電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

ディケンズ『デイヴィッド・コパーフィールド』第3巻を読む

2006年03月26日 15時29分46秒 | -外国文学
両親を失いながらも、人を疑うことを知らない持ち前の素直さで、なんとか成長してきたデイヴィッドは、帰省した折に幼いエミリーに学友スティアフォースの美質を語り、憧れを吹き込む結果となっていた。成長して美しい娘となったエミリーは、同じく孤児のハムの純情にほだされ、婚約していたのだったが、デイヴィッドが連れてきたスティアフォースに惹かれ、ハムを捨てて駆け落ちする。ペゴティの兄ダニエルとハムの悲嘆は痛切だ。どこまでもエミリーを探しに行く決心をしたペゴティの兄さん、働き続けて待つ決心をしたハム、二人が一晩中かかって出した結論には、一点の疑いもない。

かっこいいが軽薄で無慈悲なスティアフォースにまいってしまうエミリーは、都会育ちのプレイボーイに憧れ出奔する田舎娘の典型的なタイプか。そうかと思えば、中身のない人形のような気まぐれ娘ドーラにひとめぼれするデイヴィッドは、まだまだ人を見る目がないということだろう。それにしてもディケンズの小説『デイヴィッド・コパーフィールド』の前半は、ユーライア・ヒープはもちろんのこと、スティアフォースといいリティマーといい、悪役がやけに存在感がある。

そして後半は、デイヴィッドがミスター・スペンロウの娘ドーラに恋し舞い上がった状態が描かれる。年若い青年が、きれいでかわいい女性に恋をするのは、洋の東西を問わないのかもしれない。そして、恋は見境いのない情熱だが、生活には互いの智恵と忍耐が必要だ。それが片方には欠けていたら?たぶん、残念な結果に終わることだろう。デヴィッドとドーラの婚約の仲立ちをしてくれたミス・ミルズは心優しい人だが、人生を洞察する経験には乏しかったというしかない。

ベッツィ・トロットウッド伯母さんが破産し、ディックとともにデイヴィッドの住まいにやってくる。共同経営者に実権を奪われたウィックフィールド氏とその娘アグニスも訪ねてくる。蛇のように執念深いユーライア・ヒープは、零落しつつある人々の前で、うわべは慇懃に、しかし実際には無礼にも勝ち誇る。
デイヴィッドは、生活のために退職した恩師ストロング博士の助手を兼務することになる。善良な恩師は、まだ若い妻アニーがいとこのジャック・モールドンとの関係に悩んでいることに気づかない。ディックは文書清書の仕事でトロットウッド伯母さんを助けることに意欲を燃やし、ミコーバー氏はユーライア・ヒープのもとで働くことになる。こうして、物語の後半の主題の一つであるユーライア・ヒープとの戦いの布石は着々と打たれていくのである。

写真は、30年ほど前に、若い美術学生からもらった習作。フランスの世界遺産モン・サン=ミシェルの修道院を描いたものらしい。美しい風景だが暗い空の色に、失踪したかわいそうなエミリーを連想する。
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我が家で一番最初に咲く花

2006年03月26日 07時20分26秒 | 散歩外出ドライブ
雪が融けると、それまで雪で隠されていた地面があらわになってくる。枯葉の下に、水仙の芽が顔を出し、どんどん伸びてくる。山間部なら、さしずめカタクリの花が咲いているところだろう。私の家では、一番最初に咲くのが、クロッカスである。何十年もずっとほったらかしになっているので、葉は小さく可哀想なくらいだが、毎年早春のこの時期に、律義に可憐な花を咲かせる。古い家には、あちこちにこんな花が咲くポイントがある。たぶん、最初は祖父か曾祖母あたりが植えたのだろう。八重咲の古い水仙は、どうやらそのずっと前の先祖が植えたものらしい。ラッパ咲きの水仙は、老母がお嫁に来てから植えたものだと言う。今までの家族が、それぞれに好きな花があり、老父と私は豪華な芍薬が好きで、裏の畑に芍薬を何本も植えている。休日に、古い家の周囲をぐるりと回ると、季節に応じ、家族のゆかりの花が咲く。私には、印象の薄い戒名の刻まれたお墓よりも、これらの花の方で故人を思い出す。墓を守る跡取り息子の立場では、いささか不謹慎な感想かもしれないけれど。
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