。

フランスの作曲家フォーレ(1845〜1924)は、晩年、パリ音楽院の院長の要職にあって多忙な中、次第に進行する聴覚障害に悩みながら、ピアノと弦楽四重奏のための五重奏曲を作曲します。かなりの時間をかけた労作で、完成したのが1921年、75歳のときだったとのこと。幸いに同年の初演は成功し、Wikipediaによれば、ポール・デュカスに献呈されたのだそうです。



曲は4つの楽章からなっています。第1楽章、アレグロ・モデラート、ハ短調、4分の3拍子、ソナタ形式。ピアノのアルペジオで始まるのは第1番と同じですが、第2番ではピアノは地味めで、むしろヴィオラの主題にぐいっと心を掴まれます。何か切迫した雰囲気があり、未来を夢見ることができる若者とは違う、老人の心境かも。第2楽章:アレグロ・ヴィヴォ、変ホ長調、4分の3拍子。この楽章が最初に書かれたのだそうですが、かけまわるようなピアノ、せわしないような忙しい音楽の諧謔、老人性スケルツォでしょうか。第3楽章:アンダンテ・モデラート、ト長調、4分の4拍子。ヴィオラに導かれ弦楽のみで始まる、瞑想的な憂愁をたたえながらも、おだやかで親密な緩徐楽章です。晩秋の夕暮れ、田園の道路を一台だけ走る車の中で聴くとき、この気分に共感します。第4楽章:アレグロ・モルト、ハ短調、4分の3拍子。出だしから何か切迫感がありますが、中間部あたりから曲調が変わり、伸びやかな雰囲気に。

いいですね〜。若い頃は第1番のほうが好きで、第2番は地味で晦渋で、どちらかといえば敬遠していたほうですが、年齢とともに第2番がピアノ五重奏曲の名作である所以を理解しました。




若い頃に聴いたのは、エラートから発売されたLPの「フォーレ室内楽全集」、ジャン・ユボーのピアノ、ヴィア・ノヴァ四重奏団の演奏です。このLP全集は、いつ購入したのだったろう? 結婚する前だったような気がしますが、すでに記憶が曖昧です。CDでは、ジャン・フィリップ・コラールのピアノ、パレナン四重奏団の演奏を聴いていますが、この録音は響きがきついように感じて、あまり好みではない。できれば、実演で聴いてみたいものです。

【追記】
YouTube にあった演奏を貼り付けていたのですが、すでにリンクが切れていました。別のものを探していたら、2021年の Festival Musique a Flaine での演奏がありました。これです。
FAURE Quintette pour piano et cordes n°2 en ut mineur, op.115 - Festival Musique à Flaine


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山形弦楽四重奏団第77回定期演奏会でオネゲル、ベートーヴェン、モーツァルトを聴く

2020年10月13日 06時01分04秒 | -室内楽
久しぶりの室内楽の演奏会、山形弦楽四重奏団第77回定期演奏会に行ってきました。10月12日の月曜の夜、勤め先から山形市の文翔館に向かい、議場ホールに入ります。入場前にはまずアルコール消毒、検温があり、万が一の感染事態に備えて連絡先住所を記入して入場。ホール内は、いつもよりも間隔を広げてゆったりとした座席配置です。これも、新型コロナウィルス対策の一環でしょう。

開演前のプレトークでは、ヴァイオリンの中島光之さんが、現在の山形の状況を概括して話しました。山響入団以来20年以上になり、何度か経営危機があったが、今度こそ駄目かと思ったら、山形市がすばやくクラウドファンディングを立ち上げてくれて、県も聴衆の皆さんも応援してくれて、今は山形県内はコロナが落ち着いているので、普通に演奏活動ができている。これはほんとに稀有な事態で、山形県民が文化を大切にする現れだろうと感じる、とのこと。近隣の小学生の社会科の勉強で新県民ホールに見学に来るのだそうですが、新しいホールで山響の団員が交代で対応し演奏を聴かせるようにしているとのこと、今朝も中島さんが当番にあたっており、小学生に話と演奏をしてきたのだそうです! それはいいことですね。なんだか楽しくなります。

さて、本日の曲目は、

  1. オネゲル ヴァイオリンとチェロのためのソナチネ H.80 (1932)
  2. ベートーヴェン 弦楽三重奏曲第4番 ハ短調 Op.9-3
  3. モーツァルト オーボエ五重奏曲 ハ短調 K.406 柴田祐太(Ob)、田中知子(Vla)

というものです。

最初の曲、オネゲルの「ヴァイオリンとチェロのためのソナチネ」は、ヴァイオリンの中島光之さんとチェロの茂木明人さんの二重奏です。作曲されたのが1932年といいますから、大戦間期の作品です。耳にするのはもちろん初めてで、イメージとしては重厚あるいは晦渋といった性格が強く、軽妙洒脱といった作風とは遠いものと感じました。

続いてベートーヴェンの弦楽三重奏曲第4番。ステージ左から、ヴァイオリン:中島さん、ヴィオラ:倉田譲さん、チェロ:茂木明人さん。第1楽章:アレグロ・コン・スピリト、第2楽章:アダージョ・コン・エスプレッシオーネ、第3楽章:スケルツォ、アレグロ・モルト・エ・ヴィヴァーチェ、第4楽章:フィナーレ、プレスト。作曲家の個性の差が大きいとは思いますが、ヴィオラが加わっただけで響きがずいぶん変わったと感じられ、ベートーヴェンの音楽がいきいきと流れます。

ここで15分の休憩。ざっと見たところ、お客様は60名〜70名くらいでしょうか。いつもよりも少しだけ少なめかなとは思いますが、それでもほぼ山Q定期の人数が入っているみたい。新型コロナウィルス禍の渦中にある今どき、人口二十数万の地方都市で開催される室内楽演奏会としては多いのか少ないのかわかりませんが、ありがたいものだと感じます。

最後の曲目は、モーツァルトのオーボエ五重奏曲。以前、オーボエ四重奏曲を実演で聴き、バランス的に五重奏は難しいのではなどとほざいた舌の根も乾かぬうちにオーボエ五重奏曲の記事を書くというあんぽんたんな記憶(*1)が新しい音楽です。
ステージ左から、Ob:柴田祐太さん、Vn:中島光之さん、Vla-1:倉田譲さん、Vla-2:田中知子さん、Vc:茂木明人さん、という配置。歌劇「後宮からの誘拐」との関連が深いらしい音楽は、弦楽五重奏曲第2番の第1ヴァイオリン・パートをオーボエで演奏する形を取るのだそうな。第1楽章:アレグロ。Obの音色の開放性はあるけれど、それにしてもこの曲調はセレナードの音楽ではないな。第2楽章:アンダンテ、優しい音楽です。第3楽章:メヌエット・イン・カノーネ。「カノン風のメヌエット」という意味でしょうか。とても魅力的なカノン風。第4楽章:Obはけっこう音が大きいのですね。勢いのある音楽、名曲と感じます。

コロナ禍の中、アンコールは自粛。次回は2021年1月22日(金)、18時45分〜、クラリネットの川上一道さんがゲストで、R.コーカイ、マルティヌーやペンデレツキなどを取り上げる予定とのこと。聴かないと後悔するかもしれない。いや、コーカイさんの音楽というのは聞いたことがないものですから、つい(^o^)/dajare

(*1):モーツァルト「オーボエ五重奏曲ハ短調」を聴く〜「電網郊外散歩道」2019年6月

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山形弦楽四重奏団第74回定期演奏会でベートーヴェン、ケルターボーン、クルッセルを聴く

2020年01月24日 06時02分40秒 | -室内楽
大寒も過ぎて、例年ならば積雪の中を慎重に歩かなければいけない時期なのに、なぜか今年は全く雪がない冬です。演奏会に出かけるにはありがたいことで、通常の速度で車を走らせ、山形市の文翔館議場ホールに向かいました。山形弦楽四重奏団第74回定期演奏会です。第2ヴァイオリンが退団し、現在3人となっている同団ですが、しばらくは無理にメンバーを補充せず、逆に通常のカルテットではなかなか取り上げにくい弦楽三重奏曲や他の楽器を加えた四重奏曲をプログラムに加えて活動しています。おかげで、めったに聴けない曲の実演に接することができ、貴重な機会となっています。

例えば今回のプログラムは;

  1. ベートーヴェン 弦楽三重奏曲第2番 ト長調 Op.9-1
  2. ケルターボーン 叙情的室内音楽〜クラリネット・ヴァイオリン・ヴィオラのための〜
  3. クルッセル クラリネット四重奏曲第1番 変ホ長調 Op.2-1
     クラリネット:川上一道、山形弦楽四重奏団(Vn:中島光之、Vla:倉田譲、Vc:茂木明人)

というものです。もちろん、全ての曲がほぼ初めて聴く音楽ばかり(^o^)/ これを聴かずにいられようか、いや、ない(^o^)/

プレコンサートは、山形大学地域教育文化学部に在籍する学生さんで、Vn:松井陽菜代、Vla:平山燎のお二人が、シベリウスの二重奏曲を演奏しました。松井さんは2017年10月の第65回以来か、平山さんは2018年10月以来かもしれません。とても安定した演奏で、進歩を感じました。

1曲め、ベートーヴェンの弦楽三重奏曲第2番です。プログラムノートによれば、出版の関係で第2番となったものの、作曲順序からいえばOp.3とOp.8に続く三曲目になるのだとか。Op.9は弦楽三重奏曲の三曲セットのようですし、そのトップに来るのですから、若い作曲家にとっては自信作と言えましょう。実際に、全体に明るい曲調の中にしっとりとした情感もあり、若いベートーヴェンの魅力を感じさせる音楽です。第1楽章:アダージョ〜アレグロ・コン・ブリオ、第2楽章:アダージョ、マ・ノン・タント(あまり甚だしくなく)、エ・カンタービレ。第3楽章:スケルツォ、アレグロ。第4楽章:プレスト。

2曲め、1931年生まれで存命らしいスイスの作曲家ケルターボーンの作品です。チェロがお休みで、ステージ左からヴァイオリンとヴィオラとクラリネットの三重奏となります。5つの曲からなり、それぞれ I:エレジー、II:セレナータ、III:ノットゥルノ(自由に、ややテンポを動かして)、IV:間奏曲、V:Nachklang(余韻?共鳴?)と題されています。作曲年代は1959年といいますからいわゆる「現代音楽」の作品ということになりますが、不協和音満載の耳に痛いようなタイプではありません。特に後半の2曲では弦楽器が弱音器を付けて演奏する中で、クラリネットも小さな音と大きめな音、低く太い音と優しい高い音を対比するように、それぞれの楽器の響きと静かな間が交互に展開されます。へんな喩えですが、ウィスキーの瓶の中に帆船が入っているボトルシップを三人で組み立てている様子を観察するような音楽です。

ここで15分の休憩。ポピュラーな曲目ではないにもかかわらず、お客様がけっこう入っています。最前列には制服の高校生も何人か見かけましたが、山響首席クラリネット奏者・川上一道さん目当ての吹奏楽部員でしょうか。あの音色、音楽性を聴くと、思わず追っかけをしたくなる女子高生の気持ちはよく理解できます(^o^)/

3曲めは、クルッセルのクラリネット四重奏曲第1番。2011年4月の第39回定期演奏会で第2番を聴いています(*1)ので、クルッセルの作品としては二度目です。クルッセルという作曲家は、Wikipedia では「クルーセル」で出ています(*2)が、1775年にフィンランドに生まれた古典派の作曲家で、スウェーデンを中心に活躍したようです。始めはクラリネットの奏者として知られ、後に作曲に転じ、クラリネットを用いた室内楽や協奏曲のほか、声楽や舞台音楽、またモーツァルト等のオペラをスウェーデン語に翻訳上演するなどの業績もあるとのことです。
第1楽章:ポコ・アダージョ〜アレグロ。弦の序奏?の後に登場するクラリネットが快活で活発で魅力的なこと! 第2楽章:ロマンツェ・カンタービレ。優しく歌うような音楽。こういう音楽では、クラリネットと共に、弦の魅力を強く感じます。第3楽章:メヌエット、クラリネットがリズミカルに。第4楽章:ロンド、アレグロ・ヴィヴァーチェ。速いテンポで演奏される終曲は、古典派の聴き慣れた様式のありがたさを感じる、楽しく晴れやかな音楽です。後ろの席から「ブラヴォ!」が飛び、大きな拍手が贈られました。まったく同感です。

拍手にこたえて、アンコールは同じクルッセルの第2番ハ短調から第3楽章を。弦の親密な響きの中で、弱音で歌うクラリネットの魅力を堪能しました。

結成以来20年の歴史を積み重ねてきた山形弦楽四重奏団の第75回定期演奏会は、4月17日(金)、18時45分から、同じく文翔館議場ホールにて。この件、さっそく手帳に記載しました。

(*1):山形弦楽四重奏団第39回定期演奏会を聴く〜「電網郊外散歩道」2011年4月
(*2):ベルンハルト・クルーセル〜Wikipediaの解説

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山形弦楽四重奏団第73回定期演奏会でモーツァルト、シューベルトを聴く

2019年10月21日 06時02分18秒 | -室内楽
10月下旬に入った日曜日、午前中にタマネギの苗を植え付け、午後はゆっくりと休憩して、ラグビー・ワールドカップ日本対南アフリカ戦を尻目に、夕方から山形市の文翔館に向かいました。山形弦楽四重奏団の第73回定期演奏会を聴くためです。途中で、うっかり手帳を忘れてしまったことに気づきました。実は、購入した演奏会チケット等はみな手帳に入っているのです。自分のポカだから仕方がない、当日券で入場しようと割りきりました。うーむ、大人の対応だなあ、でも、最近うっかりが増えてるよなあ(^o^;)>poripori



余裕を持って文翔館に到着、駐車場に車を入れて、議場ホールに入場します。いつもと異なり、ホールを横長に使った座席配置です。プレコンサートは、フルート:小松崎恭子さん、ヴィオラ:田中知子さん、ピアノ:小林路子さんで、

  1. J.S.バッハ〜グノー「アヴェ・マリア」
  2. 浜辺の歌
  3. ふるさと

の三曲。しみじみと、良かった〜!



今回の担当、チェロの茂木明人さんのプレトークでは、今回の曲目に関連して、作曲家が出版に苦労した話等を紹介。その今回の曲目は、

  1. W.A.モーツァルト 6つの前奏曲とフーガ 第3番
  2. F.シューベルト 弦楽三重奏曲 変ロ長調 D.471
  3. F.シューベルト ピアノ五重奏曲「鱒」

となっています。前半の二曲は実演ではめったに聞けない曲目ですが、実はピアノ五重奏曲「鱒」だって、頻繁にプログラムに載るというものではありません。実際、2016年のアフィニス音楽祭で初めてナマで聴けると楽しみにしていましたが、スーパーハイテンション・エネルギッシュ・ジャリンコな孫たちの来襲により予定変更、ついに今回まで生の「鱒」は食べた、いや、聴いたことがありませんでした。

そんなこんなで楽しみにしていた演奏会。関西から来県の某氏ともお会いして、お土産などいただいて、開演を待ちました。

まず、モーツァルトの「6つの前奏曲とフーガ第3番ヘ長調」から。ステージ左から、Vn:(中島光之)、Vla:(倉田譲)、Vc:(茂木明人)の3人が並びます。皆さんの衣装は、ストイックに黒一色のスタイル。第1楽章:アダージョ。ヴァイオリンとヴィオラが対話するのをチェロが支えるという感じかな。弦楽三重奏によるこのアダージョは、いかにもモーツァルトらしいです。しかし次の第2楽章:フーガは、ヴィヴァーチェと指示されていますが、まさしくモーツァルト風味のバッハのフーガですね。ザルツブルグを飛び出しウィーンに着いたモーツァルトが、パトロンの一人、スヴィーテン男爵が所蔵する楽譜を勉強しながら編曲する様子を想像すると、なんだかすごいです。

続いてシューベルトの弦楽三重奏曲、変ロ長調D.471 です。アレグロの表示しかありませんので単一楽章の曲かと思ったら、実際は完成した第1楽章のみが残ったということらしい。プログラム・ノートには1816年の秋に作曲されたとありますので、1786年生まれのシューベルトは30歳。1819年にピアノ五重奏曲「鱒」を作曲するわずか三年前です。じっと聴いていると、たしかに若い時代の習作ではなくて、完成作として残らなかったのが惜しまれる、親密な響きの中にシューベルトらしい歌がある曲のようです。

ここで15分の休憩。



後半は、シューベルトのピアノ五重奏曲イ長調「鱒」。ステージ左後方にピアノの小林路子さん。今日はピンクではなく、鱒にちなんで?青〜ブルーグレー系のドレスです。弦楽は左からVn:中島、Vla:倉田、Cb:三崎屋義知、Vc:茂木、という配置。第1楽章:アレグロ・ヴィヴァーチェ、ややゆっくりめに始まります。LPやCDで聴いている時(*1)にも感じたのですが、この曲では予想以上にチェロの役割が大きいのですね。第2楽章:アンダンテ、弦楽に呼応しピアノが活躍します。第3楽章:スケルツォ、プレスト。歯切れよいリズムの楽章です。今回は軽やか志向よりはロマンティック志向でしょうか。第4楽章:主題と変奏。アンダンティーノ〜アレグレット。ああ「鱒」だ。弦の響きが心にじかに沁み入るようで、この間、ピアノは沈黙。ピアノが入ってくると、「しっとり」から「活発」へ雰囲気が変わります。Vnは速く確実な技巧が要求されますし、Vcも聴かせどころがあります。チェロ、いいなあ。有名になるだけのことはあると実感する音楽です。第5楽章:アレグロ・ジュスト。コントラバスがリズムの土台、推進力を作る面があるようで、ピアノもけっこう低域を使った表現あり。常設の弦楽アンサンブルを中心とする室内楽の醍醐味を感じさせるフィナーレでした。

いつもよりだいぶ多いお客様から盛んな拍手を贈られ、アンコールは第4楽章から一部を。ああ、良かった〜。今回も良い演奏会となりました。山Qの皆さん、小林さん、三崎屋さんに特大の感謝です。

(*1):シューベルトのピアノ五重奏曲「鱒」を聴く〜「電網郊外散歩道」2008年8月
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山形テルサで「日露交歓コンサート2019」を聴く

2019年10月01日 21時11分36秒 | -室内楽
九月最後の月曜日、日中はもう一つの果樹園の草刈りと肥料撒布を行い、少々の午睡を楽しみ、シャワーを浴びてさっぱりした後に、妻と山形市のテルサホールにでかけました。お目当ては、事前申し込みで整理券を入手していた「日露交歓コンサート2019」です。早めにでかけたので、無事に駐車場を確保、駅ビルで平田牧場の「厚切りロースカツ膳」でお腹がいっぱいになった後で、ゆっくりとテルサホールに向かいました。会場は大ホールではなく、三階のアプローズです。ホール内のステージには、中央にグランドピアノがデンと置いてあるだけ。なんだか殺風景で、主催が「公益社団法人・国際音楽交流協会」という団体のようですが、どことなくプロデュースがお役所仕事みたいな印象を受けます。さて、演奏の方はどうだろうと期待しつつ、開演を待ちました。

AからDまで四つのプログラムを持ち、全国各地で公演を重ねているようですが、この日の山形公演はCプログラム。9月23日から10月10日までのロングランで、京都、北九州、石巻、山形、白河、秋田、沖縄と同じプログラムでまわる予定のようでした。演奏会は二部に分かれており、第一部は;

  • アルヒボフスキー 「ヴァーニャ」 ニキータ・ゴヴォロフ(バラライカ)
  • パガニーニ 「ヴェニスの謝肉祭」 ニキータ・ゴヴォロフ(バラライカ)、マリーナ・ベルドニコワ(ドムラ)
  • ゴヴォロフ編曲 「ロシア民謡メドレー」 同上

ギター・マンドリン属の民族楽器の演奏です。バラライカは三角形の胴を持つギター型の楽器で、ドムラは小型のマンドリンみたいな楽器です。いずれも、音量はあまり出せないけれど繊細な表現力を持つ楽器みたい。パガニーニはヴァイオリンでは聴いたことがありますが、こういう組み合わせは初めてで、思わずビックリの技巧です。ロシア民謡メドレーでは、若い二十代の二人の息の合った演奏で耳馴染みのある曲が登場、客席とともに楽しみました。

続いてヴァイオリンとピアノで:

  • エルガー 「愛の挨拶」 アストヒク・サルダリャン(Vn)、ニコラス・ブルドンクル(Pf)
  • マスネ 「タイスの瞑想曲」 同上
  • ブラームス 「ハンガリー舞曲 第5番」 同上

二人ともまだ二十代の若い演奏家で、おなじみの曲目を取り上げました。親密な雰囲気は好ましく、特にブラームスは、この曲がジプシー音楽に由来する曲なんだなあと実感しました。

今度は、テノールが登場、ピアノ伴奏で。

  • ヴェルディ 歌劇「リゴレット」より「女心の歌」 レオニード・ボムステイン(Ten)、伊東朔(Pf)
  • プッチーニ 歌劇「トゥーランドット」より「誰も寝てはならぬ」 同上
  • モドゥーニョ 「ヴォラーレ」

テノールの堂々たる歌声に伴奏をつけているのは、まだ10代の伊東朔さん。同じテノールといっても、イタリアのプレイボーイとは異なる、ロシア歌劇に出てくるようなタイプの押し出しの良いものでした。

第一部の最後はオレグ・ポリャンスキーさんのピアノ独奏で:

  • チャイコフスキー 「くるみ割り人形」行進曲
  • J.S.バッハ 「平均律クラヴィーア曲集第1巻」より第1番
  • ラフマニノフ 「前奏曲 作品3-2 "鐘"」
  • ラフマニノフ 「前奏曲 作品23-5」

良かった〜! チャイコフスキーもバッハもラフマニノフも、みんな良かった。如才ないタイプというよりはいかにも独奏者というタイプの人みたいですが、演奏は素晴らしかった。

ここで15分の休憩です。

第二部は、ピアノ三重奏から。

  • キクタ 「エレジー・トリオ"ある建築家の想い出"」 アストヒク・サルダリャン(Vn)、キリル・ロディン(Vc)、オレグ・ポリャンスキー(Pf)

作曲家は、1941年生まれのロシアの現代作曲家で、モスクワ音楽院の管弦楽法の主任教授だそうです。ある建築家というのが、主催者である国際音楽交流協会の前理事長だった建築家で、現在の理事長の夫君でもあったらしい。曲は、始まりこそ現代風ですが、「赤とんぼ」の主題による変奏曲みたいな風情の美しい音楽で、親しみが持てます。私にとっては未知の作曲家ですが、ナクソスあたりにはいくつかの曲の録音があるみたいです。

続いて、ニコラス・ブルドンクルさんのピアノで、ショパンの作品を。

  • ショパン 「スケルツォ 第4番 作品54」
  • ショパン 「エチュード 作品10-12 "革命"」

これも良かった。独奏者は1960年生まれで、どうやらフランス人みたいですが、パンフレットを見ると、若い頃にモスクワ音楽院に留学の経験があるみたい。同世代の教授たちには旧知の人が多いのかもしれません。

真っ赤なドレスで登場したのが、ソプラノのナターリャ・スクリャービナさんで、若い伊東朔さんのピアノ伴奏でオペラやオペレッタのアリア等を歌います。

  • レハール 喜歌劇「ジュディッタ」より「熱き口づけ」
  • プッチーニ 歌劇「蝶々夫人」より「ある晴れた日に」
  • デンツァ 「フニクリ・フニクラ」
  • ヴェルディ 歌劇「椿姫」より「乾杯の歌」 レオニード・ボムステイン(Ten.)と

ナイトクラブで歌う妖艶な歌手に扮し、扇子を手に「熱き口づけ」を歌った後に、蝶々さんの思いを切々と歌います。一転して楽しい「フニクリ・フニクラ」、そしてテノールのレオニード・ボムステインさんが加わって「乾杯の歌」。いや〜、楽しい(^o^)/

最後は、チェロを中心としたプログラムでしょうか。

  • ボッケリーニ 「ロンド」 キリル・ロディン(Vc)、オレグ・ポリャンスキー(Pf)
  • サン=サーンス 「白鳥」 同上
  • ヘンデル 「パッサカリア」 アストヒク・サルダリャン(Vn)、キリル・ロディン(Vc)

これも良かった〜! チェロも良かったし、ピアノ伴奏が実に雰囲気が良かった。最後はヴァイオリンとチェロの二重奏という、ありそうで滅多にお目にかかれない曲、ヘンデルの「パッサカリア」ですが、これも素晴らしく魅了されました。

アンコールは、日本の歌を取り上げたようで、「証城寺の狸囃子」、「最上川舟歌」、そしてみんなで「ふるさと」を大合唱。すっかり満足して帰路につきました。

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ハイドンの「弦楽四重奏曲第20番ニ長調Op.17-6」を聴く

2019年08月24日 06時01分45秒 | -室内楽
ハイドンの作品17の弦楽四重奏曲六曲の中で、いちばんお気に入りになったのは、第20番ニ長調、Op.17-6です。この曲は、1771年、作曲者39歳ころの作品で、ボッケリーニの弦楽五重奏曲(*1)と同じ時期の作品みたいです。

ふーむ。ハイドンが39歳のとき、ボッケリーニは28歳、モーツァルトがまだ中高生と考えると、喩えは悪いですが、野球のイチローが39歳のとき楽天の嶋基宏捕手が28歳、そして大谷翔平クンがまだ高校生、というようなものでしょうか。18世紀の当時、どの程度に情報伝達が可能だったのかは不明ですが、おそらくは楽譜を通じて互いに知るところがあったのではなかろうか。互いに影響しあい、競いあうと同時にリスペクトする才能の連鎖を想像してしまいます。



第1楽章:プレスト、8分の6拍子、明るくスキップするような音楽。第2楽章:メヌエット、4分の3拍子、優雅で伸びやかな舞曲。第3楽章:ラルゴ、4分の4拍子、穏やかでゆっくりしたテンポの緩徐楽章。第4楽章:アレグロ、4分の2拍子。快活ですが一部転調して表情を変えます。推進力に富む終楽章。

全体に、BGM 的に聞き流そうとすればほどよく耳に快く、またじっくりと耳をすませば実に聴き応えのある音楽です。こういう音楽を作ってくれる楽長ハイドンを、雇い主であるエステルハージ侯は高く評価していたのでしょう。また、楽員それぞれに聴かせどころを用意し(時には侯自身がチェロ等で参加することもあったかもしれない)、特に第1ヴァイオリンには腕前を存分に発揮する場面を用意するなど、きっと仲間にも評判が良かったのではなかろうか。

(*1):ボッケリーニの「弦楽五重奏曲ホ長調(G275)」を聴く〜「電網郊外散歩道」2018年3月

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ハイドンの弦楽四重奏曲全集から作品17の6曲を順に聴いています

2019年08月15日 06時01分14秒 | -室内楽
夏の盛りです。この時期は、日中は猛暑でとても畑仕事などできません。亡父と同じく涼しいところでうとうとして、早朝と夜にはいくぶん涼しさを感じながら、静かに音楽を楽しみます。ただいま、ハイドンの弦楽四重奏曲全集から作品17の1〜6を順に聴いているところです。Festetics Quartet による演奏で、このへんの時期のものは他の演奏を知りませんが、活気ある現代的な演奏と言ってよいのでしょうか。Ubuntu-Linux PC を中心とした簡易なデスクトップ・オーディオで、接続したミニコンポから流れる音楽は、中高年には実に好ましいものです。

ところで、作品17は次の6曲からなります。

Op.17-1 第18番 ホ長調
Op.17-2 第17番 ヘ長調
Op.17-3 第21番 変ホ長調
Op.17-4 第19番 ハ短調
Op.17-5 第22番 ト長調
Op.17-6 第20番 ニ長調

何度か通して聴きましたが、Op.17の4、第19番がハ短調という調の魅力と、Op.17の6、第20番の充実感が印象的。あとは、Op.17の1、第18番あたりもつい選んでしまいます。このへん、通勤の音楽ではなかなか把握しきれないところです。カーステレオでは、「あれ、今聴いているこの曲は、第何番の何楽章?」てな具合で、全体の把握が難しいのですが、PC-audioは、どんなに簡易なものであっても、机上のディスプレイに曲データが大きく表示されるのがありがたいものです。

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ベートーヴェン「チェロ・ソナタ第4番」を聴く

2019年08月05日 06時01分32秒 | -室内楽
猛暑の間にも、早朝にはだいぶ涼しい時間帯があります。そんな時間を利用して、ベートーヴェンの「チェロ・ソナタ第4番 ハ長調Op.102-1」を聴きました。演奏は、今はパブリック・ドメインになっているピエール・フルニエ(Vc)とフリードリヒ・グルダ(Pf)によるものです。

第1楽章:アンダンテ〜アレグロ・ヴィヴァーチェ。ハ長調、8分の6拍子の序奏(アンダンテ)とイ短調、2分の2拍子の主部(アレグロ・ヴィヴァーチェ)からなります。
第2楽章:ハ長調、4分の4拍子のアダージョで始まり、8分の6拍子の「Tempo D'Andante」になり、4分の2拍子のアレグロ・ヴィヴァーチェに移行していきます。

この曲は、第5番のソナタとともに、1815年の春から夏にかけて立て続けに作曲されたものだそうで、二つのソナタという意味で Op.102-1 という番号がついています。第5番が102-2 というわけです。1815年といえば、ナポレオン・ボナパルトが百日天下の後ワーテルローの戦いで敗れ、ウィーン体制が成立するという、いわば反動の時代です。力に溢れ、雄弁な音楽を書いた時代とはいくぶん異なり、力強さは変わらないけれど、瞑想的な、幽玄な印象を受ける音楽は、自身の身辺の変化をも表しているのかもしれません。

YouTubeにもこの演奏がありました。
Beethoven: Cello Sonata No. 4, Fournier & Gulda (1959) ベートーヴェン チェロソナタ第4番 フルニエ&グルダ


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ハイドン「弦楽四重奏曲第11番ニ短調Op.9-4」を聴く

2019年07月27日 06時02分00秒 | -室内楽
先日ダウンロード購入したハイドンの弦楽四重奏曲全集ですが、手始めに作品9の6曲を順に聴いております。この作品番号はハイドンが自分でつけたのだそうで、ファイル名を手がかりに調べてみると、

Op.9-1 第12番ハ長調
Op.9-2 第14番変ホ長調
Op.9-3 第13番ト長調
Op.9-4 第11番ニ短調
Op.9-5 第15番変ロ長調
Op.9-6 第16番イ長調

となっているようです。その中でもとくに印象的なのが、唯一の短調作品である第11番、ニ短調Op.9の4です。



山形弦楽四重奏団(*1)の演奏記録で「Op.9-4」を検索してみると、2000年5月、第15回定期演奏会で取り上げられているようで、この頃はまだ演奏会通いができる状況ではなかったものですから、実演に接することはできませんでした。また、当然のことながら初期作品はCDでも持っていませんので、今回の全集で初めて接することになります。

第1楽章:モデラート、ニ短調、4分の4拍子。解説PDFファイル中では、perfect masterpiece だそうで、作曲技術的にも相当に高度なことをやっているらしいのですが、もちろん当方にはそのようなことはわかるはずもなし。でも、何か屈託を抱えたようなこの音楽の表情にはぐっと惹かれるものがあります。
第2楽章:メヌエット、ニ短調、4分の3拍子。前の楽章の一種の激しさはしだいに緩和されます。最後の方、トリオ部は2本のヴァイオリンのみで奏されます。
第3楽章:アダージョ、カンタービレ、変ロ長調、2分の2拍子。親しみやすい優しい旋律で始まります。第1ヴァイオリンの腕の、というよりも美音の聴かせどころかもしれません。
第4楽章:始めのニ短調に戻りますが、悲嘆の色合いは薄れ、技術的・ヴィルトゥオーゾ的な性格が強くなり、フィナーレとなります。

ふーむ、なかなか魅力的ないい曲です。Op.9の六曲の中で唯一の短調の曲、しかもはじめは少々鬱憤を抱えたような雰囲気なのに、しだいに気分が和らぎ、優しい緩徐楽章を経て幾分かスカッとするフィナーレに至るという、実にセラピストのような音楽です(^o^)/
バリトン(*2)という楽器にご執心の雇い主エステルハージ侯の求めに応じてたくさんのバリトン三重奏曲を書いた宮仕えの副楽長ハイドン(*3)が、自分自身の自発的な欲求をもとに書き上げたらしいこの六曲の中でも、このOp.9-4は一番取り繕うことなく心情を盛り込んだ音楽なのかもしれないと思ったりします。

(*1):山形弦楽四重奏団ブログ
(*2):バリトン(弦楽器)〜Wikipediaより
(*3):フランツ・ヨゼフ・ハイドン〜Wikipediaより


YouTube でも見つけました。同じ Festetics Quartet の演奏のようです。
J. Haydn - Hob III:22 - String Quartet Op. 9 No. 4 in D minor


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e-ONKYOからハイドンの弦楽四重奏曲全集をダウンロード購入する

2019年07月21日 06時01分27秒 | -室内楽
単身赴任の慰めに散歩のお供としてCDで親しむようになり、また山形弦楽四重奏団の定期演奏会で多くを実演で接することができたハイドンの弦楽四重奏曲。有名どころはCDで集めておりますが、これまで全集を入手するまでには至っておりませんでした。

それが、たまたまパスピエさんのブログ(*1)やみっちさんのブログ(*2)で Festetics Quartet のハイドン弦楽四重奏曲全集の「特売」情報を入手、しばらく考えて…とくに一括ダウンローダがWindowsとMacのみに対応しているけれど、案の定Linuxは対象外という点など…まあ、いざとなったら一つ一つ手動でダウンロードすればよかろうと覚悟を決め、e-ONKYO から購入しました。全部で 2,500円 です。いえ、桁は間違ってない(^o^)/

全部で 230 個のFlacファイルを1個ずつダウンロード。どこまで進んだかメモを確認しながら、全ファイルを入手。さっそく第11番ニ短調Op.9を Rhythmbox で聴いてみました。うん、再生には全く問題なし。当方の簡易な PC-audio で、充分に楽しめますし、アルバム写真も曲情報もきちんと表示されます。

また、みっちさんのブログで、レーベルのWEBサイトに詳細なブックレットがPDF形式で入手可能なことも知りました。どのみちPC上で再生しますので、これはありがたい。中年以降、年齢とともに魅力を感じるようになったハイドンの世界。これからずいぶん楽しめそうです。念のために、ポータブルHDDにバックアップしておかなければ。

(*1):ハイドンの弦楽四重奏曲全集がこんなに安い〜ブログ「▽・w・▽とは、どんなものかしら」2019年7月
(*2):e-ONKYOからダウンロード販売を試してみました、の巻〜「If you must die, die well みっちのブログ」2019年7月

さて、妻は早朝から終日お役目があるようです。本日は、国民の義務を果たしに一時外出しますが、老母とともにほとんどお留守番になる予定。せっかくですから、スモモのジャムを煮ながらハイドンの弦楽四重奏曲でも聴きましょう!

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山形弦楽四重奏団第72回定期演奏会でモーツァルト、ベートーヴェン、クーラウを聴く

2019年07月18日 13時56分09秒 | -室内楽
梅雨寒の言葉どおり涼しい日が続いたのが一転して蒸し暑い陽気になった七月第三週の水曜日、山形市の文翔館議場ホールで、山形弦楽四重奏団の第72回定期演奏会を聴きました。
開演前のトーク担当は倉田さん。子供の頃に家族の影響で時代劇が好きだった話から始まり、曲目の解説を。

  1. モーツァルト(?) 6つの前奏曲(序奏)とフーガK.404aより第1番ニ短調
  2. L.v.ベートーヴェン セレナード ニ長調 Op.8
  3. クーラウ フルート五重奏曲イ長調Op.51-3

これが今回のプログラムですが、いずれもヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの弦楽三重奏をベースに、フルートともう一人のヴィオラを加えて成り立つもので、たしかに通常の弦楽四重奏団のプログラムには乗りにくい内容です。

メンバーが登場、楽器の配置は、ステージ向かって左からヴァイオリン(中島光之さん)、ヴィオラ(倉田譲さん)、チェロ(茂木明人さん)となっています。
最初の曲目は、モーツァルト(?)の「6つの前奏曲とフーガ」K.404aより第1番。プログラムの解説によれば、ウィーンのスヴィーテン男爵を囲むサークルで、「ヘンデルとバッハの音楽に接したモーツァルトが、自身のコレクションのためにバッハのフーガを弦楽三重奏に編曲し、自作の前奏曲をつけたと言われてきた」作品とのこと。残念ながら自筆譜が見つからないために真偽が確定していないのだそうですが、弦楽三重奏による神秘的な響きが印象的な第1楽章:アダージョと、いいフーガだなあと感じさせる第2楽章:アンダンテ・カンタービレと指示のあるフーガが、実にいいですね〜。

第2曲、若いベートーヴェンのセレナード、ニ長調 Op.8 です。解説によれば、1796〜7年頃に書かれたもので、作曲家26歳頃、約半年にわたる第二回プラハ旅行で足を伸ばしたベルリンからウィーンに戻り、意欲的に作曲していた時期の作品だそうな。他の資料で調べてみると、当時出入りしていたリヒノフスキー侯爵邸にはおかかえのシュパンツィヒ弦楽四重奏団がおりましたので、このメンバーのために、Op.9 の三つの弦楽四重奏曲、Op.11のピアノ三重奏曲と続く室内楽作品のうちの一曲のようです。セレナードとはいうものの、野外の娯楽的な機会音楽ではなくて、純然たる室内楽作品を志向したものらしい。
第1楽章:行進曲、アレグロ。
第2楽章:アダージョ
第3楽章:メヌエット、アレグレット
第4楽章:アダージョ〜スケルツォ、アレグロ・モルト
第5楽章:アレグレット・アラ・ポラッカ(ポロネーズ風に)
第6楽章:Thema con Variazioni Andante quasi Allegretto(主題と変奏、アンダンテと言ってもほとんどアレグレットに近い速さで)
第7楽章:行進曲、アレグロ
この楽章の構成を見ると、はじめと終わりの楽章がアレグロで行進曲と指示され、入退場の音楽のような雰囲気でもあります。演奏は純然たる室内楽作品として取り上げられていましたが、昔はなにか野外音楽のセレナードを模して運用されていたのかもしれません。

ここで15分の休憩です。今回も関西からお越しの某さんにお会いして、すっかり定年農家と化している当方の近況などを話題に。ブログを読んでいると、ほとんど仙人のような生活がほぼ丸見えです(^o^;)>poripori

今回のプログラム最後の曲は、F.クーラウ(Kuhlau,1786-1832)のフルート五重奏曲イ長調、Op.51-3 です。51-3 ということは、作品番号51-1とか2とかの曲もあるということでしょう。今回演奏する曲は、ゲストの一人、山響フルート奏者の小松崎恭子さんの提案だったようで、私も初めて耳にしました。プログラムの解説によれば、クーラウはベートーヴェンと同い年の作曲家兼ピアニストで、ナポレオンの侵攻によりデンマークに亡命、コペンハーゲンで没しているそうです。

楽器配置は、ステージ左からフルート(小松崎さん)、ヴァイオリン(中島さん)、ヴィオラ1(倉田さん)、ヴィオラ2(田中知子さん)、チェロ(茂木さん)というもので、作曲家はフルートの高音に対して弦楽器では中低音に厚みをもたせる編成にしたのでしょうか。
第1楽章:アレグロ・コン・フォーコ
第2楽章:スケルツォ、アレグロ・アッサイ・クヮジ・プレスト。独特の響きです。ピツィカートを多用。
第3楽章:アダージョ・マ・ノン・トロッポ。弦が交互にやり取りする中にフルートも。
第4楽章:フィナーレ、ヴィヴァーチェ。うーむ、いい曲だ〜!
フルートがどちらかといえば明るく華やかな音色で活発に動きまわるように演奏されるのに対して、二本のヴィオラが厚みを加えた弦楽が、時にピツィカートを多用しながら、かなりロマンティックな音楽を作っています。演奏される機会はあまり多くはないのでしょうが、これはなかなか充実したいい曲です!

演奏後には大きな拍手が送られました。たしかに、一般的な有名曲を含まないごくマニアックなプログラムでしたが、良い音楽に接したという満足度の高い、充実した演奏会でした。次回の第73回定期演奏会は、

    2019年10月20日(日) 18:30〜、文翔館議場ホール
  • F.シューベルト ピアノ五重奏曲イ長調 D.667「鱒」
  • F.シューベルト 弦楽三重奏曲変ロ長調 D.471
  • W.A.モーツァルト 6つの前奏曲とフーガ K.404aより第3番ヘ長調

の予定とのこと。さっそく前売り券を入手しました(^o^)/



備忘のために、クーラウの曲はこんな音楽です。
YouTube より、フルート五重奏曲の第1楽章と第2楽章;
Friedrich Kuhlau - Quintet No. 3, I-II

続いて第3楽章と第4楽章;
Friedrich Kuhlau - Quintet No. 3, III-IV


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モーツァルト「オーボエ五重奏曲ハ短調」を聴く

2019年06月04日 06時01分13秒 | -室内楽
モーツァルトにはオーボエ四重奏曲という有名作品があり、私自身も先頃の山形弦楽四重奏団の定期演奏会(*1)で楽しんだばかりですが、そのときバランス的にオーボエ五重奏曲というのは難しいのではないかと感じました。ところがその舌の根も乾かぬうちに、モーツァルトにオーボエ五重奏曲が存在することに気づいてしまいました。ハ短調、K.406(576b) です。

手持ちのCDは、現在は岡山フィルハーモニック管弦楽団で首席指揮者をつとめるハンスイェルク・シェレンベルガー(Ob)とフィルハーモニア・クヮルテット・ベルリンによる1981年のデジタル録音(DENON:COCO-70737)です。この盤に添付の解説書(執筆は中河原理氏)によれば、この曲はもともと弦楽五重奏曲第2番KV406の1st-Vnをオーボエで吹いたものなのだそうです。ところが、この弦楽五重奏曲(*2)にはさらに裏話があって、実は原曲は「Ob,Cl,Hrn,Fg各2本のためのセレナードKV388」であって、モーツァルトは1787年にこれをそのまま弦五に移したものなのだそうな。そんな意味では、「バランス的に無理のある曲」とはとても言えないようです(^o^;)>poripori

第1楽章:アレグロ。ハ短調の重々しい始まりは、悲劇の幕開きのような雰囲気ですが、オーボエの音色や第2主題の晴れやかさが、対比を緩和してくれる感じです。
第2楽章:アンダンテ。オーボエによく似合う、穏やかな緩徐楽章です。
第3楽章:メヌエット・イン・カノーネ。カノン風のメヌエット、という意味でしょう。不思議なぐるぐる感にとらわれそうな、ひなびた味わいのメヌエットです。
第4楽章:アレグロ。木管楽器のオーボエと弦とが密接に絡みあう主題と変奏です。

参考までに、演奏データを記します。
■シェレンベルガー(Ob)、フィルハーモニア・クヮルテット・ベルリン盤
I=8'26" II=4'03" III=4'41" IV=6'21" total=23'31"

(*1):山形弦楽四重奏団第71回定期演奏会でモーツァルト、ベートーヴェンを聴く〜「電網郊外散歩道」2019年4月
(*2):モーツァルト「弦楽五重奏曲第2番」を聴く〜「電網郊外散歩道」2013年4月
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プロコフィエフ「フルート・ソナタ」、「ヴァイオリンソナタ第2番」等を聴く

2019年05月17日 06時01分33秒 | -室内楽
先日のヤンネ舘野さんのヴァイオリン・リサイタルで聴いたプロコフィエフのヴァイオリン・ソナタ第2番は、もともとはフルート・ソナタとして作曲されたものだそうです。1943年の夏に完成、1944年に第2番のヴァイオリン・ソナタに改作されていますので、1938年にスケッチが着手されているものの実際に完成したのが1946年となる第1番のヴァイオリン・ソナタよりも早い時期にできた作品ということになります。



私がこの曲に接したのは、1973年の6月、日本コロムビアのパルナス1000シリーズのLPを入手してのことでした。ヴァイオリン・ソナタ第1番のB面に収録されたフルート・ソナタは、ミシェル・デボスト(Fl)とクリスチャン・イヴァルディ(Pf)によるもので、フランスのムジディスク社原盤とされています。第1楽章:モデラート、ニ長調、3/4拍子、第2楽章:スケルツォ、プレスト、イ短調、3/4拍子、第3楽章:アンダンテ、ヘ長調、2/4拍子、第4楽章:アレグロ・コン・ブリオ、ニ長調、4/4拍子、という四つの楽章からなる、古典的な形式を保った曲です。まず何よりも、フルートという楽器の響きが、この曲の幻想的で透明な抒情性を浮かび上がらせます。

Flによる演奏は、例えばこんな感じです。第1楽章だけですが、YouTube より。
S. Prokofiev: Flute Sonata, op. 94. I. Moderato


これをヴァイオリンで演奏したいと考えたオイストラフは、プロコフィエフに「なんとかしてよ〜!」と頼んだのでしょうか。実に慧眼だと感じました。ヴァイオリンでの演奏は、先日のヤンネさんの演奏会で実感したように、フルートとはまた別な魅力を示すようになったのではないかと思います。

ヤンネさんの先生、Olga Parhomenko さんによるこの曲の演奏が YouTube にありました。
S. Prokofiev - Violin Sonata No.2 - Olga Parhomenko


もう一つ、フォーレの作品も。これも、貴重な記録でしょう。
Gabriel Fauré: Berceuse op.16 - Olga Parhomenko, violin

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ヤンネ舘野ヴァイオリン・リサイタルでR.コルサコフ、プロコフィエフ、チャイコフスキーを聴く

2019年05月06日 06時01分27秒 | -室内楽
ゴールデンウィークも終わりに近づいた5月5日の午後、文翔館議場ホールでヤンネ舘野ヴァイオリン・リサイタルを聴きました。今回は「ロシアより愛をこめて」と題して、ロシア音楽の特集です。プログラムは、

  1. リムスキー=コルサコフ ロシアの主題による幻想曲 Op.33 (編曲:クライスラー)
  2. プロコフィエフ ヴァイオリン・ソナタ第2番 Op.94bis
  3. チャイコフスキー なつかしい土地の思い出 Op.42
  4. チャイコフスキー バレエ組曲「白鳥の湖」Op.20より (編曲:マクダーモット他)
      Vn:ヤンネ舘野、Pf:白田佳子

というものです。



夏日のように日差しが熱い午後、駐車場の混雑を予想して早めにでかけたのが大正解。文翔館の無料駐車場は、ゴールデンウィークの観光客で大混雑でした。少し待って、帰るお客さんと入れ替わりに駐車することができました。すると、こんどはホールの開場前にも長い列。うーむ、皆さん、考えることは同じみたい(^o^)/





入場すると、ホールを横長に使い、中央にステージと反射板をセットして、ピアノとソリスト用の譜面台が設置されています。幸いに、ほぼ中央の席を確保することができました。
最初のリムスキー=コルサコフの「幻想曲」は、オーケストラと独奏ヴァイオリンのための協奏曲スタイルの音楽だったのを、クライスラーがピアノとの二重奏用に編曲したものだそうで、始まりはピアノだけで、これにヴァイオリンが入るところなどは、まさしく協奏曲の始まりをイメージします。けっこう技巧的なところもあり、おもしろく聴きました。

続いて、ひそかに楽しみにしていたプロコフィエフのヴァイオリン・ソナタ第2番。ヤンネさん、演奏の前にマイクを手にして、ヘルシンキ音楽院時代の先生の思い出話をしました。ヤンネさんが師事した先生は、Olga Parhomenko さんといい、オイストラフの弟子で、厳しいけれど実力のある小柄な女性の先生(*1)だったそうです。あるとき、ベートーヴェンのソナタのレッスンの時に楽譜を忘れてしまい、図書館にあるクライスラー校訂の楽譜で演奏したら、先生は知らないはずなのに「クライスラーのにおいがする」と言われたとのこと。へ〜、わかるもんなのですね〜(^o^)/
で、プロコフィエフの第2番のソナタ。もとはフルートソナタだったのを、オイストラフが要望してFlのパートをVnに移し替えて、ヴァイオリンソナタに直してもらったらしい。第1楽章:田園風、叙情的なモデラート、第2楽章:軽快で楽しいプレスト、第3楽章:静かで優しい、瞑想的なアンダンテ、第4楽章:活発なアレグロ・コン・ブリオの4楽章構成です。ピアノがほんとにステキです。



15分の休憩後、こんどはチャイコフスキーです。
作品42の、「なつかしい土地の思い出」は、第1曲:瞑想曲。実は文翔館でピアノの音を聴く機会はあまりないのですが、ピアノがよく響きます。ヴァイオリンは憂愁の表情をたたえます。第2曲:スケルツォ。やはりピアノが活躍します。弦を速く動かして、運動性があり表情も豊かな、チャイコフスキーらしいスケルツォです。第3曲:メロディ。これは聴いたことがある音楽ですね〜。良かった。

プログラム最後は、バレエ組曲「白鳥の湖」からの5曲。ヤンネさんが演奏前にマイクを持ち、東京の某オーケストラでチャイコフスキーのバレエを上演した時の面白い発見を話してくれました。というのは、ダンサーがうまいと、曲のテンポが遅くなるのだそうです。というのは、うまいダンサーほど高く跳ぶ=滞空時間が長くなるので演奏のテンポを遅くしないといけない、ということだそうです。なるほど〜! ピアノ編曲はマクダーモット他となっていますが、第1曲:白鳥から第5曲:ロシアの踊りまで、編曲がいいなあと感じます。ピアノがオーケストラ部を担当しますが、これが勢いがあり、しかもロマンティックに表現していて、バレエ音楽らしい雰囲気が味わえました。

アンコールは、3曲。

  1. ラフマニノフ ピアノ協奏曲第2番、第2楽章から、クライスラー編曲
  2. プロコフィエフ 「三つのオレンジへの恋」より行進曲、ハイフェッツ編曲
  3. リムスキー=コルサコフ 「シェヘラザード」より「アラビアの歌」、クライスラー編曲

ヴァイオリンの流麗な旋律も見事だし、例えばラフマニノフで、ピアノに合わせてPizz.するところなども実に効果的、チャーミング。今年も良い演奏会を聴くことができて、良かった〜! ご苦労されたスタッフの皆様に、感謝を申し上げます。

(*1):Olga Parhomenko in memoriam 〜 YouTube より
Olga Parhomenko-In memoriam


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